王子としらゆき

秋月朔夕

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第十三話 鷹は王子の仮面を剥ぎ取る

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 仕事の休憩中に雪乃に関する報告書を手に取る。報告書に関しては、雪乃が寮に住むようになってからずっと続けてきた。
  特に彼女が大学に進学してからは、一人暮らしということもあり、周辺に警備の者も何人かいる。


  ――無論、彼女には内緒だが……
 じゃなかったら、なんのセキュリティもないアパートに住むなんて認める筈がない。
  まぁ夏休みの間は、そんなこと知らない雪乃は私のご機嫌とりに必死な様子だったが。
 (あれは、おいしい状況だった)
  朝から晩まで私を追う雪乃が可愛くて、つい手を出しかけるほど……
(眠る雪乃にこっそり口づけはしているが)
  その事を思い出し口元が緩みそうになるのを引き締め、報告書を読むことにした。


 (立花が雪乃に想いを告げそうだと?)
  しかも、雪乃も受け入れる可能性が高い、と書かれている。
  もともと立花は高校の時から雪乃に想いを寄せていた。だけど恋愛に疎い雪乃は気付かず、立花も雪乃との距離感が心地よかったようで動く気配はなかった。女に人気の立花と一緒にいたことで、他の男は雪乃に寄ることはなかったから放置していたが、彼女の両親が亡くなったことで均衡は崩れてしまったみたいだ。
  それに雪乃は屋敷を出ようとしているらしい。

 (手放すために、今まで我慢してたわけじゃない……)
  ――離れていかれるくらいなら、奪えばいい。


  幸いここ何日かは邸に帰らず、仕事に明け暮れていたため休みも取れそうでもある。スケジュールを見返していると雪乃からメールが届く。
  いつ帰る、か……
 彼女の両親が亡くなってから私に甘える雪乃が可愛くて、あのまま邸に居たら私の獣が雪乃に食らいついてしまいそうになり、仕事を言い訳にして離れていた。

 (だけど、それも今日までだ……)
  もしかしたら私は彼女を抱く言い訳をずっと探していたのかもしれない。
  長い間、欲し続けた最上級の獲物がようやく手に入る……
(私のしらゆき。キミを得るためならば、王子の皮を棄てて鷹になるよ)



  全ての仕事を終えると、もう日が変わる時間になっていた。
  起こさないように雪乃の部屋に入ると、グッスリ眠っている。
 (まぁ、彼女の夕飯に微量の睡眠薬を入れさせたから当然か……)
  メイドに雪乃が両親が亡くなったストレスであまり眠れてない様子と言えば、筒がなく引き受けてくれた。
  用意していた細い紐で両腕を縛る。彼女の抵抗さえなければ、ここは邸の離れなので人が来ることはない。

 (……やっとこの手で触れることができる)
  そのことを実感すると思春期のように身体が反応してしまい、思わず苦笑する。
 (確実に『初めて』の時より興奮しているな)
  先走る感情を抑え、ゆっくりボタンを開けていくと自分の異変に気付いたようだ。
 (微量だったから、あまり薬の効果はなかったか……)
  呆然としてる間に、全てのボタンを開けると、怯えの眼差しに変わる。
それでも気丈になんでこんなことするのか、と問いかける雪乃に、わざと間延びした口調で答えると一層身を固くする。私から逃れようともがく彼女すらいとおしい。
 (どうして今まで我慢していたのか)
  奪おうと思えば、いつでも奪えたのに。だから今日はどれだけ嫌だ、と泣かれても容赦はしてやるものか。
  腕の拘束を取ろうとしたり、睨んだり、足をバタつかせたり、可愛い抵抗しても無駄だ。
 (…………むしろ男の欲を煽る)
  抵抗しようと足を上げた隙に下の衣服を剥ぎ取ると一糸纏わぬ姿になり、思わず見惚れる。
 「あぁ、キレイだ」
  計らずとも口に出した言葉に、首を振って否定される。しかし、涙眼で顔を赤くされてしまっては余計に煽られるというもの……
 そんなことも知らないとは、なんて無垢な存在なんだろう。
 (ずっと、私の手で汚したかった)
  それができる悦びに、まるで熱に浮かされてしまったように身体が熱くなる。
  内太ももに私の所有印をつけ、焦らすように胸の頂きを嘗めると、唇を噛み締め、声を我慢する様子が分かる。
 (私で、感じている)
  嬉しいが強く噛み締めるあまりに、うっすらと血が滲んでいるのに気付き、傷つけないように口に指を含ませる。
  口内を指でまさぐると、嫌がった彼女は指を噛む。あまり痛みはないが、お仕置きとばかりに私も胸を噛んでやると、とうとう雪乃は泣き出す。
けれど、彼女の涙の訴えは聞いてやることはできない。
 (それにいつもの私ってなんだろう)
  いつだって私は彼女を欲してきたのに……
 理想の王子さまの皮を被ったキミを求めるだけの醜い獣なのに。


 (どんなに私がキミだけを求めてきたのか、知らないだろう?)
  ――ねぇ、雪乃。泣かれてやめるくらいならば、最初からしないよ……
 嫌われてでも、奪い取ると決めたのだから。
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