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第五章
新章7:旅の頁
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中へ入ると、ギシギシと軋む短い廊下の先に、それほど広くはないダイニングキッチンがあった。
中央にはテーブルと椅子が並び、食器棚が置かれ綺麗に片づけられていた。
その奥には上に続く階段があり、その隣には開け放たれた扉の向こうに、脱衣所が見える。
目新しさに部屋の中をキョロキョロ見渡していると、カミールはスタスタと階段を上っていく。
その姿に慌てて追いかけていくと、今にも折れてしまいそうな不安定な階段を、私は手すりにしがみ付きながら、恐る恐るに上っていった。
明かりはなく薄暗い部屋の中、必死に目を凝らしながらに足を進めていくと、上った先には、通路を挟むように二つの扉が見えた。
「こっちが俺の部屋で、そっちがお前らの部屋だ。言っておくが……俺の部屋に勝手に入るな。掃除も自分でする。お前に任せたいのは一階の部屋と自分の部屋、後は洗面所だな」
「わかったわ」
彼の言葉に素直に頷くと、カミールそのまま自分の部屋へと消えて行く。
取り残された私たちは、先ほど言われた部屋の扉を開けてみると、そこは6畳ほどの一室に、ベッドが一つに窓が一つ……それ以外は何もなく簡素な部屋だった。
窓からは眩しい光が差し込み、遠くに真っ青な海が浮かんで見える。
部屋は人が生活していた形跡はなく、埃が舞い薄汚れていた。
その様子に私は口もとを手で覆いながらに、シナンを部屋の外へ出すと、窓を大きく開け放つ。
よし、先に掃除をしてしまいましょう。
私は気合を入れるように頬を軽く叩くと、手に魔力を集めながら、脳裏に風を描いていく。
長方形の部屋の中、埃やゴミをかき集めるように風を起こして行くと、そのまま窓の外へ逃がしていった。
埃を外に出すと、次は水をイメージしていく。
流れる水ではなく、床や壁に付着するように広がっていく水。
床を拭いていくかのように水を流していくと、部屋がさっぱりと綺麗になった。
後はベッドからシーツをはがし、窓の外へ干せば完成ね。
窓から真っ赤な日差しが入り込んでくる中、気がつけば太陽は幾分に傾いていた。
私は一仕事終え扉へ目を向けると、そこにはクリクリの瞳を浮かべたシナンが、口を開けたままに固まっている。
そんなシナンの傍へ行ってみると、彼は部屋を見つめたままに、うわぁっと可愛らしい声を漏らしていた。
「すごい……お姉さんは魔法が使えるの?」
「えぇ、あれ……シナンはどうして魔法を知っているの?」
「あっ、えーと……ずっと前に見たことがあるんだ」
シナンは誤魔化すように笑みを浮かべると、トコトコと部屋の中へと入っていく。
そんな姿に私はそっと口を閉ざすと、綺麗になったベッドの上へシナンを抱き上げた。
「シナン、少しお話をしましょうか」
そうニッコリ笑みを浮かべると、シナンを膝の上へ座らせる。
するとシナンはなぜか緊張した面持ちを見せると、ピクピクと耳を動かし、尻尾が元気なさげに萎れていった。
「あのねシナン、私たちの話を聞いていてわかったと思うんだけれど……私はこの街にずっといる事は出来ないわ。お金が溜まれば、この街を離れる事になるの」
そう話しかけるとシナンは今にも泣きそうに顔を歪め、私へとしがみついた。
「僕……僕お姉さんと一緒に居たい!!僕何でもするから、掃除だって洗濯だって、料理だって何でも出来る!!だから……だから僕を一緒に連れて行って下さい!!嫌です、僕を置いていかないで!!!」
シナンは必死に叫ぶと、縋りつくように私の袖を掴み、ウルウルとした瞳を浮かべていた。
「シナン……。まだお金を稼ぐまで時間はあるわ、それまで一緒にゆっくり考えましょう。壁に行くにしても、ここへ残るのだとしても……」
「僕は残らない!!!お姉さんと一緒に行く!!僕にはもう居場所なんてないんだ!」
「でもシナンよく聞いて………。私たちは遠い場所行くから……もうこの街へは戻って来れないかもしれないわよ?それに旅をするのは大変よ。あなたの幼い体じゃ、正直厳しいと思うの……」
そう諭す様に語り掛けると、シナンは力強い瞳を浮かべてみせる。
「大丈夫、僕は獣人だから人間よりも体は丈夫だよ!それに、僕は……っっ」
シナンはそこで言葉を止めると、私の服をギュッと握りしめる。
言葉の続きを待つようにシナンを見つめ返していると、震える唇がゆっくりと開かれた。
「あのね……実は僕……」
「おい、言い忘れていた。明日さっそく仕事があるから、日が昇ったら出かけるぞ。ガキは置いていけ」
扉から大きな音と共に、カミールの声が部屋に響くと、シナンは肩を大きく跳ねさせ、私へとしがみついた。
「もう、ノックもせずに扉を開けるなんて非常識よ……それに突然大きな声を出さないで。シナンがビックリしているじゃない!はぁ……わかったわ。明日早朝ね」
そう返事をかえすと、カミールは面倒そうな表情を見せながらに部屋を出て行った。
彼の姿を横目にしがみ付くシナンの背中を優しくさすると、そっと体を包み込む。
「ごめんね、さっき何を言いかけていたの?」
「……ううん、何でもないです」
そうボソリと元気なさげに囁く姿に、私はそれ以上深く聞くことが出来なかった。
****後書き****
前置きがダラダラと続いてしまい申し訳ございません。
次回よりサクサクとストーリが進んでいきます(*‘ω‘ *)
中央にはテーブルと椅子が並び、食器棚が置かれ綺麗に片づけられていた。
その奥には上に続く階段があり、その隣には開け放たれた扉の向こうに、脱衣所が見える。
目新しさに部屋の中をキョロキョロ見渡していると、カミールはスタスタと階段を上っていく。
その姿に慌てて追いかけていくと、今にも折れてしまいそうな不安定な階段を、私は手すりにしがみ付きながら、恐る恐るに上っていった。
明かりはなく薄暗い部屋の中、必死に目を凝らしながらに足を進めていくと、上った先には、通路を挟むように二つの扉が見えた。
「こっちが俺の部屋で、そっちがお前らの部屋だ。言っておくが……俺の部屋に勝手に入るな。掃除も自分でする。お前に任せたいのは一階の部屋と自分の部屋、後は洗面所だな」
「わかったわ」
彼の言葉に素直に頷くと、カミールそのまま自分の部屋へと消えて行く。
取り残された私たちは、先ほど言われた部屋の扉を開けてみると、そこは6畳ほどの一室に、ベッドが一つに窓が一つ……それ以外は何もなく簡素な部屋だった。
窓からは眩しい光が差し込み、遠くに真っ青な海が浮かんで見える。
部屋は人が生活していた形跡はなく、埃が舞い薄汚れていた。
その様子に私は口もとを手で覆いながらに、シナンを部屋の外へ出すと、窓を大きく開け放つ。
よし、先に掃除をしてしまいましょう。
私は気合を入れるように頬を軽く叩くと、手に魔力を集めながら、脳裏に風を描いていく。
長方形の部屋の中、埃やゴミをかき集めるように風を起こして行くと、そのまま窓の外へ逃がしていった。
埃を外に出すと、次は水をイメージしていく。
流れる水ではなく、床や壁に付着するように広がっていく水。
床を拭いていくかのように水を流していくと、部屋がさっぱりと綺麗になった。
後はベッドからシーツをはがし、窓の外へ干せば完成ね。
窓から真っ赤な日差しが入り込んでくる中、気がつけば太陽は幾分に傾いていた。
私は一仕事終え扉へ目を向けると、そこにはクリクリの瞳を浮かべたシナンが、口を開けたままに固まっている。
そんなシナンの傍へ行ってみると、彼は部屋を見つめたままに、うわぁっと可愛らしい声を漏らしていた。
「すごい……お姉さんは魔法が使えるの?」
「えぇ、あれ……シナンはどうして魔法を知っているの?」
「あっ、えーと……ずっと前に見たことがあるんだ」
シナンは誤魔化すように笑みを浮かべると、トコトコと部屋の中へと入っていく。
そんな姿に私はそっと口を閉ざすと、綺麗になったベッドの上へシナンを抱き上げた。
「シナン、少しお話をしましょうか」
そうニッコリ笑みを浮かべると、シナンを膝の上へ座らせる。
するとシナンはなぜか緊張した面持ちを見せると、ピクピクと耳を動かし、尻尾が元気なさげに萎れていった。
「あのねシナン、私たちの話を聞いていてわかったと思うんだけれど……私はこの街にずっといる事は出来ないわ。お金が溜まれば、この街を離れる事になるの」
そう話しかけるとシナンは今にも泣きそうに顔を歪め、私へとしがみついた。
「僕……僕お姉さんと一緒に居たい!!僕何でもするから、掃除だって洗濯だって、料理だって何でも出来る!!だから……だから僕を一緒に連れて行って下さい!!嫌です、僕を置いていかないで!!!」
シナンは必死に叫ぶと、縋りつくように私の袖を掴み、ウルウルとした瞳を浮かべていた。
「シナン……。まだお金を稼ぐまで時間はあるわ、それまで一緒にゆっくり考えましょう。壁に行くにしても、ここへ残るのだとしても……」
「僕は残らない!!!お姉さんと一緒に行く!!僕にはもう居場所なんてないんだ!」
「でもシナンよく聞いて………。私たちは遠い場所行くから……もうこの街へは戻って来れないかもしれないわよ?それに旅をするのは大変よ。あなたの幼い体じゃ、正直厳しいと思うの……」
そう諭す様に語り掛けると、シナンは力強い瞳を浮かべてみせる。
「大丈夫、僕は獣人だから人間よりも体は丈夫だよ!それに、僕は……っっ」
シナンはそこで言葉を止めると、私の服をギュッと握りしめる。
言葉の続きを待つようにシナンを見つめ返していると、震える唇がゆっくりと開かれた。
「あのね……実は僕……」
「おい、言い忘れていた。明日さっそく仕事があるから、日が昇ったら出かけるぞ。ガキは置いていけ」
扉から大きな音と共に、カミールの声が部屋に響くと、シナンは肩を大きく跳ねさせ、私へとしがみついた。
「もう、ノックもせずに扉を開けるなんて非常識よ……それに突然大きな声を出さないで。シナンがビックリしているじゃない!はぁ……わかったわ。明日早朝ね」
そう返事をかえすと、カミールは面倒そうな表情を見せながらに部屋を出て行った。
彼の姿を横目にしがみ付くシナンの背中を優しくさすると、そっと体を包み込む。
「ごめんね、さっき何を言いかけていたの?」
「……ううん、何でもないです」
そうボソリと元気なさげに囁く姿に、私はそれ以上深く聞くことが出来なかった。
****後書き****
前置きがダラダラと続いてしまい申し訳ございません。
次回よりサクサクとストーリが進んでいきます(*‘ω‘ *)
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