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28(side:桐山)
しおりを挟むあれから僕は花咲さんに対して仕事以外の話題を口に出さないようにした。そして、他の人達とのコミニュケーションは可能な限り取るようにした。
もともと花咲さんとは仕事の話がメインで、雑談も僕が振ることが多かった。むしろ彼女から話し掛けられるのは、ほとんどなかったのかもしれない。
(相手にされていなかったんだな)
それどころか、迷惑とすら思われていたのかもしれない。
独りよがりの恋をして、好きになった人を傷付けた。
ーー彼女と関わるべきじゃない。
一週間。悩んだ末にそう決めた。
(これ以上。深入りする前に、諦めなきゃ……)
そう思ったのに。どうしてか、諦めることができない。
姿勢良く伸びた背筋。僕を呼ぶ凛とした声。時折見せるはにかんだ笑顔。
諦めようと意識するごとに想いが膨れ上がる。
(花咲さんが僕の補佐役にならなくとも、きっと僕は彼女を好きになったんだろうなぁ)
そのことを自覚しているのだから救いようがない。
仕方ない。諦めよう。
どうあったって僕は花咲さんを目で追うのだから。
もう諦めて、彼女を好きだという気持ちを受け入れよう。
そう思ったのは彼女を好きになってから二ヶ月が経った頃だ。
その間に、僕は見合いをしてみたり、他に良い人が居ないか友人に紹介を受けたりもしてみた。
でも、やっぱり。他の女性ではなく、花咲さんが良かった。
花咲さんしか好きになりたくなかった。
愚かだと自分でも思う。けれど、この想いだけは捨てきれないのだから仕方がない。
(できるなら今すぐにでもアタックしたいけど……)
それが彼女の負担になるなら、『今』は諦める。
この仕事が終わって僕が『花形』に戻ったあかつきには、きちんと自分の想いを彼女に告げよう。
(問題はその間に花咲さんに恋人ができないか、だ)
花咲さんは魅力的な人だ。僕以外にも花咲さんを好きになった人が居るかもしれない。
(まずはそれを聞き出してみるか)
外面を良くしておいて良かった。せっかくだ。有効に活用してやろう。
情報は金に勝る価値がある。
それを利用して、上手く使おう。
(花咲さんも厄介な男に好かれたものだ)
自覚しながらも、逃してやる気はなかった。
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