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第一章_真昼の星の誕生
第三話_金剛寺要、親バレする
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金剛寺邸……東京某所の高級住宅地に佇む邸宅。
威風堂々とした歴史を感じさせる門扉。
玉砂利に松や梅など木々が上品に配置された枯山水の日本庭園。
その中心には古き良き日本の技術で作られた木造の豪邸。
“金剛寺要”は自身の父“金剛寺隼人”と母“あやめ”に呼び出されていた。
軽く二十畳以上の広さを持つ居間がどこか寒々しく感じるのは、呼び出された理由に心当たりがあるからだろう。
金剛寺家は音楽家一族。
要にとって両親は厳格で音楽に対して頑固な部分があるが、温かみがあり尊敬できる人物だ。
父隼人は世界的に有名なクラッシックピアニスト。
母あやめは海外を中心に活躍するオペラ歌手。
姉も将来を嘱望された声楽界のホープ。
そして要自身も声楽の道に進む事を期待されていた。
要自身、歌が好きだ。
愛していると言ってもいい。
それこそ声楽家になる事に何の疑問も持たなかった程度に……
だが、それはあくまでも過去の話。
今、要が本当に謡いたいのは……
「要……何故ここに呼ばれたかは分かっているな?」
巌の様に屈強な隼人から発せられる静かだが威厳に満ちた声。
要はどうにもこの声が苦手だった。
隼人がこの声で語る時は決まって自分を叱る時だ。
そして今回もそれは的中していた。
「要……これに心当たりは?」
要は自身の喉が鳴るのを感じた。
隼人が取り出したのは要のスマホ。
荒い画質。
雑音混じりの音声。
アニメ調の金髪美少女がポップで明るい歌を謡う映像。
少女はVシンガーだった。
要は目を泳がせながら母あやめの方に視線を向ける。
だが、あやめは真っ直ぐ前を見たまま要に視線を合わせようともしない。
母は海外での活動が多い為、会う機会はそれほど多くないが基本的には優しい。
厳格な父に対しての防波堤になってくれる事もしばしば。
だが今回に限って言えば母は自分の味方ではないらしい。
この日本人形のように凛とした母は怒ると無口になる。
無理もない。
母も父同様、要には声楽家になって欲しいと思っていたのだから……
四面楚歌。
答えに窮し、無言で肩を縮める要。
「これはお前という事でいいのだな?」
スマホに映ったVシンガーの少女はお前なのか?……
という問いだった。
要は無言を貫いた。
何故バレたのか分からない……
要の素行と容姿を加味すれば、その結論に行き着くわけがない。
たまたま見ていただけ……
と言えば誤魔化せたかもしれない。
だが嘘は吐けなかった。
要にとって親は絶対。
それを欺くなど思いもよらなかった。
無言を肯定と取った隼人が要に詰め寄る。
要は身体を目いっぱい縮める。
その姿はさながら肉食獣に睨まれたネズミのようだ。
「分かっていると思うが、お前を音大にやったのは外の空気に触れて見識を広めさせる為だ。お前が学ぶべきは音楽であってお遊びではない。分かるな?」
「…………」
静かで穏やかだが有無を言わさぬ言葉。
要は沈黙を貫くより他なかった。
要は歌が好きだ。
音楽が好きだ。
全ての音楽を愛していると言ってもいい。
だからこそ……
外の空気に触れた要には、古典音楽以外は音楽ではないとする家の方針に疑問を感じずにはいられなかった。
だが同時に、厳格な両親に逆らってまでポップスやロックを続けたいと思うほどの、強い意志は持ち合わせていなかった。
「今後、スマートフォンは禁止だ。電話はこちらを使え」
「えっ?それは……」
「いいな?」
「……はい」
要はスマホを取り上げられ、代わりにガラケーを渡された。
一瞬反論しようとしたが、隼人にひと睨みされた途端、心を挫かれた。
それでも……
「あの……せめてサイト停止の挨拶だけでも……」
「……いいだろう。十分だけだぞ」
隼人はため息をつきながら、要にスマホを返す。
「…………」
自らの手でチャンネルを休止する要。
その背中は迷子のように震えていた。
威風堂々とした歴史を感じさせる門扉。
玉砂利に松や梅など木々が上品に配置された枯山水の日本庭園。
その中心には古き良き日本の技術で作られた木造の豪邸。
“金剛寺要”は自身の父“金剛寺隼人”と母“あやめ”に呼び出されていた。
軽く二十畳以上の広さを持つ居間がどこか寒々しく感じるのは、呼び出された理由に心当たりがあるからだろう。
金剛寺家は音楽家一族。
要にとって両親は厳格で音楽に対して頑固な部分があるが、温かみがあり尊敬できる人物だ。
父隼人は世界的に有名なクラッシックピアニスト。
母あやめは海外を中心に活躍するオペラ歌手。
姉も将来を嘱望された声楽界のホープ。
そして要自身も声楽の道に進む事を期待されていた。
要自身、歌が好きだ。
愛していると言ってもいい。
それこそ声楽家になる事に何の疑問も持たなかった程度に……
だが、それはあくまでも過去の話。
今、要が本当に謡いたいのは……
「要……何故ここに呼ばれたかは分かっているな?」
巌の様に屈強な隼人から発せられる静かだが威厳に満ちた声。
要はどうにもこの声が苦手だった。
隼人がこの声で語る時は決まって自分を叱る時だ。
そして今回もそれは的中していた。
「要……これに心当たりは?」
要は自身の喉が鳴るのを感じた。
隼人が取り出したのは要のスマホ。
荒い画質。
雑音混じりの音声。
アニメ調の金髪美少女がポップで明るい歌を謡う映像。
少女はVシンガーだった。
要は目を泳がせながら母あやめの方に視線を向ける。
だが、あやめは真っ直ぐ前を見たまま要に視線を合わせようともしない。
母は海外での活動が多い為、会う機会はそれほど多くないが基本的には優しい。
厳格な父に対しての防波堤になってくれる事もしばしば。
だが今回に限って言えば母は自分の味方ではないらしい。
この日本人形のように凛とした母は怒ると無口になる。
無理もない。
母も父同様、要には声楽家になって欲しいと思っていたのだから……
四面楚歌。
答えに窮し、無言で肩を縮める要。
「これはお前という事でいいのだな?」
スマホに映ったVシンガーの少女はお前なのか?……
という問いだった。
要は無言を貫いた。
何故バレたのか分からない……
要の素行と容姿を加味すれば、その結論に行き着くわけがない。
たまたま見ていただけ……
と言えば誤魔化せたかもしれない。
だが嘘は吐けなかった。
要にとって親は絶対。
それを欺くなど思いもよらなかった。
無言を肯定と取った隼人が要に詰め寄る。
要は身体を目いっぱい縮める。
その姿はさながら肉食獣に睨まれたネズミのようだ。
「分かっていると思うが、お前を音大にやったのは外の空気に触れて見識を広めさせる為だ。お前が学ぶべきは音楽であってお遊びではない。分かるな?」
「…………」
静かで穏やかだが有無を言わさぬ言葉。
要は沈黙を貫くより他なかった。
要は歌が好きだ。
音楽が好きだ。
全ての音楽を愛していると言ってもいい。
だからこそ……
外の空気に触れた要には、古典音楽以外は音楽ではないとする家の方針に疑問を感じずにはいられなかった。
だが同時に、厳格な両親に逆らってまでポップスやロックを続けたいと思うほどの、強い意志は持ち合わせていなかった。
「今後、スマートフォンは禁止だ。電話はこちらを使え」
「えっ?それは……」
「いいな?」
「……はい」
要はスマホを取り上げられ、代わりにガラケーを渡された。
一瞬反論しようとしたが、隼人にひと睨みされた途端、心を挫かれた。
それでも……
「あの……せめてサイト停止の挨拶だけでも……」
「……いいだろう。十分だけだぞ」
隼人はため息をつきながら、要にスマホを返す。
「…………」
自らの手でチャンネルを休止する要。
その背中は迷子のように震えていた。
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