赤い目は踊る

伊達メガネ

文字の大きさ
3 / 9
第三章

初陣

しおりを挟む
 汚染区は全てが国有地となっており、四方八方からコンクリートの壁が三重に設置され、外界から完全に封鎖されている。
 数か所ある出入り口は、警備員が常駐して管理しているので、一般人はまず立ち入ることは出来ない。
 警備員に身分証を提示し、目的と、予定を告げた。予定時刻を過ぎても戻らなかった場合、警備員から衛星電話を使って連絡が入り、状況によっては武装警察が投入される。
 あまりないケースだが、全くないということでもない。まあ、その場合は最悪のケースになっていると、言えるのだが。
 確認が済むと、警備員が門を開けてくれた。
 門は大きなアーチ形の三重構造となっていて、重く分厚い扉が、大きな軋む音を立てながら、一つ一つゆっくりと開いた。
 警備員と会釈を躱し、門を潜って抜けると、扉が再び軋む音を立てながら動いて、ゆっくりと閉まった。
 毎度のことながらこの瞬間、独特な緊張感の高まりを感じる。
 中の道路は舗装されることが無いので、アスファルトは朽ち果て、その周りを雑草などの草木が、縦横無尽に生い茂っていた。
 当然といえば当然だが、人が生活している気配は無く、トラックのエンジン音だけが響いていた。
 そのまま二十分ほど進むと、目的地に到着した。
 グラウンドや体育館、校舎などが見える。
 元は小学校だった場所だ。
 絹江さんは移動中の車内では、ほとんど言葉を発せず、大分緊張していることが伝わってきた。
 トラックから降りると、周りを注意深く確認する。
 特に異常は見られない。
 絹江さんに対して、体育館を指差した。
「絹江さん、あそこがミーティングの時に話した、目的地になります」
 絹江さんが、強張った面持ちで頷いた。
 トラックの荷台から、予備の弾薬などの荷物を取り出すと、体育館に向けて移動を始めた。
 進んで行くと、チラホラと奴らが目に映ってきた。
 錆鴉さびがらすと呼ばれる鳥型の赤目で、名前の通り鴉に似た姿形なのだが、全長はその倍近くあり、鋭く硬い嘴に、赤褐色の体毛を携えていた。
 絹江さんの表情が、より一層険しくなる。
 手を上下させて、少し落ち着くように促す。
「大丈夫ですよ。今は赤目アイツらにとっては、夜ですから」
 赤目は総じて夜行性で、昼間は休眠している。だから、この時間帯は積極的に行動を起こさない。
 こちらが目立った行動でもしない限り、赤目から襲い掛かってくるようなことは、まずないのだ。
 絹江さんは、硬い表情で頷いた。
「ハイ……」
 足早に突き進んでいくと、体育館に辿り着いた。
 ドアは閉まっていたが、鍵は掛かっていない。
 警戒しながら慎重にドアを開けて、中の様子を窺う。
 特に目立った異常は見られない。
 それでも注意深く、慎重に体育館の中に入った。
 体育館の中は薄暗く、片面のコートにバレーボールのネットが、所々破れた状態でダラリと垂れ下がり、あちらこちらに、空気が抜けて変形したバスケットボールや、バレーボールが転がっていた。
 床には埃が積もっていて、歩くたびに舞い上がった。
 絹江さんが顔をしかめて、口を手で覆った。
 体育館の壇上の横に、スライド式の扉があって、半分ほど開いていた。
 注意深く気を配りながら、中に入る。
 中は用具などの倉庫になっており、跳び箱や、マットなどが無残な形で散らばっていて、奥には鉄製の錆びついた細い階段があった。
 慎重に階段を上って二階に出ると、大人二人分ぐらいの幅の通路に、鉄格子が付いた窓があった。
 窓は所々割れていて、鉄格子は錆びた状態で変形していた。
 今いる位置からはグラウンドを一望することが出来、その反対側は校舎が隣接している為に、見通しが悪かった。
 ここが最終目的地だ。
 一通り周りを見渡して確認するが、特に異常は見られない。
 窓から外を指差しながら、絹江さんに具体的な状況を説明する。
「絹江さん外を見てください。錆鴉が居るのが見えますよね?」
 グラウンドの所々に、錆鴉が特徴的な赤い目を光らせ、留まっていた。
 赤目は不思議なことに、休眠中でも目だけは、いつも赤く光っている。
 絹江さんが、緊張した面持ちで頷いた。
「ハイ」
「この場所から錆鴉を銃撃して、駆除していきます」
 絹江さんは、少々怪訝そうな表情を浮かべた。
「あの……ミーティングの時にも思ったのですけど、銃声で逃げていかないものですか?」
 絹江さんの疑問はもっともだ。
 普通の鳥なら銃声を聞けば、驚いて逃げてしまうだろう。
 だが、赤目は違う。
「その辺は大丈夫です。赤目アイツら逃げるどころか、向かってきますから」
「向かってくる……?」
 絹江さんはイマイチ、ピンときていない様子だ。
 赤目は異常を察すると、そこに集まってくる習性がある。
 鳥型の赤目の場合だと、こちらを狙って突撃してくるのだ。
 この場所を選んだのは、それを防ぐ為だ。体育館ならボールなどから窓を守る為に、必ず鉄格子が備え付けられているし、二回なら見晴らしも良く、何かと錆烏を迎撃しやすい。
 シゲさんが追加して、フォローを入れる。
「アレだ……何て言ったかな……名前は忘れたが、昔の映画であったろう? 鳥が一斉に襲ってくる有名な映画やつ……大体あんな感じだ」
 絹江さんは話を理解していくごとに、段々と顔が青ざめていった。
「えぇ……⁉」
 
 猪口昭正は心配であった。
 我が社に、初の女性猟人が入ってきた。
 だが、猟人の世界は荒事が常の、大変危険な業界だ。
 そんな業界で女性が、上手くやっていけるだろうか?
 その上、彼女の歳は若く、まだ十代ときている。
 もし彼女の身に何かあれば、世間は黙っていないだろうし、何よりも親御さんに対して、申し訳が立たない。
 唯一の救いは、一緒にチームを組むのが、経験豊富で頼りになるシゲさんと、同じく十代と歳は若いが、腕は立つコマという点だ。
 この二人が一緒なら、問題は無いと思う……のだが、どうしても心配事が尽きず、悪いイメージばかり浮かんでくる。
 小鳥遊所長は、どう考えているのだろうか?
 彼女は、小鳥遊所長の親友の娘さんだという。その縁故から、うちの会社に入ってきたのだが、小鳥遊所長は心配じゃないのだろうか?
 小鳥遊所長は窓辺に立ち、晴れた空を穏やかな表情で眺めていた。
 小鳥遊所長とは自衛隊時代も含めると、もう十年以上の付き合いになるが、取り乱した所を、一切見たことが無い。
 どんな時でも泰然自若としていて、その姿は見ているだけで、気持ちを落ち着かせる。
 だが、それでも今回は聞かずにはおられない。
「小鳥遊所長、一つ伺ってもよろしいですか」
「ええ、大丈夫ですよ」
「蜂須賀絹江さんのことは、心配じゃないのですか?」
 小鳥遊所長はいつもの様に、穏やかな表情で答えた。
「ええ、大丈夫ですよ」
 流石、小鳥遊所長は、落ち着いておられるな。
 いつもと変わらぬその口ぶりに、気持ちが落ち着いてきた。
 不意に、固定電話の内線が鳴った。
 相手は事務員の蜂須賀美咲である。
「猪口主任すみません、小鳥遊所長に、環境省に提出する書類が出来ているか、確認できますか?」
 小鳥遊所長にその旨を伝えると、直ぐに返事が返ってきた。
「ええ、大丈夫ですよ」
 美咲に、小鳥遊所長の返事を伝え、内線を切った。
 何気ない、いつもの業務のやり取りである。
 しかし、何か違和感がある。
 美咲の尋ねていた書類は、小鳥遊所長のデスクの上に、今置かれている物ではないのか? 
 それだと出来ているようには、見えないのだが……。
 う~~ん、気になるな……。
「環境省への書類を作成されるの、今回は随分と早かったですね?」
 小鳥遊所長はいつもの様に、穏やかな表情を浮かべて答えた。
「ええ、大丈夫ですよ」
 窓から外を眺めていて、静止したままで動かない。
「今日は、雨が降っていますね」
 小鳥遊所長はいつもの様に、穏やかな表情を浮かべて答えた。
「ええ、大丈夫ですよ」
「明日は火曜日ですか?」
 小鳥遊所長はいつもの様に、穏やかな表情を浮かべて答えた。
「ええ、大丈夫ですよ」
「隣の客はよく柿食う客だ」
 小鳥遊所長はいつもの様に、穏やかな表情を浮かべて答えた。
「ええ、大丈夫ですよ」
 どうやらかなり心配のようだ。

 シゲさんが気楽な感じで、絹江さんに声をかけた。
「ホイじゃあ、頼むわな」
 絹江さんが、緊張した表情で頷く。
「ハイ……」
 絹江さんは深く一呼吸すると、窓から外に向けてライフルを構えた。
 スコープを覗く表情から、集中していくのが分かった。
「いきます……」
 絹江さんが一声発してから、少し間をおいて銃声が鳴った。
 グラウンドで蹲るように佇んでいた錆鴉が、コトリと横に倒れた。
 シゲさんと一緒に、称賛の声を上げる。
「おッ! ナ~~イス!」
「上等! 上等!」
 初めての実戦で、初段を当てるのはなかなか難しい。
 最初の緊張した面持ちを見たときは、どうなることかと思ったが、これなら何とかなりそうだ。
 絹江さんの表情も、幾分か和らいだように見える。
「奴さんたち目を覚ましたな……これから忙しくなるぞ!」
 グラウンドを見ると、錆鴉が鳴き声を上げ始める。
 赤く光る眼も加味されて、何とも異様な光景だ。
 窓から外に向けて、散弾銃を構えた。
「絹江さん、これからが本番何で、よろしくお願いします」
 絹江さんの表情が、また硬くなった。
 そんな絹江さんに、シゲさんが声を掛ける。
「なあに、そんなに気負うことはねえさ。やることは単純だ。撃って、撃って、撃ちまくるだけだ!」
 グラウンドから錆鴉が一匹、コチラに向かって、飛んで来るのが見えた。
 主に絹江さんに向けて、注意を促す。
「来ます!」
 それに狙いを定めると、引き金を引いた。
 轟音と共に、強い反動が体に掛かる。
 飛んできた錆鴉は散弾を受けて、ゆっくりと落ちていった。
 錆鴉が次々とコチラに向かって、飛んで来るのが見えた。
 それら狙いを定めて、引き金を引いていく。
 体育館に銃声が鳴り響き、硝煙が充満していく。
 あまりの轟音に、耳がバカになりそうだ。
 錆鴉たちは銃弾を受けて、次々と落下していった。
 今回散弾銃には、鹿などの中型の動物を相手する際に、よく使用されるバックショットを使用しているが、通常鳥類などの飛行する対象には、バードショットを使用する。
 バックショットと比べると威力は下がるが、粒が小さく、その分量が多くて範囲密度が高くなる為、対象に命中させやすいからだ。
 だが、錆鴉が相手だとどうしても打撃力が足りず、一回の攻撃では行動不能にしきれない。
 それにバックショットでも、錆鴉大きいおかげで命中率はあまり変わらず、次々と錆鴉を打ち落とすことが出来た。
 錆鴉は、次々と飛んできた。
 それらを、手当たり次第に撃っていく。
 だが、一向に錆鴉の襲撃は止まらない。
 グラウンドには、更に錆鴉が集まってきていた。
 今までどこに、これほどの数がいたんだ……っていうか、いつもより大分多くない?
 続けざまの強い反動に、体が悲鳴を上げてきていた。
 流石に、ちょっとしんどくなってきたな……
 それでも、我慢して撃ち続ける。
 今はそれしか手がなかった。
 突然、シゲさんが声を張り上げた。
「嬢ちゃん! 弾が入っとらんぞ!」
 絹江さんはスコープを覗き、一心不乱に引き金を引いていた。
 だが、銃が発砲することは無かった。
 絹江さんはそれさえ気づかずに、ボルトを引いては、引き金を引くことを繰り返している。
 この状況に、気が動転しているのだろう。
 絹江さんの肩に手を掛けて、声をかけた。
「絹江さん! 弾が切れていますよ」
 絹江さんはビクンと体を揺らした後、驚いてをコチラに顔を向けた。
 もう一度、今度はゆっくりと声をかける。
「絹江さん弾が切れているので、弾倉を交換して下さい」
 次の瞬間、衝撃と共に鈍い音が響いた。
 撃ち漏らした錆鴉が、鉄格子に衝突したのだ。
 絹江さんが、悲鳴を上げて固まる。
「きゃぁぁぁ――ッ!」
 絹江さんを落ち着かせる為に、諭すように語りかけた。
「絹江さん落ち着いてください。鉄格子が守ってくれますから大丈夫です。今のうちに弾倉を交換しましょう」
 絹江さんはおぼつかない手つきながらも、弾倉の交換を始めた。
 やはり初めての実戦で、かなり一杯一杯ようだ。
 状況が状況だしな……こればっかりはしょうがない。
 絹江さんはどうにか弾倉を交換し終えると、射撃を再開させた。
 ……一応大丈夫そうな感じだな。
 こちらも錆鴉に向けて、射撃を再開させる。
 その後も絶え間なく錆鴉は飛んできたが、全て迎撃していった。

 絹江さんはグラウンドに降り立つと、何とも言えない表情を浮かべて、驚きの声を上げた。
「うわぁ……凄い……」
 辺り一面を埋め尽くすように、錆鴉の死体が広がっていた。
 チラホラと、まだ僅かに動いている奴もいる。
 ホルスターから、45口径のオートを抜いた。
「まだ生きている奴もいるので、気を付けて下さい」
 まだ動いている錆鴉に、止めの弾丸を撃ち込んだ。
『ギギィィ……』
 錆烏は軽い悲鳴を上げて、動かなくなった。
「周りを見てきますので、少し休んでいて下さい。もし生きている奴を見かけたら、危険なので止めを刺しといて下さい」
 絹江さんは無言でコクリと頷いた。幾分か和らいでいた表情が、また、硬くなっていく。
 他に赤目がいなかい確認しながら、周りの錆鴉に止めを刺していった。
 戻ってくると、絹江さんがしゃがみ込んで、錆鴉を触っていた。
 ……何かのアニメの再放送で、こういう光景を見たな。
 こっちに気付いた絹江さんは、不思議そうな顔で聞いてきた。
「柏木さん、これは……生き物……?」
 赤目を初めて間近で見た人は、皆そう思うだろう。
 正直、生き物という感じが、全くしないのだ。
 大体の赤目は、体毛は硬く針金みたいで、筋肉はバネ様になっており、骨は鉄のように硬く、内臓部分にはチューブのような管が、ギッシリと張り巡っている。
 普段見ている生き物と比べると、明らかに異質な感じだ。
「それに……これは血なの……?」
 辺りにはどす黒い鮮血が、飛び散っていた。
 粘着性があり、血というよりまるでオイルのようだ。
 まさに生き物というより、機械という感じしかしない。
 それでも一応、分類的には生き物になるらしい。
 出現から二十年は経過しているのだが、黒い球体を含めて、赤目について正確な正体は判明していない。色々と学説はあって、赤目は他の世界の生物兵器で侵略者という、なかなかの学説まである。
 現状としては百花繚乱、色々と学説がありすぎて、意見が統一出来ないというのが実情だ。
「ところで絹江さん、まだ体力の方は大丈夫ですか?」
「……一応まだ大丈夫です」
「それなら助かります」
 絹江さんが、不安そうな顔を浮かべた。
「まだ何かあるのですか?」
「そうですね……どちらかというと、今からの方が大変かも」
 絹江さんは、さらに不安そうな顔を浮かべた。
 その時、車のエンジン音が聞こえてきた。
 シゲさんがグラウンドに、トラックを乗り入れて停車させた。
 そしてトラックから降りると、辺りを見渡して声を上げた。
「こりゃあ……随分と大漁だな」
「ええ、いつもよりかなり多いですね」
 絹江さんがおずおずと尋ねた。
「いつもは、もっと少ないのですか?」
「大体、今日の半分ぐらいですね」
「今日は嬢ちゃんのおかげで、大分助かったわい」
「確かにそうですね」
「そんなこと無いですよ。足を引っ張ってばかりで……」
 そうは言っても、絹江さんはうれしそうな表情を浮かべた。
 これはお世辞抜きで、本当に助かった。
 通常と比べると、倍近い数の錆烏だ。もし、今回シゲさんと二人だけなら、かなりヤバかっただろう。
 絹江さんがいてくれたおかげで、どうにか捌ききれたような感じだ。
「だがなぁ……そのおかげで、これから大変何だが……」
「そうですね」
 絹江さんが、不安げに尋ねる。
「……これからいったい……?」
 シゲさんは辺りを示すように、指を一回転させた。
「錆鴉(これ)を全部、トラックに積み込む」
 絹江さんは目を丸くさせた。
「えッ……」
 猟人という職業は、ボランティアでは無い。
 赤目を駆除することによって、賃金を得ているのだ。
 その為には、赤目を駆除したことを、証明しなければならない。
 駆除した赤目を環境省直轄の専門の施設、回収センターに運んで行き、そこで確認してもらうと、駆除証明書を発行してくれる。後日、それを元に事務所が国に請求して、お金が発生する。
 いっぱい倒せば、いっぱいお金が入ってくるのだが、いっぱい運び込まなければならない。
 倒したら終わり、という訳では無いのだ。
「先週よりは、マシだけどな」
 シゲさんは、俺を見て豪快に笑った。
 先週は中型サイズの黒狼を、三匹倒したのは良いが、全長が約二メートルを超え、体重も百キロを超えていた。
 それを担架に乗せて、シゲさんと二人で四階から担いで降ろしたのだが、一匹をトラックに積み込んだ時点で、汗は滝のように流れ、腕はパンパンで、膝はガクガクと笑っていた。
 しかも、一匹だけでもこんなに大変なのに、三匹も倒してしまったばかりに、三往復もする羽目になった。
 あれは本当にきつかった……。
「確かに、先週よりかはマシですけど……」
 だからと言って、今回が楽という訳でもないけどね。
 事情が分からずに、絹江さんは怪訝そうな顔をしていたが、これからのことも考えて、この話は軽く流した。
 初日からキツイ話ばかり聞くのも、どうかと思うし、先週みたいなのはイレギュラーで、稀なケースだから、そうそう出会わないだろう。
「数も多いし、とっとと積み込むぞ。でなきゃ日が暮れちまう」
「そうですね」
「分かりました」
 手分けして錆鴉をトラックに積み込んでいったが、やはり数が数なだけに、かなりの時間と労力を要した。
 錆鴉を回収センターに持ち運んで、駆除証明書を発行してもらい、会社に戻るころには、絹江さんは疲労で、大分グッタリとしていた。

 会社に戻ってくると、小鳥遊所長が笑顔で出迎えてくれた。
「ご苦労様です」
 銃を整備して残った弾薬を一緒に返還し、それを小鳥遊所長と、猪口主任に確認してもらった。
 後は報告書を作成して、今日の業務は終了だ。
 報告書の提出を終えて、着替えようかと思ったが、絹江さんが更衣室を使用していたので、時間を潰すことにした。
 一階の販売機でアイスティーを買い、三階に上がって行った。
 三階の入り口手前には灰皿と、ソファーが置いてあって、小鳥遊所長と、シゲさんがタバコを吹かしていた。
「お疲れ様です」
 シゲさんがタバコを差し出した。
「吸うか?」
「一応、未成年です」
 シゲさんが豪快に笑った。
「ハッハッハ――ッ、お前見ているとそう感じなくてなぁ」
 確かに高校生には見えないと、よく言われますけどね。
 それから小鳥遊所長と今日の狩りの話になり、絹江さんの話になった。
「どうでしたか、絹江かのじょは?」
「まぁ、良かったんじゃねえの……なあ?」
 シゲさんから振られて頷いた。
「初戦にしては、よく動けていたと思います」
「そうですか……」
 小鳥遊所長の表情は、どこか残念そうに見えた。
 それからシゲさんと他愛もない話をしていると、下の方から事務所内に向けてと思われる、絹江さんの声が聞こえてきた。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
 絹江さんらしき女性が、階段を下って行くのが見える。
「俺らも帰るか?」
「ですね」
 小鳥遊所長に挨拶をして、その日はそのまま帰宅の途に就いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...