[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章10:旅の頁

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それから……私の地獄のような生活が始まった。
家事など手を付けられるはずがないほどに、毎日毎日ギルドの依頼へと引っ張り出される。
太陽が昇った早朝に出かけ、そうして太陽が沈み切ってから帰宅する……そんな毎日が続いていた。

カミールが持ってくるギルドの依頼は様々で。
ある時は、まったく知らない街に置き去りにされ、特徴だけを伝えられた迷い犬を探させられたり……。
またある時は、断崖絶壁へ連れて行かれ、崖に見える植物を取らされたり……。
あの高さ、今思い出しても足が震えるわ……。

そうしてまたある時は、3メートル近くある獣と一対一で対戦させられたり……。
またまたある時は、盗賊のアジトに放り込まれ……囮として使われたり……。
それはそれは馬車馬のごとくに働かされていた。

もちろん家に帰れば……家事をする元気もなく……。
気がつけば、シナンが家の事を全てになってくれていた。
それが申し訳なくて……何度も手伝おうとしたのだが……日ごろから運動不足だった私の体は疲労で悲鳴を上げていた。
でもそんな弱音を吐くのは、絶対に嫌だと思いながらに、家事を手伝おうとするが……毎度シナンに止められてしまうのだった。

そんな日々が一週間、二週間と続き、三週間ほどたつと……ようやく仕事にも慣れ、依頼をこなすコツも掴んできた。
カミール毎度依頼内容の説明はしてくれない為、彼が選ぶ紙を掲示板で必ず確認するようになった。
そうすれば……まだ心の準備が出来るし、魔力の配分もイメージしやすい。
最初の頃は、毎日のように魘されていた筋肉痛も和らぎ、山道にもなれ、体が順応していく。
そうしてシナンは毎日私たちが帰ってくるまで、一階の部屋で料理を作って待っていてくれた。

幼い体で掃除も洗濯も料理も完璧にこなす姿は、なぜだか悲しくなってしまう。
きっとシナンの両親は……全て彼にやらせていたのだろう。
子供なのにそれが当たり前だと感じるシナンに、もっと子供らしく遊べる場を提供してあげたいと思うが……仕事に追われる現状にどうすることも出来ない。
でもこんなのは只の言い訳で……、何でもこなすシナンに甘えている自分が悪いのだ。

そうして慌ただしく日々が過ぎ去っていく中、気がつけばこの街へ来て一月ひとつきが経過していた。
今日も部屋で明日の準備を行っていると、トントントンと部屋にノックの音が響く。
そっと扉を開けてみると、そこにはどこかへ出かけるのだろうか、いつもとは違う服に着替えたカミールが佇んでいた。

「明日は休みだ。最初に渡した銀貨を持って、街へ買い物にでも行くといい。道はあれだけ連れまわしたんだから覚えているだろう。俺は別の用で家を空ける。後は任せた」

明日は休み、その言葉に私は勢いよく顔を上げると、高く両手を上げた。
やったわ、やっと……やっと休みが貰えるのね!!!
ブラック企業なんて目がないほどの……労働時間に日数だったわね……。
休みという言葉を噛みしめていると、自然と笑みが溢れ出す。
私はベッドで寝支度をしていたシナンへと顔を向けると、最高の笑顔を浮かべて見せた。

「シナン、明日は一緒に買い物に行きましょう!」

そう笑いかけてみると、シナンは尻尾と獣耳を動かしながらに、はい!とニッコリ笑みを返してくれる。
その姿に今までの疲れが一気に押し寄せると、私はシナンを抱きしめながらに、シーツの上へ倒れ込んだ。

「えへへ、明日のお出かけ楽しみです!」

「ふふふっ、私もよ。明日はシナンもゆっくり休んでね。家事は私がするわ。料理は……外で食べちゃいましょう」

シナンの髪を撫でながらにそう囁く中、ふと顔を上げると、カミールがベッド脇へ佇んでいた。
ちょっとこい、と言わんばかりに私を見つめる彼の姿に、のそのそと起き上がると、カミールは私の腕強く引き寄せた。
そのまま彼の胸の中へ倒れ込むと、彼は何やら真剣な表情を浮かべながらに、耳元へ顔を寄せた。

「お前……獣人と仲良くなるのはいいが、気をつけろよ」

「うん?何のこと?」

「……獣人は独占欲が強く、嫉妬深い」

「えっ……」

その言葉に顔を上げると、カミールはサッと私の傍から離れ、ニヤリと口角を上げる。
今のはどういう意味かしら……?

「お前の黒髪と黒い瞳はよく目立つ。街へ出かけるのならば、ローブで隠していけ」

「ちょ、ちょっと!!」

どういう意味なのか引き留めようと手を伸ばすが、カミールはそれを軽々とよけ、私に背を向ける。
そのまま部屋を去っていく彼を呆然と眺める中、シナンは不思議な表情を浮かべながらに、私を見上げていた。

「おねぇさん……どうしたの?」

「えっ、ううん、何でもないわ」

私は誤魔化すように笑みを浮かべながらベッドへと戻ると、シナンを抱き寄せまた布団へ潜り込んだ。
独占欲が強くて、嫉妬深いか……。
先ほどのカミールの言葉が反芻する中、私はそっと瞳を閉じると、シナンの温もりをじっと感じていた。
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