VSingerS【バーチャルシンガーズ】~俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

黄昏湖畔

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第二章_小悪魔シンガーと母子の絆

第四十話_クリスマスコラボライブ~開演前~

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 十九時。
 ところはスターヌーンスタジオ。
 ライブ開始まであと二時間。
 山田花代は強烈な緊張に襲われていた。
 空気がひりつく。
 喉が渇く。
 呼吸が早くなる。

⦅花代さん、大丈夫ですか?⦆

 部屋に並ぶパソコン機材。
 二本のマイクスタンド。
 隣には身長190㎝超えの大男。
 ガチガチの花代に心配そうな顔をした大男かなめ少女ステラの声で語り掛けた。

「ダ……ダイジョブです。いつもどおり……ですよね」
⦅……ちっとも大丈夫に見えませんけど⦆

 震える肩。
 汗でヌルヌルの手のひら。
 カチカチと噛み合わない奥歯。
 跳ね上がる鼓動。
 今日は母も見ている。
 不甲斐ない所は見せられない。

『花代ちゃん。ママは居間でライブ見てるから。いつものカワイイローザちゃん、期待してるからね』

 母の期待が重い。
 失敗するのが怖い。

「……田!」

 耳鳴りがする。
 鼻がツーンとする。
 耳元が妙にうるさい。

「おい!山田花代!!聞いてるのか!!」
「ひぃ!!」

 不意に自分のお腹辺りの位置からがなり声。
 素っ頓狂な悲鳴を上げる花代。
 慌てて声の発生源に目を向ける。
 そこには不機嫌そうにこちらを睨みつける車椅子の男。

「お前が今、この場で無様にビビり散らかすのは勝手だが、本番にまで引きずるんじゃないぞ」
⦅桜井さん!言い方!⦆
「……ちっ!」

 要にたしなめられ、不機嫌そうに舌打ちを打つ桜井。
 そんな不器用陰キャの様子に要がため息を吐く。

「ところで薄井はどうした?こんな時にしゃしゃり出るのがアイツの仕事だろう」
⦅あの人なら居間で”夢川キララ”の配信を見てますよ。なんでも新曲のプレミアム公開だとか⦆
「あの馬鹿!今日は大事なライブだってのに!」
十分じゅっぷんくらいだからリアタイさせて、って言ってましたね。あの浮気者……⦆
「…………」

 笑顔の要から放たれる悍ましくドス黒い嫉妬のオーラ。
 ステラにとって薄井は恩人であり、特別な星学者だ。
 ステラのライブそっちのけで余所のVシンガーおんなうつつを抜かしていることに嫉妬に似た感情を抱いているのだろう。

 要だって大人だ。
 個人の趣味に干渉すべきではないという事は分かっているはず。
 少なくとも頭では……
 だが時として感情は理性と関係なく暴走するモノ。

 凍り付く部屋の空気。
 絶句する桜井。
 目を丸くし息を呑む花代。
 二人は背中につららを突っ込まれたような激しい悪寒に苛まれていた。

⦅花代さん……いえ!ローザちゃん!絶対に最高のライブにしますよ!⦆

 勢い込んで花代……ローザに詰め寄る要。
 詰め寄られた花代はと言えば……

⦅……当たり前よ!ステラ!あんたこそワタシの足を引っ張るんじゃないわよ!⦆

 前のめりな勢いに気圧されて花代の部分が引っ込んだか?
 はたまたローザと呼ばれた事でスイッチが入ったのか?
 先ほどまでビビり倒していた少女から一変。
 尊大な悪魔の少女が顔を表す。

 憑依型……彼女は今、山田花代ではなく、ローザ=フィオーレ=フォン=フェルトベルクになっていた。
 部屋に立ち込めていた冷たい空気が打ち消される。
 ローザの不敵な笑みにつられて、笑みを浮かべるステラ

「お待たせ~。もうすぐ本番だけど、最後の合わせやっとこうか」

 せっかくの良い雰囲気に水を差す腑抜けた声。
 薄井やくたたずの帰還だ。

⦅あんた…………今まで何をしてたの?⦆
「えっ!?花代さん……じゃなくてローザ様?」
⦅あんた……これから大事な戦場ライブだというのに何をしていたの!?⦆
「えっと……それは……」

 薄井をキッと睨みつける花代ことローザ。
 ローザはこれで結構怒っていた。

 自分が緊張している中、呑気に余所のVシンガーの配信を鑑賞する無神経なマネージャーに……
 詰め寄られてタジタジになる薄井。

「あの……ここを出る前に説明したよね……なぁ、要君?なんでローザ様、こんなに怒ってるわけ?」
⦅ふん!知りませんよ!この浮気者!!⦆
「エッ!?ステラたん?何?どゆこと?」

 そして前述の通り、ステラの怒りの矛先もまた薄井に向いていた。
 助けを求めるように視線を桜井に向ける薄井。

「自業自得だ。クソオタク」

 桜井の態度も二人と同様に冷たい。
 謂れなきヘイトを一手に引き受け戸惑う薄井。
 先ほどまで張り詰めていた部屋の空気が弛緩する。

⦅ローザちゃん、少しは緊張が解けましたか?⦆
⦅ふん!ワタシは最初から緊張なんかしてないわよ!⦆
⦅ふふっ、そうでしたね⦆

 そっぽを向き、顔を真っ赤にしながら強がるローザ。
 その子供っぽい仕草にステラの頬が緩む。

⦅では最後のリハ始めちゃいましょうか。マネージャーさん、早く配置について下さい⦆
「……あぁ」

 ステラの勢いに圧倒されながら、おとなしく席に着く薄井。
 少し棘がある少女の声に首を傾げつつ、パソコンを操作するのであった。
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