運命の落とし穴

恩田璃星

文字の大きさ
92 / 111

15−3

しおりを挟む
 「変な勘違いするな!俺がニヤけてたのは、奏音さんが俺のキスを羨ましいって言ってくれたからだ!」

 宮本くんと矢吹を威嚇するように羽立くんが咆えた。

 そ、そうだったのか。 

 「…あんまり嬉しそうな顔してるから、海斗が満更でもなさそうなのを喜んでるのかなって私も思ってたよ」

 羽立くんの気持ちを確かめるように胸の中から羽立くんを見上げる。

 「そんなに顔に出てました?」

 私を見下ろすのは、ちょっと照れたような、バツの悪そうな顔。

 「だって…俺、まだちゃんと奏音さんの口から『好き』って言ってもらってないんだから、仕方ないじゃないですか」

 そう言えば、羽立くんは私に電話ではっきり『好きです』と言ってくれたけど、結局私は言わずじまいになっていたのだ。

 「後で二人きりのときに、ちゃんと聞かせてくださいね」

 耳もとに、低く、艶かしい声で囁かれた私が

 「え」

 と漏らして赤い顔で硬直しているとー

 「やめろ!奏音、目を覚ませって。俺の言ったとおりだろう?ゲイなんかと結婚したら、一生今みたいに余計な心配することになるんだって!!」

 ミーティングルームで襲われかけたときにも同じようなことを言っていた。
 そして、その怒れる瞳は、私たちを見ているようで見ていない。

 「羽立そいつ奏音を好きだと言うのは一時的な錯覚だ!錯覚しているうちにまかり間違って子どもでもできたらどうする?ゲイそいつらは、女も子どもも捨てて、男に走るぞ?結局は男しか愛せないんだ。ゲイっていうのはそういう生き物なんだから!!」

 「海斗、いい加減にしなさい」

 あまりの剣幕に気圧され、私は矢吹の頬が叩かれた音を聞くまで、気づいていなかった。

 ソファに座っていたはずの善家社長が立ち上がっていたことにも。
 そして、矢吹の視線の先にいたのが善家社長だったことにも。

 「羽立さん、申し訳ない。大切な商談の場で社員が失礼なことを」

 「いえ、こちらこそ社長の前で大変失礼いたしました。なにせこちらの二人とは色々と縁が深くて。もうお察しとは思いますが、常盤奏音さんは私の婚約者であり、御社の社員。御子息は俺の初恋の人です。こっぴどく振られましたけど」

 羽立くんが矢吹との関係を隠すことなく説明するのを聞いても、もう驚かなかった。

 「そのことについても父親として申し訳ない。高校生という多感な時期に、息子はきっと貴方を深く傷つけたのでしょうね」

 当時の羽立くんに寄り添い、労るような謝罪は、同じような経験があるからだろう。
 同性の相手を好きになり、拒絶された経験がー

 「ハ…こんな時だけ父親ヅラかよ。俺のことをちゃんと息子と思ってるなら、あんたがこれまで俺と母さんにしてきた仕打ちを洗いざらい話して、奏音にゲイと結婚したらどうなるか教えてやってくれよ!!」

 やはり、矢吹は私と羽立くんの未来に、自分の両親を重ねていたのだ。
 一度確信してしまえば、私と羽立くんは善家社長夫妻とは違うと分かっていても、その口から語られる真実が怖くなる。

 どうか、幸せな結婚生活だと言って欲しい。 
 祈るような気持ちで善家社長の言葉を待つ。

 「―確かに私たちの結婚は失敗でした」

 期待を裏切る結果に、軽くめまいがした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

Honey Ginger

なかな悠桃
恋愛
斉藤花菜は平凡な営業事務。唯一の楽しみは乙ゲーアプリをすること。ある日、仕事を押し付けられ残業中ある行動を隣の席の後輩、上坂耀太に見られてしまい・・・・・・。 ※誤字・脱字など見つけ次第修正します。読み難い点などあると思いますが、ご了承ください。

放課後の保健室

一条凛子
恋愛
はじめまして。 数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。 わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。 ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。 あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話

狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。 そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

永久就職しませんか?

氷室龍
恋愛
出会いは五年前。 オープンキャンパスに参加していた女子高生に心奪われた伊達輝臣。 二度と会う事はないだろうと思っていたその少女と半年後に偶然の再会を果たす。 更に二か月後、三度目の再会を果たし、その少女に運命を感じてしまった。 伊達は身近な存在となったその少女・結城薫に手を出すこともできず、悶々とする日々を過ごす。 月日は流れ、四年生となった彼女は就職が決まらず焦っていた。 伊達はその焦りに漬け込み提案した。 「俺のところに永久就職しないか?」 伊達のその言葉に薫の心は揺れ動く。 何故なら、薫も初めて会った時から伊達に好意を寄せていたから…。 二人の思い辿り着く先にあるのは永遠の楽園か? それとも煉獄の炎か? 一回りも年下の教え子に心奪われた准教授とその彼に心も体も奪われ快楽を植え付けられていく女子大生のお話

処理中です...