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3巻
3-3
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「何か用かな?」
「!!」
目の前のタクマが消えたと思ったら真後ろから話しかけられたため、その存在は飛び上がって驚いた。
「キュル⁉」
そこにいたのは、ファンタジーのお約束であるドラゴンだった。
まだ幼いらしく、体長は50㎝に満たないくらいである。
(ちっちゃいのに、ひとりでこんなところにいるなんて、迷子なのか?)
(分かりませんが、小さくてもドラゴンですよ? 少しは警戒してくださいね)
(ああ、すまん。そうだな)
ナビに注意されたタクマは、警戒しつつ問いかけてみる。
「どうした? 俺のことを見ていただろう? 何か用があるんじゃないのか?」
「キュル……キュキュ」
「うん……分からんな」
意思の疎通に苦労していると、ドラゴンのお腹から可愛い音が響いた。
グゥー。
「ああ……腹が減っているのか」
脱力しつつ、ナビに念話を送る。
(どうする? こいつ腹が減ってるだけのようだぞ?)
(そうですね。危険はないようです。どうしてここにいるのか分かりませんが、とりあえず食事を与えてみたらどうでしょうか?)
(そうだな。一緒にご飯を食べるかどうか誘ってみるか)
タクマは小さなドラゴンに向き合う。
「なあ? 腹が減っているなら来るか?」
「キュル? キュー!」
どうやら、「本当? 食べる!」的な返事をしたらしい。ドラゴンへ両手を差し出してみると、大人しく抱かせてくれた。硬く丈夫な鱗に覆われているものの、気持ちの良い触り心地だった。
抱き上げたまま野営地へ戻ると、ヴァイスたちが獲物をゲットして戻ってきていた。ヴァイスたちにクリアをかけてやったあと、ドラゴンと話してもらうことにした。
「すまんが、この子がひとりでこっちを見ていて、腹が減っていそうだから連れてきたんだ。だが、話が通じない。ちょっと聞いてみてくれないか?」
「アウン!(分かったー!)」
「ミアー(話してみるー)」
「ピュイー(お任せください)」
「キキ!(任せてー!)」
ドラゴンをヴァイスたちに任せたタクマは、ドラゴンの分の食事もテーブルに用意した。しばらくすると話が終わったらしく、ヴァイスが代表して報告に来てくれた。
「アウン。アン、アン(父ちゃん、迷子だってー。何か獣追いかけてたら、見たことないとこに来ちゃって。お腹減ってたんだって)」
「やっぱり迷子か。で、棲んでいるところは聞けたか?」
「アン、アウン(えっとねー、母ちゃんと一緒に棲んでて、火の山みたい)」
「火の山? 火山か何かか?」
「アウン(何か、赤い水が燃えてるとこだって)」
「そうか、大体分かった。まずは、みんなを呼んでご飯にしよう」
ヴァイスがみんなを呼びに行き、戻ってくると食事が始まった。ドラゴンの子はよほどお腹が空いていたらしく貪るように食べている。一時間ほどで食事は終わり、ヴァイスはいつも通り食後は寝てしまったので、アフダルに通訳をしてもらいながらドラゴンの子と話をした。
「狩りの練習をしていたら、行ったことのない場所まで獲物を追っていたのか」
「キュル……」
「ピュイー(迷子になってから食事もとれなくて困っていたら、人間がご飯を作っているのを見かけて、見入ってしまったようです)」
「なるほど。とりあえず、親は心配しているだろうし連れてってやるか」
「キュル?」
「ピュイー(帰れるの? だそうです)」
タクマはドラゴンの子を安心させてやるように撫でながら「大丈夫だ」と言ってやった。するとドラゴンの子は、張り詰めた糸が切れたように泣き出してしまう。
タクマはドラゴンの子を抱き上げてあやしてやりながら、スマホを起動する。
火山地帯で、母竜のような大きな気配がないか検索すると、一件だけヒットした。そこは、タクマたちの移動速度でも五日ほどかかる場所だった。大きな気配は、火山の周辺をひっきりなしに飛んで子供を捜しているようだった。
(あー、これは相当心配しているな。どうするかな。このまま連れていったら戦闘になりかねん)
飛び回る気配にタクマが頭を抱えていると、ナビが助言してくる。
(ドラゴンといえば、あの方に力を貸してもらったらどうでしょうか?)
(あの方? ……ああ、エネルか)
交流のあるドラゴンにエネルがいることを思い出したタクマは、さっそく念話を送ってみた。エネルは、ダンジョンで出会ったヴァイスたちの師匠に当たるドラゴンである。
(エネル、エネル聞こえるか?)
(おお、タクマか? どうしたのだ?)
(上手くいったようだな。実はドラゴンの子が迷子になっていて保護したんだが、親を検索したらかなり捜し回っているようなんだ。このまま連れていくと誤解されて、戦闘になる可能性がありそうなんだけど、何とかならんか?)
(ちょっと待て……そのドラゴンは火山に棲んでいる者か?)
(分かるのか?)
(ああ、人里に近いところに棲んでいるドラゴンは把握している。お主らがいる場所から一番近くにいるのは、火山に棲み着いているあの者しかおらん。ではこちらから連絡をしておくので、ドラゴンの子を送っていってくれるか?)
(ああ、余裕を見て六日くらいで送っていけるから、そう伝えてもらえるか?)
伝言を快く引き受けてくれたエネルは、そのまま念話を切った。
「さて、お前の棲んでいるところは分かったから、家まで一緒に行こう」
「キュル!」
「ピュイー(ありがとうだそうです)」
ドラゴンの子は家に帰れると分かり、嬉しそうな声を上げて喜んだ。
明日からドラゴンの子を送るために移動を開始すると決めたタクマは、早めにテントへと入るのだった。
8 受け渡し
ドラゴンの子を保護して送ることにしたタクマたちは、火山へ向けて移動をしていた。
その間、ドラゴンの子の面倒を一番見ていたのはヴァイスだった。警戒心がなく興味を持ったものに平気で近づいてしまうドラゴンの子を窘め、兄貴みたいになっていた。
「ヴァイスは良い兄貴になったな」
「アウン!(兄ちゃんだから面倒見るの!)」
「そうか。怪我させないように頼むな」
「アウン!(うん!)」
他の三匹はヴァイスの代わりに周りの警戒をし、ドラゴンの子が危険な目に遭わないよう気を使ってくれていたので、ヴァイスと同じように褒めてやった。
(うん、うちの子たちは皆優しく育っているな)
タクマは自分の家族を誇らしく思った。そんなふうにして進んでいると、予定よりも早く目的の火山の手前までたどり着いた。
気配察知で親ドラゴンの位置を確認すると、火山の中腹くらいに留まっているらしく動きがない。エネルから連絡が行き、落ち着いてくれたのかもしれない。
この日は、夕方に差しかかっていたので、子ドラゴンを届けるのは明日に持ち越すことにした。
しかし、テントとテーブルを設営し食事の準備をしていると、火山のほうから大きな気配が向かってきた。
「お、親が迎えに来たみたいだな」
「キュイ?」
本当? みたいな表情をしてタクマを見ていたドラゴンの子だったが、すぐに親の気配に気づいたようだ。
タクマたちの目の前に着地したそれは、相当な大きさのドラゴンだった。
『貴様ー! 我が子をどうするつもりだ!』
タクマの胸に抱かれた自分の子を目にした親ドラゴンは、いきなり殺気を出しながらタクマに食ってかかってきた。
「落ち着け! 俺たちはこの子を送ってきただけで、危害を加える気はない!」
タクマはドラゴンの子を地面に降ろして、親のところへ行くように促す。子ドラゴンはポテポテと無事に親の許へとたどり着くが、親ドラゴンの怒りは収まらない。どうやらエネルからの連絡は上手くいってなかったようだ。
『愚かな人間め! 子を返せば済むという問題ではないわ! 償いはしてもらうぞ』
親ドラゴンは炎の壁を作って子ドラゴンを隠すと、すぐさまタクマたちに攻撃を仕掛けてきた。
親ドラゴンの大きな尻尾がタクマたちを潰そうと襲いかかる。タクマは素早く攻撃を避けると、説得を試みた。
「待ってくれ! 俺たちに戦いの意思はない!」
『うるさい! 野蛮な人間め! そうやって油断をさせておいて、我を攻撃しようというのだろう!』
親ドラゴンは怒りのあまり我を忘れているようだ。
タクマは親ドラゴンの攻撃を避けながら考えを巡らすが、流石に怒ったドラゴン相手では、避けるのに専念しなければ攻撃を受けてしまう。
「チッ、仕方ない。みんな! ちょっと対応を考えるから、あのドラゴンの相手をしててくれ。いいか? 絶対に怪我をさせるなよ!」
((((了解))))
ヴァイスたちはタクマの指示を受け、魔力を解放した。これは、自分たちに注意を引き付けるためと、自らの身体強化を行うためだ。
大きな力を感じた親ドラゴンは、タクマから意識を引き離し、ヴァイスたちに目を向ける。
『忌々しい獣どもめ! 人間を倒す前に貴様らを圧倒してくれる!』
親ドラゴンはそう言うと、ヴァイスたちとの戦闘を開始した。
ヴァイスたちの動きはとても素晴らしいものだった。自分よりも大きな相手に、速度で対抗して翻弄していたのだ。
ヴァイスは自ら正面に立って親ドラゴンを牽制し、ゲール、ネーロ、アフダルはそれに合わせて親ドラゴンにプレッシャーをかけていた。しかも、親ドラゴンを傷つけないように、かなり手加減をしているようだ。本来、手加減のできるような相手ではないのだが、上手く親ドラゴンの気を引いてくれている。
「修業の成果がすごいな。ドラゴン相手でも全く引けを取っていない」
タクマがヴァイスたちの動きに感心していると、ナビが話しかけてくる。
「マスター。いくらヴァイスたちの動きが素晴らしいといっても、自分たちから攻撃はできないのです。体力もしっかりと付いているでしょうが、早めに解決策を講じるのが良いかと思います」
「確かにそうだな……だが、俺がドラゴンを止めようと思ったら、怪我をさせてしまうだろうし……伝言を頼んだエネルに話を聞いてから、どうするか判断するか」
そう言ってタクマはエネルと念話を繋ぐ。
(エネル、聞こえるか?)
タクマが呼びかけると、エネルはすぐに返事をしてくれた。
(タクマか。どうしたのだ?)
(この前頼んだドラゴンへの伝言はやってくれたのか? 子ドラゴンを送ってきたら問答無用で攻撃されているんだが……)
エネルによると、しっかりと伝えたのだが、怒りのために理性を失っているのだろうとのことだった。タクマは自分たちの現状をエネルに話し、手助けを求める。
(今はヴァイスたちに抑えてもらっているけれど、本気で抗おうとすればドラゴンが傷ついてしまう。どうにかエネルのほうで説得できないか?)
タクマは穏便な方法で事を収めたいと考えていたが、エネルから返ってきた言葉はあっさりとしたものだった。
(タクマの力の本質を見られぬほどに興奮しているのなら、当分は収まらんよ)
(じゃあ、倒すしか方法はないのか? できればそれはしたくないんだが……)
流石に子ドラゴンが見ている前で、親ドラゴンを倒すようなことはしたくない。
(だったら儂が赴こうではないか。お前らは力の使い方を覚えただけで、それに慣れるまでは加減も難しかろう。少し待っているが良い)
そう言うと、エネルは念話を切った。
「まさか、エネル直々に来るつもりか?」
ともかくタクマは、ヴァイスたちとともに親ドラゴンを抑え込むことにした。タクマも戦線に加わって親ドラゴンにダメージを与えないようにしながらも動きを抑えていく。
「アウン?(父ちゃん、何か良い方法は?)」
ヴァイスは器用に攻撃を避けながら、タクマに聞く。
「もう少しこのまま牽制してくれ! エネルと連絡を取ったら、待ってろと言っていたからな」
しばらく膠着状態が続いていたが、やがてエネルのいるダンジョンの方向から気配を感じた。それは凄まじい勢いでタクマたちのほうへ向かってくる。気配の主は予想通りエネルだった。あっという間にタクマのところまで飛んできたエネルは、親ドラゴンの目の前に降り立つ。そして両手を突き出し、親ドラゴンの手を掴んで押さえつけた。
『久しいな、火竜。儂のことが分かるか?』
エネルは穏やかに語りかけるが、親ドラゴンは我を忘れてしまっていた。ヴァイスたちの牽制によってさらに怒りを増幅させたようだ。
『うるさい! 邪魔をするならお前も倒す!』
親ドラゴンはエネルの言葉に耳を貸すことなく、合わせた手を潰そうと力を入れる。タクマたちは邪魔になってしまうと考えて、その場を離れた。
『ほほう……儂を倒すとな? やってみてはどうだ? このエネル、まだまだお前に負けるつもりはないがな』
エネルはそう言うと、力比べをしたまま親ドラゴンに頭突きをかます。
『グア!』
意表を突いた頭突きは親ドラゴンにクリーンヒットし、その巨体を仰け反らせた。
『どうしたのだ? そんなものか?』
『グルウアーーーー!』
言葉を話す余裕もなくなった親ドラゴンは、本能のままに頭突きや蹴りを繰り返し、尻尾を叩きつけてくる。だが、どれもエネルに受け流されて反撃を受けるばかりだった。
そんなことを15分ほど繰り返すと、親ドラゴンは徐々に消耗して動きが悪くなってきた。しかし戦意は喪失しておらず、果敢にエネルへ攻撃を仕掛ける。それは決して格好良い戦い方ではなかったが、エネルを驚かせることはできた。
親ドラゴンはエネルと組み合ったかと思うと、そのまま首に噛み付いてぶん投げた。エネルは地面に叩き付けられながら森を破壊していく。それを見ていたタクマは思わず呟いた。
「まじか……怪獣大戦争だな……」
竜同士の凄まじい戦いを目の当たりにしてドン引きするタクマたち。
その後も親ドラゴンは、エネルに対して果敢に挑んでいたが、流石に地力の差が出てきた。親ドラゴンの体力も限界のようで、ついに動きが止まる。
『どら……そろそろ正気に戻すきっかけを作れそうだな』
親ドラゴンを突き飛ばすように押したエネルは、同時に膨大な魔力を練り上げる。そしてタクマに、親ドラゴンを大きめな結界で覆うように指示を出した。
タクマは言われた通りに親ドラゴンに結界を張る。ただし、エネルの魔法が干渉できるようにイメージした結界だ。
エネルは、凍るギリギリの温度の水で、結界内を満たしていった。
『これでしばらく頭を冷やすが良かろう。タクマ。こ奴から敵意が消えた時点で結界を解除してやるが良い。儂も久々に遊べたし、帰らせてもらう』
エネルはそう言って颯爽と帰っていってしまった。タクマは慌てて念話でお礼を伝えるが、エネルは困ったらいつでも言うようにと応えるだけだった。
それから30分後。結界内の親ドラゴンから敵意が消え、冷静な声が聞こえてきた。
『我の負けだ。お前らとは敵対しない。だからこの結界を解いてはくれないか?』
落ち着きを取り戻した親ドラゴンがタクマに語りかける。タクマがすぐに結界を解いてやると、親ドラゴンは大きな体を震わせていた。親ドラゴンが体温を取り戻すまで待ってから、話を聞くことにした。
『人の子よ。我を忘れて襲ってしまい申し訳なかった』
親ドラゴンが深く頭を下げて謝罪してくる。
「まあ、子を守るために怒っていたのだから仕方ないさ。こちらに被害はないし、手打ちにしよう」
タクマはそう言って親ドラゴンと和解する。
『そう言ってもらえるとありがたい。そういえば名乗ってさえいなかったな。我は火竜リンド。この子はジュードだ。ジュードを連れてきてくれて本当に感謝する』
「俺はタクマ・サトウだ。気にしなくても大丈夫だ。通り道だったしな。それよりも、子供だけで狩りの練習をさせておくのは感心しないな。せめて位置くらいは把握しておかないと。強欲な人間に捕まっていたら、生きて帰ってきていなかったかもしれない」
『う、すまぬ。いつもはしっかりと気配を掴んでいるのだが……』
リンドが素直に自分のミスを認めたので、タクマはこれ以上注意するのはやめた。ジュードはといえば、リンドに抱き着いて離れなかった。
『お前もタクマ殿にお礼を言うのだ』
「キュル!」
小さい体を折り曲げて感謝を示すジュード。そんな可愛らしい姿にタクマはほっこりとした気分になった。
「しかし、その大きさだとちょっと話しづらいな」
『そうか。ではこれでどうだ?』
リンドの体を光が包むと、2mくらいまで小さくなった。
『これで良いか?』
「ああ、ちょうど良いな。ところで、俺たちはこれから飯を作るんだが一緒にどうだ?」
せっかくなので食事に誘ってみたところ、快諾してくれた。準備の間、ヴァイスたちと待ってもらう。きっとたくさん食べるだろうと考えて、大量の料理を作ってテーブルに並べていく。買い溜めてある串焼きやサンドイッチ、そしてタクマが作ったステーキやスープなどを用意した。
準備が整い、みんな集合したところで食事を開始した。食事の間も会話が弾み、楽しい時間を過ごした。
食後、片付けを済ませたタクマは、ヴァイスたちとジュードをテントの中に寝かせてから、リンドと話し始めた。
「それにしても、どうして子供から目を離してしまったんだ?」
『うむ。狩りの練習を始めるまでは気配を感知できていたのだが、ある地点でぷっつりと気配が消えてしまったのだ。すぐに捜したが、気配を感知できる範囲を離れてしまったようで居場所が分からなかった』
「なるほど。だからあんなに右往左往していたのか」
『ん? タクマ殿は我の気配を遠くから感知していたのか?』
「ああ、俺は距離は関係なく、気配が分かるからな」
『そうか……』
リンドはジュードが戻り安心したようだ。また、タクマとこうして話しているうちに、何か考えついたらしい。
『これからあの子は巣立ちをするのだが、今までの子たちとは違い成長が遅いのだ。このままだと力不足のまま巣立つことになってしまう』
リンドが言うには、竜の掟で、成長してもしなくても巣立ちの時期は決まっており、このままでは危険な状態で巣立ちをさせないといけないのだそうだ。
『タクマ殿の家族は、すべて神に連なりし者たちだな?』
「……ああ。確かに皆、神に関係した子たちだ」
『やはりな。そこで頼みがあるのだが……』
「……あまり聞きたくはないけど何だ?」
『タクマ殿にあの子を預かってほしいのだ』
「……」
『あの子もタクマ殿やヴァイス殿たちに懐いているし、何より安全であろう。どうかお願いできないだろうか?』
「その前に一つ確認したい。俺らに付いてくれば、必ず厄介事に巻き込まれることになるが良いのか? ましてやジュードはドラゴンだ」
タクマは自分といればいろいろな厄介事が起こると自覚していた。異世界に飛ばされて反則的な力を得たうえに、ヴェルドミールの神とも繋がっているのだ。何もないというのが無理である。
『確かにそれでは普通の生活は無理か……では、あの子にはタクマ殿かヴァイス殿たちから離れないように厳命する。どうか頼めないだろうか?』
リンドは巣立ち後のジュードがどうしても心配らしく、タクマにジュードを託したいと懇願した。普通、人間に託すことは絶対にしないが、タクマは人間の枠を超えた者だ。安心して任せることができる。
(どう思う?)
(マスターがしたいようになされば良いと思います。幸い、ジュードはヴァイスたちにも懐いていますし、離れなければ大丈夫でしょう)
ナビと相談したタクマは、今回の話を受けることに決めた。
ジュードがしっかりと成長していれば断るところだが、保護したときの危なっかしい様子を考えると、断るという選択はできなかった。まずは自分が預かって守ってやりながら、ヴァイスたちからひとりで生き抜く知恵を学ばせ、自立する選択を自分でさせようと考えた。
「分かった。俺が責任を持って預からせてもらう」
『おお! そうか。ありがとう。あの子を頼むぞ』
それから遅くまでたわいないことを話しながら過ごすのだった。
「!!」
目の前のタクマが消えたと思ったら真後ろから話しかけられたため、その存在は飛び上がって驚いた。
「キュル⁉」
そこにいたのは、ファンタジーのお約束であるドラゴンだった。
まだ幼いらしく、体長は50㎝に満たないくらいである。
(ちっちゃいのに、ひとりでこんなところにいるなんて、迷子なのか?)
(分かりませんが、小さくてもドラゴンですよ? 少しは警戒してくださいね)
(ああ、すまん。そうだな)
ナビに注意されたタクマは、警戒しつつ問いかけてみる。
「どうした? 俺のことを見ていただろう? 何か用があるんじゃないのか?」
「キュル……キュキュ」
「うん……分からんな」
意思の疎通に苦労していると、ドラゴンのお腹から可愛い音が響いた。
グゥー。
「ああ……腹が減っているのか」
脱力しつつ、ナビに念話を送る。
(どうする? こいつ腹が減ってるだけのようだぞ?)
(そうですね。危険はないようです。どうしてここにいるのか分かりませんが、とりあえず食事を与えてみたらどうでしょうか?)
(そうだな。一緒にご飯を食べるかどうか誘ってみるか)
タクマは小さなドラゴンに向き合う。
「なあ? 腹が減っているなら来るか?」
「キュル? キュー!」
どうやら、「本当? 食べる!」的な返事をしたらしい。ドラゴンへ両手を差し出してみると、大人しく抱かせてくれた。硬く丈夫な鱗に覆われているものの、気持ちの良い触り心地だった。
抱き上げたまま野営地へ戻ると、ヴァイスたちが獲物をゲットして戻ってきていた。ヴァイスたちにクリアをかけてやったあと、ドラゴンと話してもらうことにした。
「すまんが、この子がひとりでこっちを見ていて、腹が減っていそうだから連れてきたんだ。だが、話が通じない。ちょっと聞いてみてくれないか?」
「アウン!(分かったー!)」
「ミアー(話してみるー)」
「ピュイー(お任せください)」
「キキ!(任せてー!)」
ドラゴンをヴァイスたちに任せたタクマは、ドラゴンの分の食事もテーブルに用意した。しばらくすると話が終わったらしく、ヴァイスが代表して報告に来てくれた。
「アウン。アン、アン(父ちゃん、迷子だってー。何か獣追いかけてたら、見たことないとこに来ちゃって。お腹減ってたんだって)」
「やっぱり迷子か。で、棲んでいるところは聞けたか?」
「アン、アウン(えっとねー、母ちゃんと一緒に棲んでて、火の山みたい)」
「火の山? 火山か何かか?」
「アウン(何か、赤い水が燃えてるとこだって)」
「そうか、大体分かった。まずは、みんなを呼んでご飯にしよう」
ヴァイスがみんなを呼びに行き、戻ってくると食事が始まった。ドラゴンの子はよほどお腹が空いていたらしく貪るように食べている。一時間ほどで食事は終わり、ヴァイスはいつも通り食後は寝てしまったので、アフダルに通訳をしてもらいながらドラゴンの子と話をした。
「狩りの練習をしていたら、行ったことのない場所まで獲物を追っていたのか」
「キュル……」
「ピュイー(迷子になってから食事もとれなくて困っていたら、人間がご飯を作っているのを見かけて、見入ってしまったようです)」
「なるほど。とりあえず、親は心配しているだろうし連れてってやるか」
「キュル?」
「ピュイー(帰れるの? だそうです)」
タクマはドラゴンの子を安心させてやるように撫でながら「大丈夫だ」と言ってやった。するとドラゴンの子は、張り詰めた糸が切れたように泣き出してしまう。
タクマはドラゴンの子を抱き上げてあやしてやりながら、スマホを起動する。
火山地帯で、母竜のような大きな気配がないか検索すると、一件だけヒットした。そこは、タクマたちの移動速度でも五日ほどかかる場所だった。大きな気配は、火山の周辺をひっきりなしに飛んで子供を捜しているようだった。
(あー、これは相当心配しているな。どうするかな。このまま連れていったら戦闘になりかねん)
飛び回る気配にタクマが頭を抱えていると、ナビが助言してくる。
(ドラゴンといえば、あの方に力を貸してもらったらどうでしょうか?)
(あの方? ……ああ、エネルか)
交流のあるドラゴンにエネルがいることを思い出したタクマは、さっそく念話を送ってみた。エネルは、ダンジョンで出会ったヴァイスたちの師匠に当たるドラゴンである。
(エネル、エネル聞こえるか?)
(おお、タクマか? どうしたのだ?)
(上手くいったようだな。実はドラゴンの子が迷子になっていて保護したんだが、親を検索したらかなり捜し回っているようなんだ。このまま連れていくと誤解されて、戦闘になる可能性がありそうなんだけど、何とかならんか?)
(ちょっと待て……そのドラゴンは火山に棲んでいる者か?)
(分かるのか?)
(ああ、人里に近いところに棲んでいるドラゴンは把握している。お主らがいる場所から一番近くにいるのは、火山に棲み着いているあの者しかおらん。ではこちらから連絡をしておくので、ドラゴンの子を送っていってくれるか?)
(ああ、余裕を見て六日くらいで送っていけるから、そう伝えてもらえるか?)
伝言を快く引き受けてくれたエネルは、そのまま念話を切った。
「さて、お前の棲んでいるところは分かったから、家まで一緒に行こう」
「キュル!」
「ピュイー(ありがとうだそうです)」
ドラゴンの子は家に帰れると分かり、嬉しそうな声を上げて喜んだ。
明日からドラゴンの子を送るために移動を開始すると決めたタクマは、早めにテントへと入るのだった。
8 受け渡し
ドラゴンの子を保護して送ることにしたタクマたちは、火山へ向けて移動をしていた。
その間、ドラゴンの子の面倒を一番見ていたのはヴァイスだった。警戒心がなく興味を持ったものに平気で近づいてしまうドラゴンの子を窘め、兄貴みたいになっていた。
「ヴァイスは良い兄貴になったな」
「アウン!(兄ちゃんだから面倒見るの!)」
「そうか。怪我させないように頼むな」
「アウン!(うん!)」
他の三匹はヴァイスの代わりに周りの警戒をし、ドラゴンの子が危険な目に遭わないよう気を使ってくれていたので、ヴァイスと同じように褒めてやった。
(うん、うちの子たちは皆優しく育っているな)
タクマは自分の家族を誇らしく思った。そんなふうにして進んでいると、予定よりも早く目的の火山の手前までたどり着いた。
気配察知で親ドラゴンの位置を確認すると、火山の中腹くらいに留まっているらしく動きがない。エネルから連絡が行き、落ち着いてくれたのかもしれない。
この日は、夕方に差しかかっていたので、子ドラゴンを届けるのは明日に持ち越すことにした。
しかし、テントとテーブルを設営し食事の準備をしていると、火山のほうから大きな気配が向かってきた。
「お、親が迎えに来たみたいだな」
「キュイ?」
本当? みたいな表情をしてタクマを見ていたドラゴンの子だったが、すぐに親の気配に気づいたようだ。
タクマたちの目の前に着地したそれは、相当な大きさのドラゴンだった。
『貴様ー! 我が子をどうするつもりだ!』
タクマの胸に抱かれた自分の子を目にした親ドラゴンは、いきなり殺気を出しながらタクマに食ってかかってきた。
「落ち着け! 俺たちはこの子を送ってきただけで、危害を加える気はない!」
タクマはドラゴンの子を地面に降ろして、親のところへ行くように促す。子ドラゴンはポテポテと無事に親の許へとたどり着くが、親ドラゴンの怒りは収まらない。どうやらエネルからの連絡は上手くいってなかったようだ。
『愚かな人間め! 子を返せば済むという問題ではないわ! 償いはしてもらうぞ』
親ドラゴンは炎の壁を作って子ドラゴンを隠すと、すぐさまタクマたちに攻撃を仕掛けてきた。
親ドラゴンの大きな尻尾がタクマたちを潰そうと襲いかかる。タクマは素早く攻撃を避けると、説得を試みた。
「待ってくれ! 俺たちに戦いの意思はない!」
『うるさい! 野蛮な人間め! そうやって油断をさせておいて、我を攻撃しようというのだろう!』
親ドラゴンは怒りのあまり我を忘れているようだ。
タクマは親ドラゴンの攻撃を避けながら考えを巡らすが、流石に怒ったドラゴン相手では、避けるのに専念しなければ攻撃を受けてしまう。
「チッ、仕方ない。みんな! ちょっと対応を考えるから、あのドラゴンの相手をしててくれ。いいか? 絶対に怪我をさせるなよ!」
((((了解))))
ヴァイスたちはタクマの指示を受け、魔力を解放した。これは、自分たちに注意を引き付けるためと、自らの身体強化を行うためだ。
大きな力を感じた親ドラゴンは、タクマから意識を引き離し、ヴァイスたちに目を向ける。
『忌々しい獣どもめ! 人間を倒す前に貴様らを圧倒してくれる!』
親ドラゴンはそう言うと、ヴァイスたちとの戦闘を開始した。
ヴァイスたちの動きはとても素晴らしいものだった。自分よりも大きな相手に、速度で対抗して翻弄していたのだ。
ヴァイスは自ら正面に立って親ドラゴンを牽制し、ゲール、ネーロ、アフダルはそれに合わせて親ドラゴンにプレッシャーをかけていた。しかも、親ドラゴンを傷つけないように、かなり手加減をしているようだ。本来、手加減のできるような相手ではないのだが、上手く親ドラゴンの気を引いてくれている。
「修業の成果がすごいな。ドラゴン相手でも全く引けを取っていない」
タクマがヴァイスたちの動きに感心していると、ナビが話しかけてくる。
「マスター。いくらヴァイスたちの動きが素晴らしいといっても、自分たちから攻撃はできないのです。体力もしっかりと付いているでしょうが、早めに解決策を講じるのが良いかと思います」
「確かにそうだな……だが、俺がドラゴンを止めようと思ったら、怪我をさせてしまうだろうし……伝言を頼んだエネルに話を聞いてから、どうするか判断するか」
そう言ってタクマはエネルと念話を繋ぐ。
(エネル、聞こえるか?)
タクマが呼びかけると、エネルはすぐに返事をしてくれた。
(タクマか。どうしたのだ?)
(この前頼んだドラゴンへの伝言はやってくれたのか? 子ドラゴンを送ってきたら問答無用で攻撃されているんだが……)
エネルによると、しっかりと伝えたのだが、怒りのために理性を失っているのだろうとのことだった。タクマは自分たちの現状をエネルに話し、手助けを求める。
(今はヴァイスたちに抑えてもらっているけれど、本気で抗おうとすればドラゴンが傷ついてしまう。どうにかエネルのほうで説得できないか?)
タクマは穏便な方法で事を収めたいと考えていたが、エネルから返ってきた言葉はあっさりとしたものだった。
(タクマの力の本質を見られぬほどに興奮しているのなら、当分は収まらんよ)
(じゃあ、倒すしか方法はないのか? できればそれはしたくないんだが……)
流石に子ドラゴンが見ている前で、親ドラゴンを倒すようなことはしたくない。
(だったら儂が赴こうではないか。お前らは力の使い方を覚えただけで、それに慣れるまでは加減も難しかろう。少し待っているが良い)
そう言うと、エネルは念話を切った。
「まさか、エネル直々に来るつもりか?」
ともかくタクマは、ヴァイスたちとともに親ドラゴンを抑え込むことにした。タクマも戦線に加わって親ドラゴンにダメージを与えないようにしながらも動きを抑えていく。
「アウン?(父ちゃん、何か良い方法は?)」
ヴァイスは器用に攻撃を避けながら、タクマに聞く。
「もう少しこのまま牽制してくれ! エネルと連絡を取ったら、待ってろと言っていたからな」
しばらく膠着状態が続いていたが、やがてエネルのいるダンジョンの方向から気配を感じた。それは凄まじい勢いでタクマたちのほうへ向かってくる。気配の主は予想通りエネルだった。あっという間にタクマのところまで飛んできたエネルは、親ドラゴンの目の前に降り立つ。そして両手を突き出し、親ドラゴンの手を掴んで押さえつけた。
『久しいな、火竜。儂のことが分かるか?』
エネルは穏やかに語りかけるが、親ドラゴンは我を忘れてしまっていた。ヴァイスたちの牽制によってさらに怒りを増幅させたようだ。
『うるさい! 邪魔をするならお前も倒す!』
親ドラゴンはエネルの言葉に耳を貸すことなく、合わせた手を潰そうと力を入れる。タクマたちは邪魔になってしまうと考えて、その場を離れた。
『ほほう……儂を倒すとな? やってみてはどうだ? このエネル、まだまだお前に負けるつもりはないがな』
エネルはそう言うと、力比べをしたまま親ドラゴンに頭突きをかます。
『グア!』
意表を突いた頭突きは親ドラゴンにクリーンヒットし、その巨体を仰け反らせた。
『どうしたのだ? そんなものか?』
『グルウアーーーー!』
言葉を話す余裕もなくなった親ドラゴンは、本能のままに頭突きや蹴りを繰り返し、尻尾を叩きつけてくる。だが、どれもエネルに受け流されて反撃を受けるばかりだった。
そんなことを15分ほど繰り返すと、親ドラゴンは徐々に消耗して動きが悪くなってきた。しかし戦意は喪失しておらず、果敢にエネルへ攻撃を仕掛ける。それは決して格好良い戦い方ではなかったが、エネルを驚かせることはできた。
親ドラゴンはエネルと組み合ったかと思うと、そのまま首に噛み付いてぶん投げた。エネルは地面に叩き付けられながら森を破壊していく。それを見ていたタクマは思わず呟いた。
「まじか……怪獣大戦争だな……」
竜同士の凄まじい戦いを目の当たりにしてドン引きするタクマたち。
その後も親ドラゴンは、エネルに対して果敢に挑んでいたが、流石に地力の差が出てきた。親ドラゴンの体力も限界のようで、ついに動きが止まる。
『どら……そろそろ正気に戻すきっかけを作れそうだな』
親ドラゴンを突き飛ばすように押したエネルは、同時に膨大な魔力を練り上げる。そしてタクマに、親ドラゴンを大きめな結界で覆うように指示を出した。
タクマは言われた通りに親ドラゴンに結界を張る。ただし、エネルの魔法が干渉できるようにイメージした結界だ。
エネルは、凍るギリギリの温度の水で、結界内を満たしていった。
『これでしばらく頭を冷やすが良かろう。タクマ。こ奴から敵意が消えた時点で結界を解除してやるが良い。儂も久々に遊べたし、帰らせてもらう』
エネルはそう言って颯爽と帰っていってしまった。タクマは慌てて念話でお礼を伝えるが、エネルは困ったらいつでも言うようにと応えるだけだった。
それから30分後。結界内の親ドラゴンから敵意が消え、冷静な声が聞こえてきた。
『我の負けだ。お前らとは敵対しない。だからこの結界を解いてはくれないか?』
落ち着きを取り戻した親ドラゴンがタクマに語りかける。タクマがすぐに結界を解いてやると、親ドラゴンは大きな体を震わせていた。親ドラゴンが体温を取り戻すまで待ってから、話を聞くことにした。
『人の子よ。我を忘れて襲ってしまい申し訳なかった』
親ドラゴンが深く頭を下げて謝罪してくる。
「まあ、子を守るために怒っていたのだから仕方ないさ。こちらに被害はないし、手打ちにしよう」
タクマはそう言って親ドラゴンと和解する。
『そう言ってもらえるとありがたい。そういえば名乗ってさえいなかったな。我は火竜リンド。この子はジュードだ。ジュードを連れてきてくれて本当に感謝する』
「俺はタクマ・サトウだ。気にしなくても大丈夫だ。通り道だったしな。それよりも、子供だけで狩りの練習をさせておくのは感心しないな。せめて位置くらいは把握しておかないと。強欲な人間に捕まっていたら、生きて帰ってきていなかったかもしれない」
『う、すまぬ。いつもはしっかりと気配を掴んでいるのだが……』
リンドが素直に自分のミスを認めたので、タクマはこれ以上注意するのはやめた。ジュードはといえば、リンドに抱き着いて離れなかった。
『お前もタクマ殿にお礼を言うのだ』
「キュル!」
小さい体を折り曲げて感謝を示すジュード。そんな可愛らしい姿にタクマはほっこりとした気分になった。
「しかし、その大きさだとちょっと話しづらいな」
『そうか。ではこれでどうだ?』
リンドの体を光が包むと、2mくらいまで小さくなった。
『これで良いか?』
「ああ、ちょうど良いな。ところで、俺たちはこれから飯を作るんだが一緒にどうだ?」
せっかくなので食事に誘ってみたところ、快諾してくれた。準備の間、ヴァイスたちと待ってもらう。きっとたくさん食べるだろうと考えて、大量の料理を作ってテーブルに並べていく。買い溜めてある串焼きやサンドイッチ、そしてタクマが作ったステーキやスープなどを用意した。
準備が整い、みんな集合したところで食事を開始した。食事の間も会話が弾み、楽しい時間を過ごした。
食後、片付けを済ませたタクマは、ヴァイスたちとジュードをテントの中に寝かせてから、リンドと話し始めた。
「それにしても、どうして子供から目を離してしまったんだ?」
『うむ。狩りの練習を始めるまでは気配を感知できていたのだが、ある地点でぷっつりと気配が消えてしまったのだ。すぐに捜したが、気配を感知できる範囲を離れてしまったようで居場所が分からなかった』
「なるほど。だからあんなに右往左往していたのか」
『ん? タクマ殿は我の気配を遠くから感知していたのか?』
「ああ、俺は距離は関係なく、気配が分かるからな」
『そうか……』
リンドはジュードが戻り安心したようだ。また、タクマとこうして話しているうちに、何か考えついたらしい。
『これからあの子は巣立ちをするのだが、今までの子たちとは違い成長が遅いのだ。このままだと力不足のまま巣立つことになってしまう』
リンドが言うには、竜の掟で、成長してもしなくても巣立ちの時期は決まっており、このままでは危険な状態で巣立ちをさせないといけないのだそうだ。
『タクマ殿の家族は、すべて神に連なりし者たちだな?』
「……ああ。確かに皆、神に関係した子たちだ」
『やはりな。そこで頼みがあるのだが……』
「……あまり聞きたくはないけど何だ?」
『タクマ殿にあの子を預かってほしいのだ』
「……」
『あの子もタクマ殿やヴァイス殿たちに懐いているし、何より安全であろう。どうかお願いできないだろうか?』
「その前に一つ確認したい。俺らに付いてくれば、必ず厄介事に巻き込まれることになるが良いのか? ましてやジュードはドラゴンだ」
タクマは自分といればいろいろな厄介事が起こると自覚していた。異世界に飛ばされて反則的な力を得たうえに、ヴェルドミールの神とも繋がっているのだ。何もないというのが無理である。
『確かにそれでは普通の生活は無理か……では、あの子にはタクマ殿かヴァイス殿たちから離れないように厳命する。どうか頼めないだろうか?』
リンドは巣立ち後のジュードがどうしても心配らしく、タクマにジュードを託したいと懇願した。普通、人間に託すことは絶対にしないが、タクマは人間の枠を超えた者だ。安心して任せることができる。
(どう思う?)
(マスターがしたいようになされば良いと思います。幸い、ジュードはヴァイスたちにも懐いていますし、離れなければ大丈夫でしょう)
ナビと相談したタクマは、今回の話を受けることに決めた。
ジュードがしっかりと成長していれば断るところだが、保護したときの危なっかしい様子を考えると、断るという選択はできなかった。まずは自分が預かって守ってやりながら、ヴァイスたちからひとりで生き抜く知恵を学ばせ、自立する選択を自分でさせようと考えた。
「分かった。俺が責任を持って預からせてもらう」
『おお! そうか。ありがとう。あの子を頼むぞ』
それから遅くまでたわいないことを話しながら過ごすのだった。
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