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子供達の新たなる一歩と開店準備編

遺産の利用法と自立心

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 タクマは気を取り直す為にゆったりとしたジャズを聞きながらアイテムボックスを調べ始めた。瀬川雄太の遺産の中にあるアイテムを調べているのだ。遺産のアイテムは膨大なので一つ一つ出してみる。

「これは・・・なんだ・・・ああ、冷蔵庫か。それにこっちは、オーブンだ。なんか食に特化したアイテムばっかりだぞこれ。あいつは食にこだわりがある奴だったのか?その他にもコンロや、水が出る魔導具・・・」

 アイテムボックスから出したアイテムを眺めながら、瀬川雄太が何をしたかったのか考えていると執務室のドアをノックする音が聞こえた。入って来たのはファリンがミカを伴って入ってくる。

「タクマ様、ちょっといいかしら・・・ってなに?この状況?」

 執務室の状況に呆れたファリンはこれで話が出来ないというので、しまう事にした。

「ん?珍しい組み合わせだがどうしたんだ?」

 タクマが用件を聞くと、二人は話し辛そうに口を開く。

「お店の事なんだけど、タクマ様は一階もいくつかの店をまとめた物を予定しているのよね?」
「ああ。そうだな。だが考えがまとまらなくて困っている。今の計画だと、俺が居ないと長続きしない店になってしまうからな・・・。あ、後、みんなにも言っておいてほしんだが、これからは俺の事を様付けするのはやめてくれ。家族に様付けはおかしいだろ。」

 タクマは店の事を説明しながらも、自分の事を対等に扱って欲しいと望んだ。ファリンとミカはすぐに了承してくれた。

「私たちも、タクマさんの呼び方には違和感があったの。何処か壁があるみたいで嫌だったのよ。これでもっとお互いに歩み寄る事が出来るわ。みんなにもしっかり周知するから安心して。それでね、私たちが話をしたいのは・・・」

 ファリンとミカは他の大人組と話し合っていた事をタクマに話していく。
 今からやろうとしている店はタクマの能力に依存した物で、万が一タクマが長期間帰れなかった場合、店として無くなるのではないかと危惧していた。そして、タクマが言った事を細かく思い出して皆で会議を続けたそうだ。更に、タクマの動きを阻害したくないと真剣な眼差しで言った。

「結果として、タクマさんの能力でのお店は止めた方が良いと言う事で一致したわ」
「確かに俺も考えていた。で?何か良い方法が出て来たか?あの店は皆が自立した生活を出来るようにと基盤を作る為にやろうとした事だ。皆がやりたいと言うならそっちをやるのも一つの手だ」

 タクマがそう言うと、二人は少しだけ緊張した表情を解く。

「でも、家の中は改装してお金が・・・」
「良いんだ。改装費は無駄になるかもしれんが、皆がやりたい事を進める方が大事だ。職人には謝り倒して、正規の金額を賠償として払えば納得してくれるだろう」

 二人がやりたいと言ったのは、屋敷の一階をレストランにする事だった。それもヴェルドミールの家庭料理ではなく、ミカが作る地球、いや日本でポピュラーな料理を出したいそうだ。

「ミカの作る料理を食べたのだけど、どれも見た目も良くて味も良かったの。だからあの広さをレストランにしても絶対に大丈夫だわ。トーランには飲み屋や屋台は多いけど、レストランという食事処はほとんどないのよ」

 そう言えば、タクマは町中を歩いていて、食事処と言えば飲み屋か屋台だった。黙って考えていると、二人は不安そうな顔でタクマを伺っている。そしてひとつ思いついた。

(ちょうど良いじゃないか。さっきの道具を使えば器具も必要ない。それにあいつのやりたかったことを手伝えるかもしれんな)
「いいね。それは良い。やってみたらどうだ?俺も二人が言うレストランが見てみたい。だが、あの広さのフロアを埋める客をミカだけでは捌き切れないんじゃないか?」
「私たちがいるじゃない。既に女性組でミカに料理は習っているの。微妙な味付けはまだマスターできないけど、きっと間に合わせて見せるわ。それにカリオ以外の旦那衆はリュウイチさんの所でものづくりを学んでいるの。レストランの一角でそれを売れば一石二鳥でしょ?」

 みんなしっかりと店の計画を立ててくれていたようだ。だが、タクマが何で言うか不安だったのでギリギリまで言えなかったそうだ。しっかりと畑の世話は交代で行うという。

「良し!アークス居るんだろ?」

 扉の方へ顔を向けると、アークスが気まずそうに入って来た。2人が深刻そうな表情で執務室に入ったのが心配で扉の前で待機していたのだ。タクマはそれ気付いて遮音を掛けていなかったのだ。

「聞いていたな?どうだ?俺は結構いけると思うんだが」
「ええ、改装をしている職人には朝一で私が言いに行きましょう。正規の金額よりも吹っ掛けられるかもしれませんが・・・」
「法外ではない金額なら払ってやってくれ。こちらの都合で中止した上で、素材を無駄にしてしまうんだからな」
「分かりました。そのようにします」

 タクマはアークスに100,000,000Gを渡しておく。まだ、前に預かったものが残っていると言っていたが、予備に持っておくように言う。

「ファリンとミカは皆に話した結果を話してやってくれ。これからは皆で運営していくんだからしっかりと話し合ってくれ。俺は店の中をしっかりとやったら後は言う気はないからな、頑張ってくれ」
「「はい!」」

 二人はそれまでの不安そうな顔が嘘のように、晴れやかな顔で部屋を出ていった。

「アークス。みんながあの話をしていたのを知っていただろう?」

 タクマはアークスが知らない訳がないと思っていた。アークスはすまし顔で平然と答える。

「さあ・・・私は何も知りませんな・・・ただ、皆が話し合った結果は自分達の口でタクマ様に話すべきだとは思いますね」
「意地悪だな」
「いえいえ。それにしても、計画が変更になるのにうれしそうですね?」

 タクマは表情に出したつもりはなかったのだが、薄い笑みが浮かんでしまっていたようだ。

「そうだな・・・みんながしっかりと自立心を持って言いに来てくれたんだ。前に進もうとしている家族を誇らしく思うのは当然だろ?」
「そうですね。私も嬉しく思いますよ」

 そう言ってタクマとアークスは笑い合い、翌日からの動きを確認していくのだった。
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