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「ねえ、覚えてる? まさか忘れたなんて言わせないよ。さあ、俺をこんな体にした責任をとってもらおうか」
誰もいない薄暗いフロアで、たったひとり残業を続けていた絵美里さんは、突然現れた男の子の姿に悲鳴をあげました。あわれ、絵美里さんの貴重な夜食である食べかけの栄養補助食品が、カーペットの上へ転がり落ちていきます。
「こ、こ、子ども? まさか、幽霊? うそ、このフロアに出るとか聞いてないよ!」
「おい、落ち着け。俺を誰だと思っている」
「い、いや、来ないで! ファブリーズ? 塩? やだ、もう、だれか助けて、警備員さんっ!」
絵美里さんは必死にあとずさりながら、周囲を見渡しました。逃げ出したいのに、腰が抜けてしまったのです。震える声で警備員さんを呼び続けます。残業続きのせいですっかり顔なじみになった警備員さんの趣味は、写経です。もしかしたら、力になってくれるかもしれません。
「いい加減にしろ! 絶世の美男子を前にして、幽霊だの、お化けだの、失礼にもほどがあるだろう! どこをどう見たら、俺がそんな低級な生き物に見えるんだ!」
男の子のよくわからないキレっぷりに、絵美里さんははっと我にかえりました。じっくりと男の子を見てみますと、確かにテレビでもそうそうお目にかかれないほど整った顔をしています。着ている洋服も、大人顔負けの仕立てのいいスーツです。
――もしかして、社長の甥っ子さんとかかしら? この傍若無人っぷりは似ている気もするわ。でもあの家系でこんな美少年が生まれるなんて、遺伝子の奇跡ね――
少し考えてみれば、真夜中に会社に入りこみ、偉そうにふんぞり返る子どもがいるはずもないのですが、絵美里さんは気がつきませんでした。落ち着いたように見えて、いまだしっかり混乱していたのです。
「私、あなたに何かしたかしら?」
「そもそも俺がここにいるのもお前のせいだぞ」
「そう言われても、あなたに会った記憶がないのよ」
「今日の会議中にお前が俺を呼び出したんだろうが!」
まったく身に覚えのないことを言われて、絵美里さんは困ってしまいました。とはいえ今日の午後中ずっと、実りのない会議で時間を浪費していたことは事実です。そのせいで絵美里さんは、本来午後にやるはずだった仕事をこんな時間に片付ける羽目になっているのですから。
――何か大事なことを忘れているのかしら――
絵美里さんは仕事用のノートを手に取り、今日の会議中の出来事を思い返してみることにしました。
誰もいない薄暗いフロアで、たったひとり残業を続けていた絵美里さんは、突然現れた男の子の姿に悲鳴をあげました。あわれ、絵美里さんの貴重な夜食である食べかけの栄養補助食品が、カーペットの上へ転がり落ちていきます。
「こ、こ、子ども? まさか、幽霊? うそ、このフロアに出るとか聞いてないよ!」
「おい、落ち着け。俺を誰だと思っている」
「い、いや、来ないで! ファブリーズ? 塩? やだ、もう、だれか助けて、警備員さんっ!」
絵美里さんは必死にあとずさりながら、周囲を見渡しました。逃げ出したいのに、腰が抜けてしまったのです。震える声で警備員さんを呼び続けます。残業続きのせいですっかり顔なじみになった警備員さんの趣味は、写経です。もしかしたら、力になってくれるかもしれません。
「いい加減にしろ! 絶世の美男子を前にして、幽霊だの、お化けだの、失礼にもほどがあるだろう! どこをどう見たら、俺がそんな低級な生き物に見えるんだ!」
男の子のよくわからないキレっぷりに、絵美里さんははっと我にかえりました。じっくりと男の子を見てみますと、確かにテレビでもそうそうお目にかかれないほど整った顔をしています。着ている洋服も、大人顔負けの仕立てのいいスーツです。
――もしかして、社長の甥っ子さんとかかしら? この傍若無人っぷりは似ている気もするわ。でもあの家系でこんな美少年が生まれるなんて、遺伝子の奇跡ね――
少し考えてみれば、真夜中に会社に入りこみ、偉そうにふんぞり返る子どもがいるはずもないのですが、絵美里さんは気がつきませんでした。落ち着いたように見えて、いまだしっかり混乱していたのです。
「私、あなたに何かしたかしら?」
「そもそも俺がここにいるのもお前のせいだぞ」
「そう言われても、あなたに会った記憶がないのよ」
「今日の会議中にお前が俺を呼び出したんだろうが!」
まったく身に覚えのないことを言われて、絵美里さんは困ってしまいました。とはいえ今日の午後中ずっと、実りのない会議で時間を浪費していたことは事実です。そのせいで絵美里さんは、本来午後にやるはずだった仕事をこんな時間に片付ける羽目になっているのですから。
――何か大事なことを忘れているのかしら――
絵美里さんは仕事用のノートを手に取り、今日の会議中の出来事を思い返してみることにしました。
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