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第五章
閑話:その頃彼は・前編(シナン視点)
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僕はまだ日が昇りきらない頃に目が覚めると、ベッドから静かに体を起こした。
隣にはスヤスヤと寝息を立てる、お姉さんの姿がある。
そっと手を伸ばし彼女の頬へ触れてみると、くすぐったかったのだろうか……小さく身じろいで見せた。
その姿に昨日感じた感情とは別の熱い気持ちがこみ上げる。
そんな自分自身の変化に戸惑う中、僕は手を離しながらに大きく息を吸い込むと、着替えを済ませ、一階へと下りて行った。
そうして朝食の準備を行っていると、入口からガチャリと扉が開く音が耳に届く。
手を止め玄関を覗き込んでみると、そこには知らない女の臭いを纏った……カミールさんの姿があった。
カミールさん何をしていたんだろう……?
そんな事を疑問に思っていると、カミールさんはどこか不機嫌そうに顔を歪め、僕に気づく様子はなく、そのままリビングへと入っていく。
その姿に僕も慌てて戻ると、朝食の準備へと戻っていった。
鍋を煮込みながらに、カミールさんへ食べるかどうかを尋ねてみるも返事はない。
今日の彼はとても機嫌が悪いようだ。
イライラするカミールさんの様子を覗う中、ふと二階から微かな足音が耳に届く。
お姉さん、目が覚めたのかな。
そうしてお姉さんが一階へやってくると、なぜかカミールさんの姿を見て固まった。
そんな彼女の反応を不思議に思う中、カミールさんの機嫌が先ほどよりも悪くなっていく。
不穏な空気が漂う中、僕は咄嗟にお姉さんへ話しかけると、朝食を食べることになったんだ。
そうして暫くすると、カミールさんから今日は客が来ると、突拍子もないことを話し始める。
お客様に出すお茶あったかなぁ……。
そんな事を考えながらに午前中の家事を片付けていると、チャイムの音が部屋に響くと、カミールさんは僕にあるお使いを頼んだんだ。
そうして僕はカミールさんに深く頷くと、玄関からではなく、窓から外へと飛び出した。
そうして素早く塀を乗り越えると、強く土を蹴り上げ、爪先から静かに着地する。
ふぅ……遣い魔の臭いがあちこちからする……。
見つからないように、慎重に行こう。
僕にはやらなければいけないことがあるんだから……。
お姉さんが運ばれて来たあの日から、ずっと視線を感じていた。
僕たちがいるこの家がずっと狙われている事を……。
どうして狙われているのかはわからないけれど、カミールさんは遣い魔を一晩中家の周りへ張り付かせてくれているのを知っている。
だから安心してお姉さんと一緒に居ることが出来たんだ。
僕は気配を隠すようにじっと身を潜めると、耳を欹てながらに慎重に足を進めていく。
そうして無事に裏路地へとたどり着くと、また強く地面を蹴り上げた。
大人になった僕は身体能力が上がり、人間には到底出せないようなスピードで走ることが出来る。
このまま船着き場で行こう。
向かい風がローブを脱がそうとしてくる中、僕は前傾姿勢を取ると、全力で港へと走っていった。
そう……カミールさんのお使いは、ばれないように3枚の乗船券を手に入れる事。
壁の傍へ行くための乗船券。
狙われる身となったお姉さんやカミールさんが買いに行けば、すぐに捕まってしまう。
でも僕は……つい先日まで子供の姿だった。
まだカミールさんとお姉さん以外、僕が大人になった姿を見ていない。
だからきっとカミールさんは僕にこの役目を任せたんだ。
やっと役に立つことが出来ることに嬉しいと感じる中、僕はただひたすらに走っていた。
さすがにローブが取れてしまえば、目の色や獣特融の耳でばれてしまうかもしれない。
別人になったわけではないのだから、面影は必ず残っているだろう。
お姉さんの為に、僕やり遂げるよ。
次は絶対に……僕がお姉さんの役に立つんだ。
そうして僕は築港へとやってくると、そこは人であふれていた。
大型の客船が何隻も連なり、人間たちがわらわらと集まっている。
こんなところで獣人だとばれると、大変だ……。
僕は自然に人間へ紛れ込むと、俯きながらに深くフードをかぶりなおし、船体に【1】と書かれた一番大きな船の前へやってきた。
(シナン、俺たちが話している間、お前に頼みたい事がある。【1】の船チケットを3枚買ってきてくれ。ランクSだ)
カミールさんの言葉を思い出しながら、キョロキョロと辺りを見渡していると、通路の一番奥に乗船券発券所と大きな看板が目に映る。
あのお店だ。
人の流れに沿うように進んでいく中、その店舗の前へやってくると、威勢の良い受付のおじさんが、僕に声をかけてきた。
「おっ、乗船券か?どこへ行くんだ?」
「あっ、……壁に一番近い街へ……【1】のSランクチケットを3枚お願いします」
顔を上げぬままに、そうボソボソと話す中、おじさんは訝し気な声を出すと、僕の顔を覗き込んだ。
「あんた……金持ってるのか?Sランクだと1枚金貨3、3枚で金貨9枚だぞ」
男は怪しむようにジロジロと値踏みする中、僕は慌てて袋を取り出すと、机の上へ金貨を並べていく。
すると男は驚いた様子で金貨を手に取って眺める中、ふと後方に人の気配を感じた。
そっと振り返ってみると、そこには高身長な男がじっと僕を見下ろしていた。
隣にはスヤスヤと寝息を立てる、お姉さんの姿がある。
そっと手を伸ばし彼女の頬へ触れてみると、くすぐったかったのだろうか……小さく身じろいで見せた。
その姿に昨日感じた感情とは別の熱い気持ちがこみ上げる。
そんな自分自身の変化に戸惑う中、僕は手を離しながらに大きく息を吸い込むと、着替えを済ませ、一階へと下りて行った。
そうして朝食の準備を行っていると、入口からガチャリと扉が開く音が耳に届く。
手を止め玄関を覗き込んでみると、そこには知らない女の臭いを纏った……カミールさんの姿があった。
カミールさん何をしていたんだろう……?
そんな事を疑問に思っていると、カミールさんはどこか不機嫌そうに顔を歪め、僕に気づく様子はなく、そのままリビングへと入っていく。
その姿に僕も慌てて戻ると、朝食の準備へと戻っていった。
鍋を煮込みながらに、カミールさんへ食べるかどうかを尋ねてみるも返事はない。
今日の彼はとても機嫌が悪いようだ。
イライラするカミールさんの様子を覗う中、ふと二階から微かな足音が耳に届く。
お姉さん、目が覚めたのかな。
そうしてお姉さんが一階へやってくると、なぜかカミールさんの姿を見て固まった。
そんな彼女の反応を不思議に思う中、カミールさんの機嫌が先ほどよりも悪くなっていく。
不穏な空気が漂う中、僕は咄嗟にお姉さんへ話しかけると、朝食を食べることになったんだ。
そうして暫くすると、カミールさんから今日は客が来ると、突拍子もないことを話し始める。
お客様に出すお茶あったかなぁ……。
そんな事を考えながらに午前中の家事を片付けていると、チャイムの音が部屋に響くと、カミールさんは僕にあるお使いを頼んだんだ。
そうして僕はカミールさんに深く頷くと、玄関からではなく、窓から外へと飛び出した。
そうして素早く塀を乗り越えると、強く土を蹴り上げ、爪先から静かに着地する。
ふぅ……遣い魔の臭いがあちこちからする……。
見つからないように、慎重に行こう。
僕にはやらなければいけないことがあるんだから……。
お姉さんが運ばれて来たあの日から、ずっと視線を感じていた。
僕たちがいるこの家がずっと狙われている事を……。
どうして狙われているのかはわからないけれど、カミールさんは遣い魔を一晩中家の周りへ張り付かせてくれているのを知っている。
だから安心してお姉さんと一緒に居ることが出来たんだ。
僕は気配を隠すようにじっと身を潜めると、耳を欹てながらに慎重に足を進めていく。
そうして無事に裏路地へとたどり着くと、また強く地面を蹴り上げた。
大人になった僕は身体能力が上がり、人間には到底出せないようなスピードで走ることが出来る。
このまま船着き場で行こう。
向かい風がローブを脱がそうとしてくる中、僕は前傾姿勢を取ると、全力で港へと走っていった。
そう……カミールさんのお使いは、ばれないように3枚の乗船券を手に入れる事。
壁の傍へ行くための乗船券。
狙われる身となったお姉さんやカミールさんが買いに行けば、すぐに捕まってしまう。
でも僕は……つい先日まで子供の姿だった。
まだカミールさんとお姉さん以外、僕が大人になった姿を見ていない。
だからきっとカミールさんは僕にこの役目を任せたんだ。
やっと役に立つことが出来ることに嬉しいと感じる中、僕はただひたすらに走っていた。
さすがにローブが取れてしまえば、目の色や獣特融の耳でばれてしまうかもしれない。
別人になったわけではないのだから、面影は必ず残っているだろう。
お姉さんの為に、僕やり遂げるよ。
次は絶対に……僕がお姉さんの役に立つんだ。
そうして僕は築港へとやってくると、そこは人であふれていた。
大型の客船が何隻も連なり、人間たちがわらわらと集まっている。
こんなところで獣人だとばれると、大変だ……。
僕は自然に人間へ紛れ込むと、俯きながらに深くフードをかぶりなおし、船体に【1】と書かれた一番大きな船の前へやってきた。
(シナン、俺たちが話している間、お前に頼みたい事がある。【1】の船チケットを3枚買ってきてくれ。ランクSだ)
カミールさんの言葉を思い出しながら、キョロキョロと辺りを見渡していると、通路の一番奥に乗船券発券所と大きな看板が目に映る。
あのお店だ。
人の流れに沿うように進んでいく中、その店舗の前へやってくると、威勢の良い受付のおじさんが、僕に声をかけてきた。
「おっ、乗船券か?どこへ行くんだ?」
「あっ、……壁に一番近い街へ……【1】のSランクチケットを3枚お願いします」
顔を上げぬままに、そうボソボソと話す中、おじさんは訝し気な声を出すと、僕の顔を覗き込んだ。
「あんた……金持ってるのか?Sランクだと1枚金貨3、3枚で金貨9枚だぞ」
男は怪しむようにジロジロと値踏みする中、僕は慌てて袋を取り出すと、机の上へ金貨を並べていく。
すると男は驚いた様子で金貨を手に取って眺める中、ふと後方に人の気配を感じた。
そっと振り返ってみると、そこには高身長な男がじっと僕を見下ろしていた。
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