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第五章
新章2:旅の頁
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そんな微笑ましい光景を眺める中、シナンを抱いたままに軽くジャンプをすると、私は馬車の外へ飛び出した。
人がたくさん行きかう光景に、シナンは小さく体を震わせると、私の胸へギュッとしがみつく。
その姿が可愛すぎて思わず抱きしめてみると、シナンは擽ったそうに身をよじらせた。
「大丈夫よ、私がいるわ」
そうシナンの耳元で囁いてみると、彼は弱弱しく頷きながらに、震えが次第に収まっていく。
そんなシナンの背を優しくさすっていると、両親と合流した子供たちが、顔をほころばせながらに、こちらへ手を振る姿が目に映った。
その姿に私も笑みを浮かべながら手を振り返していると、一人の少女が私の前へと駆け寄ってくる。
少女の後ろには両親だろう……彼女によく似た二人の夫婦が私へ深く頭を下げた。
「お姉様、本当にありがとうございました。私もお姉様のように強い女性になりたいですわ」
「この度は娘を助けてくれてありがとう。君が居なかったらと思うと、恐ろしい。……もしよければお礼をさせてもらえないだろうか」
「えぇ、ぜひ私たちの家に来て頂戴。美味しい物をごちそうするわ」
そう言いながら二彼女の母親だろう女性は、私の傍へやってくると、優しい笑みを浮かべた。
「いえいえ、大丈夫です。私は何もしておりませんし……実際に救い出したのは、今はここにおりませんが……カミールという男性の方です」
「いやいや、君は娘が連れていかれそうになった時、身を挺して守ってくれんだろう。心から感謝する。可愛い娘が手篭にされたかもしれない」
「あっ、では……お気持ちだけ頂いておきます」
そうやんわりと断りを口にすると、少女は私の胸の中にいるシナンへきつい視線を向ける。
シナンはその視線に気が付いたのか……そっと顔を上げると、フードの中からグレーの瞳を覗かせた。
「あなた……お姉様に何かしたら許さないわよ!!!」
「……僕は……そんな……こと……しない……っっ」
怒りを含む少女の言葉に私は深く息を吐きだすと、彼女から隠す様にシナンを抱きしめる。
「シナンはそんなことしないわ。無駄な心配よ」
「お姉様っっ、でも……こいつ獣人なんだよ!!!」
獣人と言う言葉が辺りに響き渡ると、先ほどまで騒がしかった大通りが突然にシーンと静まり返り、何とも言えない空気が漂い始めた。
歩いていた人々が立ち止まり、嫌悪した表情を見せると、ザワザワと騒ぎ始める。
そんな中、両親は大きく目を見開きながらに少女を抱えると、逃げるように私たちの傍から離れていった。
道を歩く大人たちがコソコソとこちらを見ながら何か話したかと思うと、蔑むような眼差しをこちらへ向けてくる。
その視線から慌ててシナンを隠すと、私は馬車の裏へと身を隠した。
はぁ……ここはシナンにとって……生きにくい場所ね……。
居心地の悪い雰囲気が漂う中、私はサッと馬車から離れると、カミールが向かったドーム状の建物の傍へと走っていく。
人の目を避けながらに進んでいくと、ただっぴろい芝生へとたどり着いた。
すぐそばにはドームの中へ続くだろう出入口が見える。
私はとりあえずそこで立ち止まると、近くにあったベンチへと腰かけた。
シナンを隣へ座らせ、カミールの姿を探す中、彼は怯えたように頭を垂れ、伏せている。
するとシナンは震える唇を持ち上げると、蚊の鳴く声で囁いた。
「おねぇさん……ごめんなさい。僕のせいで……」
「違うわ。シナンは何も悪くないじゃない。悪いのは獣人に対して侮辱するこの風潮よ。私自身この街の事をよくわからないから、はっきりとは否定しきれないけれど……シナンはそのままでいいのよ」
そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、シナンは潤んだ瞳で私を見上げた。
そんな彼の頭をヨシヨシとさすると、彼の表情が次第に和らいでいく。
そうして暖かい日差しが差し込む中、二人でベンチに腰かけていると、私たちが乗ってきた馬車がどこかへと連れられていく。
その様子をぼうと眺める中、子供達は皆両親と合流し、その場にいなくなっていた。
シナンのお父さんとお母さんは……そう口にしようとするが、私はそっと口を閉じると、静かに考え込んだ。
シナンの両親は迎えに来るのかしら……。
いえ……名前も付けず愛情も注いでいない様子……。
来たとしても……シナンにとって、それがいい事なの……?
いえ、こんなにも人怯えて、苦しむ子供を……そのままにしておけないわ……。
そんな事を考えながらにそっとシナンへ視線を落とすと、彼はフードを深くかぶり、存在を消す様に静かに息をひそめていた。
もし万が一……シナンの両親が来なかったら……将又来たとしてもシナンが嫌だと拒絶したら……その時はどうしようかしら……。
私が引き取る……?
でも私はこの街には居られない。
もし私がシナンを連れて行くとなると、一緒に旅をすることになるわ。
旅はきっと……小さな体に負担をかけてしまうでしょう。
それでも私は……この街に居続ける事はできない。
だって私はあの街へ……いえ、エヴァンに会いに行かなければいけないもの。
はぁ……とりあえず今は……カミールが戻ってくるを待った方が良いわね。
彼に色々聞くのは癪だけど……今話を聞くことが出来るのは彼しかいない。
そう思い視線を上げると、サンサンと照らす太陽が、緑の芝生をキラキラと輝かせていた。
***********お知らせ**********
このお話で、とうとう200話となりました!
人がたくさん行きかう光景に、シナンは小さく体を震わせると、私の胸へギュッとしがみつく。
その姿が可愛すぎて思わず抱きしめてみると、シナンは擽ったそうに身をよじらせた。
「大丈夫よ、私がいるわ」
そうシナンの耳元で囁いてみると、彼は弱弱しく頷きながらに、震えが次第に収まっていく。
そんなシナンの背を優しくさすっていると、両親と合流した子供たちが、顔をほころばせながらに、こちらへ手を振る姿が目に映った。
その姿に私も笑みを浮かべながら手を振り返していると、一人の少女が私の前へと駆け寄ってくる。
少女の後ろには両親だろう……彼女によく似た二人の夫婦が私へ深く頭を下げた。
「お姉様、本当にありがとうございました。私もお姉様のように強い女性になりたいですわ」
「この度は娘を助けてくれてありがとう。君が居なかったらと思うと、恐ろしい。……もしよければお礼をさせてもらえないだろうか」
「えぇ、ぜひ私たちの家に来て頂戴。美味しい物をごちそうするわ」
そう言いながら二彼女の母親だろう女性は、私の傍へやってくると、優しい笑みを浮かべた。
「いえいえ、大丈夫です。私は何もしておりませんし……実際に救い出したのは、今はここにおりませんが……カミールという男性の方です」
「いやいや、君は娘が連れていかれそうになった時、身を挺して守ってくれんだろう。心から感謝する。可愛い娘が手篭にされたかもしれない」
「あっ、では……お気持ちだけ頂いておきます」
そうやんわりと断りを口にすると、少女は私の胸の中にいるシナンへきつい視線を向ける。
シナンはその視線に気が付いたのか……そっと顔を上げると、フードの中からグレーの瞳を覗かせた。
「あなた……お姉様に何かしたら許さないわよ!!!」
「……僕は……そんな……こと……しない……っっ」
怒りを含む少女の言葉に私は深く息を吐きだすと、彼女から隠す様にシナンを抱きしめる。
「シナンはそんなことしないわ。無駄な心配よ」
「お姉様っっ、でも……こいつ獣人なんだよ!!!」
獣人と言う言葉が辺りに響き渡ると、先ほどまで騒がしかった大通りが突然にシーンと静まり返り、何とも言えない空気が漂い始めた。
歩いていた人々が立ち止まり、嫌悪した表情を見せると、ザワザワと騒ぎ始める。
そんな中、両親は大きく目を見開きながらに少女を抱えると、逃げるように私たちの傍から離れていった。
道を歩く大人たちがコソコソとこちらを見ながら何か話したかと思うと、蔑むような眼差しをこちらへ向けてくる。
その視線から慌ててシナンを隠すと、私は馬車の裏へと身を隠した。
はぁ……ここはシナンにとって……生きにくい場所ね……。
居心地の悪い雰囲気が漂う中、私はサッと馬車から離れると、カミールが向かったドーム状の建物の傍へと走っていく。
人の目を避けながらに進んでいくと、ただっぴろい芝生へとたどり着いた。
すぐそばにはドームの中へ続くだろう出入口が見える。
私はとりあえずそこで立ち止まると、近くにあったベンチへと腰かけた。
シナンを隣へ座らせ、カミールの姿を探す中、彼は怯えたように頭を垂れ、伏せている。
するとシナンは震える唇を持ち上げると、蚊の鳴く声で囁いた。
「おねぇさん……ごめんなさい。僕のせいで……」
「違うわ。シナンは何も悪くないじゃない。悪いのは獣人に対して侮辱するこの風潮よ。私自身この街の事をよくわからないから、はっきりとは否定しきれないけれど……シナンはそのままでいいのよ」
そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、シナンは潤んだ瞳で私を見上げた。
そんな彼の頭をヨシヨシとさすると、彼の表情が次第に和らいでいく。
そうして暖かい日差しが差し込む中、二人でベンチに腰かけていると、私たちが乗ってきた馬車がどこかへと連れられていく。
その様子をぼうと眺める中、子供達は皆両親と合流し、その場にいなくなっていた。
シナンのお父さんとお母さんは……そう口にしようとするが、私はそっと口を閉じると、静かに考え込んだ。
シナンの両親は迎えに来るのかしら……。
いえ……名前も付けず愛情も注いでいない様子……。
来たとしても……シナンにとって、それがいい事なの……?
いえ、こんなにも人怯えて、苦しむ子供を……そのままにしておけないわ……。
そんな事を考えながらにそっとシナンへ視線を落とすと、彼はフードを深くかぶり、存在を消す様に静かに息をひそめていた。
もし万が一……シナンの両親が来なかったら……将又来たとしてもシナンが嫌だと拒絶したら……その時はどうしようかしら……。
私が引き取る……?
でも私はこの街には居られない。
もし私がシナンを連れて行くとなると、一緒に旅をすることになるわ。
旅はきっと……小さな体に負担をかけてしまうでしょう。
それでも私は……この街に居続ける事はできない。
だって私はあの街へ……いえ、エヴァンに会いに行かなければいけないもの。
はぁ……とりあえず今は……カミールが戻ってくるを待った方が良いわね。
彼に色々聞くのは癪だけど……今話を聞くことが出来るのは彼しかいない。
そう思い視線を上げると、サンサンと照らす太陽が、緑の芝生をキラキラと輝かせていた。
***********お知らせ**********
このお話で、とうとう200話となりました!
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