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第五章
新章9:雨降る街で
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フワッと宙に浮く感覚に胸がビクッと跳ねると、私は慌てて飛び起きた。
外は先ほどよりも雨脚が強まっているのか……激しい雨音が静かな部屋に響き渡る。
ここは……カミールの家だわ。
ならさっきのは……やっぱり夢……?
そっと自分の服装に目を向けてみると、紺色のローブは来ておらず、寝間着のままだ。
私は深く息をつきながら徐にベッドから立ち上がると、熱とは違う……ひどいだるさを感じた。
覚えのある感覚に私は魔力を探ってみると、大分魔力が減っているようだ。
っっ……魔力がなくなっているわ。
ならやっぱりレックスと出会ったのは……夢じゃない。
私はだるい体を何とか引きずっていくと、クローゼットへ向かっていく。
中からいつものローブを取り出すと、内側のポケットから魔力玉を引っ張り出した。
そしてそのまま口の中へ放り込み飲み込んでみるが……一向に体のだるさが消えない。
あれ、どうして……?
あっ、そういえば……確か夢の中で、レックスが言っていたわね……。
人の夢に入った後は外から魔力を吸収できないと……。
まさか魔力玉もダメだっていうの……?
私はもう一つ小さな魔力玉を取り出し口へと運んでみるが……やはり魔力を補充できていないようだ。
嘘でしょう……。
何とも言えぬ倦怠感を感じたままに、私は一人頭を抱えると、大きくため息をついた。
はぁ……まいったわね……。
まだ魔力切れにはならないけれど……体調が悪い上に、このだるさはつらいわ……。
私は重い体を引きずりながらにベッドへと戻ると、傍にはシナンが作ってくれたのだろうか、美味しそうなスープが目に映る。
その傍にはシナンが書いたのだろう……小さなメモが置かれていた。
私は徐にメモを除覗き込んで見ると、そこには短い言葉が綴られている。
(少し出かけてきます。すぐに戻りますから)
出かける……?
こんな大雨の中を……?
私は首をかしげながらに窓へと目を向けてみると、ザーーと激しい雨が街を濡らしていた。
そっと窓際へ近づいてみると、床には薬草図鑑が広げっぱなしになっている。
開かれていたページを覗き込んでみると、そこにはシナンに説明した青い薬草が描かれていた。
まさか……いえ……そんなはずないわよね。
この薬草は違うと説明したし……きっと食材でも買いに行ったのね。
そう言い聞かせてみるも、なぜか不安が胸につっかえる。
私は降りしきるその雨をじっと眺める中、ふと腕に冷たさを感じた。
どうしたのかと視線を向けてみると、以前街で買ったミサンガが雨に打たれたように湿っていた。
なにこれ……?
私は腕を持ち上げミサンガを凝視してみると、黒と白で編みこまれた糸が茶色く変色していく。
恐る恐るに触れてみると、泥水が指先にくっついた。
これは土……どうして……?
目を大きく見開きながらに汚れていくミサンガを見つめていると、ふとこのミサンガを購入した、あの店主の言葉が頭をかすめる。
(迷子になったときなんかに、子供の居場所がわかるんじゃよ)
居場所がわかる……まさか……シナン……。
私は慌てて部屋を飛び出すと、一階へと駆け下りて行く。
シーンと静まり帰ったリビングには、先日買いこまれた食料がたくさんあった。
まさか……シナンは……ッッ。
私はハッと腕を持ち上げると、泥で汚れたミサンガを強く握りしめた。
シナンはどこにいるの?
ねぇ、お願い……教えて……!!!
そう強く願ってみるも何も起こらなかった。
私はミサンガをあちこちから眺めたり、引っ張ったりと色々試してみるが……シナンの居場所はわからない。
あぁもう、どうすれば居場所がわかるのよ!!!
……そういえばエヴァンは私の居場所を見つけ出すとき……対となるリングを感じていたはず。
それなら……。
私は大きく息を吸い込みながらゆっくりと瞳を閉じると、シナンがつけているだろうミサンガを頭の中で思い描いていく。
するとミサンガから微かな魔力を感じた。
そっと目を開けてみると、そこには小さな光が浮かび上がっている。
すぐにその光を覗き込んでみると、そこには土砂降りの雨の中、山を登るシナンの姿が目に映った。
光の中にいるシナンは小さな腕を精一杯伸ばすと、その先には青い薬草が映し出される。
「嘘でしょう……シナン……」
私は光を覗き込むように見つめると、ゆっくりと周辺の景色が広がっていく。
深い森どこも似たり寄ったりな景色の中、一つだけ見覚えのある古びた小屋が視界を掠めた。
この場所……知っているわ。
確か……以前ギルドの依頼で、カミールに連れられて行ったことがある……。
確認するように目を細めながらに小屋を見つめてみると、扉の取っ手に赤いリボンが結ばれていた。
あの赤いリボン間違いないわ。
私は浮かぶ光をギュッと握りしめながらに、魔力の流れを感じると、真っすぐに顔を上げた。
魔力は少ないけれど……移転魔法でシナンのところへ行って戻ってくるぐらいならまだ大丈夫。
すぐにシナンを連れ戻さないと……あの森には野獣がたくさんいるわ。
私はシナンの元へと頭の中で道筋を描いていくと、ゆっくりと魔力を放出していく。
そうして鮮明に道をイメージしていく中、移転魔法を発動させると、床から足が離れ、部屋の風景が白い光に包まれていった。
外は先ほどよりも雨脚が強まっているのか……激しい雨音が静かな部屋に響き渡る。
ここは……カミールの家だわ。
ならさっきのは……やっぱり夢……?
そっと自分の服装に目を向けてみると、紺色のローブは来ておらず、寝間着のままだ。
私は深く息をつきながら徐にベッドから立ち上がると、熱とは違う……ひどいだるさを感じた。
覚えのある感覚に私は魔力を探ってみると、大分魔力が減っているようだ。
っっ……魔力がなくなっているわ。
ならやっぱりレックスと出会ったのは……夢じゃない。
私はだるい体を何とか引きずっていくと、クローゼットへ向かっていく。
中からいつものローブを取り出すと、内側のポケットから魔力玉を引っ張り出した。
そしてそのまま口の中へ放り込み飲み込んでみるが……一向に体のだるさが消えない。
あれ、どうして……?
あっ、そういえば……確か夢の中で、レックスが言っていたわね……。
人の夢に入った後は外から魔力を吸収できないと……。
まさか魔力玉もダメだっていうの……?
私はもう一つ小さな魔力玉を取り出し口へと運んでみるが……やはり魔力を補充できていないようだ。
嘘でしょう……。
何とも言えぬ倦怠感を感じたままに、私は一人頭を抱えると、大きくため息をついた。
はぁ……まいったわね……。
まだ魔力切れにはならないけれど……体調が悪い上に、このだるさはつらいわ……。
私は重い体を引きずりながらにベッドへと戻ると、傍にはシナンが作ってくれたのだろうか、美味しそうなスープが目に映る。
その傍にはシナンが書いたのだろう……小さなメモが置かれていた。
私は徐にメモを除覗き込んで見ると、そこには短い言葉が綴られている。
(少し出かけてきます。すぐに戻りますから)
出かける……?
こんな大雨の中を……?
私は首をかしげながらに窓へと目を向けてみると、ザーーと激しい雨が街を濡らしていた。
そっと窓際へ近づいてみると、床には薬草図鑑が広げっぱなしになっている。
開かれていたページを覗き込んでみると、そこにはシナンに説明した青い薬草が描かれていた。
まさか……いえ……そんなはずないわよね。
この薬草は違うと説明したし……きっと食材でも買いに行ったのね。
そう言い聞かせてみるも、なぜか不安が胸につっかえる。
私は降りしきるその雨をじっと眺める中、ふと腕に冷たさを感じた。
どうしたのかと視線を向けてみると、以前街で買ったミサンガが雨に打たれたように湿っていた。
なにこれ……?
私は腕を持ち上げミサンガを凝視してみると、黒と白で編みこまれた糸が茶色く変色していく。
恐る恐るに触れてみると、泥水が指先にくっついた。
これは土……どうして……?
目を大きく見開きながらに汚れていくミサンガを見つめていると、ふとこのミサンガを購入した、あの店主の言葉が頭をかすめる。
(迷子になったときなんかに、子供の居場所がわかるんじゃよ)
居場所がわかる……まさか……シナン……。
私は慌てて部屋を飛び出すと、一階へと駆け下りて行く。
シーンと静まり帰ったリビングには、先日買いこまれた食料がたくさんあった。
まさか……シナンは……ッッ。
私はハッと腕を持ち上げると、泥で汚れたミサンガを強く握りしめた。
シナンはどこにいるの?
ねぇ、お願い……教えて……!!!
そう強く願ってみるも何も起こらなかった。
私はミサンガをあちこちから眺めたり、引っ張ったりと色々試してみるが……シナンの居場所はわからない。
あぁもう、どうすれば居場所がわかるのよ!!!
……そういえばエヴァンは私の居場所を見つけ出すとき……対となるリングを感じていたはず。
それなら……。
私は大きく息を吸い込みながらゆっくりと瞳を閉じると、シナンがつけているだろうミサンガを頭の中で思い描いていく。
するとミサンガから微かな魔力を感じた。
そっと目を開けてみると、そこには小さな光が浮かび上がっている。
すぐにその光を覗き込んでみると、そこには土砂降りの雨の中、山を登るシナンの姿が目に映った。
光の中にいるシナンは小さな腕を精一杯伸ばすと、その先には青い薬草が映し出される。
「嘘でしょう……シナン……」
私は光を覗き込むように見つめると、ゆっくりと周辺の景色が広がっていく。
深い森どこも似たり寄ったりな景色の中、一つだけ見覚えのある古びた小屋が視界を掠めた。
この場所……知っているわ。
確か……以前ギルドの依頼で、カミールに連れられて行ったことがある……。
確認するように目を細めながらに小屋を見つめてみると、扉の取っ手に赤いリボンが結ばれていた。
あの赤いリボン間違いないわ。
私は浮かぶ光をギュッと握りしめながらに、魔力の流れを感じると、真っすぐに顔を上げた。
魔力は少ないけれど……移転魔法でシナンのところへ行って戻ってくるぐらいならまだ大丈夫。
すぐにシナンを連れ戻さないと……あの森には野獣がたくさんいるわ。
私はシナンの元へと頭の中で道筋を描いていくと、ゆっくりと魔力を放出していく。
そうして鮮明に道をイメージしていく中、移転魔法を発動させると、床から足が離れ、部屋の風景が白い光に包まれていった。
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