上 下
125 / 282
新生活

カイルの移住

しおりを挟む
 翌朝。タクマは重要な事を言うのを忘れていた為、執務室にアルテを呼んでいた。

「朝早くすまんな。ちょっと話しておかなければならない事があってな。」
「なにかしら?重要な事?」
「ああ、かなり重要な事だからしっかりと聞いていてくれ。アルテは実体化が出来る事になったから、他の人間にも認識できるようになったよな?だがな、今の人族は妖精の存在を物語でしか認識していないんだ。要は実在の種族だとは思われていない。だから、アルテが信用できると確信した時だけ実体化をするようにしてほしいんだ。もちろんこの家の周辺なら人は殆ど来る事はないから大丈夫だとは思う。ただ、完全に人が来ないとは言い切れない。知らない人には姿を見られないようにしてほしい。アルテをどうにかできる人がいるかは疑問だが、用心をした方がいい。人は欲望にまみれているからな。」

 タクマは分かりやすい様に丁寧に説明を行う。なぜなら理解をさせないとアルテ自身が嫌な思いをする事になるからだ。
 アルテはタクマの話をじっくりと聞いて自分の存在について考えているようだ。

「分かったわ。この家とその周辺では実体化をするけど、他ではしないわ。私も嫌な思いはしたくないし。」

 タクマの意図を理解してくれたようだった。

「スマンな。信用できる奴は紹介するようにはするからさ。」
「大丈夫よ。今は子供達も居るから孤独を感じないし。紹介の方はゆっくりと時間を掛けてくれて大丈夫よ。」

 アルテとの話も終わったので、次はカイルの件を済ませてしまう事にした。タクマはヴァイスを連れてメルトへ跳ぶ。他の子達は子供達の面倒を頼むことにした。子供達には申し訳ないと思ったのだが、まだ引っ越しをしたばかりなので落ち着くまでは移動を控えて貰っているからだ。
 メルトの近くまで跳んできたタクマはヴァイスと共に町へと入って行った。門番に聞いたのだが、カイルは引継ぎを終わらせている様だった。今は家でゆっくりしている様なので場所を聞いて向かう事にした。カイルの家は長屋のような住宅の一部にあったので、一応ノックをして呼び出す。

「カイル居るか?」
「おー!開いてるから入ってくれー。」

 家の中へ入ると、ちょっと荷物をまとめているカイルが居た。

「よう。ちょっと早めに来たんだが、準備は済んでるみたいだな。何か荷物が少ないみたいだが大丈夫か?」

 カイルの荷物は大きいズタ袋に二つ。最低限の荷物しかないのだ。

「ああ、俺は独身だし持っていくのは着替えぐらいだな。後は子供達の為に作った稽古着だな。何人いるか分からんかったから多めに用意してある。」

 どうやらズタ袋の1つは子供達にあげる稽古着のようだ。

「へえ、結構マメだな。」
「褒めてんのか?まあいいや。体術の稽古は汚れるしな。専用の物が無いとやばいだろ。」
「まあ、アークスも用意しているだろうが助かる。そう言えば仲間や知り合いには挨拶を済ませたのか?」
「全て済ませてあるからいつでもいけるぜ。そう言えば、これからお前に雇われるんだろ?口調を変えた方が良いのか?」

 どうやら自分の口調が雇われる人としては合っていなことを気が付いていたみたいだ。

「気にしなくて良いぞ。俺にはため口で構わない。ウチの警備を担当してる奴もため口だしな。それじゃあ荷物を預かるな。」

 タクマは荷物をアイテムボックスに収納し、早速町を出る事にした。門まで歩くカイルは故郷の景色を心に刻む様にしていた。

「やっぱり故郷を離れるのは違うか?」
「ああ?いや、そういう訳ではないけどな。長い間住んでいたんだ。感傷的にはなるだろう。」

 カイルはそう言ってタクマに笑いかけた。

「それもそうか。一応言っておくが、戻ろうと思えばいつでも来れるぞ。言ってくれればだけどな。」
「まあ、これから子供達を鍛える為に時間を使うから暫くは見納めだ。タクマから見て子供達はどうなんだ?」

 カイルは教える予定の子供達の現在の実力を知っておきたいようだ。

「普通の子供達に比べたら、はるかに運動能力はある。それに無意識に身体強化を使用しているから、そっちも鍛えて欲しいんだ。このまま何もしないと体を壊してしまう。」
「・・・そこまで身体強化を使えるのか。それは早く鍛えないと不味いな。」

 子供達の事を話していると門に到着する。挨拶は済んでいた為かあっさりと町を出て街道を歩き始めた。しばらく歩いた所で街道を逸れて森へと入って行く。人の気配のない場所まで移動したタクマはカイルに着いたと伝える。

「ここらで空間跳躍をするぞ。まあ、立っているだけで一瞬だからな。」

 タクマは範囲をして空間跳躍を行うと、言葉通り一瞬で湖へと到着する。

「おいおい・・・。でたらめな魔法だなおい。魔力もけた違いだし。」
「そうか?自分では良く分らんがな。とりあえず家を用意してあるからそこに住んでくれ。」
「家まで用意してくれたのか。」
「ああ、そこまで良い家ではないがな。そう言えば食事は自炊できるのか?」

 タクマはカイルの家に案内をしながら食事をどうするか確認する。

「俺が料理できると思うか?」
「・・・わかった。お前は毎食ウチに来て食えば良い。っと、お前の家はここだ。」

 タクマが案内した家は皆と同じ部屋数の家だった。一人では広すぎるかもしれないが、先の事を考えれば妥当だろう。

「おいおい良いのか?かなり良い家じゃねえか。」
「みんなと同じ家だ。気にしなくていい。家族が出来れば必要になるんだ。それとこれを身に着けておいてくれ。」

 タクマは腕輪をカイルに渡し装備させる。そして腕輪の機能と役割を説明していく。

「なるほど、ヴァイス達がこの辺をシメているから襲われないように目印がいるのか。分かった外に居る時は必ず装備しておく。」
「そうしてくれ。この辺のモンスターや獣は通常ならAランク冒険者でもヤバい奴らばかりだ。あんまり刺激したりするなよ?」

 カイルは若干顔色を悪くしながらも、タクマの説明をしっかりを聞いてくれた。家に荷物を置き、そのままタクマの家に移動する事になった。カイルは師匠であるアークスに会うので緊張している様だった。
しおりを挟む

処理中です...