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子供達の新たなる一歩と開店準備編

改装中止と漢気

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「ふざけんな!ここまで完成していて改装中止だと!?」
「ええ。こちらの都合で本当に申し訳ないのですが、改装後にやる予定だったお店が変わる事になったので。ただ、この改装にかかる予定だった費用は全て負担します」

 アークスは大工の親方に丁寧に改装を中止する理由を話していく。親方は怒りの表情を見せたまま説明を聞いている。親方の後ろには、大工たちが全員控えている。仕事前に話をしたので、手には仕事道具を持っている。

「言いたい事は分かったが、変更がギリギリになったのは何故だ?俺達だって、もっと前に言ってくれていれば変更に応じる事も出来たんだぞ?」
「それに関しては、店の業態を変更したのがギリギリだったとしか。ただ、私の主は頑張ってくれていたあなた方に申し訳ないので、すべての費用とは別に迷惑料を払うとも言っています。」

 アークスの言葉に親方は落ち着きを取り戻し、話を続ける。そもそもアークスは今の改装を中止し、新しくレストランにあった内装を頼もうとしていたのだ。だが、大工たちは話しを最後まで聞かずに怒り出してしまった。

「どういう事だ?レストランをやるって事はこの内装を変更する必要があるだろう?それはどうするつもりだ?」

 親方は迷惑料の事を聞かずに屋敷の改装をどうするのか聞いてくる。アークスは冷静な表情で口を開く。

「もちろんこのままではレストランが出来ないので大工さんに頼むしかありませんが、お怒りのあなた達にはご迷惑はお掛けしませんよ」
「どういう事だ?」
「あなた達は私たちに怒りを持っているのでしょう?確かに申し訳ない事をしました。ですが、仕事上の話なのですから冷静に話をすべきです。本当であれば、あなた方に頼むのが筋なのでしょうが、冷静に話せない人間に仕事は頼むつもりはありません」

 アークスはさわやかな笑顔で、目の前の大工たちには頼まないと宣言した。

「それはあんたが・・・」
「中止してくれと言ったから?私はその後にしっかりと話をしようとしたんですよ?それを遮って怒りをこちらに向けのはあなた方です。まあ、ちょうど私の主が着いたみたいなので、報告をさせて貰いますね」

 タクマが敷地に入って来るのを確認したアークスは、すぐに報告に向かった。

「なるほどな。大工の皆はお怒りだと言う事か」
 
 報告を聞いたタクマは親方の所まで移動して、謝罪をする。

「この屋敷の持ち主のタクマ=サトウです。今回の中止は本当に申し訳ありません」
「本当だぜ。もっと早く言ってほしかったもんだ。あんたの我が儘に振り回されるのはいい迷惑だ」

 親方はタクマに不満をぶつける。そしてタクマにこう続けた。

「まあ、あんたたちも謝罪をしている事だし、レストランの依頼も受けてやらんこともない。これまでの経費はしっかりと貰うがな?」

 タクマは黙って親方の言葉を聞いていたのだが、フッと笑みを浮かべて口を開く。

「いえ、その事ですが、改装ここで終わりにします。皆さんにこれ以上ご迷惑をお掛けするつもりはないです。アークス、今まで掛かった金額を倍付けで彼らに払ってやってくれ」
「分かりました。ですが改装はどうするのですか?」
「改装はしない。時間もないから別に建物を用意する」

 タクマはそう言うと大工たちにいったん外に出て貰うと、敷地全体に結界と遮音を施す。そして大工たちに向き直ると、地面に膝を付いて謝罪する。

「あなた達大工さんには本当にご迷惑をお掛けしました。ただ、これ以上作業時間をかける事が出来なくなりました。改装はここで中止させてください」

 タクマは大工たちに土下座で謝罪をする。大工たちも怒ってはいたのだが、まさか依頼主が直々に膝を付いて土下座をするとは思ってなくて焦っている。

「お、おい・・・」
「あなた達は職人で、最後まで仕事を全うする事を誇りにしているのは重々承知しております。なので、改装が終わろうとしているのに変更や中止をしろと言っているのは、すべて私が悪い。どうかお許しください」

 タクマは自分が悪いのが分かっているので、大工たちに土下座で許しを請う。その姿は、大工たちから見ても反省をしている様に見えた。タクマの姿を見て、怒っていた大工たちは冷静になってきたようだ。そして、親方は土下座をするタクマを立たせ、口を開く。

「あんたはどれだけ酷い事を俺達に言っているか分かっているんだな?」
「はい」
「それでも言わなければならない理由があると」
「そうです」
「そうか・・・」

 親方は腕を組んで考え込んでいたが、目を開いたかと思うとタクマの手を引き他の大工に聞かれない距離に移動した。

「ここなら聞いてる奴は俺だけだ。理由を言え」

 親方に促されたタクマは、しぶしぶ話す。それを黙って聞く親方は時折質問を交えながらタクマの話を聞いてくれた。

「自分が保護した人間の自立か・・・」
「ええ」
「業態を変える必要があるのは分かった。だが、時間を貰えれば改装の変更は出来た。それにお前は建物を新たに用意すると言ったな。それもまとめて話せ」

 タクマは自分が焦っているあまり、普通の人が絶対に言わない事を口走っていたのだ。タクマは諦めて異世界商店の事を隠して話をする事にした。自分がアイテムボックス持ちで、中に代替えの建物があるとはなす。もっとも、仕入れを行わないと代替えの建物はないのだが。そして、急ぐ理由は、自分の婚約者が命の危険があると知らせてきたので、早く家族達の自立の基礎になるものを準備して出発したいのだと説明した。

「アイテムボックス云々も引っ掛かる所だが・・・それよりも婚約者が危ないだと!?馬鹿が!!何でそれを早く言わねえ!初めから隠さずに言えば協力も出来て、俺らが怒る事もなかったじゃねえか!」

 親方はタクマに盛大な雷を落とした。それは言葉の雷と言うのもあるが、物理的にタクマの頭に拳骨という雷が落とされた。

「ぐおっ!・・・」

 突然の拳骨に衝撃を受けているタクマをよそに、親方は他の大工たちを呼びよせ内緒話を始めてしまった。親方の内緒話を聞いていた大工たちは様々な反応を示す。

「ああ!?こいつ、なんで初めから言わねえんだ?」
「こいつ馬鹿なのか?」
「呆れて言葉も出ねえぜ」
「生き方の下手な奴だ!」

 様々な罵声がタクマに浴びせられるが、どれも漢気と優しさにあふれる気持ちが伝わってくる。

「おい、タクマだったな。今回の事は、ピンチだっていうお前の婚約者に免じて許してやらあ。それに俺らも受けた仕事を途中で投げ出すのは不本意だ。だから、てめえがアイテムボックスに仕舞ってあるという建物を使って、レストランを完成させてやらあ!」
「え?それは・・・どういう・・・」
「てめえのやろうとしてることを手伝ってやるって言ってるんだ。さっさとやるぞ!もちろん、それに掛る費用は請求するがな・・・・。よーし、野郎ども!ここからは徹夜も覚悟してやるぞ!大工の底力をこいつに見せてやれ!!」
「「「「おおー!」」」」

 そう言って気合の入った大工たちは、タクマの服の襟を掴んで引きずり敷地の入口まで連れて行く。それを見ていたアークスは笑顔でそれを見送るのだった。

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