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23(side:桐山)
しおりを挟む結局僕は系列会社の営業として、出向することになった。
表向きの名前は『花形』から『桐山』に変えてある。けれど『桐山』は母の旧姓だし、ちょくちょく本社の役職がわざわざ系列の子会社に電話を掛けるのは僕の出生をアピールしているに過ぎない。
それで、子会社の誰が僕に擦り寄ってくるのか兄は確認したいのだろう。
(面倒な仕事だとは思うけれど、仕方ないか)
そう思って、引き受けた。出向してから二週間。当たり障りなくやっているつもりだ。営業部長からはそろそろ僕を補佐する人物を選定すると言っていた。
(誰になるんだろう? まぁ、ある程度仕事が出来る人なら誰でも良いんだけど……)
そう思って待っていたのに、なかなか決まらない。
聞いたところによると、女子社員達が誰が僕の営業補佐になるかを巡って争っているらしい。
(くっだらない!)
そんなことをしている暇があるなら仕事をしろ!
給料に見合った働きをしておけ。
第一、そんな相手が僕の補佐になったところで、きちんと仕事を片付けてくれるのだろうか?
疑念でいっぱいになる。
(部長は俺に任せておけ、って言っていたけれど……)
不安だ。だが、下手に女性社員のことで僕が動けば、余計に迷惑をかけてしまうのかもしれないという懸念があった。
自分が動いてしまった方が早いと分かっているものの、今の立場上。動くことはできない。
内心、重たい溜息を吐き出して、席から立ち上がる。
気晴らしにコーヒーでも飲もうかと廊下を歩いていると、会議室の前で、女子社員二人が真剣な顔で立ち止まっていた。
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
背後から声を掛けると、あからさまにその女性社員達がビクリと肩を跳ね上げさせる。
「きゃっ!」
「ビックリした」
二人が目を丸くして、僕の方へ振り返る。そして僕を認識すると猫撫で声で話し掛けてきた。
「今、会議室に営業部長が花咲さんを呼び出したから、なんとなく気になっちゃって」
そう言い訳する女性社員はサボっていたことが露呈した後ろめたさからか、言葉を濁す。
「花咲さん、ですか?」
花咲さんといえば、クールな印象を受けるものの、誰にでも礼儀正しくて、人事部からも高い評価をくだされた女性だ。そんな人がなぜ営業部長に呼び出されているのか。
「うん。この時期に呼び出しなんてねぇ」
「ねぇ……」
女性社員達がチラリと僕を見て、意味深に二人が頷き合う。おそらく花咲さんは僕の補佐にならないか、と営業部長に声掛けられているのだろう。
内心、彼女らが補佐役に選定されなくて良かったと安堵する。それをおくびに出さないようにして「そういえば、営業課長がお二人を呼んでいましたよ」と言えば、彼女らは腕時計を見て「ヤバい」と顔を引き攣らせて、去っていった。
どうやら相当長い時間ここに居たようだ。
(仕事をサボるような人に僕の業務を手伝わせたくない)
そう思って、会議室を覗く。
営業部長と花咲さんは話に熱が入っているのか、扉が開いたことにも気付いていない。自分の話ではなかったらすぐに立ち去ろう。
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