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第五章
閑話:裏路地では(カミール視点)
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※補足:新章7:名の売れた魔法使い にて裏路地に残った二人の様子です。
*************************************************
時は少しさかのぼる。
薄暗く狭い路地裏で、女が一人走り去っていく中、残された男二人からは、ピリピリとした雰囲気が漂っていた。
なぜ酒場のマスターがこんなところまで……?
……こいつは情報屋だからな、基本目立った行動はしないはず。
彼女の姿が視界から消えると、俺は真意を探るように、不敵な笑みを浮かべるマスターへと視線を向けた。
「わざわざこんなところまで出てきて、俺に何の用だ」
そう鋭く睨みつけてみると、狐目の男はニヤリと口角をあげた。
「ふふっ、そう睨まないで下さい。別に彼女もご一緒頂いて宜しかったのですが……。それよりも、今日彼女が闘技場に参加しておりましたが、あれはカミール殿の差し金でしょうか?何度か街やギルドでお見かけた彼女は、戦うことをあまり好んではいらっしゃらないご様子でしたので」
……この質問の意図は何なんだ。
俺は問いかけを無視するように眉を寄せると、狐目の男は楽しそうに肩をすくめてみせる。
「返事がないと言う事は、肯定と捉えて宜しいですかね。まぁ、ワリッド殿は父上から彼女を闘技場へ引っ張り出すよう命令されていたようですし、今日断っていたとしても……毎日彼女へ押しかけていたでしょう」
ほう、あの決闘の誘いは……あいつの名声が狙いではなく、闘技場に引っ張り出したかった為……。
理由は予想するに、あの女の強さを、自分の目で確認したかったってところか。
まぁ、ちょうどよかった。
金貨を楽に稼げた事もあるが……これでさらにあの女の強さが、噂になったはずだからな。
俺はニヤリと口角を上げる中、マスターは徐にローブを脱ぎ、青い髪をかき上げながらに、静かに顔をあげた。
「私はあなたに必要な情報をと……わざわざここまで足を運んだのです。聞いて頂けますか?」
必要な情報……?
「ノエルの事か?」
スッと目を細めながらにそう返してみると、マスターは小さく首を横に振った。
「残念ですが、違います。持ってきた情報は彼女に関わること……ぜひあなたに買って頂きたい」
男は目をさらに細めると、ゆっくりと俺の方へ近づいてくる。
あいつに関わること……一体……?
「……いくらだ?」
「いえ、お代は結構です。それよりも一度、彼女とゆっくり話をする機会を作って頂きたい。あなたから言えば、彼女も多少なりとも警戒心を解いてくれるでしょう。以前何度か彼女に話しかけようとしたこともあるのですが、彼女は猫のように警戒心が強い。ですのでなかなか声を掛けるタイミングが得られませんでした。強引に近づいて……先ほどのように吹き飛ばされてしまうのも嫌ですからね」
マスターはクスクスと笑って見せると、俺の目の前で立ち止まった。
「……わかった。だがその際は俺も同席する」
そう返すと、マスターは構いませんと笑みを深めてみせた。
「では、交渉成立と言う事で……。ところで私も先ほど彼女の試合を拝見致しましたよ。本当に素晴らしい戦いぶりでしたが……彼女を闘技場へ送ったのは失敗でしたね。厄介な貴族共に目をつけられてしまったようですよ」
厄介な貴族だと……なぜだ?
俺は顎に手を添え考え込む中、徐に視線を上げると、アメジストの瞳を睨みつける。
「どういうことだ……?あのぐらいの強さであれば、遣い魔で事足りているだろう。わざわざ貴族連中が欲しがるほどじゃない。むしろ持続的に攻撃を繰り出せる、遣い魔の方が優秀だ。魔法使いの技はどれも一発ばかりで、隙が多いからな」
すると男は怪訝な表情を浮かべると、眉を潜めながらに、怪訝な表情を浮かべていた。
「……カミール殿は彼女の試合を最後まで、観戦しておられなかったのですか?」
「いや、最後まで見たが……。試合が終わってすぐに、あいつのところへ行ったな」
「あぁ~、それでですか……。カミール殿は彼女が試合後に、ワリッド殿へしたことを見ておられないのですね」
ワリッドにしたこと?
本当に何のことだ。
あそこではっきりと決着がついただろう。
あの女がわざわざ気絶した男相手に、追撃するとは思えない。
意味がわからぬ言葉にまた考え込んでいると、マスターの口元から笑みが消えた。
「彼女はワリッド殿を吹き飛ばした後、彼の傷を治したのですよ」
「はぁあ!?それは本当か……?」
予想だにしていなかった言葉に声が裏返ると、俺はマスターへ詰め寄った。
その勢いに、マスターは両手を上げるようなしぐさを見せると、俺へ真っすぐに視線を返す。
「えぇ、あそこに居た観客全員が目撃しております」
嘘だろう……俺が見ていない間に、あいつは一体何をしているんだ。
致命傷でもない、敵の傷を治してやるなんて、考えてもみなかった。
それよりも……あいつの癒す力を見られたのは痛いな……。
攻撃系の技であれば……全て遣い魔で補える。
治癒も遣い魔で何とかできるが……治癒能力が使用できる遣い魔は戦闘に弱い。
しかしあいつは戦闘の強さに加え、底が見えない治癒能力。
深いため息をつきながら、額に手をやり頭を抱えていると、頭痛がしてきた。
「それでどの貴族が動き出しているんだ?」
「言うなれば……ランギの街で暮らす貴族全員ですが……一番早くに動きはじめているのは、ワリッド殿の父上ですね」
あいつか……また厄介なやつに目をつけられてしまったな。
だが……何かあってもあいつなら、魔法で何とかできるだろう。
記憶喪失だと言うあいつの事はよく知らないが、実力だけは認めている。
物怖じすることなく、どんな場に居合わせてもできる限りの動きはしてくる。
あんな肝の据わった女は。なかなかいないだろう。
だが……基本ギルドの依頼中に、ケガを負うことがないから、治癒能力を使う機会はない。
だから安心していた部分もある……。
俺も最初は見て驚いた。
あれだけ戦闘能力があるにも関わらず、治癒能力も特化している。
この事実はどの遣い魔よりも優秀だ。
くそっ……俺としては実際に噂ではなく、民衆の目がある中で戦わせ、ノエルの動きを図りたかっただけなのだが……。
まさかこんなことになるとは……。
「まぁ、起こってしまった以上、どうしようもありません。彼女の強さを見る限り、簡単に捕らえられることはないと思いますが……念のためお気をつけ下さい。それではまた後程……約束お忘れなく」
男は表情の読めない笑みを浮かべ、深くフードを被りなおすと、素早い動きで裏路地から姿を消した。
****ご報告****
新章8:名の売れた魔法使い にて、信じらないミスを発見しました……。
修正しております((+_+))
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時は少しさかのぼる。
薄暗く狭い路地裏で、女が一人走り去っていく中、残された男二人からは、ピリピリとした雰囲気が漂っていた。
なぜ酒場のマスターがこんなところまで……?
……こいつは情報屋だからな、基本目立った行動はしないはず。
彼女の姿が視界から消えると、俺は真意を探るように、不敵な笑みを浮かべるマスターへと視線を向けた。
「わざわざこんなところまで出てきて、俺に何の用だ」
そう鋭く睨みつけてみると、狐目の男はニヤリと口角をあげた。
「ふふっ、そう睨まないで下さい。別に彼女もご一緒頂いて宜しかったのですが……。それよりも、今日彼女が闘技場に参加しておりましたが、あれはカミール殿の差し金でしょうか?何度か街やギルドでお見かけた彼女は、戦うことをあまり好んではいらっしゃらないご様子でしたので」
……この質問の意図は何なんだ。
俺は問いかけを無視するように眉を寄せると、狐目の男は楽しそうに肩をすくめてみせる。
「返事がないと言う事は、肯定と捉えて宜しいですかね。まぁ、ワリッド殿は父上から彼女を闘技場へ引っ張り出すよう命令されていたようですし、今日断っていたとしても……毎日彼女へ押しかけていたでしょう」
ほう、あの決闘の誘いは……あいつの名声が狙いではなく、闘技場に引っ張り出したかった為……。
理由は予想するに、あの女の強さを、自分の目で確認したかったってところか。
まぁ、ちょうどよかった。
金貨を楽に稼げた事もあるが……これでさらにあの女の強さが、噂になったはずだからな。
俺はニヤリと口角を上げる中、マスターは徐にローブを脱ぎ、青い髪をかき上げながらに、静かに顔をあげた。
「私はあなたに必要な情報をと……わざわざここまで足を運んだのです。聞いて頂けますか?」
必要な情報……?
「ノエルの事か?」
スッと目を細めながらにそう返してみると、マスターは小さく首を横に振った。
「残念ですが、違います。持ってきた情報は彼女に関わること……ぜひあなたに買って頂きたい」
男は目をさらに細めると、ゆっくりと俺の方へ近づいてくる。
あいつに関わること……一体……?
「……いくらだ?」
「いえ、お代は結構です。それよりも一度、彼女とゆっくり話をする機会を作って頂きたい。あなたから言えば、彼女も多少なりとも警戒心を解いてくれるでしょう。以前何度か彼女に話しかけようとしたこともあるのですが、彼女は猫のように警戒心が強い。ですのでなかなか声を掛けるタイミングが得られませんでした。強引に近づいて……先ほどのように吹き飛ばされてしまうのも嫌ですからね」
マスターはクスクスと笑って見せると、俺の目の前で立ち止まった。
「……わかった。だがその際は俺も同席する」
そう返すと、マスターは構いませんと笑みを深めてみせた。
「では、交渉成立と言う事で……。ところで私も先ほど彼女の試合を拝見致しましたよ。本当に素晴らしい戦いぶりでしたが……彼女を闘技場へ送ったのは失敗でしたね。厄介な貴族共に目をつけられてしまったようですよ」
厄介な貴族だと……なぜだ?
俺は顎に手を添え考え込む中、徐に視線を上げると、アメジストの瞳を睨みつける。
「どういうことだ……?あのぐらいの強さであれば、遣い魔で事足りているだろう。わざわざ貴族連中が欲しがるほどじゃない。むしろ持続的に攻撃を繰り出せる、遣い魔の方が優秀だ。魔法使いの技はどれも一発ばかりで、隙が多いからな」
すると男は怪訝な表情を浮かべると、眉を潜めながらに、怪訝な表情を浮かべていた。
「……カミール殿は彼女の試合を最後まで、観戦しておられなかったのですか?」
「いや、最後まで見たが……。試合が終わってすぐに、あいつのところへ行ったな」
「あぁ~、それでですか……。カミール殿は彼女が試合後に、ワリッド殿へしたことを見ておられないのですね」
ワリッドにしたこと?
本当に何のことだ。
あそこではっきりと決着がついただろう。
あの女がわざわざ気絶した男相手に、追撃するとは思えない。
意味がわからぬ言葉にまた考え込んでいると、マスターの口元から笑みが消えた。
「彼女はワリッド殿を吹き飛ばした後、彼の傷を治したのですよ」
「はぁあ!?それは本当か……?」
予想だにしていなかった言葉に声が裏返ると、俺はマスターへ詰め寄った。
その勢いに、マスターは両手を上げるようなしぐさを見せると、俺へ真っすぐに視線を返す。
「えぇ、あそこに居た観客全員が目撃しております」
嘘だろう……俺が見ていない間に、あいつは一体何をしているんだ。
致命傷でもない、敵の傷を治してやるなんて、考えてもみなかった。
それよりも……あいつの癒す力を見られたのは痛いな……。
攻撃系の技であれば……全て遣い魔で補える。
治癒も遣い魔で何とかできるが……治癒能力が使用できる遣い魔は戦闘に弱い。
しかしあいつは戦闘の強さに加え、底が見えない治癒能力。
深いため息をつきながら、額に手をやり頭を抱えていると、頭痛がしてきた。
「それでどの貴族が動き出しているんだ?」
「言うなれば……ランギの街で暮らす貴族全員ですが……一番早くに動きはじめているのは、ワリッド殿の父上ですね」
あいつか……また厄介なやつに目をつけられてしまったな。
だが……何かあってもあいつなら、魔法で何とかできるだろう。
記憶喪失だと言うあいつの事はよく知らないが、実力だけは認めている。
物怖じすることなく、どんな場に居合わせてもできる限りの動きはしてくる。
あんな肝の据わった女は。なかなかいないだろう。
だが……基本ギルドの依頼中に、ケガを負うことがないから、治癒能力を使う機会はない。
だから安心していた部分もある……。
俺も最初は見て驚いた。
あれだけ戦闘能力があるにも関わらず、治癒能力も特化している。
この事実はどの遣い魔よりも優秀だ。
くそっ……俺としては実際に噂ではなく、民衆の目がある中で戦わせ、ノエルの動きを図りたかっただけなのだが……。
まさかこんなことになるとは……。
「まぁ、起こってしまった以上、どうしようもありません。彼女の強さを見る限り、簡単に捕らえられることはないと思いますが……念のためお気をつけ下さい。それではまた後程……約束お忘れなく」
男は表情の読めない笑みを浮かべ、深くフードを被りなおすと、素早い動きで裏路地から姿を消した。
****ご報告****
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