[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

文字の大きさ
243 / 358
第五章

新章9:雨降る街で

しおりを挟む
フワッと宙に浮く感覚に胸がビクッと跳ねると、私は慌てて飛び起きた。
外は先ほどよりも雨脚が強まっているのか……激しい雨音が静かな部屋に響き渡る。
ここは……カミールの家だわ。
ならさっきのは……やっぱり夢……?
そっと自分の服装に目を向けてみると、紺色のローブは来ておらず、寝間着のままだ。

私は深く息をつきながら徐にベッドから立ち上がると、熱とは違う……ひどいだるさを感じた。
覚えのある感覚に私は魔力を探ってみると、大分魔力が減っているようだ。
っっ……魔力がなくなっているわ。
ならやっぱりレックスと出会ったのは……夢じゃない。

私はだるい体を何とか引きずっていくと、クローゼットへ向かっていく。
中からいつものローブを取り出すと、内側のポケットから魔力玉を引っ張り出した。
そしてそのまま口の中へ放り込み飲み込んでみるが……一向に体のだるさが消えない。
あれ、どうして……?
あっ、そういえば……確か夢の中で、レックスが言っていたわね……。
人の夢に入った後は外から魔力を吸収できないと……。
まさか魔力玉もダメだっていうの……?

私はもう一つ小さな魔力玉を取り出し口へと運んでみるが……やはり魔力を補充できていないようだ。
嘘でしょう……。
何とも言えぬ倦怠感を感じたままに、私は一人頭を抱えると、大きくため息をついた。
はぁ……まいったわね……。
まだ魔力切れにはならないけれど……体調が悪い上に、このだるさはつらいわ……。

私は重い体を引きずりながらにベッドへと戻ると、傍にはシナンが作ってくれたのだろうか、美味しそうなスープが目に映る。
その傍にはシナンが書いたのだろう……小さなメモが置かれていた。
私は徐にメモを除覗き込んで見ると、そこには短い言葉が綴られている。

(少し出かけてきます。すぐに戻りますから)

出かける……?
こんな大雨の中を……?
私は首をかしげながらに窓へと目を向けてみると、ザーーと激しい雨が街を濡らしていた。
そっと窓際へ近づいてみると、床には薬草図鑑が広げっぱなしになっている。
開かれていたページを覗き込んでみると、そこにはシナンに説明した青い薬草が描かれていた。
まさか……いえ……そんなはずないわよね。
この薬草は違うと説明したし……きっと食材でも買いに行ったのね。

そう言い聞かせてみるも、なぜか不安が胸につっかえる。
私は降りしきるその雨をじっと眺める中、ふと腕に冷たさを感じた。
どうしたのかと視線を向けてみると、以前街で買ったミサンガが雨に打たれたように湿っていた。
なにこれ……?

私は腕を持ち上げミサンガを凝視してみると、黒と白で編みこまれた糸が茶色く変色していく。
恐る恐るに触れてみると、泥水が指先にくっついた。
これは土……どうして……?
目を大きく見開きながらに汚れていくミサンガを見つめていると、ふとこのミサンガを購入した、あの店主の言葉が頭をかすめる。

(迷子になったときなんかに、子供の居場所がわかるんじゃよ)

居場所がわかる……まさか……シナン……。
私は慌てて部屋を飛び出すと、一階へと駆け下りて行く。
シーンと静まり帰ったリビングには、先日買いこまれた食料がたくさんあった。
まさか……シナンは……ッッ。

私はハッと腕を持ち上げると、泥で汚れたミサンガを強く握りしめた。
シナンはどこにいるの?
ねぇ、お願い……教えて……!!!
そう強く願ってみるも何も起こらなかった。

私はミサンガをあちこちから眺めたり、引っ張ったりと色々試してみるが……シナンの居場所はわからない。
あぁもう、どうすれば居場所がわかるのよ!!!
……そういえばエヴァンは私の居場所を見つけ出すとき……対となるリングを感じていたはず。
それなら……。

私は大きく息を吸い込みながらゆっくりと瞳を閉じると、シナンがつけているだろうミサンガを頭の中で思い描いていく。
するとミサンガから微かな魔力を感じた。
そっと目を開けてみると、そこには小さな光が浮かび上がっている。
すぐにその光を覗き込んでみると、そこには土砂降りの雨の中、山を登るシナンの姿が目に映った。
光の中にいるシナンは小さな腕を精一杯伸ばすと、その先には青い薬草が映し出される。

「嘘でしょう……シナン……」

私は光を覗き込むように見つめると、ゆっくりと周辺の景色が広がっていく。
深い森どこも似たり寄ったりな景色の中、一つだけ見覚えのある古びた小屋が視界を掠めた。
この場所……知っているわ。
確か……以前ギルドの依頼で、カミールに連れられて行ったことがある……。
確認するように目を細めながらに小屋を見つめてみると、扉の取っ手に赤いリボンが結ばれていた。
あの赤いリボン間違いないわ。
私は浮かぶ光をギュッと握りしめながらに、魔力の流れを感じると、真っすぐに顔を上げた。

魔力は少ないけれど……移転魔法でシナンのところへ行って戻ってくるぐらいならまだ大丈夫。
すぐにシナンを連れ戻さないと……あの森には野獣がたくさんいるわ。
私はシナンの元へと頭の中で道筋を描いていくと、ゆっくりと魔力を放出していく。
そうして鮮明に道をイメージしていく中、移転魔法を発動させると、床から足が離れ、部屋の風景が白い光に包まれていった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...