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新生活

通告と侯爵邸でのお説教

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 世界中の政治中枢でヴェルド様が顕現した同時刻。混乱しているマジルの全域にいるすべての民、残された貴族達に念話が届いた。

『魔法国家マジルに住むすべての皆さんにご報告があります。私はヴェルドミールの神、ヴェルド。現在、あなた方の国で起こっている混乱は私が引き起こしたものです。今回王を含めた大半の貴族を粛正した理由は、その者達が禁忌としている封印された禁術を使い、世界の危機を引き起こす寸前になっていたからです。私は危機を回避するためにマジルの王を含めたすべての関係者を神罰によって粛正しました。ただ、民である皆さんと心から反対していた一部の貴族には罪はありませんので手を出しておりません。これからあなた方は大変な苦労をする事になるでしょうが、残された少ない貴族たちと協力し、真っ当な国造りを行って頂きたく思います。あなた方の生きる力を信じて見守っておりますよ・・・』

「なんてことだ・・・国王がそんな事を・・・」

 念話を聞いた民たちは国王が神の怒りに触れて粛正された事を理解した。今の国王が好戦的な人間であるのは民も理解していたらしく。粛正された事は好ましく思っている様だった。ただ、国のトップが粛正された事で不安に思う者も少なくなかった。
 民たちと同じ念話を受け取った貴族たちは自分達の判断ミスで起こった事に心を痛めていた。ただ、このまま混乱を放置すれば、国が崩壊すると判断して行動を開始した。自分達の私財を投入し各地を回り、不安に包まれている民をまとめて国を維持していく事になる。彼らの贖罪はこうして始まっていくのだった。


       〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 


 謁見の間での話が終わり、パミル王都の侯爵邸では応接室でタクマとコラル侯爵が話をしていた。

「なるほどな。君が怒って即行動した理由は分かった。だが、せめて私に言ってから行動して欲しかったな」
「はあ・・・。お言葉を返す様で申し訳ないのですが、言った所で何かできたのですか?コラル様には申し訳ないですけど、あの時は本当に時間との勝負でした。あなたに報告し国を通してマジルに警告してどのくらいの時間が必要でしょうか?初めに言いましたが、俺が知った時には猶予はない事態になっていました。その状態で国に頼っていたら、彼らはどうなっていたんでしょうね」

 タクマはコラル侯爵の言葉に反論する。国として抗議を行うとしても、証拠をそろえ、人を使いに出し、マジルとの交渉。そんな無駄な時間を過ごしていたら、リュウイチ達は証拠隠滅の為に殺されていただろう。タクマはパミル王国に報告した事で起こるロスを考慮して単独で乗り込むことにしたのだ。

「確かにタクマ殿の言う通りだが、遠話で言ってくれても良かったのではないか?行動中に中止させる権限はないのだ。せめて話だけでも聞かせてもらえれば、国としても違った対応は出来た筈だ」

 コラル侯爵は自国の都合で言っているのではなく、純粋にタクマの立場を心配して言ってくれたようだ。その顔はタクマを心から心配している表情だった。

「タクマ殿が、正しい事をしたのは分かっている。だがな、それを全て自分で飲み込むのは違うと思う。君には大勢の家族がいるし、何よりまだ幼い子供がいるのだ。君に勝てる者が殆どいないのも本能では分かるのだが、君は神ではないのだろう?万が一と言う事もあるのだ。残された君の家族達はどうなる?即行動するのも良いが、ちゃんと考えて行動する事も大事だと私は言いたいのだ」
「・・・・・」

 タクマはとても驚いていた。まさか自分を此処まで心配してくれる存在が貴族にいた事を。しかも自業自得とは言え自分の息子を処刑する原因になった男をだ。タクマが言葉を出せずにいると、侯爵は厳しい表情を崩し笑顔で口を開く。

「どうしたのだ?私が君を心配するのが不思議か?確かに君は私が息子を処刑するきっかけを作った。だがな、それはバカ息子が愚かだっただけで、君を恨む気は全くない。むしろ感謝の方が大きい。君が捕らわれた民を助けた事もそうだが、それ以上にトーランの民にとっても恩人なのだ。君が安く譲ってくれたポンプは町全体に普及し、民の労力を大幅に軽減してくれた。その分の労力を仕事に向けた事で生活も潤っている。分かるか?君が私にしてくれた事は町全体の発展に力を貸してくれた事と同義なのだ。まあ、それ以外にも美味い酒を納入して貰ってるしな!」

 珍しく豪快に笑った侯爵を苦笑いで見つめるタクマは侯爵にお詫びをする。

「コラル様。申し訳ありませんでした。あの時行動する事は止められなかったですが、あなたに報告だけはしておくべきでした。それと、俺の事を心配してくれてありがとうございます」
「良いんだ。結果的に今回は全員無事だったんだ。生きていればやり直しは聞くだろう。まあ、今回の話は終わりにしよう。後は各国がどうするか静観するだけだしな。それよりもせっかく時間が出来たんだ。今日だけはゆっくり酒を付き合ってくれ」

 侯爵は使用人を呼び、酒の準備を指示するのだった。タクマもこの日ばかりは侯爵に付き合い、翌朝まで酒盛りをする事になった。






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