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新生活

葛藤

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 無事に付与が終了した3人は何処にも寄る事なく帰宅していた。リュウイチ達は少し疲れたと言って自分の家へと戻っている。タクマは一旦帰宅したのだが、1人で祠へと移動していた。誰もいない所で少し考えたい事があったのだ。
 祠に着くとテーブルセットを出してコーヒーを淹れる。淹れたコーヒーを一口啜り一息ついた。

「ふう・・・。半戦神か・・・いよいよ人ではなくなったか・・・」

 あの場では冷静に受け止めたつもりだったのだが、思いの外動揺しているようだ。カップを持つ手も少し震えている。

「確かに力は力でしかない。力を得たからと言ってウチの家族達は変わらないと思う。だが種族はどうだ?確かにこの世界には沢山の人種がいる。俺自身は人種によって人を判断する事はないが、他の人は違うかもしれない。しかも半分とは言え神と名の付く種族が居るとは思えん。」

 誰に語るでもなく独り言をつぶやくタクマの前にナビとアルテが現れた。

「どうしたの?タクマが悩んでいるなんて。ヴェルド様の所で何かあったの?」
「アルテか。まあ、俺も偶には悩むさ。生きているといろんな悩みはつきものだ」
「そうなの?でもここで一人で考えているって事は話したくない事なの?」

 そう聞くアルテに何と切り出して良いか考えていると、ナビが代わりに話し出した。

「マスター。私が説明してもよろしいですか?」
「ああ・・・そうだな。俺は何て言って良いか分からんから頼めるか?」

 タクマはナビに説明を任せた。ナビはいつもの空間に移動してからの事を細かく順番に説明していった。アルテは黙ってナビの説明を聞いている。最後まで聞いたアルテは口を開く。

「で?リュウイチ達の能力付与をノリで決めたせいで自分は更に多くの能力を付与された結果、種族が変わって神の領域に足を踏み入れたと・・・。馬鹿ねぇ、真剣に話し合っていたら結果は違っていたかもね」
「返す言葉もないな」
「種族が変わった事を告白したらみんなが怖がったりすると思って悩んでるの?」
「そうかもしれないな。流石に自分達とかけ離れた存在だと知られたら怖いってのもあるかもしれないな・・・」
「タクマは自分の家族を侮ってない?あそこの人たちはタクマだからこそ付いて来てくれているのだと思うわ」

 アルテはゆっくりとタクマに言い聞かせる。

「子供達だってあなたの本質を見て懐いているの。大好きなお父さんがどんな種族だって関係ないと言うでしょうね。思い切って言ってみたら?本質を見極める事に特化している精霊の私が言うのだから、きっと大丈夫」

 アルテに言われてようやく気付くことが出来た。理解しているつもりだったのだが実感した。タクマが皆を支えているだけではなく、皆もタクマを支えてくれている事に。

「そうか・・・そうだよな。みんなは俺を信じて付いて来てくれてるのに、俺が信じ切れていなんじゃ申し訳ないな。ありがとう、アルテ。今夜にでもみんなに話しておこうと思う」
「べ、別にお礼を言われるほどの事は言ってないわ!」

 照れ臭そうにそっぽを向いたアルテは少し赤くなっている様だった。

「も、もう、考え事は無いんでしょ?戻りましょうよ」
「ああ、そうだな。帰ろうか。ナビもありがとうな」
「いえ、私にとってマスターは親にも等しい存在なので元気でいて欲しいだけです」

 普段クールなナビも照れている様で少し赤くなっていた。
 タクマは自宅に戻って来ると早速行動に移すべくアークスを呼んだ。

「おかえりなさいませ」
「ただいま。あのさ、今夜の食事はみんな揃って食べたいんだ。急だけど大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫です。いつも通り庭で行いましょう」
「ありがとう。その時、みんなに大事な話があると伝えておいてくれ」

 アークスは早速みんなに伝えに言ってくれた。家に帰って来ていた子供達はタクマの様子が少し違っているのを感じ傍を離れようとしなかった。

「お父さんどうしたの?」
「何か辛いの?」

 タクマを心配してくれる子供達を優しく撫でてやる。祠でアルテと話したことを思い出し、思わず笑みが零れた。

「辛くないよ。心配してくれてありがとうな。今日は庭でご飯を食べたら、俺の事をみんなに話そうと思うんだ。だからちょっとだけ緊張してるんだ」
「お父さんの事?」
「そう、みんなも俺の生まれた所や、どうやって生きてきたかを聞いてなかっただろ?だから良い機会だから全て話しておこうと思ったんだ。みんなの過去を聞いたのに、俺が話さないのも不公平だしな」

 タクマは子供達にも分かる様にゆっくりとかみ砕いで話してやる。

「僕、お父さんの事知りたい!」「私も!」
「お父さんの子供の頃も聞きたい!」
「そうか。じゃあ、小さい頃の話もしようか。そんなに面白い話でもないけどな」

 そう言ってタクマはヴァイス達も近くに呼んでやり、食事の時間になる迄スキンシップをするのだった。
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