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ジウン
3.耐え
しおりを挟む「はぁ、はぁ、」
次の日から私は訓練に人一倍励んだ。加えて朝と夜の自主練も欠かせなかった。
「おいジウン、お前最近ちょっと頑張りすぎじゃないか?」
「あんまり生き急ぐなよ。」
「はい、これ水。ちょっとは休みなね?」
クラスメートは皆口を揃えて私を心配してくれているが、私は止まる気なんてまっさらない。
「ありがとう。」
人間が獣人に勝つためには。あれから何度も考えて答えを出した。牙も羽もない私達があまりにも不利な世界で、どう立ち向かえば奴らを殺せるのか。獣人は銃をあまり使わない、必要なのは頭脳と銃の技術力だ。いくら牙や羽があったとしても銃の速さには敵うはずがない。それに、不意をつくことの出来る作戦を作戦を考えられれば奴らはなす術がないだろう。
「何か手伝えることあればいつでも言ってくれよな。」
「じゃあ私に銃を教えてくれない?」
私の顔色を窺うかのような目つき。いつもはうざったらしかった彼だが、こういうところは優しいと思う。
狙撃1位のギナムに練習を付き合ってもらえるのはチャンスだ。
「いいけど、無理すんなよ。」
「ありがと。それと、私は無理なんてしてないよ。」
無理をしていると言う自覚はあった。でも自覚があったからといってなんだ。大切な家族や村の人たちに報いるため、あの憎き獣人共を殺すために休んでいる暇なんて1秒もない。
バンッバンッ
まずは拳銃から。授業で習ってはいるものの、何故か私は焦点を上手く合わせることができなかった。
「お前やっぱり下手だよなー。格闘技なら誰にも負けないってのに。」
「うるさい。人には向き不向きがあるでしょ……お、今のどう?」
中心を撃ち抜いた的を指差しながら言うとギナムは呆れた様に笑った。
「たかが一発でそんなにはしゃぐなよ。」
そう言いながらもギナムは私との銃の練習に毎回ちゃんと付き合ってくれた。どうやら見た目に反して教え方が上手なようで、私の実力も少しずつ伸びてきた。
そしてあの事件から2週間が経過し、私たちは再び教官に呼び出された。
「緊急の呼び出しだぞ。何かまたあったんじゃないか?」
「勘弁してくれよ、もう俺らが戦地に駆り出されるほど負けているとでも言うのか?」
「集まったかね。……単刀直入に言おう。国境付近を守っていた最前部隊が壊滅状態となった。」
一切予想していなかった事態に息を呑む。もうこの国は終わってしまうのではという不安が一気に押し寄せてきた。
「嘘だ……。最前部隊はサヒライ軍最高峰の軍事力を持っているんだぞ……。」
周りがざわざわし始める。でもまさか最前部隊が一歩も敵の陣地に踏み入れることもできないまま2週間でやられてしまうとは思わなかった。
「悔しいが中央部隊も危ないだろう。君たちの力が必要だ、どうか力を貸してほしい。」
頭を深々と下げた教官を見るのは初めてだった。先ほどまでざわざわしていた周りは静かになっていて、皆顔を青白くして俯いている。まだ訓練を初めて5ヶ月の軍校1年というまだ軍人になりきれていない私達に、果たして何が出来るのだろうか。
「これは強制ではない。国民を危険に晒してでも逃げたいと思うものは担当に言ってくれ。」
教官の言葉に周りが困惑していた。それもそのはずこんな言葉をかけられたら逃げることなどできないだろう。
「明日の朝ここで配属部隊を発表する。では、ジウン・アルト以外は解散。」
教官が私に?襲撃を受けたアンファン村のことだろうか。
「ジウン・アルトです。」
教官の目を見て伝える。教官と2人きりで話すのは初めてだった。
「あぁ、知っているよ。君の村を守ってやれず、すまなかった。」
教官は申し訳なさそうな顔で謝罪をした。違う、教官のせいではない。
「いえ、教官のせいではありません。全て私の責任です。」
私がそういうと教授は驚いたように目を見開いた。少しの沈黙の後、先に口を開いたのは教官の方だった。
「君が何をしたと言うのだね?」
「……あの日私が村に残っていれば一人でも多くの命を救えました。」
私が淡々とそう言うと、教官は少し寂しそうな顔をして話を進めた。
「そうだな、そうかも知れない。でもあの時の君の判断は正しかったと思える日が来ることを願っているよ。」
正しかったと思える日。果たして自分にそんな日が来るのだろうか。
「ところでなんだが、ソア・シュルツを知っているね?」
「はい、以前アンファン村の件でお世話になりました。」
「君は今日から彼女の班に配属してもらう。シュルツが君を欲しがっていてね。」
少佐の班。少佐がどういう思いで私をスカウトしてくれたのか分からないが知っている人で少し安心した。
「王都を守る部隊だ。敵がいつどこから現れるか分からない今、王は狙われやすくなるだろう。刺客を必ず捉え、情報を抜き出してほしい。」
「全力で努めます。」
私の事情を知っているシュルツ少佐がスカウトしてくれた先が、まさか王の付近での配属だとは思ってもいなかった。だか、私は少佐を信じて進むしかないのだろう。クラスメートの中には明日以降命を絶やす人もいるだろう。私のその一人になるかも知れない。だが不思議と怖くはなかった。
私は早速荷物をまとめて迎えの上官が待っているという場所へ向かった。
「ジウン、死ぬなよ。」
最後になるかもしれない会話だからだろうか、ギナムが珍しく真剣な顔で話しかけてくる。自分だって不安でいっぱいの筈なのに私のことまで気を遣ってくれているみたいでありがたい。
「ありがとう。ギナムも死なないで。みんなまた会おう。」
「今日から配属になりました、ジウン・アルトです。これからよろしくお願いします。」
敬礼と共に挨拶をする。
「ソア・シュルツです。昨日昇級したから中佐ね。よろしく。」
私は差し出された左手を強く握り締めた。今日から私も一人前の軍人なのだと実感が湧く。
「……と言うわけで今日から配属のジウン・アルト。新兵だから、皆困ってたら助けてあげて。以上。」
「北軍校出身、ジウン・アルトです。よろしくお願いします。」
13人の上官達は笑顔で迎えてくれた。雰囲気で分かる、ここには外と違って切羽詰まった様子の人は一人もいない。まるで戦争なんて起こっていないかのように静かだった。
「ジウン、ちょっと話しようか。」
「はい。」
「ここは最前と比べ物にならないほどに安全。あなたはクラスの誰よりも安全な所に配属されたの。」
待ってくれ、話が違うじゃないか。私は中佐を信じていたのに。
「でもこの仕事は一番大事とも言える。私達が全滅した場合、この国は敗北する。分かる?」
私の思いが伝わったのか、促すように強めの口調で中佐は言った。
「分かっています。でも……。」
どうしても故郷のことを思い出してしまう。私と仲の良かった人たちがまた遠くへ行ってしまうかも知れない。家族や村の人達と違って彼らは予備軍生なのに怖かった。
「仲間を信じて。あなたは重要な役目を任されているのよ。」
手を掴まれてハッとする。重要な役目……確かにここが破れたらこの国は終わりだ。そして刺客を捕まえることができればこの国に大きく貢献ができるだろう。そんな重要な役目から逃げる行為を取ろうとしたのか、私は。
「……全力で努めます。」
「うん、それでいい。」
中佐は安心したような表情でその場を離れた。
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