VSingerS【バーチャルシンガーズ】~俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

黄昏湖畔

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第一章_真昼の星の誕生

第七話_まずはお互いを知るところから~薄井編~

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 さて、薄井の知りたかった要の事情は大体知れた。
 要も驚きで言葉を失っているようだし、次は自分の事を話す番だろう。
 薄井は仕切り直す為にいったん席を立ち、冷蔵庫からミカンを取り出した。

「じゃあ、次は俺の番だ。まぁそれでも食べながら聞いてくれ」
⦅……はい⦆

 未だ上の空。
 気が抜けたせいだろうか。
 薄井に言われた通り少女の声じごえで応じる要。
 彼が素直にミカンを受け取ったところで薄井が語り出した。

「俺は薄井明。ついさっきまで会社員
⦅えっ!?⦆

 ヘラヘラと笑いながらパワーワードを零す薄井。
 予想の斜め上を行くカミングアウトに声を上げる要。

 薄井にとって会社をクビになった事は、推しが活動休止した事に比べれば些末な事なのだ。
 ここまで来ると今もてんやわんやになっているであろう鏑木精密ねじの社員が哀れになってくる。

 未だ固まって動けない要を余所に、空気が読めない薄井は言葉を重ねた。

「まぁ、今は失業者だけどむしろ好都合だな。真昼野ステラの復活に全力を注げるわけだし」
⦅…………⦆
「まずは金剛寺さんの両親にバレない様に如何にチャンネルを開設し直すかだな。金剛寺さん自身は思うところがあるだろうけど、親の了承より真昼野ステラ復活の方が優先だ。あんまり長い事リスナーを放置するわけにはいかんからな」
⦅…………⦆
「せっかくだからアバターも刷新しよう。ぶっちゃけ今のアバターはいただけない。どうせならオリ曲も欲しいよな。真昼野ステラの歌唱力なら歌ってみた動画もいいかもな。そうなると音源が問題だけど無料のやつもあるから最初の方はそれで何とかつないで、ゆくゆくは専用音源を作って……」

 まさに水を得た魚。
 サングラスの奥の瞳をキラキラと輝かせながら、今後の展望を早口で捲し立てる薄井しつぎょうしゃ
 気圧されて言葉を失う要。
 ポカンと口を開いて呆れた表情を浮かべる要を無視して薄井が言葉を紡ぐ。

「そうなると最初にやるべき事は資金調達、それから絵師と作曲家探しだな。作曲の方は心当たりがあるんだけど、絵師の方がなぁ……貯金はどのくらいあったっけなぁ~?」
⦅ちょっと!!ストップ!!スト~~~ップ!!!⦆

 ここでようやく我に返った要が声を上げた。
 少女ステラの焦り声に薄井はようやく自身の暴走に気付く。

「あぁ、すまん。ちょっと興奮してたみたいだ。それよりどうだろう?金剛寺さんからみて今俺が言った事に抜けは無かったか?」
⦅…………⦆

 失業という一大事を無視してぬけぬけと意見を求める薄井の能天気さ。
 要の表情がみるみる怒りに染まる。

⦅あなた!失業者なんですよね!?なんでそんなにのほほんとしていられるんですか!?就職活動はいいんですか!!⦆

 顔を真っ赤にしながらバンッ!と机を叩く要。
 コトンという音と共に倒れるコップ。

 零れた麦茶を眺めながら、薄井は震えあがった。
 要の機嫌を損ねたのかという不安と恐怖に駆られた。

「えっと?金剛寺さん?何をそんなに……」
⦅怒るに決まってるじゃないですか!!あなたは馬鹿ですか!?わたしなんかに構っていていい状況じゃないでしょうが!!⦆

 薄井は要の怒りの原因が至極真っ当な一般論と知り……

「……あぁ、そんな事か」

 ……ため息を吐いた。
 薄井にとっては些末な事だった。
 頭を掻きながら面倒くさそうに言葉を探す薄井。

 その態度に苛立ちを覚えたのか。
 要は憤りをぶつけるように声を上げた。

⦅そんな事って何ですが!!わたしはあなたを心配して!!⦆
「金剛寺さん。収益化って言葉知ってる?」
⦅えっ?⦆

 薄井は要が零した麦茶を片付けながら、もう一度ため息を吐いた。
 薄井はこの説明をするのが面倒くさかった。
 金銭が絡む生臭い話をわざわざ口に出すのは、彼の好むところではなかった。
 収益化……簡単に言えば、SNSや動画サイトで人気を取って視聴者をたくさん集め、広告料や投げ銭を稼ぐこと。

 この時、薄井は要と自分の考えに大きな隔たりがあるのを感じた。
 要は真昼野ステラでいたいと言った。
 それはすなわち真昼野ステラとして自立するという意味だと薄井は勝手に解釈していた。

 薄井は真昼野ステラは十分に収益を上げられるコンテンツだと考えていた。
 だが当の要は真昼野ステラで稼ぐという考えを持っていないようだ。

 この辺の認識のズレと薄井の説明不足が要を怒らせた原因だったのかもしれない。
 自分のコミュ障が原因で推しを怒らせた事を深く反省しつつ、懇切丁寧に要に収益化について説明した。

 ……
 …………

 ……薄井の説明に納得した表情を浮かべる要。
 薄井は心の中でほくそ笑んだ。
 要が状況を飲み込んでくれた事で、自分のに一歩近づけたと思ったから……
 だが……薄井の予想に反して、要は不安げな表情を浮かべていた。

⦅あの~……薄井さんは随分わたしの事を買い被っているみたいですけど、わたしが出来なかったら?⦆
「その時は心中するだけだよ」
⦅ハッ!?⦆

 要は愕然とした表情を浮かべた。
 心中は少し言い過ぎだったかな……
 と思いつつ、薄井は自分の想いを語り始めた。
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