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生産国アムスの罪

リュウイチへの依頼

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 タイヨウを抱いてゆったりとした時間を侯爵邸で過ごしていると、本当の親であるリュウイチ夫妻が戻って来た。

「タクマさん。戻りました。・・・あれ?タイヨウが俺達以外に寝かしつけられてる」
「本当・・・湖に住んでいる人たちには慣れてはいるけど、寝る事はなかったのに・・・」

 リュウイチ達が言うには湖の住人達に人見知りなどを無く慣れてはいるのだそうだが、寝る時だけはリュウイチ達が寝かしつけないと寝なかったのだそうだ。それを聞いていたロキソが横から口を開く。

『当たり前だ。タクマの傍に居れば、自分が絶対に大丈夫という安心感があるからだ。本能とはすごいものだ。タイヨウはお前たちを親と認識して絶対の信頼を持っているが、タクマの場合は力を本能で感じて安全だと分かっている。だからタクマにはすべてを委ねて眠る事が出来るのだ』

 ロキソの説明を聞いたリュウイチ夫婦は妙に納得をした表情をしている。

「なるほど・・・子供ってすごいんだな・・・」
「こんなに小さくてもしっかりと周りを見ているのね・・・」

 感心する2人にタクマは照れ臭そうに口を開く。

「まあ、その辺で良いだろう。で?良いものは買えたのか?」

 タクマが買い物の成果を2人に聞くと、それまで二人を護衛していたネーロが報告をしてくれた。

「キキ、キキキ(ご主人、報告するねー)」

 ネーロの報告では買った物は畑に使う種子類と基本的な農機具、そして大量の金属インゴットだそうだ。それに色々な加工道具も一式手に入れたらしい。

「へえ。良い買い物ができたようだな」
「ええ、おかげさまで必要な物はそろったと思います。ですが、預かったお金が・・・」
「良いんだ。あの金はお前達の為に渡したんだから。それより今日はここに泊まる事になった。お前たちを送ってから戻ろうとも思ったんだが、コラル様が一緒に泊まって行けと言ってくれたからな」
「え?僕たちも良いのですか?」

 リュウイチ達は意外そうな顔で聞きなおす。

「ああ。コラル様はあまり選民意識の無い方だ。まあ、最低限の言葉遣いを意識していれば問題ないから安心してくれ」

 2人は貴族に良い思い出はないが、タクマがそう言うのならと泊る事を了承してくれた。

「それでな。さっきコラル様とも話をしていたんだが、リュウイチには一つ頼みたい事がある。作ってもらいたいものがあるんだ」

 タクマはウイスキーを生産する上で必要な物をリュウイチに造って貰おうと考えていた。

「造って欲しいもの?まだ能力を試していないから何とも言えませんが、貰った知識から考えると設計図と持たせる機能が分かれば不可能ではないと思います」
「そうか。じゃあ、試しに簡単な蒸留器を作ってくれないか?設計図などは帰ったら準備をするから時間のある時にでも試してみてくれ」
「分かりました!」

 リュウイチはタクマからの依頼に目を輝かせて了承してくれた。

「それとミカには育てて欲しい作物がある。外から仕入れても良いが、やはり自前で用意できるのが望ましい」
「分かりました。たいていの作物は育てられると思うので任せて欲しいです」
「ありがとう。作付けしてほしい物は後でピックアップして渡すからそのつもりでいてくれるか?」

 タクマがそう聞くと、二人ともやる気に満ち溢れていた。タクマは2人のやる気に満ち溢れた表情を見て微笑みながら話を続ける。

「そんなに気張ってもしょうがないから、じっくり行こう。気合ばっかじゃ空回りするしな。さて、買って来た物を仕舞っておかないとな」

 リュウイチ達が買って来た物は全て庭に運ばれていたので、タクマが全て収納してしまう。片付けが終わった後は、コラルが帰宅するまではゆっくりとタイヨウの成長についてや、彼の将来について話していた。

 辺りが暗くなり始める頃にコラルは帰宅した。

「いま戻った。ん?随分と楽しそうに話しているな。何を話していたのだ?」

 話しに華を咲かせていたタクマ達は、戻って来るまでに話していた事を説明する。

「そうか・・・。我々の計画を実行するにはリュウイチの力が必要なのは分かった。そして原料はミカなのだな」
「ええ、一歩ずつ進んで行くしかありませんね」

 タクマがそう言うと、コラルは一つ疑問に思った事を口にする。

「だが、タクマ殿の能力なら・・・」
「言うと思っていましたが、それは駄目ですね。確かにあっちの機械を仕入れる事は可能です。ですが、基本的に俺しか使えないようになってしまうのです。なのでこの地に酒造りを根付かせるためには実際に造ったもので生産しないと、俺に何かあった時に問題が出る可能性があります」

 タクマは自分の能力に頼られるのは避けたかったので、しっかりとココで釘を刺しておく。

「なるほどな・・・確かにタクマ殿の言う通りだ。リュウイチよ。大変だろうがどうか製作を頼む。時間は掛かるのは分かっているのでじっくりと作ってくれれば良いからな」

 自分より立場が上の者が頭を下げる姿を見て唖然とするリュウイチ達に、タクマは笑いながら語り掛ける。

「な?コラル様は立場で人を見ないって言ったろ?」
「そ、それは聞いていましたけど・・・。あ、あの、コラル様?僕がお役に立てるなら頑張ろうと思います。出来るとは断言はできませんが、全力で作ります」
「うむ。期待しているからな。もし足りない素材などがあればいつでも言ってくれ。協力は惜しまないからな」

 コラルは自らリュウイチに握手を求め、リュウイチは戸惑いながらそれに応える。

「さあ、難しい話は終わりにしよう。みんな腹も減ったろう?しっかりと食べて飲んで交流を図ろうではないか!」

 コラルの号令で、準備を終えて待機していた使用人たちが沢山の食事やお酒を持って入室してくる。そこからは、舘などは関係なく、飲めや歌えの大騒ぎに移行していくのだった。


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