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第三章_太陽に嫌われたVチューバーと枯れかけの白百合
第十一話_三日月の懸念
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「社長、枢木姫百合とはどういう方なんですか?」
三日月がそう問いかけたのは、笑美との対談を終えた薄井との雑談中だった。
時刻は十六時過ぎ。
この日は定期配信も無かった為、二人でゆっくり話す事ができた。
昼間の話を要約すると、
夢川キララと同じ事務所所属の枢木姫百合を立ち直らせるきっかけ作りとして、
スターヌーンの二人とコラボしたいというモノだ。
薄井は今後のスターヌーンの立ち回りを決める上で、三日月に意見を聞きたかった。
しかし肝心の枢木姫百合を彼女は知らない模様。
薄井は深呼吸を一つ。
首を傾げる三日月に薄井は言葉を探りながら語り掛ける。
「そうだなぁ……一言で表すならキラキラしたカワイイ系アイドルシンガーかな」
薄井は自身が持っている情報を頭の中で整理しながら言葉を探した。
「枢木姫百合……元々は個人勢Vシンガーだったんだが、去年の五月、仮想恋歌のオーディションに合格しデビュー。可愛らしい妹系の歌声と明るく朗らかなキャラクター。歌にひたむきな姿勢でファン層を少しずつ増やしていき、現在Wチューブ登録者数は2.92万人。もう一息で3万ってところなんだが……」
薄井は思わず言葉を濁した。
「良いシンガーだったんだ。本当に……」
「だった……ですか?」
「あぁ……」
薄井は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
こんなふうにVを紹介するのが辛い。
その心境が三日月にも伝わったのだろう。
疑問と心配が入り混じる声で薄井に問いかけた。
「歌系Vチューバーに限らずありがちな話なんだけど、何かを専門にやっているVチューバーって一部の例外を除いて、トークが上手くてマルチに活動しているVチューバーに比べると伸びにくいんだ」
「……なるほど」
三日月の口元が僅かに引きつる。
どうやら薄井が言いたかった事の全てを察してくれたようだ。
枢木姫百合は元々歌メインのVシンガーだった。
本来の得意分野は歌……にも関わらず色々手を出して、結果自滅した。
だから夢川キララはステラとローザに頼った。
歌一本で硬派に活動して、着々と人気を獲得している彼女?と彼女ならきっかけ作りには打ってつけだと思ったのだろう。
「夢川キララ……喜村笑美さんは何か特別な要求をしていませんでしたか?」
「特別な要求?」
三日月の問いに薄井が首を傾げた。
質問の意図が上手く読み取れなった。
「例えば、要ちゃんと花代ちゃんを枢木姫百合……河野真琴と会わせたい……とか」
「あっ!」
薄井はハッとした。
ステラ……要の外見は男。
いくら中身が乙女とはいえ、世間様はそんな事に配慮してはくれない。
要が笑美と会ったのは、笑美側の強い要望があったのに加え、お互いが守秘義務を絶対に護ると固く誓約したからに他ならない。
何より笑美は光線過敏症という最大のアキレス腱を晒した。
お互いに弱みを握る事で百パーセントの安心が担保された。
だが、枢木姫百合……河野真琴からだと事情は変わってくる。
真琴は現在人気獲得の為に躍起になっている。
もし、要の正体を知られた場合、人気獲得の為に真昼野ステラを過度に利用……
あるいはライバル排除の為に正体を暴露なんて事も在り得ない話ではない。
勿論これは、夢川キララのメンツを潰す行為なので普通はやらない。
だが現状、真琴は非常に追い詰められている。
追い詰められた人間は何処までも愚かになるのが世の常だ。
真琴がそうでないとは信じたいが、百パーセント信じるだけの根拠を薄井は持ち合わせていなかった。
「ひとまず、今回はオンラインコラボの形をとっているから問題ないとは思うが……」
「一応、要ちゃんに釘を刺しておいて頂けますか。あの子、情に絆されやすいですから」
「あぁ、分かった。ありがとう」
「いえいえ」
薄井は薄っすらと微笑みながら礼を言う。
この後輩は自分が見落としてしまいそうな人の機微に気づいてくれる。
薄井は三日月が自分を補佐してくれている事に心から感謝した。
薄井の言葉に僅かに微笑む三日月。
薄井は気を引き締める為に、軽く自分の両頬を叩きながら言葉を零す。
「まぁ、結局やる事は変わらないし……俺達は歌姫達が最高のコンディションで謡える様にバックアップするだけさ」
「それもそうですね」
弱々しい笑みを浮かべる薄井に応えるように、三日月も小さく微笑んだ。
そう……いつも通り。
自分の仕事は推しを信じて、彼女達をそっと支える事。
この頼もしい後輩と一緒に……
三日月がそう問いかけたのは、笑美との対談を終えた薄井との雑談中だった。
時刻は十六時過ぎ。
この日は定期配信も無かった為、二人でゆっくり話す事ができた。
昼間の話を要約すると、
夢川キララと同じ事務所所属の枢木姫百合を立ち直らせるきっかけ作りとして、
スターヌーンの二人とコラボしたいというモノだ。
薄井は今後のスターヌーンの立ち回りを決める上で、三日月に意見を聞きたかった。
しかし肝心の枢木姫百合を彼女は知らない模様。
薄井は深呼吸を一つ。
首を傾げる三日月に薄井は言葉を探りながら語り掛ける。
「そうだなぁ……一言で表すならキラキラしたカワイイ系アイドルシンガーかな」
薄井は自身が持っている情報を頭の中で整理しながら言葉を探した。
「枢木姫百合……元々は個人勢Vシンガーだったんだが、去年の五月、仮想恋歌のオーディションに合格しデビュー。可愛らしい妹系の歌声と明るく朗らかなキャラクター。歌にひたむきな姿勢でファン層を少しずつ増やしていき、現在Wチューブ登録者数は2.92万人。もう一息で3万ってところなんだが……」
薄井は思わず言葉を濁した。
「良いシンガーだったんだ。本当に……」
「だった……ですか?」
「あぁ……」
薄井は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
こんなふうにVを紹介するのが辛い。
その心境が三日月にも伝わったのだろう。
疑問と心配が入り混じる声で薄井に問いかけた。
「歌系Vチューバーに限らずありがちな話なんだけど、何かを専門にやっているVチューバーって一部の例外を除いて、トークが上手くてマルチに活動しているVチューバーに比べると伸びにくいんだ」
「……なるほど」
三日月の口元が僅かに引きつる。
どうやら薄井が言いたかった事の全てを察してくれたようだ。
枢木姫百合は元々歌メインのVシンガーだった。
本来の得意分野は歌……にも関わらず色々手を出して、結果自滅した。
だから夢川キララはステラとローザに頼った。
歌一本で硬派に活動して、着々と人気を獲得している彼女?と彼女ならきっかけ作りには打ってつけだと思ったのだろう。
「夢川キララ……喜村笑美さんは何か特別な要求をしていませんでしたか?」
「特別な要求?」
三日月の問いに薄井が首を傾げた。
質問の意図が上手く読み取れなった。
「例えば、要ちゃんと花代ちゃんを枢木姫百合……河野真琴と会わせたい……とか」
「あっ!」
薄井はハッとした。
ステラ……要の外見は男。
いくら中身が乙女とはいえ、世間様はそんな事に配慮してはくれない。
要が笑美と会ったのは、笑美側の強い要望があったのに加え、お互いが守秘義務を絶対に護ると固く誓約したからに他ならない。
何より笑美は光線過敏症という最大のアキレス腱を晒した。
お互いに弱みを握る事で百パーセントの安心が担保された。
だが、枢木姫百合……河野真琴からだと事情は変わってくる。
真琴は現在人気獲得の為に躍起になっている。
もし、要の正体を知られた場合、人気獲得の為に真昼野ステラを過度に利用……
あるいはライバル排除の為に正体を暴露なんて事も在り得ない話ではない。
勿論これは、夢川キララのメンツを潰す行為なので普通はやらない。
だが現状、真琴は非常に追い詰められている。
追い詰められた人間は何処までも愚かになるのが世の常だ。
真琴がそうでないとは信じたいが、百パーセント信じるだけの根拠を薄井は持ち合わせていなかった。
「ひとまず、今回はオンラインコラボの形をとっているから問題ないとは思うが……」
「一応、要ちゃんに釘を刺しておいて頂けますか。あの子、情に絆されやすいですから」
「あぁ、分かった。ありがとう」
「いえいえ」
薄井は薄っすらと微笑みながら礼を言う。
この後輩は自分が見落としてしまいそうな人の機微に気づいてくれる。
薄井は三日月が自分を補佐してくれている事に心から感謝した。
薄井の言葉に僅かに微笑む三日月。
薄井は気を引き締める為に、軽く自分の両頬を叩きながら言葉を零す。
「まぁ、結局やる事は変わらないし……俺達は歌姫達が最高のコンディションで謡える様にバックアップするだけさ」
「それもそうですね」
弱々しい笑みを浮かべる薄井に応えるように、三日月も小さく微笑んだ。
そう……いつも通り。
自分の仕事は推しを信じて、彼女達をそっと支える事。
この頼もしい後輩と一緒に……
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