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第五章
閑話:雨降る街で:前編(カミール視点)
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はぁ、はぁ、はぁ、くそっ、あいつを一人で返すべきではなかった。
空が灰色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな街の中を、俺はひたすらに駆け抜けていた。
大通りを抜け、築港の方へ向かっていると、ポツポツと雨が降り始める。
次第に強まっていく雨脚に、徐に空を見上げると、薄暗い空に稲妻がはしっていった。
ザーと降りしきる雨の中、俺は狭い路地裏を駆け抜けていると、泥が裾に飛び跳ねる。
そのまま海辺までやってくると、浜辺にはポツリと浮かぶ小さな一軒家が目に映った。
俺は迷うことなくその家へ駆けこむと、ノックもせずに扉を開け放つ。
「おぃ、爺さんはいるか!!!」
「ひゃっ、えっ、あっ、あの……その……っっ」
雨に濡れた髪をかき上げ、目元を拭うと、雫がポタポタと床へ落ちていく。
受付に佇むビクビクと震える女に、苛立ちながらに詰め寄ると、彼女は小さな悲鳴を上げた。
「さっさと答えろ、爺さんはいるのか?」
「ひぃっ、あの……その……ちっ、近いです……」
女は俺の顔を見るや否や、頬を赤く染めたかと思うと、俺の胸を強く押し返す。
そんな女の様子に俺は大きく息を吐き出すと、サッと女から体を離した。
「ふぅ……あの……先生は……出かけております」
蚊の鳴くような小さな声に眉を潜める中、女は静かに顔を上げると、怯える様子で大きく肩を跳ねさせた。
「いつ戻ってくる、どこへ行ったんだ?」
「えっ、その……わかりません……。戻ってこられるとは思いますが……」
そうボソボソと答えると、女は慌てた様子で俺の前から逃げていく。
その様子を横目に深いため息を吐くと、俺は近くに見える椅子へとドサッと腰かけた。
くそっ、こんな時に……。
だがわざわざあの爺さんが出向いて行くということ事は、どこか名のある貴族にでも呼ばれたんだろう。
それであれば……ここで帰りを待つしか方法はない。
平民が貴族の屋敷へ勝手に入ることは出来ないからな。
正直遣い魔の治療師なら、この街であれば他にも多くいる。
普通の治療であれば、すぐさま別の治療師のところへ行っていただろうが……。
だがあいつは魔法使いだ。
俺たちのような遣い魔使いとは違う。
その点ここの治療師は遣い魔はもちろん、魔法というものを知っている数少ない人間だった。
俺がこの街へ来たばかりの頃、この爺さんに世話になった事がある。
ギルドの依頼中にちょっとしたミスで、負傷したんだ。
その時この爺さんがたまたま近くにて治療してもらったんだが、その時した世間話の中で、魔法について話したんだ。
俺の姿を見て爺さんは魔力が多い、とそう口にした。
魔力とは何なのか俺にはわからなかったが、爺さんの爺さんが魔法使いだったらしく、魔力が見えると語っていた。
そこで俺は魔法使いは魔力が見えることを知った。
きっとあいつも魔力というものが見えているのだろう。
魔法はこの世界では、あまり知られてない。
俺もノエルに関わっていなければ、しらなかったからな……。
他にも魔法使いを知っている治療師はいるのかもしれないが、俺は知らない。
なら魔法使いであるあいつを見てもらうのに今思いつくのは、この爺さんしかいない。
それに後から聞いた話では、あの爺さんはこの街一番の治療師だと噂されている。
まぁ……結構金はかかるんだがな。
だからこそ平民であるにも関わらず、貴族からの声がかかるのだろう。
雨の音が響く部屋の中、先ほどの女はどこへ行ったのだろうか……戻ってくる気配はない。
そんな中、外から聞こえてくる雨音はどんどん激しくなっていった。
そういえば……これほど雨が降ったのはいつぶりだろう。
俺がこの街へ来て初めてじゃないか?
そんな事を考えながらに、腕から流れる真っ赤な血へ目を向けると、ギュッと拳を握りしめる。
腕からトクトクと伝わる微かな鼓動に、セブンに何も起きていないことが確認できる。
感じる鼓動から、戦闘はしてないないようだ。
と言う事は……誰もあの家には訪れていない。
俺のセブンを警戒して寄ってこれないだけかもしれないがな。
それよりもあいつは無事なんだろうか。
症状を見る限り即効性の毒ではないようだったが……あれほどの高熱だ、早めに手を打つべきだろう。
しかしどれぐらい待っただろうか……未だに爺さんは戻ってくる気配はない。
どんよりとした雨雲が次第に闇へ染まっていく姿に、俺は苛立つをぶつけるように地団駄を踏んだ。
すると床をけりつける音に、部屋の奥から小さな悲鳴が聞こえてきた。
あぁ、くそっ、一体いつ戻ってくるんだ。
それからしばらく待ってみるが、まだ爺さんは戻っては来ていない。
俺は窓の外へ目を向けると、日は大分沈み始めているのだろう、夜の闇がゆっくりと押し寄せてきている。
そろそろ日が暮れる……。
待ちぼうけを食らい苛立ちが募る中、未だに雨は止む気配はなかった。
*****************************
こんなあとがきに書いてしまっていいのかと悩みましたが……。
台風がまた来ますね……。
皆さま十分にお気をつけ下さいm(__)m
空が灰色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな街の中を、俺はひたすらに駆け抜けていた。
大通りを抜け、築港の方へ向かっていると、ポツポツと雨が降り始める。
次第に強まっていく雨脚に、徐に空を見上げると、薄暗い空に稲妻がはしっていった。
ザーと降りしきる雨の中、俺は狭い路地裏を駆け抜けていると、泥が裾に飛び跳ねる。
そのまま海辺までやってくると、浜辺にはポツリと浮かぶ小さな一軒家が目に映った。
俺は迷うことなくその家へ駆けこむと、ノックもせずに扉を開け放つ。
「おぃ、爺さんはいるか!!!」
「ひゃっ、えっ、あっ、あの……その……っっ」
雨に濡れた髪をかき上げ、目元を拭うと、雫がポタポタと床へ落ちていく。
受付に佇むビクビクと震える女に、苛立ちながらに詰め寄ると、彼女は小さな悲鳴を上げた。
「さっさと答えろ、爺さんはいるのか?」
「ひぃっ、あの……その……ちっ、近いです……」
女は俺の顔を見るや否や、頬を赤く染めたかと思うと、俺の胸を強く押し返す。
そんな女の様子に俺は大きく息を吐き出すと、サッと女から体を離した。
「ふぅ……あの……先生は……出かけております」
蚊の鳴くような小さな声に眉を潜める中、女は静かに顔を上げると、怯える様子で大きく肩を跳ねさせた。
「いつ戻ってくる、どこへ行ったんだ?」
「えっ、その……わかりません……。戻ってこられるとは思いますが……」
そうボソボソと答えると、女は慌てた様子で俺の前から逃げていく。
その様子を横目に深いため息を吐くと、俺は近くに見える椅子へとドサッと腰かけた。
くそっ、こんな時に……。
だがわざわざあの爺さんが出向いて行くということ事は、どこか名のある貴族にでも呼ばれたんだろう。
それであれば……ここで帰りを待つしか方法はない。
平民が貴族の屋敷へ勝手に入ることは出来ないからな。
正直遣い魔の治療師なら、この街であれば他にも多くいる。
普通の治療であれば、すぐさま別の治療師のところへ行っていただろうが……。
だがあいつは魔法使いだ。
俺たちのような遣い魔使いとは違う。
その点ここの治療師は遣い魔はもちろん、魔法というものを知っている数少ない人間だった。
俺がこの街へ来たばかりの頃、この爺さんに世話になった事がある。
ギルドの依頼中にちょっとしたミスで、負傷したんだ。
その時この爺さんがたまたま近くにて治療してもらったんだが、その時した世間話の中で、魔法について話したんだ。
俺の姿を見て爺さんは魔力が多い、とそう口にした。
魔力とは何なのか俺にはわからなかったが、爺さんの爺さんが魔法使いだったらしく、魔力が見えると語っていた。
そこで俺は魔法使いは魔力が見えることを知った。
きっとあいつも魔力というものが見えているのだろう。
魔法はこの世界では、あまり知られてない。
俺もノエルに関わっていなければ、しらなかったからな……。
他にも魔法使いを知っている治療師はいるのかもしれないが、俺は知らない。
なら魔法使いであるあいつを見てもらうのに今思いつくのは、この爺さんしかいない。
それに後から聞いた話では、あの爺さんはこの街一番の治療師だと噂されている。
まぁ……結構金はかかるんだがな。
だからこそ平民であるにも関わらず、貴族からの声がかかるのだろう。
雨の音が響く部屋の中、先ほどの女はどこへ行ったのだろうか……戻ってくる気配はない。
そんな中、外から聞こえてくる雨音はどんどん激しくなっていった。
そういえば……これほど雨が降ったのはいつぶりだろう。
俺がこの街へ来て初めてじゃないか?
そんな事を考えながらに、腕から流れる真っ赤な血へ目を向けると、ギュッと拳を握りしめる。
腕からトクトクと伝わる微かな鼓動に、セブンに何も起きていないことが確認できる。
感じる鼓動から、戦闘はしてないないようだ。
と言う事は……誰もあの家には訪れていない。
俺のセブンを警戒して寄ってこれないだけかもしれないがな。
それよりもあいつは無事なんだろうか。
症状を見る限り即効性の毒ではないようだったが……あれほどの高熱だ、早めに手を打つべきだろう。
しかしどれぐらい待っただろうか……未だに爺さんは戻ってくる気配はない。
どんよりとした雨雲が次第に闇へ染まっていく姿に、俺は苛立つをぶつけるように地団駄を踏んだ。
すると床をけりつける音に、部屋の奥から小さな悲鳴が聞こえてきた。
あぁ、くそっ、一体いつ戻ってくるんだ。
それからしばらく待ってみるが、まだ爺さんは戻っては来ていない。
俺は窓の外へ目を向けると、日は大分沈み始めているのだろう、夜の闇がゆっくりと押し寄せてきている。
そろそろ日が暮れる……。
待ちぼうけを食らい苛立ちが募る中、未だに雨は止む気配はなかった。
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こんなあとがきに書いてしまっていいのかと悩みましたが……。
台風がまた来ますね……。
皆さま十分にお気をつけ下さいm(__)m
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