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第二章_小悪魔シンガーと母子の絆
第四十四話_クリスマスコラボライブ~中章・山田幸子の熱狂~
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桜井透は心底辟易していた。
「キャー!花代ちゃん!最高!!」
目の前には狂喜乱舞する山田幸子の姿。
画面の前で活き活きと謡う娘に……
そして先輩でもあるステラと楽しいトークを繰り広げる娘に……
年甲斐もなくスマホ片手にはしゃぐおばさん。
まぁ、それは良い……だが……
「幸子さん……ゴーホーム」
「えっ!?そんな!冷たい!!」
幸子がいるのは何故か桜井の私室。
自分の領域を侵される事を最も嫌う桜井にとっては地獄の光景だ。
「うるさい。僕は仕事中なんです。騒ぐなら出て行って下さい」
怒鳴りたくなる気持ちを抑えて何とか取り繕った敬語で苛立ちを表明する桜井……
我ながらよく耐えた方だと思う。
桜井はこれでかなり忙しい。
スターヌーンプロのVシンガー二人の専属をやる傍ら、自身のオリジナルボカロ曲も作っているし、数は少ないが外からの依頼も受けている。
今だって二人のコラボ配信をROM専(コメントは打たない聞く専門)する傍ら、新曲の作詞・作曲に勤しんでいる最中。
だが幸子はどこ吹く風。
「桜井さん……せっかくの花代ちゃんの晴れ舞台なんですから仕事なんて後にしましょうよ」
「あんたの娘の曲を作っているんですよ」
「あっ!そうでしたか?お仕事頑張って下さい」
「分かったなら出ていけ!!」
とうとう我慢できずにキレ散らかす桜井。
薄井といい、金剛寺といい、このおばさんといい、最近自分の周りには図々しいヤツらが増えた。
溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すが如く桜井は吠えた。
「もう!そんなに怒らなくても……そんなに大きな声出したら、スタジオにまで届いちゃいますよ」
「届くか!あそこは防音仕様だ!第一誰のせいで大声出していると思っているんだ!!」
舌を出しながら茶目っ気混じりに応じる幸子。
そのおちゃらけた仕草が桜井の神経を逆なでするとも知らずに……
哀れなボカロPは取り繕った敬語すらかなぐり捨てて叫んだ。
「まあまあ、桜井さん。少し息抜きしましょうよ。根詰め過ぎたらいいモノも作れませんよ」
「余計なお世話だ」
「それに自分が作った楽曲を確認するのは、音楽家の大切なお仕事でしょう?」
「うぅ!!」
ぐうの音も出なかった。
年の功と言うべきだろうか?
桜井はふざけた調子で正論をぶっこんでくる幸子がどうにも苦手だった。
確かに音楽家としては尊敬している。
彼女の歌声は唯一無二だ。
高音から低音までの音域は広く、少しハスキーめの落ち着いた声。
曲のイメージを伝えれば、的確に答えてくれる理解力の高さ。
業界に染まっていない分、クリエイター特有の世間とのズレも少なく、
素人や未経験の相手にも的確に意思の共有ができるコミュニケーション能力。
コミュ障桜井にとってこれほどのサポーターは中々にいない。
雇う前は少し不安もあったが、いざ一緒に仕事をしてみれば申し分ない逸材。
だが……それを差し引いても人の内側にズケズケと踏み込んでくる性格はどうにかして欲しい。
性格面だけで言えば、おとなしくて距離感を弁えている花代の方がまだ……
桜井は自身の思考が横道に逸れていることに気付き頭を振った。
ため息が一つ、諦観の念と共に桜井が言葉を零す。
「あなたの言い分は分かりました。今はひとまずライブに集中しましょう」
「はい、結構です」
戦術的撤退……
桜井は大人になって折れた。
自分がどんなに頑張っても幸子には勝てない事を知っていた。
桜井は満面の笑みを浮かべる幸子を一瞥しながら、
丸くなった自分に対して苦笑いを浮かべた……
「最高!流石私の娘!今の高音!素敵すぎ!!」
……そして隣に能天気に娘を称賛する親バカに対しても苦笑いを浮かべた。
「幸子さん……ゴーホーム」
「なんで!?」
「うるさい」
当社比1.5倍で淡泊かつ辛辣になった桜井の態度に流石の幸子も焦ったようだ。
奇声を上げるのは辞め、おとなしく配信画面に集中しつつ、高速でコメントを打ち込むのであった。
「キャー!花代ちゃん!最高!!」
目の前には狂喜乱舞する山田幸子の姿。
画面の前で活き活きと謡う娘に……
そして先輩でもあるステラと楽しいトークを繰り広げる娘に……
年甲斐もなくスマホ片手にはしゃぐおばさん。
まぁ、それは良い……だが……
「幸子さん……ゴーホーム」
「えっ!?そんな!冷たい!!」
幸子がいるのは何故か桜井の私室。
自分の領域を侵される事を最も嫌う桜井にとっては地獄の光景だ。
「うるさい。僕は仕事中なんです。騒ぐなら出て行って下さい」
怒鳴りたくなる気持ちを抑えて何とか取り繕った敬語で苛立ちを表明する桜井……
我ながらよく耐えた方だと思う。
桜井はこれでかなり忙しい。
スターヌーンプロのVシンガー二人の専属をやる傍ら、自身のオリジナルボカロ曲も作っているし、数は少ないが外からの依頼も受けている。
今だって二人のコラボ配信をROM専(コメントは打たない聞く専門)する傍ら、新曲の作詞・作曲に勤しんでいる最中。
だが幸子はどこ吹く風。
「桜井さん……せっかくの花代ちゃんの晴れ舞台なんですから仕事なんて後にしましょうよ」
「あんたの娘の曲を作っているんですよ」
「あっ!そうでしたか?お仕事頑張って下さい」
「分かったなら出ていけ!!」
とうとう我慢できずにキレ散らかす桜井。
薄井といい、金剛寺といい、このおばさんといい、最近自分の周りには図々しいヤツらが増えた。
溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すが如く桜井は吠えた。
「もう!そんなに怒らなくても……そんなに大きな声出したら、スタジオにまで届いちゃいますよ」
「届くか!あそこは防音仕様だ!第一誰のせいで大声出していると思っているんだ!!」
舌を出しながら茶目っ気混じりに応じる幸子。
そのおちゃらけた仕草が桜井の神経を逆なでするとも知らずに……
哀れなボカロPは取り繕った敬語すらかなぐり捨てて叫んだ。
「まあまあ、桜井さん。少し息抜きしましょうよ。根詰め過ぎたらいいモノも作れませんよ」
「余計なお世話だ」
「それに自分が作った楽曲を確認するのは、音楽家の大切なお仕事でしょう?」
「うぅ!!」
ぐうの音も出なかった。
年の功と言うべきだろうか?
桜井はふざけた調子で正論をぶっこんでくる幸子がどうにも苦手だった。
確かに音楽家としては尊敬している。
彼女の歌声は唯一無二だ。
高音から低音までの音域は広く、少しハスキーめの落ち着いた声。
曲のイメージを伝えれば、的確に答えてくれる理解力の高さ。
業界に染まっていない分、クリエイター特有の世間とのズレも少なく、
素人や未経験の相手にも的確に意思の共有ができるコミュニケーション能力。
コミュ障桜井にとってこれほどのサポーターは中々にいない。
雇う前は少し不安もあったが、いざ一緒に仕事をしてみれば申し分ない逸材。
だが……それを差し引いても人の内側にズケズケと踏み込んでくる性格はどうにかして欲しい。
性格面だけで言えば、おとなしくて距離感を弁えている花代の方がまだ……
桜井は自身の思考が横道に逸れていることに気付き頭を振った。
ため息が一つ、諦観の念と共に桜井が言葉を零す。
「あなたの言い分は分かりました。今はひとまずライブに集中しましょう」
「はい、結構です」
戦術的撤退……
桜井は大人になって折れた。
自分がどんなに頑張っても幸子には勝てない事を知っていた。
桜井は満面の笑みを浮かべる幸子を一瞥しながら、
丸くなった自分に対して苦笑いを浮かべた……
「最高!流石私の娘!今の高音!素敵すぎ!!」
……そして隣に能天気に娘を称賛する親バカに対しても苦笑いを浮かべた。
「幸子さん……ゴーホーム」
「なんで!?」
「うるさい」
当社比1.5倍で淡泊かつ辛辣になった桜井の態度に流石の幸子も焦ったようだ。
奇声を上げるのは辞め、おとなしく配信画面に集中しつつ、高速でコメントを打ち込むのであった。
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