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第四章
無茶な願い
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シモンの屋敷を後にすると、私は仕事部屋へと戻って来ていた。
そのままやり残していた仕事を片付けていると、次第に夜が訪れ、外は闇に染まっていく。
淡々と作業をこなす中一通り仕事を終えた頃には、金色の月は高く昇り、大分夜が更けていた。
その様子に私は仕事切り上げ、王宮にある自室へ戻ると、扉の前に人影が映った。
薄暗い廊下へ目を凝らしてみてみると、そこには緩やかなカーブがかったブロンドの髪が現れる。
「エヴァン様……、夜分遅くに申し訳ございません」
よく知るその声に足を進めていくと、そこには俯き加減で佇む、ステラの姿があった。
「どうしたのですか?こんな夜更けに、シモン殿が心配しますよ。……っっ、泣いて……いらっしゃるのでしょうか……」
窓から差し込む光で彼女の顔が浮かび上がると、目元が薄っすらと赤く腫れていた。
するとステラは慌てた様子でハンカチを取り出すと、涙を拭っていく。
その様子を只々眺めていると、彼女は徐に顔を上げた。
潤んだ瞳が映し出されると、彼女はそのまま私へ縋りつくように手を伸ばす。
突き飛ばすことも出来ず……私はその腕を受け入れると、彼女は胸の中へ顔を埋めた。
「っっ……お気づきかもしれませんが、私はエヴァン様をお慕いしております。……ですがあなたにはその気持ちが無い事は重々承知しておりますの。……婚約して頂けないことも……。今日私は屋敷でお兄様とエヴァン様のお話を聞きました。きっと私には別の婚約者があてがわれてしまうでしょう。それはしょうがない事だと、理解しております。でも……私は……エヴァン様を愛しているの……うぅっ、っっ」
彼女は私の体へ腕を回すと、強く強く抱きしめていく。
声を殺しながら胸を濡らしていくその姿に、私はどうすることも出来なかった。
「私は……エヴァン様に助けて頂いてから、いえ……初めて見た時から、ずっと……。夜会や王宮、時には街で何度もお見かけしましたわ。……でもエヴァン様は私に気が付いてくれる事はありませんでした。エヴァン様が女性嫌いだというのは有名ですし、私には話しかける勇気もなかった。……でもこの年になって、私に婚約者との話題があがりました。……その時に強く思ったのです……。他のどんな男性よりも、エヴァン様が良いと……。だから私はお兄様に頼み込んだ。このまま私の存在がエヴァン様に知られないままに、誰かの物になるのは嫌だったから。だから……強引にあなたに近づくために、魔法の訓練をきっかけにして、あなたの傍に……。だってエヴァン様は魔法を好きだから、こういえば一緒に居られると思ったの……」
彼女の震える声に、私はこうなる前に、彼女から離れるべきだったと今更ながらに後悔する。
「すみません……。そのような気持ちがあったのでしたら……こうなる前に断ればよかったですね」
「違うわ!!違う……私はエヴァン様の傍に居れた事が何よりも幸せだった。でもいざ別の婚約者が出来るとわかって……私はこの気持ちに終焉を打たなければいけないと……そう思って……」
ステラは勢いよく顔を上げると、潤んだ瞳で私を見上げた。
「エヴァン様……お願いです。私を抱いて頂けませんか……?こんなはしたないお願いをしてごめんなさい。でも……、私は好きでもない人に初めてを捧げるのは嫌なのです!エヴァン様に気持ちが無くても構いません。この事は誰にも話さない。エヴァン様が私を抱いて頂けるのであれば、もう今後一切私はエヴァン様の前に現れることはしません。だからお願いします!私を……っっ」
突拍子もない言葉に唖然とする中、彼女の瞳は真剣そのものだ。
縋りつく手に力が入る中、私は小さく息を吐きだした
これは……厄介な事になりましたね。
彼女はこう言ってはいますが、いざ私が彼女のいう通りのままに抱けば、きっとシモン殿が気づくでしょう。
なぜなら……抱けば……魔力が混ざり合ってしまう……。
そうなれば……無理矢理に婚約話を進める可能性もある。
だが……ここで突き放せば、きっと彼女はまた来るだろう。
彼女の瞳がそう言っている。
「ステラお嬢様、落ち着いてください」
「エヴァン様、私は本気です!!お願い!!」
彼女は必死に背筋を伸ばすと、私の唇を奪おうと顔を寄せる。
その姿に反射的に後退すると、彼女の瞳が悲しく揺れていた。
「エヴァン様!!私は抱いて頂けるまで、毎日来ますわ!」
はっきりと言い切った彼女の言葉に私は大きくため息をつくと、腕を強引に引き寄せ部屋の中へと引っ張り込む。
そのまま壁に押し付け腕を縫い付けると、彼女は小さく震えていた。
「はぁ……私は怯える女性を襲う趣味はございません」
そう冷たく言い放ち、押さえつけていた腕の力を抜くと、冷めた瞳を浮かべて見せる。
そのまま彼女から離れようとすると、グイっとローブが強く引き寄せられた。
「ちがっ、これは……少し緊張しているだけですわ!怖いわけではございません!」
彼女の震えがローブから微かに伝わってくる中、私は心の中で深いため息をついていた。
これは……どうするべきか。
無理難題に頭を抱える中、ふと窓の外へ視線を向けると、月が真っ赤に染まっていた。
紅月はまだ先のはず……それに先ほど見た月は金色だった、なのに一体どういうことでしょうか。
驚きのあまり目を見開きながらじっと赤い月を見上げていると、突然に体が突き飛ばされ、ベッドの上へ押し倒される。
私は慌てて体を起こすと、目の前にはステラの姿があった。
彼女は倒れ込む私に跨るように抑え込むと、服を脱ごうと手を伸ばしていた。
その手を慌てて捕らえると、彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちていく。
「ステラお嬢様、おやめください」
「いやっ、嫌っ、!!!私は本気ですわ!エヴァン様お願い……っっ」
これはもう……魔法で眠ってもらうしかありませんね……。
私は手の平へ魔力を集めると、彼女の瞳へと優しく触れる。
そのまま眠りを誘う様に魔力を流し込んでいく中、突然に彼女の腕が私の手を捕えた。
捕まれた手から鈍い痛みが走り、女性とは思えぬ力に動揺する。
ふと指の隙間から映し出された瞳は、いつもの淡いピンク色ではなく……深いブラウンに染まり、その瞳に私は驚愕のままに体を硬直させた。
そのままやり残していた仕事を片付けていると、次第に夜が訪れ、外は闇に染まっていく。
淡々と作業をこなす中一通り仕事を終えた頃には、金色の月は高く昇り、大分夜が更けていた。
その様子に私は仕事切り上げ、王宮にある自室へ戻ると、扉の前に人影が映った。
薄暗い廊下へ目を凝らしてみてみると、そこには緩やかなカーブがかったブロンドの髪が現れる。
「エヴァン様……、夜分遅くに申し訳ございません」
よく知るその声に足を進めていくと、そこには俯き加減で佇む、ステラの姿があった。
「どうしたのですか?こんな夜更けに、シモン殿が心配しますよ。……っっ、泣いて……いらっしゃるのでしょうか……」
窓から差し込む光で彼女の顔が浮かび上がると、目元が薄っすらと赤く腫れていた。
するとステラは慌てた様子でハンカチを取り出すと、涙を拭っていく。
その様子を只々眺めていると、彼女は徐に顔を上げた。
潤んだ瞳が映し出されると、彼女はそのまま私へ縋りつくように手を伸ばす。
突き飛ばすことも出来ず……私はその腕を受け入れると、彼女は胸の中へ顔を埋めた。
「っっ……お気づきかもしれませんが、私はエヴァン様をお慕いしております。……ですがあなたにはその気持ちが無い事は重々承知しておりますの。……婚約して頂けないことも……。今日私は屋敷でお兄様とエヴァン様のお話を聞きました。きっと私には別の婚約者があてがわれてしまうでしょう。それはしょうがない事だと、理解しております。でも……私は……エヴァン様を愛しているの……うぅっ、っっ」
彼女は私の体へ腕を回すと、強く強く抱きしめていく。
声を殺しながら胸を濡らしていくその姿に、私はどうすることも出来なかった。
「私は……エヴァン様に助けて頂いてから、いえ……初めて見た時から、ずっと……。夜会や王宮、時には街で何度もお見かけしましたわ。……でもエヴァン様は私に気が付いてくれる事はありませんでした。エヴァン様が女性嫌いだというのは有名ですし、私には話しかける勇気もなかった。……でもこの年になって、私に婚約者との話題があがりました。……その時に強く思ったのです……。他のどんな男性よりも、エヴァン様が良いと……。だから私はお兄様に頼み込んだ。このまま私の存在がエヴァン様に知られないままに、誰かの物になるのは嫌だったから。だから……強引にあなたに近づくために、魔法の訓練をきっかけにして、あなたの傍に……。だってエヴァン様は魔法を好きだから、こういえば一緒に居られると思ったの……」
彼女の震える声に、私はこうなる前に、彼女から離れるべきだったと今更ながらに後悔する。
「すみません……。そのような気持ちがあったのでしたら……こうなる前に断ればよかったですね」
「違うわ!!違う……私はエヴァン様の傍に居れた事が何よりも幸せだった。でもいざ別の婚約者が出来るとわかって……私はこの気持ちに終焉を打たなければいけないと……そう思って……」
ステラは勢いよく顔を上げると、潤んだ瞳で私を見上げた。
「エヴァン様……お願いです。私を抱いて頂けませんか……?こんなはしたないお願いをしてごめんなさい。でも……、私は好きでもない人に初めてを捧げるのは嫌なのです!エヴァン様に気持ちが無くても構いません。この事は誰にも話さない。エヴァン様が私を抱いて頂けるのであれば、もう今後一切私はエヴァン様の前に現れることはしません。だからお願いします!私を……っっ」
突拍子もない言葉に唖然とする中、彼女の瞳は真剣そのものだ。
縋りつく手に力が入る中、私は小さく息を吐きだした
これは……厄介な事になりましたね。
彼女はこう言ってはいますが、いざ私が彼女のいう通りのままに抱けば、きっとシモン殿が気づくでしょう。
なぜなら……抱けば……魔力が混ざり合ってしまう……。
そうなれば……無理矢理に婚約話を進める可能性もある。
だが……ここで突き放せば、きっと彼女はまた来るだろう。
彼女の瞳がそう言っている。
「ステラお嬢様、落ち着いてください」
「エヴァン様、私は本気です!!お願い!!」
彼女は必死に背筋を伸ばすと、私の唇を奪おうと顔を寄せる。
その姿に反射的に後退すると、彼女の瞳が悲しく揺れていた。
「エヴァン様!!私は抱いて頂けるまで、毎日来ますわ!」
はっきりと言い切った彼女の言葉に私は大きくため息をつくと、腕を強引に引き寄せ部屋の中へと引っ張り込む。
そのまま壁に押し付け腕を縫い付けると、彼女は小さく震えていた。
「はぁ……私は怯える女性を襲う趣味はございません」
そう冷たく言い放ち、押さえつけていた腕の力を抜くと、冷めた瞳を浮かべて見せる。
そのまま彼女から離れようとすると、グイっとローブが強く引き寄せられた。
「ちがっ、これは……少し緊張しているだけですわ!怖いわけではございません!」
彼女の震えがローブから微かに伝わってくる中、私は心の中で深いため息をついていた。
これは……どうするべきか。
無理難題に頭を抱える中、ふと窓の外へ視線を向けると、月が真っ赤に染まっていた。
紅月はまだ先のはず……それに先ほど見た月は金色だった、なのに一体どういうことでしょうか。
驚きのあまり目を見開きながらじっと赤い月を見上げていると、突然に体が突き飛ばされ、ベッドの上へ押し倒される。
私は慌てて体を起こすと、目の前にはステラの姿があった。
彼女は倒れ込む私に跨るように抑え込むと、服を脱ごうと手を伸ばしていた。
その手を慌てて捕らえると、彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちていく。
「ステラお嬢様、おやめください」
「いやっ、嫌っ、!!!私は本気ですわ!エヴァン様お願い……っっ」
これはもう……魔法で眠ってもらうしかありませんね……。
私は手の平へ魔力を集めると、彼女の瞳へと優しく触れる。
そのまま眠りを誘う様に魔力を流し込んでいく中、突然に彼女の腕が私の手を捕えた。
捕まれた手から鈍い痛みが走り、女性とは思えぬ力に動揺する。
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