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第五章
新章1:雨降る街で
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シナンの温かい体を感じる中、小さな鼓動が腕を伝う。
あぁ……夢でよかった……。
ヘビに犯されるなんて……冗談じゃないわ……。
先ほどの真っ赤なヘビが未だ脳裏にチラつく中、シナンは包み込むように、小さな手を私の背中へと回してくれた。
「お姉さん……もう大丈夫ですから……ぼっ、僕が……っっついてますから!!」
「ありがとう、シナン」
その言葉に次第に心が落ち着いてくると、私はゆっくりとシナンから体を離す。
「あの、大分汗をかいていたので……先に水を飲んでください」
シナンはグラスを手渡すと、私はそれを一気に飲み干した。
喉の渇きなど感じてはいなかったが……冷たい水が喉を通ると、心地よさに気持ちが和らいでいく。
ありがとう、とシナンへ微笑みかけグラスをベッド脇へ戻すと、シナンは新たに水を注ぎ始めた。
そんな姿を横目に、大きく呼吸を繰り返しながらに、シナンの柔らかい頬へ手を添えると、ふと聞きなれない音が耳に響いた。
ザー、ザーーー、ザーー、ザザザーーーー。
音に顔を上げ窓の外へ視線を向けると、薄暗い街並みに激しい雨が降り注いでいた。
雨……?
この世界へ来て初めて見たわ……。
窓に流れる水滴を茫然と眺めていると、シナンは心配げな瞳を浮かべながらに私を覗き込んだ。
そのまま私の額へそっと手を伸ばすと、冷たいその手に心地よさを感じる。
「よかった……。少し熱が下がってきましたね。それよりも……あの、何があったんですか?」
その言葉にシナンへ顔を戻すと、熱で茫然としている為か……どうしてここに居るのか記憶が曖昧だった。
あれ……そういえば私は……?
考え込むように口を閉ざす中、なかなか働かない脳を必死に回転させてみると、私は今日の事を思い起こしていく。
今日は……朝早くに家を出て……それでギルドへ行って……。
あぁそうだ、そこで騎士の男と、戦うことになったんだわ。
えーと、その後は……カミールと食事をして……帰る途中に……。
そこまで思い出すと、先ほどの真っ赤なヘビがバッと脳裏に現れる。
真っ赤な蛇……。
そう路地裏でカミールと別れた後……。
カミールせいで女の子に絡まれてそこで、あのヘビに……。
確か……遣い魔使いと言っていたわね……。
鮮明に脳裏に描かれるヘビの姿に思わず身震いする中、私は震える手を押さえると、シナンへここまでの経緯をゆっくりと伝えていった。
思い出す限りを話していると……ヘビが私に巻き付き、息苦しさにもだえる自分の姿に思わず目を閉じた。
落ち着いて……もうヘビはいないわ。
それよりも私はヘビに襲われて……、意識を失う瞬間に……カミールが助けに来てくれた……?
そうしてようやく一通り話し終えると、私はそっと瞼を持ち上げながらに、深く深呼吸を繰り返した。
「……シナン、カミールはどこにいるのかしら?」
「カミールさんはお姉さんをここまで運んだ後……医者を探しに行きました。あの……お姉さんは遣い魔に襲われたんですよね?……遣い魔の毒は普通の医者には治せないんです。だからきっとカミールさんは、遣い魔の医者を探しに行っていると思うのですが……まだ戻ってこないところをみると、見つかってないみたいですね……。遣い魔の治療師は壁から離れたこの地では珍しいですから……。でもとりあえずカミールさんが戻ってくるまで、お姉さんはここで大人しくして下さい」
シナンはよいしょっと布団を持ち上げると、私をベッドへと寝かしつけていく。
あの時感じた焼けるような熱は幾分マシにはなっているが……きっとまだ相当熱は高いのだろう。
だって終始頭がぼうっとするんだもの。
でも風邪とは違う……なんだか独特なだるさがあるわね。
それに熱があるにも関わらず寒気もないわ。
どちらかというと、熱が体中を巡っていく感じ……。
そんな事を思う中、私は素直にベッドへ横になると、シナンへ視線を向けながらに、ゆっくりと口を開いた。
「シナン……あなたは遣い魔使いを知っているの?ねぇ……遣い魔とは一体何なの?」
そう問いかけてみると、シナンは難しい表情を浮かべながらに、濡れたタオルを私の額へとのせた。
「そうですね、遣い魔というのは……血から生まれた生き物と言えばいいのでしょうか。……皆が皆使えるわけではありません。流れる血に相応の魔力を持つ人だけが使える特別なものなんです。その人たちは遣い魔使いと呼ばれています。そして血から生まれた遣い魔は、主人に忠実でどんな命令にも従い動きます。作り出す遣い魔は人それぞれで……戦いに特化した獣や、毒を持つ昆虫とか爬虫類とか……。だからそのお姉さんの熱はきっと遣い魔のせいじゃないかと、僕は思います……」
そう話し終えると、シナンは私の首筋へと視線を向けた。
首にはきっとヘビに噛まれた跡が残っているのだろう……彼は痛々しそうな表情を浮かべると、乾いたタオルを首元へとあててくれる。
そのタオルが首へ触れると、鈍い痛みに顔をゆがめた。
「ごっ、ごめんなさい」
シナンは慌てて手を引っ込めると、焦った表情を浮かべながらに私から体を離した。
あぁ……夢でよかった……。
ヘビに犯されるなんて……冗談じゃないわ……。
先ほどの真っ赤なヘビが未だ脳裏にチラつく中、シナンは包み込むように、小さな手を私の背中へと回してくれた。
「お姉さん……もう大丈夫ですから……ぼっ、僕が……っっついてますから!!」
「ありがとう、シナン」
その言葉に次第に心が落ち着いてくると、私はゆっくりとシナンから体を離す。
「あの、大分汗をかいていたので……先に水を飲んでください」
シナンはグラスを手渡すと、私はそれを一気に飲み干した。
喉の渇きなど感じてはいなかったが……冷たい水が喉を通ると、心地よさに気持ちが和らいでいく。
ありがとう、とシナンへ微笑みかけグラスをベッド脇へ戻すと、シナンは新たに水を注ぎ始めた。
そんな姿を横目に、大きく呼吸を繰り返しながらに、シナンの柔らかい頬へ手を添えると、ふと聞きなれない音が耳に響いた。
ザー、ザーーー、ザーー、ザザザーーーー。
音に顔を上げ窓の外へ視線を向けると、薄暗い街並みに激しい雨が降り注いでいた。
雨……?
この世界へ来て初めて見たわ……。
窓に流れる水滴を茫然と眺めていると、シナンは心配げな瞳を浮かべながらに私を覗き込んだ。
そのまま私の額へそっと手を伸ばすと、冷たいその手に心地よさを感じる。
「よかった……。少し熱が下がってきましたね。それよりも……あの、何があったんですか?」
その言葉にシナンへ顔を戻すと、熱で茫然としている為か……どうしてここに居るのか記憶が曖昧だった。
あれ……そういえば私は……?
考え込むように口を閉ざす中、なかなか働かない脳を必死に回転させてみると、私は今日の事を思い起こしていく。
今日は……朝早くに家を出て……それでギルドへ行って……。
あぁそうだ、そこで騎士の男と、戦うことになったんだわ。
えーと、その後は……カミールと食事をして……帰る途中に……。
そこまで思い出すと、先ほどの真っ赤なヘビがバッと脳裏に現れる。
真っ赤な蛇……。
そう路地裏でカミールと別れた後……。
カミールせいで女の子に絡まれてそこで、あのヘビに……。
確か……遣い魔使いと言っていたわね……。
鮮明に脳裏に描かれるヘビの姿に思わず身震いする中、私は震える手を押さえると、シナンへここまでの経緯をゆっくりと伝えていった。
思い出す限りを話していると……ヘビが私に巻き付き、息苦しさにもだえる自分の姿に思わず目を閉じた。
落ち着いて……もうヘビはいないわ。
それよりも私はヘビに襲われて……、意識を失う瞬間に……カミールが助けに来てくれた……?
そうしてようやく一通り話し終えると、私はそっと瞼を持ち上げながらに、深く深呼吸を繰り返した。
「……シナン、カミールはどこにいるのかしら?」
「カミールさんはお姉さんをここまで運んだ後……医者を探しに行きました。あの……お姉さんは遣い魔に襲われたんですよね?……遣い魔の毒は普通の医者には治せないんです。だからきっとカミールさんは、遣い魔の医者を探しに行っていると思うのですが……まだ戻ってこないところをみると、見つかってないみたいですね……。遣い魔の治療師は壁から離れたこの地では珍しいですから……。でもとりあえずカミールさんが戻ってくるまで、お姉さんはここで大人しくして下さい」
シナンはよいしょっと布団を持ち上げると、私をベッドへと寝かしつけていく。
あの時感じた焼けるような熱は幾分マシにはなっているが……きっとまだ相当熱は高いのだろう。
だって終始頭がぼうっとするんだもの。
でも風邪とは違う……なんだか独特なだるさがあるわね。
それに熱があるにも関わらず寒気もないわ。
どちらかというと、熱が体中を巡っていく感じ……。
そんな事を思う中、私は素直にベッドへ横になると、シナンへ視線を向けながらに、ゆっくりと口を開いた。
「シナン……あなたは遣い魔使いを知っているの?ねぇ……遣い魔とは一体何なの?」
そう問いかけてみると、シナンは難しい表情を浮かべながらに、濡れたタオルを私の額へとのせた。
「そうですね、遣い魔というのは……血から生まれた生き物と言えばいいのでしょうか。……皆が皆使えるわけではありません。流れる血に相応の魔力を持つ人だけが使える特別なものなんです。その人たちは遣い魔使いと呼ばれています。そして血から生まれた遣い魔は、主人に忠実でどんな命令にも従い動きます。作り出す遣い魔は人それぞれで……戦いに特化した獣や、毒を持つ昆虫とか爬虫類とか……。だからそのお姉さんの熱はきっと遣い魔のせいじゃないかと、僕は思います……」
そう話し終えると、シナンは私の首筋へと視線を向けた。
首にはきっとヘビに噛まれた跡が残っているのだろう……彼は痛々しそうな表情を浮かべると、乾いたタオルを首元へとあててくれる。
そのタオルが首へ触れると、鈍い痛みに顔をゆがめた。
「ごっ、ごめんなさい」
シナンは慌てて手を引っ込めると、焦った表情を浮かべながらに私から体を離した。
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