VSingerS【バーチャルシンガーズ】~俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

黄昏湖畔

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第四章_過去を悟る少女、未来に謡うVシンガー

第十六話_少女との出会い

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 八月三十一日、薄井は西多摩川総合病院にいた。
 健康診断の為だ。

「どうした?坊主。自分から病院に来るなんて?」
「なんだよ、ジジイ。健康気遣って悪いか?」

 薄井の主治医で偏屈な禿げジジイ
 長谷部小太郎はせべこたろうが天変地異でも起きた様な表情で目を丸くする。

「どういう心境の変化じゃ?」
「別に……ただ倒れている暇なんて無いってだけだ」

 薄井の頭の中はスッキリと晴れ渡っていた。
 昨日の一件で薄井はV発掘をしていた目的の一つ……
 自分を救ってくれた子供の歌に出会う事ができたから。

 彼の変化は主治医にも伝わったのだろうか。
 長谷部の口元が小さく緩む。

「ようやく一人前になったみたいじゃな。
「なんだよ……気色悪い」
「気にするな。ジジイの世迷言じゃ」

 薄井は虚を突かれ、天邪鬼な言葉を返した。
 思えば、このジジイに名前で呼ばれたのは初めてだ。
 文字通り一人前の人間として扱ってくれていると思うと、こそばゆい気持ちになった。

「まぁ、細かい結果は後日になるじゃろうが、前回より顔色もいいし、悪い結果にはならんじゃろ」

 珍しく長谷部の穏やかな声を背に、薄井は診察室を後にした。

 診察室を出て、エントランスで待つことしばし。
 受付に呼ばれるまでの合間に見るVシンガー動画はまた格別だ。
 いつも通り気持ちの悪い笑みを浮かべながら、そんなことを思っていると……

「あっ!このまえのおじちゃん!」
「えっと、君は……」

 薄井の目の前には六歳くらいの少女。
 以前、この病院で会った事がある子だ。
 確か名前は……

未来みくちゃん……でよかったかな?」
「うん!おひさしぶり!またぶいしんがーみてるの?」
「あぁ、そうだよ」

 前回会った時は病院着だったが、今日は可愛らしい黄色のワンピースと首からはロケットペンダント。
 どうやら手術は無事に成功したらしい。
 薄井は笑顔の未来に無線式イヤホンを片方渡しながら微笑む。

「今日はカッコイイおねえさんだね?なんて人?」
「この人はLiedって言うんだよ」

 薄井は普段の詩織を思い出しながら苦笑した。
 謡っている時は本当にカッコいいんだけど。
 トークパートに入ったら、未来は温度差で風邪をひくだろうぁ、と少し心配になった。

「このおねえさんのおうた、しーちゃんそっくり」
「しーちゃん?」
「うん!このまえはなしたおとなりさんのしーちゃん」

 薄井はギョッとした。
 まさかこの子は……

「えっと……未来ちゃん?もしかしてそのしーちゃんって……詩織って名前のお姉さんだったりしない?」
「えっ!すご~い!なんでしってるの⁉」

 未来が驚きで目を丸くする。
 予想は的中した。
 以前、詩織との話の中に出てきたお隣さんに、みくちゃんと言う名前があった。
 そして目の前の未来ちゃんにも、しーちゃんというお隣さんがいる。

「実はおじちゃんも、しーちゃんの知り合いなんだ」
「へぇ~、そうなんだ?もしかしてこのおねえさんってしーちゃん?」
「なんでそう思うのかな?」
「だっておうたもおしゃべりもそっくりだから」
「そうなんだ……おじちゃんには分からないなぁ~……」

 薄井は背中から滝の様な汗が流れていた。
 未来はまだ子供。
 『Vに中身などいない』という不文律など知るはずもない。
 知り合いが有名人だと知れば、周りに言いふらす可能性だってある。

「そっか、じゃあこんどしーちゃんにきいてみるね」

 薄井は更に大量の冷や汗を流した。
 どうする?あのポンコツが正体を隠すはずもない。
 無垢な子供の笑顔が今は悪魔の微笑みに見える。

「お~い!未来ちゃ~ん!」
「未来ちゃ~ん!どこ行ったの~!」

 薄井の背後から高齢の男女の声。
 よほど心配だったのだろう。
 病院だというのに、かなり声のボリュームが大きい。

「あっ!おじいちゃん!おばあちゃん!こっちだよ~!」

 祖父母の声に未来が手をブンブン振りながら元気な声で返事をする。
 薄井も声の方向に振り向くと、そこには白髪混じりの優しそうな老夫婦の姿があった。
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