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しおりを挟む「すみません。貴女に好きだって言わせたくて、つい無理をさせました。こんなことをしても意味のないことなのに、貴女の口から僕を求める言葉をどうしても聞いてみたかったんです」
ボロボロと彼が泣く。
頬に伝っていく透明な涙をわたしは親指の腹で拭った。けれど、どれだけ掬っても涙が零れ落ちていくものだから間に合わない。
彼の瞼にそっと口付けを落とす。
「桃子さん……?」
「桐山くんはわたしが思っていたよりも鈍いのね」
意識して穏やかな声を出す。
呆然とこちらを見つめる桐山くんに伝わるようにゆっくりと話す。
「好きだよ。じゃなきゃ、わざわざ部屋にあげない。身体も許さない」
桐山くんが目を見開いて固まる。わたしはそれに苦笑しながら、自分からキスをしてみせる。
唇を押し付けるだけの拙いキス。けれど、それが今のわたしにできる精一杯のキスだ。
ゆっくりと唇を離そうとした瞬間。噛み付くようなキスを桐山くんにされる。
「……ん……んっ……」
舌先をグリグリと押し付けられ、絡まされる。呼吸を全て奪われる獰猛なキス。息が苦しくて仕方がないのに、それでも彼に求められるのが嬉しくて、自分からも彼の舌に絡めようとした。
(すき……)
自分でもいつから彼を好きになっていたのか分からない。
けれど言葉に出せば、よりその想いが強固なものになっていく気がした。
長い口付けが終わる。瞼を上げて、ボンヤリと桐山くんを見れば、彼の唇が艶やかに濡れていた。それをなんとなしに舐める。
「も、桃子さんっ!」
動揺している桐山くんの姿。きっと会社では見られないのだろう。そう思うとなんだか特別な感じがして嬉しい。
「ちゃんと伝わった?」
彼の口に人差し指を置くと、桐山くんが勢いよく頷く。
「夢だったらどうしよう……!」
真剣にそんなことを言うものだから笑ってしまう。
「夢じゃないよ」
「本当に?」
「うん」
何度も何度も確認して、キスを繰り返す。
わたしからも彼の背にしがみ付いて、ひたすらに求め合う。
「ああ、どうしよう。幸せすぎて死にそうです」
「それは困る」
隙間なく密着すれば、彼の胸から早い鼓動の音が聞こえてきた。
「桐山くんの心臓の音。すごく早い」
「だって、桃子さんがそんなこと言うから……」
「言わない方が良かった?」
「意地悪言わないでください」
参った、と彼が天井を向いて髪を掻き上げる。その仕草に胸がドキリとする。
「桃子さんの心臓の音だって早いじゃないですか」
拗ねた口調でそう呟いた彼に「だって」と言い訳をした。
「桐山くんが格好良いから」
ぽそりと本音を言えば、彼は痛いくらいにわたしを抱きしめた。
「すみません。桃子さん。やっぱり僕、シャワーを一緒に浴びる余裕はありません。このまま貴女を抱きたい……!」
隙間なく抱きしめられると硬いモノが下腹部に当たる。
彼に余裕がないのだと、物理的に知らされ、わたしはそれを受け入れた。
だって、余裕がないのはわたしも同じだ。
達したとはいえ、中途半端に昂った熱は体内を燻ったまま。
これを鎮めてくれるのは桐山くんしか居ないのだ。
「わたしも、我慢できないから……」
直接伝えるのはやっぱり恥ずかしくて、慣れない。
でも、わたしも桐山くんに「好き」とか「可愛い」って言われて嬉しかったから、頑張って言葉に出してみることにした。
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