運命の落とし穴

恩田璃星

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羽立くんの事情1

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   急ごしらえしたおかずが並んだちゃぶ台を囲んで、話し合いが始まった。

   「大体、付き合う前に言ったよな?俺、基本的に本気にならないって」

   綺麗に手を合わせて「いただきます」と言ってから、羽立くんはロールキャベツに箸を伸ばした。

   「言ったけど…昴、俺含めてずっと特定のパートナーが居たじゃん?アレも全部本気じゃなかったってわけ?」

   「それは単にトラブル防止のため。一回刺されそうになったことあったから」

   「…っ、じゃあ俺と付き合ってくれたのは、別に俺のことちょっとでも好きだったからじゃないんだ…」

   「それなりに気に入ってはいたけど?あ、奏音さん、ご飯ください」

   「じゃあ…見合いの件は?」

   ご飯を盛ったお茶碗を手渡すと、羽立くんが私の目をチラッと見て、一呼吸置いてからポツリと言った。

   「…昨年、兄が亡くなって」

   「「えっ!?」」

   宮本くんと私の声がキレイにハモった。

   昔、羽立くんから聞いたことがある。

   腹違いらしく、顔は似てないけど、とても優しくて優秀な自慢のお兄さんだと。

   「事故で、あっけなく。俺、兄さんが居てくれたおかげで、遊んだり、会社作ったり結構自由にさせてもらってたんだけど。跡継ぎ候補がいなくなった途端、急に親が俺の素行・・を調べ始めて…バレた」

   「バレたって…」

   「晃と付き合ってること」

   さっき、レストランで昴に切られたと叫んだりしてたので、周囲にもオープンにしているんだと思っていたけど、間違いだったらしい。

   宮本くんの顔から、また血の気が引いていった。

   「晃は元々ストレートだし、『何かの手違い』で世間にバレたら、やっとモデルの仕事が軌道に乗り始めたのに、影響出かねないだろ」

   ってことは、羽立くんが一方的に切ったようにみえて、ちゃんと宮本くんの為だったんだ。

   『ウザい』発言をしたときの羽立くんには驚いたけど、基本的に優しいところは変わってないんだと知って安心した。

   一方宮本くんは、すっかり頭を抱え込んでしまっている。

   その姿に、さっきまで彼に対して同情的だった気持ちが一瞬にして冷めた。

   「私のお見合いに細工して乗り込んで来るほど、羽立くんのこと好きなんじゃなかったの?」

   「好きに決まってるだろ!?でも今はまだ…心の準備とか色々…」

   「いいんですよ、奏音さん。俺も元々本気じゃなかったし。で、晃に迷惑が掛かる前に、別れを切り出そうとしていたタイミングで、床が抜けそうなくらい送られてきていた見合い写真の中に奏音さんを見つけたんです」

   「え…羽立くんが女に興味ないって知ってて、ご両親は何でそんなこと…?」

   「奏音さんの写真見つけたってところはスルーなんですね…いいですけど。まあ、古い考え方の人たちなので…俺のこと、なんとしても『普通の後継者』にしたいんでしょうね」

   それってつまり、羽立くんに『普通に』女性と結婚して、『普通に』子供を作れってこと…?

   「そんな…酷い!羽立くんの気持ち無視して!!」

   「でしょ?俺、可愛そうなんですよ。だから、俺と結婚してください」


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