上 下
223 / 287
パミル王都 孤児院再生編

光のエゴ

しおりを挟む
「光と闇・・・ですか?それが私と邪神との関係を言っているのであれば、答えは一つですね。決して相容れない間柄だと思います」

 ヴェルドはハッキリとそう言った。タクマは黙って話の続きを聞く。

「邪神は世界に悪影響しか与えません。今回の事も然り、過去の事でもそうです」

 邪神は世界にはいらないとキッパリと断言するヴェルドにタクマは渋い表情をする。ヴェルドは本気で闇を排除すれば問題は解決すると思っているようだ。伊耶那美命はヴェルドの頑なさにため息を付く。

「私は闇は悪であり、排除するものと刷り込まれています。だから排除する。それがいけませんか?」
「良いか悪いかで言えば悪いでしょうね。ヴェルド様が言っているのは闇の部分をすべて排除すると言う事ですよね?」

 タクマはそう言って自分の意見を話し始める。
 人間は例外なく内面に闇を抱えている。それは個人差はあるが絶対にある物だと思っているのだ。ヴェルドが大切に慈しんでいる人間の内面はそんなものだとあっさりと言ってのける。

「では、闇を抱えた人間は全て滅ぼすのですか?そんな事をすれば地上に人間はいなくなりますよ。そこにいるのは人形だけだ」

 自分も含めた人間は全て清濁併せ持って生きているとゆっくりと話していく。

「光が強くなれば闇も強くなる。これはどうやっても避ける事が出来ない事実です。ヴェルド様みたいに闇は排除と言っていたら、人間は存在できない」

 タクマの言葉にヴェルドは黙り込んでしまった。自分が抱える矛盾をハッキリと指摘されてしまったのだ。

「生きている者は闇も必要です。何故一日に光と闇の時間があるのです?光の時間は生きて活動する時間、闇の時間はゆっくりと体を休め光の時間に備える。どちらも生きる為には必要な時間だとは思いませんか?それをすべて光の時間にしてしまったら体を休める事が出来ない。光だけがあれば良いという訳ではないと思うのです」

 タクマは遠回しに光だけを推し進めるのはエゴでしかないとはっきりと言う。

「で、ですが!闇が強くなれば生きにくい世界になってしまいます!だから!だから私は・・・」

 ヴェルドは頭では理解できているが、認めることは出来ないと叫ぶ。

「ヴェルド神。タクマさんが言っているのは真理だと思います。彼が言いたいのはバランスが大事だと言っているのです。光と闇は表裏一体。邪神が嫌いなのも、闇が嫌いなのも元を正せば同族嫌悪のようなものですよ。邪神も闇の者と言われる者達を繁栄させたいからこそ、強くなる。考えているのは同じ事なのです」

 ヴェルドを諭す伊耶那美命の言葉にタクマが付け加える。

「闇の者だって、闇だけに染まっている訳ではありません。しっかりと光を持っていると邪神は匂わせていました。別に邪神や闇の者を嫌いでも良いと思います。ただ、嫌いというだけで排除というのは駄目だと思うのです」

 タクマはヴェルドが邪神を嫌っている事自体、清濁併せ持っている証拠ではないかと思っていた。だからこそ言うのだ。ヴェルドがそれを否定してしまうと、自分を否定する事になってしまうからだ。それをヴェルドに伝えると、しっかりとタクマの言葉を噛み締めているようにみえる。
 しばらく反応を見ていると、ヴェルドはゆっくりと口を開いた。

「・・・タクマさんと伊耶那美命様の言いたい事は分かりました。まさか私の中にも闇が生きているとは・・・思いもしませんでした。急には無理だとは思いますが、しっかりと考えていきたいと思います」

 そう言うヴェルドの顔は思い詰めたものだった。自分がやっていたことが全て間違っているとでも考えているかのように。

「あなたがやっている事は間違ってはいないのです。ですが、実力行使ではなく話す事も必要だと言いたいだけです」

 タクマの言葉を聞いて顔を上げ、そしてつぶやく。

「私は頑なだったのですね・・・そうですね・・・今までの経験でも光が強くなれば闇も呼応するように強くなりました。それが真理だったのですね・・・これからはその事を頭に置いて行動しようと思います」

 ヴェルドはそう言ってタクマを見た。ただ、とても疲れた表情をしている。それを見た伊邪那美命はタクマに語り掛ける。

「タクマさん。聞きたい事は大体聞けましたか?ヴェルド神も疲れている様ですし、今回の所はこれでお開きにしませんか?」
「ええ、俺もその方が良いかと思います。ただ、これだけは言わせてください。ヴェルド様、俺は貴方に感謝しています。それは今後も変わる事はありません」

 タクマは伊耶那美命に同意した上で、ヴェルドに感謝を改めて伝えた。

「あなたを始めとした神たちのお陰で俺はヴェルドミールで生きていられる。しかも、もう会う事が出来ないと諦めていた夕夏にも会えるかもしれないのです。本当にありがとうございます」
「タクマさん・・・」

 タクマの言葉で泣きそうになっているヴェルドを伊耶那美命が支えながら今回の話は終わらせることになるのだった。
しおりを挟む

処理中です...