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第二章_小悪魔シンガーと母子の絆
プロローグ_優しい子守歌
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『ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪』
ワタシの記憶はいつもここから始まる。
綺麗な声、柔らかい歌声、優しい歌。
なんの曲かは分からない。
でもこの歌を聴いているととても安心する。
あれは小学校の高学年くらいの頃だったかな。
当時のワタシは近所の悪ガキ共にイジメられていた。
なんで意地悪するのかと問い詰めた事があった。
悪ガキの一人が『お前んちが貧乏だから』と答えた。
ワタシは悪ガキに背を向け、泣きながら家に走った。
とても悔しかった。
とても腹が立った。
だって……
『どうしたの!×××ちゃん!』
泣いたワタシを見て、ママがあわててとび起きた。
朝はパート、夜は飲み屋で働くママにとって、今は大切な眠る時間。
うるさくしちゃいけない事くらいは子供ながらに分かっていた。
でもその日はがまん出来なかった。
『どうして泣いてるの?何か悲しい事があったの?』
ママはいつも優しかった。
今もこうしてワタシの頭をなでてくれる。
痩せて少し筋張ったママの手はとても温かかった。
『うん。さっき男の子達にひどい事言われた』
『どんな事?』
『男の子達がいじわるしてきたの。なんでそんな事するの?ってきいたの』
『うんうん、それで?』
ママの顔はおだやかだった。
『ウチが貧乏だからって言われたの』
『そう……ごめんね』
ママの表情が暗くなった。
『ウチは貧乏じゃないって言い返したかった。ママが一生けんめいはたらいてくれるから、ご飯も食べられるし、学校でおべんきょうも出来る』
ママのひとみがぬれていた。
『でも言い返せなかった……本当はひっぱたいてやりたかった……でも出来なかった』
『そう……よく我慢したね、×××ちゃん。偉かったね』
『えらくなんかない!!』
『ううん、×××ちゃんはとっても偉かったわ。だってママとの約束をちゃんと守ってくれたんだから』
いっぱい泣いた。
涙で目の前がぐちゃぐちゃになった。
ワタシがママにした約束……
どんなに辛くても、どんなに怒っても、人を傷つけちゃダメ。
他人を傷付ける人は自分も平気で傷つけるから。
『とっても頑張った×××ちゃんには、何かご褒美をあげないとね。何がいい?』
『おうた……うたって』
『あら?そんなのでいいの?』
『うん……うたって』
『はいはい……お望みのままに。私のカワイイお姫様』
ワタシはママのおひざの上で目を瞑った。
『ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪』
歌詞の無い歌。
単調なメロディー。
暖かくて、優しくて、心地よくて、嬉しくて、泣きそうで……
ワタシはその歌に抱かれて…………
ジリリリリリリ~~~~~!!!!
「うんっ?夢……」
目覚まし時計のけたたましい音。
時計の針は五時を指し示していた。
「ご飯……作らないと…………」
のそのそと布団から這い出る少女。
良い夢を見ていたと思ったのに……
無粋な目覚まし時計に毒づいていたのも束の間。
「ただいま~、×××ちゃん」
「お帰り、ママ。今ご飯作るからね」
「あらあら、いつもありがとうね」
少女は花開くような満面の笑みで母を迎えた。
その頭にはあの日よりも少し痩せた母の手のひらが乗っかっていた。
ワタシの記憶はいつもここから始まる。
綺麗な声、柔らかい歌声、優しい歌。
なんの曲かは分からない。
でもこの歌を聴いているととても安心する。
あれは小学校の高学年くらいの頃だったかな。
当時のワタシは近所の悪ガキ共にイジメられていた。
なんで意地悪するのかと問い詰めた事があった。
悪ガキの一人が『お前んちが貧乏だから』と答えた。
ワタシは悪ガキに背を向け、泣きながら家に走った。
とても悔しかった。
とても腹が立った。
だって……
『どうしたの!×××ちゃん!』
泣いたワタシを見て、ママがあわててとび起きた。
朝はパート、夜は飲み屋で働くママにとって、今は大切な眠る時間。
うるさくしちゃいけない事くらいは子供ながらに分かっていた。
でもその日はがまん出来なかった。
『どうして泣いてるの?何か悲しい事があったの?』
ママはいつも優しかった。
今もこうしてワタシの頭をなでてくれる。
痩せて少し筋張ったママの手はとても温かかった。
『うん。さっき男の子達にひどい事言われた』
『どんな事?』
『男の子達がいじわるしてきたの。なんでそんな事するの?ってきいたの』
『うんうん、それで?』
ママの顔はおだやかだった。
『ウチが貧乏だからって言われたの』
『そう……ごめんね』
ママの表情が暗くなった。
『ウチは貧乏じゃないって言い返したかった。ママが一生けんめいはたらいてくれるから、ご飯も食べられるし、学校でおべんきょうも出来る』
ママのひとみがぬれていた。
『でも言い返せなかった……本当はひっぱたいてやりたかった……でも出来なかった』
『そう……よく我慢したね、×××ちゃん。偉かったね』
『えらくなんかない!!』
『ううん、×××ちゃんはとっても偉かったわ。だってママとの約束をちゃんと守ってくれたんだから』
いっぱい泣いた。
涙で目の前がぐちゃぐちゃになった。
ワタシがママにした約束……
どんなに辛くても、どんなに怒っても、人を傷つけちゃダメ。
他人を傷付ける人は自分も平気で傷つけるから。
『とっても頑張った×××ちゃんには、何かご褒美をあげないとね。何がいい?』
『おうた……うたって』
『あら?そんなのでいいの?』
『うん……うたって』
『はいはい……お望みのままに。私のカワイイお姫様』
ワタシはママのおひざの上で目を瞑った。
『ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪』
歌詞の無い歌。
単調なメロディー。
暖かくて、優しくて、心地よくて、嬉しくて、泣きそうで……
ワタシはその歌に抱かれて…………
ジリリリリリリ~~~~~!!!!
「うんっ?夢……」
目覚まし時計のけたたましい音。
時計の針は五時を指し示していた。
「ご飯……作らないと…………」
のそのそと布団から這い出る少女。
良い夢を見ていたと思ったのに……
無粋な目覚まし時計に毒づいていたのも束の間。
「ただいま~、×××ちゃん」
「お帰り、ママ。今ご飯作るからね」
「あらあら、いつもありがとうね」
少女は花開くような満面の笑みで母を迎えた。
その頭にはあの日よりも少し痩せた母の手のひらが乗っかっていた。
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