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第二章_小悪魔シンガーと母子の絆
閑話一:武藤英二の嫉妬その一
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⦅ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪⦆
学校の屋上へと続く扉の前で武藤英二は座り込んでいた。
扉の先からは先ほど自分がいじめた少女の歌声……
彼は少女が落ち込んだ時に必ずここに来るのを知っていた。
(はぁ~……俺、なんであんな事しか言えないんだろうな?)
そしてここで謡う事も知っていた。
(ちくしょう!イライラする!)
武藤は国会議員の次男坊だ。
彼には年の離れた兄がいる。
兄はとても優秀で一流大学に入り主席で卒業し、今は政治家秘書。
将来は父の地盤を引き継いで政治家になる予定。
それに引き換え自分は特に優秀というほどでもなく、一族的には落ちこぼれ。
父も母も兄にべったりで自分の事なんて眼中にない。
そう……武藤は家族からいない者として扱われていた。
一見かわいそうに思えるかもしれないが実はそうでもない。
親が無関心だから彼の事は完全に放置。
逆を言えば親の金や権力を使って好き勝手しても文句を言われない。
家では肩身が狭いが外ではやりたい放題。
彼にとって友達とは自分の甘やかしてくれる人間の事。
彼にとって友人とは自分の惨めさから目を逸らしてくれる人間の事。
彼にとって親友とは自分の全てを肯定してくれる人間の事だった。
そんな自尊心ばかり膨れ上がった負け犬のような幼少期。
そんなある日、武藤は花代と出会った。
花代は地味だった。
花代は不美人だった。
花代は貧乏だった。
花代はみすぼらしかった。
なのにいつも笑顔だった。
その笑顔が堪らなく腹が立った。
何にも持っていない癖に自分が欲しい幸せを持っている……許せなかった。
だから意地悪をした。
悪口を言った。
最初は怒ったがその内相手にされなくなった。
次に手を出した。
頭を叩いた。
髪を引っ張った。
嫌がり抵抗された。
それが妙に嬉しかった。
だからもっと酷い事をしてやろうと思った。
でも流石に周りの大人が止めに入ったのでやめざるを得なくなった。
それから武藤は何をすれば花代が一番嫌がるのかを考えるようになった。
物理的な暴力は使えない。
言葉の暴力は無視される。
ではどうすれば……色々試した結果、以外にも貧乏いじりが効果的だと分かった。
なんだかんだ言って花代も貧乏を気にする俗物なんだと思い、少しだけ溜飲が下がった。
しばらく貧乏いじりを続けていると、ある事に気付いた。
花代は落ち込むと決まって一人になる。
気になって追いかけてみた。
すると決まって聞こえてきたのが……
⦅ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪⦆
今も扉の向こうから聞こえてくる美しい歌声。
聞いた事の無い歌だった。
多分、母親か誰かに謡ってもらった子守歌だろう。
武藤は泣きたくなった。
悔しかった。
こんな美しい歌を謡える花代に嫉妬した。
こんな綺麗な歌を謡ってもらえる花代を嫉妬した。
自分をこんなにも惨めにする花代に嫉妬した。
(クソ!もやもやする!なんなんだよ、ちくしょう!!)
武藤は言語化出来ない想いを抱え、扉の前で頭を掻きむしる事しか出来なかった。
……尚、余談だが花代が謡っている最中に誰も来ないのは、武藤が扉の前を陣取っているせいであった。
学校の屋上へと続く扉の前で武藤英二は座り込んでいた。
扉の先からは先ほど自分がいじめた少女の歌声……
彼は少女が落ち込んだ時に必ずここに来るのを知っていた。
(はぁ~……俺、なんであんな事しか言えないんだろうな?)
そしてここで謡う事も知っていた。
(ちくしょう!イライラする!)
武藤は国会議員の次男坊だ。
彼には年の離れた兄がいる。
兄はとても優秀で一流大学に入り主席で卒業し、今は政治家秘書。
将来は父の地盤を引き継いで政治家になる予定。
それに引き換え自分は特に優秀というほどでもなく、一族的には落ちこぼれ。
父も母も兄にべったりで自分の事なんて眼中にない。
そう……武藤は家族からいない者として扱われていた。
一見かわいそうに思えるかもしれないが実はそうでもない。
親が無関心だから彼の事は完全に放置。
逆を言えば親の金や権力を使って好き勝手しても文句を言われない。
家では肩身が狭いが外ではやりたい放題。
彼にとって友達とは自分の甘やかしてくれる人間の事。
彼にとって友人とは自分の惨めさから目を逸らしてくれる人間の事。
彼にとって親友とは自分の全てを肯定してくれる人間の事だった。
そんな自尊心ばかり膨れ上がった負け犬のような幼少期。
そんなある日、武藤は花代と出会った。
花代は地味だった。
花代は不美人だった。
花代は貧乏だった。
花代はみすぼらしかった。
なのにいつも笑顔だった。
その笑顔が堪らなく腹が立った。
何にも持っていない癖に自分が欲しい幸せを持っている……許せなかった。
だから意地悪をした。
悪口を言った。
最初は怒ったがその内相手にされなくなった。
次に手を出した。
頭を叩いた。
髪を引っ張った。
嫌がり抵抗された。
それが妙に嬉しかった。
だからもっと酷い事をしてやろうと思った。
でも流石に周りの大人が止めに入ったのでやめざるを得なくなった。
それから武藤は何をすれば花代が一番嫌がるのかを考えるようになった。
物理的な暴力は使えない。
言葉の暴力は無視される。
ではどうすれば……色々試した結果、以外にも貧乏いじりが効果的だと分かった。
なんだかんだ言って花代も貧乏を気にする俗物なんだと思い、少しだけ溜飲が下がった。
しばらく貧乏いじりを続けていると、ある事に気付いた。
花代は落ち込むと決まって一人になる。
気になって追いかけてみた。
すると決まって聞こえてきたのが……
⦅ら~らららら~♪ら~~らら~~~♪⦆
今も扉の向こうから聞こえてくる美しい歌声。
聞いた事の無い歌だった。
多分、母親か誰かに謡ってもらった子守歌だろう。
武藤は泣きたくなった。
悔しかった。
こんな美しい歌を謡える花代に嫉妬した。
こんな綺麗な歌を謡ってもらえる花代を嫉妬した。
自分をこんなにも惨めにする花代に嫉妬した。
(クソ!もやもやする!なんなんだよ、ちくしょう!!)
武藤は言語化出来ない想いを抱え、扉の前で頭を掻きむしる事しか出来なかった。
……尚、余談だが花代が謡っている最中に誰も来ないのは、武藤が扉の前を陣取っているせいであった。
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