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肩を引き寄せられたことに気づいたときには、もう遅かった。
「俺も慰謝料もらわなきゃ気が済まない」
そう言って、宮本くんは自分の薄いくちびるを私のそれに軽く重ねた。
「あーーーーーーっ!?」
絶叫したのは、私でも羽立くんでもない。
ちょうどロビーに到着し、開いたエレベーターの扉の向こうにいた円香だった。
「あんっ、あんた!!今っ、今っ、奏音ちゃんに何を!!?」
円香は華奢な体からは想像できないような強い力で、私から宮本くんを引き離し、エレベーターの外に投げ捨てた。
その拍子に宮本くんのウィッグとメガネが飛んだ。
「ちょっと!目の前で大事な婚約者が他の男にキスされたっていうのになにボーっと突っ立ってんのよ!!」
「俺が殴る前にあなたが晃を投げ飛ばすからでしょう?」
ただでさえ羽立くんも円香も目立つのに、こんなところで口論なんか始めたものだから、行き交う社員や来客の好奇の視線がすごい。
「ま、円香、落ち着いて」
「落ち着いてられるわけないでしょう!何なのよ、こいつ!!」
円香がギッと睨み下ろすと、宮本くんは素早く立ち上がって、潰れた頭を手櫛でサッと直した。
「俺、昴の友人で、宮本晃。めっちゃタイプです。付き合ってください」
呆気にとられる円香と私。
ザワつくロビー。
一人冷静な羽立くん。
「…そう言えば、こいつ、超がつくほど面食いだったな」
「そんな!いくら私が可愛いくても、こんな…会って秒で告白する男なんて見たことないわよ!」
「心配するな。俺のときも同じだった」
青ざめる円香なんて気にも止めず、宮本くんは円香との距離を詰めていく。
「ほんと可愛い。毎日でも見てたい」
「や、やめて、来ないで!!」
逃げる円香。
追う宮本くん。
宮本くん、そのうち本当に警察を呼ばれるのではないだろうかと思いながら、二人の姿を見守っていると、私の頭の中を見透かしたように羽立くんが言った、
「高倉さんはタチっぽいから、晃とだったら案外上手くいったりして」
「…寂しくないの?」
「全然、全く。俺には奏音さんがいますから」
そう言って、別れ際にキスを残して羽立くんはタクシーで帰って行った。
シノノメに向かうときの矢吹と二人きりの車中の気まずさと言ったらなかった。
犯そうとした男と、犯されそうになった女。
さすがの私も助手席には乗らずに、助手席側の後部座席に座った。
ただでさえ社長室で受けたショックの癒えてない矢吹が、更に傷ついた顔をしたのは、見ないフリをした。
それでも、いざシノノメに着きプレゼンを始めると、彼は社中の矢吹とは別人と化した。
製品に対する深い知識と、足立さんから得たシノノメの情報を駆使し、担当者から手応えのある反応を引き出していく姿は、素直にすごいと感じ、同じチームの仲間として頼もしく思った。
「…良かったね。プレゼン、上手くいって」
次の客先へ向かう途中、寄ってもらったコンビニで矢吹の分もアイスコーヒーとサンドウィッチを買って手渡す。
矢吹は一瞬、大きく目を見開いてから、それらをそっと受け取った。
「…もう一生口きいてもらえないと思ってた」
自嘲気味な呟きから、矢吹の後悔が伝わってくる。
「私もそう思ってた」
言った途端、矢吹の持っているアイスコーヒの氷が音を立てて震えた。
「…けど、さっきのプレゼン見たら、どうしても乾杯したくなっちゃって」
また羽立くんに『お人好し』と叱られるのは覚悟の上だ。
プラスチック製のカップを突き出すと、矢吹が呆れたようにカップを合わせた。
「お疲れ様」
様々な重荷から解放された彼を、心から労った。
「俺も慰謝料もらわなきゃ気が済まない」
そう言って、宮本くんは自分の薄いくちびるを私のそれに軽く重ねた。
「あーーーーーーっ!?」
絶叫したのは、私でも羽立くんでもない。
ちょうどロビーに到着し、開いたエレベーターの扉の向こうにいた円香だった。
「あんっ、あんた!!今っ、今っ、奏音ちゃんに何を!!?」
円香は華奢な体からは想像できないような強い力で、私から宮本くんを引き離し、エレベーターの外に投げ捨てた。
その拍子に宮本くんのウィッグとメガネが飛んだ。
「ちょっと!目の前で大事な婚約者が他の男にキスされたっていうのになにボーっと突っ立ってんのよ!!」
「俺が殴る前にあなたが晃を投げ飛ばすからでしょう?」
ただでさえ羽立くんも円香も目立つのに、こんなところで口論なんか始めたものだから、行き交う社員や来客の好奇の視線がすごい。
「ま、円香、落ち着いて」
「落ち着いてられるわけないでしょう!何なのよ、こいつ!!」
円香がギッと睨み下ろすと、宮本くんは素早く立ち上がって、潰れた頭を手櫛でサッと直した。
「俺、昴の友人で、宮本晃。めっちゃタイプです。付き合ってください」
呆気にとられる円香と私。
ザワつくロビー。
一人冷静な羽立くん。
「…そう言えば、こいつ、超がつくほど面食いだったな」
「そんな!いくら私が可愛いくても、こんな…会って秒で告白する男なんて見たことないわよ!」
「心配するな。俺のときも同じだった」
青ざめる円香なんて気にも止めず、宮本くんは円香との距離を詰めていく。
「ほんと可愛い。毎日でも見てたい」
「や、やめて、来ないで!!」
逃げる円香。
追う宮本くん。
宮本くん、そのうち本当に警察を呼ばれるのではないだろうかと思いながら、二人の姿を見守っていると、私の頭の中を見透かしたように羽立くんが言った、
「高倉さんはタチっぽいから、晃とだったら案外上手くいったりして」
「…寂しくないの?」
「全然、全く。俺には奏音さんがいますから」
そう言って、別れ際にキスを残して羽立くんはタクシーで帰って行った。
シノノメに向かうときの矢吹と二人きりの車中の気まずさと言ったらなかった。
犯そうとした男と、犯されそうになった女。
さすがの私も助手席には乗らずに、助手席側の後部座席に座った。
ただでさえ社長室で受けたショックの癒えてない矢吹が、更に傷ついた顔をしたのは、見ないフリをした。
それでも、いざシノノメに着きプレゼンを始めると、彼は社中の矢吹とは別人と化した。
製品に対する深い知識と、足立さんから得たシノノメの情報を駆使し、担当者から手応えのある反応を引き出していく姿は、素直にすごいと感じ、同じチームの仲間として頼もしく思った。
「…良かったね。プレゼン、上手くいって」
次の客先へ向かう途中、寄ってもらったコンビニで矢吹の分もアイスコーヒーとサンドウィッチを買って手渡す。
矢吹は一瞬、大きく目を見開いてから、それらをそっと受け取った。
「…もう一生口きいてもらえないと思ってた」
自嘲気味な呟きから、矢吹の後悔が伝わってくる。
「私もそう思ってた」
言った途端、矢吹の持っているアイスコーヒの氷が音を立てて震えた。
「…けど、さっきのプレゼン見たら、どうしても乾杯したくなっちゃって」
また羽立くんに『お人好し』と叱られるのは覚悟の上だ。
プラスチック製のカップを突き出すと、矢吹が呆れたようにカップを合わせた。
「お疲れ様」
様々な重荷から解放された彼を、心から労った。
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