VSingerS【バーチャルシンガーズ】～俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

第三章_太陽に嫌われたVチューバーと枯れかけの白百合

プロローグ_籠の中の少女は今日も笑う

　少女は……Vチューバーだった。

　締め切られたカーテン。
　薄暗い人工の光。
　パソコンデスクとゲーム機とベッドとクローゼット。
　狭い子供部屋だけが彼女の世界だった。

　ゲーム機が繋がれたＰＣ。
　ヘッドホンとマイクセット。
　両手には少し大きめなゲームコントローラー。
　顔を照らすブルーライト。
　ディスプレイの中にはゲーム映像と可愛らしい女の子の姿。

　少女は語り掛ける……ひとりぼっちの部屋で。
　少女は語り掛ける……ＰＣに向かって。
　少女は語り掛ける……世界に向けて。

｟リスナーの皆は～ん、こんにちは～～。今日の配信は伝説のクソ……神ゲー！ゴロンボの謎をやっていくで～～｠

[うわぁああああ！！マジかよ！！][あの伝説のク〇ゲー！！][俺のお年玉をゴミに変えたトラウマゲーｗｗ][どうやって手に入れたん？][これ３０年前のソフトだよなｗｗｗ][馬鹿なの？〇ぬの？]……

｟えぇ反応や。ちなみに入手先はオトンのコレクションな。まぁ、オトンが言うには慣れれば二時間でクリアできるらしいし、ウチ、完全初見やけど五時間くらいでイケるやろ｠

[あっ！ご愁傷様][お父さん絶対わざとだろｗｗ][悪魔だ！悪魔がおる！][親父さん鬼畜ｗｗ]……

｟エッ！そんなにヤバイん？このゲーム……まぁ、ウチかてゲーム歴生まれてからやし平気やろ……あぁ！！なんや！なんで今死んだん！？被弾した？いつ？ドット一個分？アホやろ？誰や！こんなふざけたゲーム作ったんは～～～～！！｠

[ｗｗｗ][最初の洗礼ｗキタァアアアアアｗ][草草草][期待通りｗｗ][愉悦愉悦]……

｟うがぁあああああああ！！！また死んだぁああああああ！！おのれダガラ（ゲームメーカー）～～～～！！絶対クリアしたるぅわぁああああああああああああ！！！｠

[あの頃の俺らやｗｗｗ][耐久配信開始ｗｗ][一体何時間掛かるやらｗｗ][悲鳴が心地良いｗｗ][なんやかんやで第一関門突破ｗｗ][成長速度パネェ！！]……

　室内を満たす絶叫。
　阿鼻叫喚の地獄絵図と化すコメント欄。
　少女はのたうち回りながら、草塗れになったコメントに見守られ、およそ八時間。
　八十三回目のゲームオーバーを迎えたのちに何とか笑顔でゲームクリアした……

　常人なら数十回死亡したのちにゲームを投げるか、
　クリアするにしても三桁以上の死をゾンビのような表情で乗り越えるかのどちらかというのに……

　少女は……楽しむことに貪欲だった。


　ピピピピッ！ピピピピッ！…………

　薄暗い寝室。
　けたたましいスマホの呼び出し音。
　時刻は……正午。

「あぁ……もしもし。社長？どうしたん？こんな時間に？まだ早朝やん？」
『笑美えみ……やっぱり寝てたか。今日は朝活と言う名の昼活だろ？あと一時間だぞ』
「えっ！ウソ！ホンマや！なんでもっと早よ起こしてくれへんの？」
『起こしたとも、履歴見てみなよ？』
「ホンマや……ゴメン……早よ準備せな……」

　慌ただしくパソコンをいじり始める女性。
　誰もいない部屋の中で、賑やかに、忙しなく、そして満面の笑みでキーボードを叩きまくる。

　日の光が届かない薄暗い部屋から、木漏れ日のような笑顔を届ける為に……