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第一章_真昼の星の誕生
第六話_まずはお互いを知るところから ~要編~
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真昼野ステラの復活を宣言した二人。
やってきたのは西多摩川市八王子町のボロアパート……つまり薄井の自宅だ。
少しばかり年季が入った手狭な室内。
ベッド、パソコン、冷蔵庫、洗濯機など生活に必要な最低限のモノしかない。
少し意外に思う人もいるかもしれない。
薄井は超ド級のVオタ。
オタクという人種の部屋は熱量に比例して推しグッズで溢れかえっているモノだ。
これは別に薄井の情熱が浅いとかそういう訳ではない。
理由は簡単。
彼が弱視で、部屋が物で溢れていると躓いたり踏みつけたりして、怪我やグッズの破損につながるからだ。
尚、余談だが彼のグッズは部屋に無いだけで、近所のレンタルトランクルームに大切に保管されている。
Vなどのグッズには特典ボイスやPC用の限定壁紙などもあり、それ目的で現地物販に足を運んだり、コンプリートグッズを購入するファンも少なくない。
Vにとってグッズの収益は割と大きなウェイトを占めているので、推しに貢献する意味合いも大きい。
閑話休題、薄井の後ろをついていく形で部屋の奥に進む要。
育ちのいい要には薄井のボロアパートは新鮮だったのだろう。
大きな身体でキョロキョロと周囲を見渡す要の仕草は好奇心旺盛な子供のようだった。
薄井はクスリと笑みを浮かべながら、むわっとした室内の空気を冷やすべくエアコンのリモコンに手を掛ける。
それから部屋の隅からちゃぶ台を引っ張り出し、麦茶の入ったコップを二つ並べた。
「さて、金剛寺さん。今後の方針を話し合う前にお互いの事を少し話そうか。何をやるにしてもまずはしっかり現状把握しておかないと」
「……はい、そうですね。じゃあまずわたしから」
薄井の提案に頷く要。
咳払いを一つ、要は考え込むように少し目線を上に向け、ポツポツと語り出した。
「まず改めて自己紹介です。わたしは金剛寺要。音楽家の家に生まれました。わたし自身は音大の四年生で来年の春には卒業予定です。先ほども話しましたが家では流行りのポップカルチャーみたいな音楽は禁止で、そのせいで真昼野ステラの活動は休止状態です。できれば両親に納得してもらった上で活動を再開したいのですが……」
要の表情が曇る。
薄井は漏れ出そうになるため息を必死に堪えた。
別に要は両親が嫌いだったり、喧嘩したかったりするわけではないようだ。
むしろ両親の事は好きだし、尊敬の念を抱いているのだろう。
彼はただ自分が好きな歌を謡う事を認めてほしいだけなのだ。
とは言ったモノの現実問題として他人の価値観を変える事は容易ではない。
その事を重々承知しているからこそ、要の口調も弱々しくなる。
薄井もその心境を察してはいたモノの、残念ながらその答えを持ち合わせていない。
この話題について深堀しても無益であると判断。
流れをぶった切る形で話題を転換した。
「金剛寺さんはどうしてVシンガーに?」
「はい……わたしって、こんな容姿じゃないですか……」
こんな容姿……
この言葉が全てを物語っていた。
要は身長190cm超えの厳つい男性。
だが、その口から出てくるのは可憐な少女の声。
違和感を覚えない人間はまずいないだろう……
……尤も薄井は別の事に違和感を覚えていた。
「なぁ、金剛寺さん?君の地声って真昼野ステラの方だろう?」
「えっ!?どうしてそれを!!」
要は目を丸くした。
驚天動地の出来事だったのだろう。
薄井の指摘通り、要の地声は少女のように可憐な真昼野ステラの声。
普段は無理をして男っぽい低い声(それでもほんの少し高い)で話しているのだろう。
世間様は厳つい大男に、可愛らしい少女の声を発する権利など与えてくれないから……
「なんで分かったんですか!?親にだってバレてないのに……」
「なんとなくだよ。俺って人より少しだけ音に敏感なんだ。別に絶対音感を持ってるわけじゃない。ただ音の違和感みたいなものがなんとなく分かるんだ……」
弱視と引き換えにね……薄井は心の中だけで自嘲気味に呟いた。
「…………」
「だから、ここでは地声で話しても大丈夫だぞ」
要は驚いた顔で固まった……
薄井の聴覚は特別製だった。
自然な声とそうじゃない声を感覚的に識別できる。
機械音声を使うボーカロイドが肌に合わなかったのもこのせいだ。
正直なところこの能力で得をした事は一回もなかった。
雑音が余計に耳に入るから集中したい時に集中できないし、眠りたい時に眠れない……
だが、薄井は今日初めてこの能力に感謝した。
真昼野ステラを間違わずに認識できたのだから……
やってきたのは西多摩川市八王子町のボロアパート……つまり薄井の自宅だ。
少しばかり年季が入った手狭な室内。
ベッド、パソコン、冷蔵庫、洗濯機など生活に必要な最低限のモノしかない。
少し意外に思う人もいるかもしれない。
薄井は超ド級のVオタ。
オタクという人種の部屋は熱量に比例して推しグッズで溢れかえっているモノだ。
これは別に薄井の情熱が浅いとかそういう訳ではない。
理由は簡単。
彼が弱視で、部屋が物で溢れていると躓いたり踏みつけたりして、怪我やグッズの破損につながるからだ。
尚、余談だが彼のグッズは部屋に無いだけで、近所のレンタルトランクルームに大切に保管されている。
Vなどのグッズには特典ボイスやPC用の限定壁紙などもあり、それ目的で現地物販に足を運んだり、コンプリートグッズを購入するファンも少なくない。
Vにとってグッズの収益は割と大きなウェイトを占めているので、推しに貢献する意味合いも大きい。
閑話休題、薄井の後ろをついていく形で部屋の奥に進む要。
育ちのいい要には薄井のボロアパートは新鮮だったのだろう。
大きな身体でキョロキョロと周囲を見渡す要の仕草は好奇心旺盛な子供のようだった。
薄井はクスリと笑みを浮かべながら、むわっとした室内の空気を冷やすべくエアコンのリモコンに手を掛ける。
それから部屋の隅からちゃぶ台を引っ張り出し、麦茶の入ったコップを二つ並べた。
「さて、金剛寺さん。今後の方針を話し合う前にお互いの事を少し話そうか。何をやるにしてもまずはしっかり現状把握しておかないと」
「……はい、そうですね。じゃあまずわたしから」
薄井の提案に頷く要。
咳払いを一つ、要は考え込むように少し目線を上に向け、ポツポツと語り出した。
「まず改めて自己紹介です。わたしは金剛寺要。音楽家の家に生まれました。わたし自身は音大の四年生で来年の春には卒業予定です。先ほども話しましたが家では流行りのポップカルチャーみたいな音楽は禁止で、そのせいで真昼野ステラの活動は休止状態です。できれば両親に納得してもらった上で活動を再開したいのですが……」
要の表情が曇る。
薄井は漏れ出そうになるため息を必死に堪えた。
別に要は両親が嫌いだったり、喧嘩したかったりするわけではないようだ。
むしろ両親の事は好きだし、尊敬の念を抱いているのだろう。
彼はただ自分が好きな歌を謡う事を認めてほしいだけなのだ。
とは言ったモノの現実問題として他人の価値観を変える事は容易ではない。
その事を重々承知しているからこそ、要の口調も弱々しくなる。
薄井もその心境を察してはいたモノの、残念ながらその答えを持ち合わせていない。
この話題について深堀しても無益であると判断。
流れをぶった切る形で話題を転換した。
「金剛寺さんはどうしてVシンガーに?」
「はい……わたしって、こんな容姿じゃないですか……」
こんな容姿……
この言葉が全てを物語っていた。
要は身長190cm超えの厳つい男性。
だが、その口から出てくるのは可憐な少女の声。
違和感を覚えない人間はまずいないだろう……
……尤も薄井は別の事に違和感を覚えていた。
「なぁ、金剛寺さん?君の地声って真昼野ステラの方だろう?」
「えっ!?どうしてそれを!!」
要は目を丸くした。
驚天動地の出来事だったのだろう。
薄井の指摘通り、要の地声は少女のように可憐な真昼野ステラの声。
普段は無理をして男っぽい低い声(それでもほんの少し高い)で話しているのだろう。
世間様は厳つい大男に、可愛らしい少女の声を発する権利など与えてくれないから……
「なんで分かったんですか!?親にだってバレてないのに……」
「なんとなくだよ。俺って人より少しだけ音に敏感なんだ。別に絶対音感を持ってるわけじゃない。ただ音の違和感みたいなものがなんとなく分かるんだ……」
弱視と引き換えにね……薄井は心の中だけで自嘲気味に呟いた。
「…………」
「だから、ここでは地声で話しても大丈夫だぞ」
要は驚いた顔で固まった……
薄井の聴覚は特別製だった。
自然な声とそうじゃない声を感覚的に識別できる。
機械音声を使うボーカロイドが肌に合わなかったのもこのせいだ。
正直なところこの能力で得をした事は一回もなかった。
雑音が余計に耳に入るから集中したい時に集中できないし、眠りたい時に眠れない……
だが、薄井は今日初めてこの能力に感謝した。
真昼野ステラを間違わずに認識できたのだから……
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