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奏太の落とし穴3
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その後すぐに始まったミーティングの自己紹介の初っ端、矢吹は全員に対して下の名前で呼んで欲しいと頼んだ。
すると、それを聞いた榎本部長の鶴の一声で、今回のプロジェクトメンバーは、早期に親近感を高めてチームワークを良くするため、全員がお互い名前で呼び合うことになった。
この提案は効果絶大で、ミーティング前は何となくギスギスした雰囲気だったのが、あっという間に打ち解けて、私も『海斗』と呼ぶことにすぐに慣れた。
羽立くんも私のことを『奏音』って呼んでくれたら、私も『昴』って自然に呼べるようになるかも。
仕事中、そんな考えが何度かよぎった。
けれど、週末の結婚式関連行事に備えたすり合わせが必要な私達の間では、お蔵入りの話題になってしまっていた。
羽立くんの提案で別々に寝るようになったことに加え、恐ろしくプロジェクトの進行が順調だったからー。
円香から聞いていた矢吹の前評判は、ある意味当たっていた。
天然人たらしの矢吹は、最難関と思われていたターゲット会社に足繁く通い、まず受付嬢と顔なじみになる。
それを皮切りにどんどん人脈を広げ、あれよあれよという間に購買部の決済権者とのアポに漕ぎ着けてしまうのだ。
やっぱりこれが、見ようによっては取引先の女の子を食い散らかしてる風に見えちゃうんだろうな…。
そして、そこに今回のプロジェクトの目玉である開発部渾身の新製品資料を引っさげた足立さんが加わって、各社に合った内容(もちろん現場レベルも徹底リサーチ済み)のプレゼンを展開。
この作戦を繰り返し、今までいがみ合っていた一課と二課の二人とは思えないほどの連携を見せ、契約件数がうなぎ登っている、というわけ。
ー順調すぎて、多忙過ぎて。
羽立くんに矢吹の存在を知られないようにということだけを心に留めておくのが精一杯になってしまっていた。
*
***
「本当にいいの?」
「この期に及んでまだそんなこと言ってるんですか?こういのは、先に女性側の家に挨拶に行くのが一般的なんですって。それより、早くしてください。もう完全に遅刻ですよ」
「わ、分かってるよ!」
土曜日の今日は、例のA4用紙に書かれた結婚へのミッション第一弾。
うちの実家への挨拶の日。
前日まで残業続きでヘトヘトだった私は、見事に寝坊してしまったのに、今、メイク道具と悪戦苦闘している。
私の知らないところで羽立くんが今日のために準備してくれていたワンピースが、シックなのに華やかで、いつものテキトーメイクだと完全に顔が負けてしまうからだ。
「いつもの奏音さんで十分なのに」
すっかり準備を終えて私の部屋の前でぼやいている羽立くんは、いつもどおりのスーツ姿。
いつもどおりなんだけど、めちゃくちゃカッコいい。
「私がちゃんとしてる方が、大切にされてる感じがして、親も安心するでしょ」
というのは嘘ではない。
でも、本当の本音は、少しでも羽立くんに釣り合って見えるように。
今日はきちんとネイルも施してある。
ま、どんなに頑張ったところで、羽立くんは女性のオシャレに全く興味がないっていうのが悲しいところだけれど。
「できた!お待たせ」
マスカラを塗り終えた私が、勢いよく部屋のドアを開けると、腕組みをして壁に凭れていた羽立くんが、ゆっくりと首を傾げた。
そして、大きな手を私の頬に伸ばす。
えっ?
えっ!?
すると、それを聞いた榎本部長の鶴の一声で、今回のプロジェクトメンバーは、早期に親近感を高めてチームワークを良くするため、全員がお互い名前で呼び合うことになった。
この提案は効果絶大で、ミーティング前は何となくギスギスした雰囲気だったのが、あっという間に打ち解けて、私も『海斗』と呼ぶことにすぐに慣れた。
羽立くんも私のことを『奏音』って呼んでくれたら、私も『昴』って自然に呼べるようになるかも。
仕事中、そんな考えが何度かよぎった。
けれど、週末の結婚式関連行事に備えたすり合わせが必要な私達の間では、お蔵入りの話題になってしまっていた。
羽立くんの提案で別々に寝るようになったことに加え、恐ろしくプロジェクトの進行が順調だったからー。
円香から聞いていた矢吹の前評判は、ある意味当たっていた。
天然人たらしの矢吹は、最難関と思われていたターゲット会社に足繁く通い、まず受付嬢と顔なじみになる。
それを皮切りにどんどん人脈を広げ、あれよあれよという間に購買部の決済権者とのアポに漕ぎ着けてしまうのだ。
やっぱりこれが、見ようによっては取引先の女の子を食い散らかしてる風に見えちゃうんだろうな…。
そして、そこに今回のプロジェクトの目玉である開発部渾身の新製品資料を引っさげた足立さんが加わって、各社に合った内容(もちろん現場レベルも徹底リサーチ済み)のプレゼンを展開。
この作戦を繰り返し、今までいがみ合っていた一課と二課の二人とは思えないほどの連携を見せ、契約件数がうなぎ登っている、というわけ。
ー順調すぎて、多忙過ぎて。
羽立くんに矢吹の存在を知られないようにということだけを心に留めておくのが精一杯になってしまっていた。
*
***
「本当にいいの?」
「この期に及んでまだそんなこと言ってるんですか?こういのは、先に女性側の家に挨拶に行くのが一般的なんですって。それより、早くしてください。もう完全に遅刻ですよ」
「わ、分かってるよ!」
土曜日の今日は、例のA4用紙に書かれた結婚へのミッション第一弾。
うちの実家への挨拶の日。
前日まで残業続きでヘトヘトだった私は、見事に寝坊してしまったのに、今、メイク道具と悪戦苦闘している。
私の知らないところで羽立くんが今日のために準備してくれていたワンピースが、シックなのに華やかで、いつものテキトーメイクだと完全に顔が負けてしまうからだ。
「いつもの奏音さんで十分なのに」
すっかり準備を終えて私の部屋の前でぼやいている羽立くんは、いつもどおりのスーツ姿。
いつもどおりなんだけど、めちゃくちゃカッコいい。
「私がちゃんとしてる方が、大切にされてる感じがして、親も安心するでしょ」
というのは嘘ではない。
でも、本当の本音は、少しでも羽立くんに釣り合って見えるように。
今日はきちんとネイルも施してある。
ま、どんなに頑張ったところで、羽立くんは女性のオシャレに全く興味がないっていうのが悲しいところだけれど。
「できた!お待たせ」
マスカラを塗り終えた私が、勢いよく部屋のドアを開けると、腕組みをして壁に凭れていた羽立くんが、ゆっくりと首を傾げた。
そして、大きな手を私の頬に伸ばす。
えっ?
えっ!?
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