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第四章
閑話:世界の声(審判者視点)
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よかった、ほんまよかったわ……、あの子が生き返ることが出来て。
一時はどうなる事かおもてたけど、ダレルをこの世界へ残して正解やったな。
うちにはどうやっても、あの子を助けてあげられへんかったさかい。
昔犯した罪のせいで……うちは世界に縛られとるんやから……。
それにしても時空移転魔法まで使って、死んだ男の為に自分の生まれた世界でもない場所を救おうなんて、全くお人よしで、自己犠牲もええとこやで。
そんな事……うちには出来へんかったからなぁ……。
うちはあいつが居なくなった世界を、認めることが出来へんかった……。
認めて……うちもあの子みたいにすれば、世界はこたえてくれたんやろうか……。
そんな事を考える中、うちは彼女が通るだろう道へ先回りすると、まだ彼女の姿は、まだどこにも見えない。
だが、彼女は必ずここを通る。
通らなければ、世界への扉を開くことは出来へんからな。
彼女が来るまでの間に、うちはポンポンと魔法で扉をいくつか召喚していくと、彼女が望む扉を見つけだしておく。
そのままそこで待ち続けていると、どこからか彼女の温かい魔力を、微かに感じた。
彼女の存在近い、そう理解すると、うちはブロンドの髪をまとめながらに顔を上げた。
風と共に頭上から小さな影が現れると、それは次第に大きくなり、彼女の姿がはっきりと映る。
消えかけていた体は元へ戻ってはいたが……左手にあったシルバーのリングは無くなっていた。
「やっと来たなぁ~待ちくたびれたで」
そう冗談めかしに笑みを浮かべると、彼女は大きく目を見開いたままに固まっていた。
するとうちの姿に彼女は何かを察すると、ポケットや、ローブの中をゴソゴソと漁り始める。
「ごめんなさい、通行料よね……?」
「察しがええなぁ~」
そんな彼女の様子に、クスクスと肩を揺らし笑って見せると、漆黒の瞳と視線が絡む。
あぁ、ええなぁ。
その吸い込まれそうな黒、美しい瞳に髪……ほしなぁ。
でもそれよりも、うちにはもっと欲しいもんがあるんや。
「何が必要なのかしら?」
彼女の問いかけにうちはニッコリ笑みを浮かべると、漆黒の瞳を真っすぐに見つめ返した。
「あんたの名前が欲しい」
「えっ、またなの!?」
目を丸くする彼女の傍へ寄ると、首筋へ優しく手を伸ばした。
彼女はビクッと小さく体を震わせる中、うちはそっと彼女の耳元へ顔を寄せていく。
「どうする?名前以外はいらん……。ここを通りたかったらこの条件を飲むしかないで。もし断るようやったら……せやなぁ、このまま死後の世界へ送り届けるで」
「……っっ、わかったわ……」
緊張した様子が伝わる中、彼女はコクリと深く頷く姿に、うちは翳した手に魔力を集めていく。
そうして彼女の名前を魔力で抜き出すと、大事に大事に仕舞い込んだ。
「ねぇ、どうしてあなたは私の名前を欲しいの?」
遠慮がちにそう彼女は質問する。
「う~ん、それは秘密や。それよりもこの扉を抜けたら、あの男がいる城へ戻れるで」
「ちょっと待って、聞きたいのだけれど……。名前は本名以外なら名乗っても大丈夫なのかしら?暮らしていくには、名前がないと色々不便だと思うのよね」
彼女の言葉に奪った名前を取り出すと、うちは考え込むように首を傾げた。
今かけた呪いであれば、愛称であっても使う事はできへんやろう。
まぁ、彼女の言う通り、生活するには不便か。
うちはまた彼女へ手を伸ばすと、漆黒の瞳を覗き込む。
「あ~、せやなぁ。ちょっと待ってな」
うちは彼女の喉へ手を翳すと、再度魔力を流し込んでいく。
彼女の体は魔力を弾くが……呪いは肌に移すだけ、何の問題もない。
呪符を少し書き換えると、うちは徐に彼女から体を離した。
「これで大丈夫やな。本名は名乗れやんままやけど、愛称なら大丈夫やで」
彼女の安心した様子を横目に、うちはあの城へと続く扉の前へ近づいていく。
「せや、魔法はそのままつかえるで。基本は全てを最初に……いやあんたが召喚された時点と同じように戻さなあかんのやけど、あんたにはうちの魔法が効かへんさかいな。だから記憶も奪われへん。エヴァンちゅう男の記憶は奪ってあるから、ここに来たことは覚えてへんで。……本来であれば、この狭間は、あの世界の住人が知ってはアカンのや」
そう話しながら、ポケットからカギを取り出そうと手を伸ばすと、あるはずの扉の鍵が見当たらない。
ゴソゴソとあちらこちらポケットの中を漁って見るが、どこにも白く丸い扉のカギは見つからなかった。
「どうかしたの?」
うちの様子に彼女は不思議そうに顔をむける中、ふと一本のカギが彼女の足元へ落ちていた。
それは城へ続く扉のカギではなく、別のカギだ。
気になり拾い上げてみると、カギから世界の鼓動、意志を感じ取れる。
……世界は彼女をこの扉へ向かわせたいんやろうか。
そう頭の中で考えると、鍵がひとりでに光を放った。
それを世界からの肯定の意だと受け取ると、うちはこの鍵に合う扉を召喚し直していく。
現れた扉は初めて見る形状で、正方形の質素な木の扉だった。
どこへ続くかわからん扉に息を呑む中、恐る恐るカギを近づけてみる。
するとガチャリと音を立て扉が開くと、隙間から黒煙が漏れ始めた。
「……なんやこれ……」
そうボソッと呟いた瞬間、黒煙は彼女の姿を一気に飲み込むと、そのまま扉の中へ消えていく。
呆然とする中、消えゆく彼女の姿を眺めていると、扉はひとりでに閉まり消えていった。
*********************************
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。
第四章は他の章に比べかなり短くなってしまいましたが……(-_-;)。
次回から新たな章がスタートです!
新たな謎、冒険、そして彼らとの恋愛事情をお楽しみ頂けると幸いです。
一時はどうなる事かおもてたけど、ダレルをこの世界へ残して正解やったな。
うちにはどうやっても、あの子を助けてあげられへんかったさかい。
昔犯した罪のせいで……うちは世界に縛られとるんやから……。
それにしても時空移転魔法まで使って、死んだ男の為に自分の生まれた世界でもない場所を救おうなんて、全くお人よしで、自己犠牲もええとこやで。
そんな事……うちには出来へんかったからなぁ……。
うちはあいつが居なくなった世界を、認めることが出来へんかった……。
認めて……うちもあの子みたいにすれば、世界はこたえてくれたんやろうか……。
そんな事を考える中、うちは彼女が通るだろう道へ先回りすると、まだ彼女の姿は、まだどこにも見えない。
だが、彼女は必ずここを通る。
通らなければ、世界への扉を開くことは出来へんからな。
彼女が来るまでの間に、うちはポンポンと魔法で扉をいくつか召喚していくと、彼女が望む扉を見つけだしておく。
そのままそこで待ち続けていると、どこからか彼女の温かい魔力を、微かに感じた。
彼女の存在近い、そう理解すると、うちはブロンドの髪をまとめながらに顔を上げた。
風と共に頭上から小さな影が現れると、それは次第に大きくなり、彼女の姿がはっきりと映る。
消えかけていた体は元へ戻ってはいたが……左手にあったシルバーのリングは無くなっていた。
「やっと来たなぁ~待ちくたびれたで」
そう冗談めかしに笑みを浮かべると、彼女は大きく目を見開いたままに固まっていた。
するとうちの姿に彼女は何かを察すると、ポケットや、ローブの中をゴソゴソと漁り始める。
「ごめんなさい、通行料よね……?」
「察しがええなぁ~」
そんな彼女の様子に、クスクスと肩を揺らし笑って見せると、漆黒の瞳と視線が絡む。
あぁ、ええなぁ。
その吸い込まれそうな黒、美しい瞳に髪……ほしなぁ。
でもそれよりも、うちにはもっと欲しいもんがあるんや。
「何が必要なのかしら?」
彼女の問いかけにうちはニッコリ笑みを浮かべると、漆黒の瞳を真っすぐに見つめ返した。
「あんたの名前が欲しい」
「えっ、またなの!?」
目を丸くする彼女の傍へ寄ると、首筋へ優しく手を伸ばした。
彼女はビクッと小さく体を震わせる中、うちはそっと彼女の耳元へ顔を寄せていく。
「どうする?名前以外はいらん……。ここを通りたかったらこの条件を飲むしかないで。もし断るようやったら……せやなぁ、このまま死後の世界へ送り届けるで」
「……っっ、わかったわ……」
緊張した様子が伝わる中、彼女はコクリと深く頷く姿に、うちは翳した手に魔力を集めていく。
そうして彼女の名前を魔力で抜き出すと、大事に大事に仕舞い込んだ。
「ねぇ、どうしてあなたは私の名前を欲しいの?」
遠慮がちにそう彼女は質問する。
「う~ん、それは秘密や。それよりもこの扉を抜けたら、あの男がいる城へ戻れるで」
「ちょっと待って、聞きたいのだけれど……。名前は本名以外なら名乗っても大丈夫なのかしら?暮らしていくには、名前がないと色々不便だと思うのよね」
彼女の言葉に奪った名前を取り出すと、うちは考え込むように首を傾げた。
今かけた呪いであれば、愛称であっても使う事はできへんやろう。
まぁ、彼女の言う通り、生活するには不便か。
うちはまた彼女へ手を伸ばすと、漆黒の瞳を覗き込む。
「あ~、せやなぁ。ちょっと待ってな」
うちは彼女の喉へ手を翳すと、再度魔力を流し込んでいく。
彼女の体は魔力を弾くが……呪いは肌に移すだけ、何の問題もない。
呪符を少し書き換えると、うちは徐に彼女から体を離した。
「これで大丈夫やな。本名は名乗れやんままやけど、愛称なら大丈夫やで」
彼女の安心した様子を横目に、うちはあの城へと続く扉の前へ近づいていく。
「せや、魔法はそのままつかえるで。基本は全てを最初に……いやあんたが召喚された時点と同じように戻さなあかんのやけど、あんたにはうちの魔法が効かへんさかいな。だから記憶も奪われへん。エヴァンちゅう男の記憶は奪ってあるから、ここに来たことは覚えてへんで。……本来であれば、この狭間は、あの世界の住人が知ってはアカンのや」
そう話しながら、ポケットからカギを取り出そうと手を伸ばすと、あるはずの扉の鍵が見当たらない。
ゴソゴソとあちらこちらポケットの中を漁って見るが、どこにも白く丸い扉のカギは見つからなかった。
「どうかしたの?」
うちの様子に彼女は不思議そうに顔をむける中、ふと一本のカギが彼女の足元へ落ちていた。
それは城へ続く扉のカギではなく、別のカギだ。
気になり拾い上げてみると、カギから世界の鼓動、意志を感じ取れる。
……世界は彼女をこの扉へ向かわせたいんやろうか。
そう頭の中で考えると、鍵がひとりでに光を放った。
それを世界からの肯定の意だと受け取ると、うちはこの鍵に合う扉を召喚し直していく。
現れた扉は初めて見る形状で、正方形の質素な木の扉だった。
どこへ続くかわからん扉に息を呑む中、恐る恐るカギを近づけてみる。
するとガチャリと音を立て扉が開くと、隙間から黒煙が漏れ始めた。
「……なんやこれ……」
そうボソッと呟いた瞬間、黒煙は彼女の姿を一気に飲み込むと、そのまま扉の中へ消えていく。
呆然とする中、消えゆく彼女の姿を眺めていると、扉はひとりでに閉まり消えていった。
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ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。
第四章は他の章に比べかなり短くなってしまいましたが……(-_-;)。
次回から新たな章がスタートです!
新たな謎、冒険、そして彼らとの恋愛事情をお楽しみ頂けると幸いです。
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