32 / 111
不毛な戦い1
しおりを挟む
宮本くんにああ言われたものの、真っ直ぐ家に帰って話し合う気になんてなれない。
羽立家の冷蔵庫、飲み物以外何もないんだった。
まだスーパーは開店前の時間帯。
自分に言い訳しながらコンビニに立ち寄って、適当に食材を選んでカゴに突っ込みながら、頭の中の整理をする。
大体さ、話し合うって何を話し合えばいいのよ。
羽立くんが私に恋愛感情がないってことは、さっき本人の口からハッキリ聞いちゃったし。
私が羽立くんに自分の気持ちを伝えたところで、二人の関係がギクシャクするだけで、何もいいことなんてない。
私達が一緒に暮らす本来の目的、『偽装夫婦』が著しくやり辛くなるだけだ。
そうだ。
そうだよ。
この気持ちは、絶対に知られちゃいけない。
例え正式に婚姻届を出しても
例え羽立くんに身体を求められても
羽立くんの心は手に入らないのだから
って、決意を新たにしたのにー
私が玄関のドアノブのレバーを下げたのとほぼ同時。
「奏音さんっ!!」
羽立くんが叫びながら飛び出してきて、ぎゅーっと強く抱きしめられた。
結局、スーパーの開店時間を待って買い込んだ、大量の食材達を両手にぶら下げている私は、されるがままだ。
「どこ行ってたんだよ!?あんな時間に女一人で!!何かあったらどうするんだ!!」
また敬語じゃなくなってる。
本当に、本気で心配してくれていたのが伝わってきて、嬉しくて、切ない。
そして、心臓ごとぎゅっと抱きしめてくる羽立くんの腕がちょっと辛くて、一歩下がった。
それに気づいた羽立くんは、腕を解いて私を開放した。
「何もしないって約束したのに…俺があんなことしたからですか?今も嫌でしたか?」
「嫌じゃないけど…正直困る」
触れれば触れるほど、羽立くんを好きになってしまうから。
「もう一つだけ、聞いていいですか?」
「何?」
「今さらですけど、奏音さんって、誰か好きな人がいるんですか?」
「いるよ」
自分でも驚くほど、即答だった。
さっき、この気持ちは隠し通すと決意したばかりなのに。
今、抱きしめられてしまったせいで、思わず気持ちが溢れてしまった。
半分開き直って、羽立くんの大きく見開かれた目をしっかり見つめたまま、思いを込めて告げる。
「ずっと昔から…好き。どうしようもないくらい好きなの」
『羽立くんのことが』という言葉だけは、辛うじて飲み込んだ。
というのはしょうもない見栄で、本当は勇気がなかっただけだけれど。
一度伏せた目を上げ、羽立くん反応を窺うと、ものすごく深刻な表情。
「そう…ですか」
一言だけつぶやいて、私の両手の荷物を引き取ると、冷蔵庫のあるキッチンに向かって歩き始めた。
『そうですか』って何よ。
『恋愛対象として見られません』って、振るならちゃんと振ってよ。
前を歩く羽立くんの背中が、みるみる涙で滲んでぼやけていく。
しかし、失意の中にいる私は気づいていなかった。
さっきの、羽立くんと宮本くんの話で明らかになった重大な事実を、すっかり忘れてしまっていることに。
羽立家の冷蔵庫、飲み物以外何もないんだった。
まだスーパーは開店前の時間帯。
自分に言い訳しながらコンビニに立ち寄って、適当に食材を選んでカゴに突っ込みながら、頭の中の整理をする。
大体さ、話し合うって何を話し合えばいいのよ。
羽立くんが私に恋愛感情がないってことは、さっき本人の口からハッキリ聞いちゃったし。
私が羽立くんに自分の気持ちを伝えたところで、二人の関係がギクシャクするだけで、何もいいことなんてない。
私達が一緒に暮らす本来の目的、『偽装夫婦』が著しくやり辛くなるだけだ。
そうだ。
そうだよ。
この気持ちは、絶対に知られちゃいけない。
例え正式に婚姻届を出しても
例え羽立くんに身体を求められても
羽立くんの心は手に入らないのだから
って、決意を新たにしたのにー
私が玄関のドアノブのレバーを下げたのとほぼ同時。
「奏音さんっ!!」
羽立くんが叫びながら飛び出してきて、ぎゅーっと強く抱きしめられた。
結局、スーパーの開店時間を待って買い込んだ、大量の食材達を両手にぶら下げている私は、されるがままだ。
「どこ行ってたんだよ!?あんな時間に女一人で!!何かあったらどうするんだ!!」
また敬語じゃなくなってる。
本当に、本気で心配してくれていたのが伝わってきて、嬉しくて、切ない。
そして、心臓ごとぎゅっと抱きしめてくる羽立くんの腕がちょっと辛くて、一歩下がった。
それに気づいた羽立くんは、腕を解いて私を開放した。
「何もしないって約束したのに…俺があんなことしたからですか?今も嫌でしたか?」
「嫌じゃないけど…正直困る」
触れれば触れるほど、羽立くんを好きになってしまうから。
「もう一つだけ、聞いていいですか?」
「何?」
「今さらですけど、奏音さんって、誰か好きな人がいるんですか?」
「いるよ」
自分でも驚くほど、即答だった。
さっき、この気持ちは隠し通すと決意したばかりなのに。
今、抱きしめられてしまったせいで、思わず気持ちが溢れてしまった。
半分開き直って、羽立くんの大きく見開かれた目をしっかり見つめたまま、思いを込めて告げる。
「ずっと昔から…好き。どうしようもないくらい好きなの」
『羽立くんのことが』という言葉だけは、辛うじて飲み込んだ。
というのはしょうもない見栄で、本当は勇気がなかっただけだけれど。
一度伏せた目を上げ、羽立くん反応を窺うと、ものすごく深刻な表情。
「そう…ですか」
一言だけつぶやいて、私の両手の荷物を引き取ると、冷蔵庫のあるキッチンに向かって歩き始めた。
『そうですか』って何よ。
『恋愛対象として見られません』って、振るならちゃんと振ってよ。
前を歩く羽立くんの背中が、みるみる涙で滲んでぼやけていく。
しかし、失意の中にいる私は気づいていなかった。
さっきの、羽立くんと宮本くんの話で明らかになった重大な事実を、すっかり忘れてしまっていることに。
1
あなたにおすすめの小説
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
放課後の保健室
一条凛子
恋愛
はじめまして。
数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。
わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。
ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。
あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる