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しおりを挟むなんて馬鹿なことを言っているんだろう。
きっと今、頬が赤らんでいるのはアルコールの力ではなかった。
ゴクリと喉が鳴る。
それはどちらのものだろう。
判別がつかないまま、彼が口を開く。
「僕の気持ちを知っていて、言っています?」
強い視線に呑まれそうになる。居酒屋特有の騒音がどこか遠くに聞こえるような気がした。
ごめんなさい、そう言って逃れようともした。酔ってしまったから、という言い訳を彼は許さなかった。
「逃しませんよ」
「桐山くん……」
「僕はこんなチャンスを見逃すほど馬鹿じゃない」
手が重ねられる。朝のような偶然ではない。意図的に手を重ねられたのだ。
「僕に触れらるのは嫌ですか?」
尋ねられて、考える。
諒一に触れられた時は嫌悪感でいっぱいだった。
けれど、桐山くんに触れられても嫌ではない。その違いは……
押し黙ったわたしの手を引いて、立ち上がる。会計が終わらせて、そのままエスコートするように腰を抱いた。
「今夜は帰せません」
耳元でそう囁かれて、タクシーに乗せられる。
行き先は彼の住むマンションだった。
***
部屋に着くと彼は寝室に引っ張って、押し倒す。
セミダブルのベッドが二人の体重分だけ柔らかく沈み込む。
「あの、桐山くん」
慣れた手つきでわたしの服を脱がせる。あっという間に下着だけの姿になって、さらにそれを脱がそうとするものだから、待って欲しいと懇願する。
「どうして待つ必要があるんです?」
ネクタイを緩めるその仕草は色香の暴力だ。
「だって、シャワーも浴びてないし……」
「必要ありません。終わったら、僕がお風呂に入れてあげますから」
一緒にお風呂に入りましょうね、と言われて、首筋を舐められる。薄い皮膚が彼の赤い舌が這っては、吸い付いていく。
そうしている間にも、彼の不埒な手が太ももを撫で回す。
触れるか触れないかの触り方に背筋が震えそうになった。擽ったいような甘い感覚に戸惑っているうちに彼はブラのホックを外した。
「……ゃ、見ないで」
「無理です」
手で隠そうとすれば、彼の大きな腕がそれを阻む。
あまり大きくない胸を見られている。そう思うだけで、羞恥が大きく膨れ上がる。そっと彼の指が胸の先端に触れる。転がすように捏ねられていくうちに、鼻から声が抜け出ていく。
「……ん……ぁ」
「可愛い。感じているんですね」
そう囁いて、彼が耳朶を擽る。自分でも聞いたことのない甘やかな声。桐山くんに触れられるたびにその声が蕩けていく。
「桃子さん、と呼んでも良いですか?」
小さく頷けば、彼は幸せそうに微笑んだ。
「嬉しい。ずっとそう呼びたかったんです」
角度を少しずつ変えて、唇が重なり合う。短いキスではあるものの、それが何度も繰り返されることで、熱が帯びていく。
「……ん、っ」
「ああ、可愛い!」
濡れたリップ音が部屋に響く。そろりと彼の舌が侵入し、貪るように口付けられた。
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