[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:夢の中で:後編 (エレナ視点)

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ドカンッと大きな音に体がビクッと跳ね目覚めると、目の前の壁が崩れ落ちる。
砂埃が舞い慌てて体を起こすと、すぐに隣へ目をやった。
横たわるノエルの浅かった息が深く規則正しい音に変わっている。
頬に赤みがかかり、枯渇したいた魔力は十分戻っていた。

やっとうちは彼を救えたんか……ほんまによかった。
私はほっと息を吐くと、彼の髪へそっと触れ眺めていると、また遠くから何かが崩れ落ちる音が響く。
ノエルはまだ目覚める気配はない。
このままやマズイ、避難せなアカンけど……。
自分の魔力を確認してみると、ノエルに渡してしまいそれほど残っていない。
補充したいところだが、さっきの魔法の反動で魔力を補充することも出来ない。

どうするべきかと頭を悩ませていると、遠くの方で建物が崩れる音が何度も響いた。
うーん、とりあえず瓦礫から身を守るか……。
この華奢な体にノエルを運べるほどの腕力はないやろうし。

残り少ない魔力を調整しながら指先に力を集めた瞬間、真上からガラガタガッと大きな音が響く。
顔を上げると、大きな瓦礫がこちらへ向かって落ちてきた。
ひぇっ、まずい!?
私は慌てて魔法の膜を作るが、大きな瓦礫を防ぎきれるほどの魔力は用意できていない。
咄嗟にノエルの体へ覆い被さると、ギュッと目を閉じた。
魔法で多少の緩和にはなるやろうけど……ッッ。
落ちてくるだろう瓦礫の破片に身構えるが、なかなか痛みが襲ってこない

あれ……?
恐る恐るに顔を上げると、いつの間に目覚めていたのか……ノエルが傘のように魔力の膜を描いていた。

「危ないところだったね、ところでまさか君が……私を助けたのかい……?」

さっきの彼の声ではない、低音で落ち着きのある口調に私は首を傾げる。
瞳に映り込む自分の姿に、ハッと気が付いた。
そうやった、今の姿は彼女の姿や。
夢の中で長くも短くも感じたあの幸せなひと時で、本当の己の姿を忘れていた。

うちがエレナや、そう伝えるため口を開けた瞬間、ピタッと動きを止める。
この姿は仮の姿で、うちはこの世界にいてはならん存在。
彼に会うという目的は達成した。
救うことも出来た。
ここでうちを認識してもらっても、どうにもならへん。
離れがたくなるだけや……。
開けた口を閉じると、そっと首を垂れ立ち上がった。
そのまま振り向くことなく、私は彼から逃げるように走ったのだった。

今にも崩れ落ちそうな通路をがむしゃらに走っていく。
振り返ると、私を追いかけてくるノエルの姿が目に映った。
私は脚に力を入れると、スピードを上げた。

瓦礫の山を飛び越え暫く道なりに進むと、視界の先が開けた。
思わず飛び込んだ刹那、足場が崩れ落ちる。
まずいッッ。
咄嗟に魔法を使おうとするが、間に合うはずもない。
どうしよう、この体はうちのもんやないのにッッ!
辺りの景色がスローモーションに流れ体が真っ逆さまに落ちていく。
絶望していると彼が私の腕を掴んだ。

「くぅッッ、まったく手がかかるね」

ノエルから魔力を感じると、私の体がふわっと浮き上がった。
先ほど走ってきた通路に降ろされると、逃がさないと言わんばかりに私の腕を掴む。

「助けておいて、なぜ逃げるんだい?私の魔力は枯渇していたはずだし、補充してくれたの君なのかい?」

助けたのは私だが、何も答えることは出来ない。
話せばすぐにばれてしまうだろう。
彼女の体を借りていても、変なしゃべり方の癖はなおっていないのだから。

黙り込む私の姿に、ノエルは深いため息をついた。

「はぁ……だんまりかな?まぁいい、とりあえずここから出ようか」

彼の魔力が私を包み込むと、移転魔法が発動したのだった。

次の目を開けると、そこは懐かしいあの場所だった。
長い年月で建物は崩れ、ただっぴろい広場になっているが、間違いなくここは私とノエルが暮らしていた場所。
遠くから懐かしい川の潺が耳に届き、昔と変わらず
私は家の扉があった場所へ立つと、あの頃を思い出した。

ノエルと暮らした幸せな日々が脳裏に描かれる。
幸せやったなぁ……。
そんな場所に、彼ともう一度訪れる日が来るなんて……。

「どうして泣いているんだい……?」

彼の声に振り返ると、頬に水滴が流れ落ちていた。
私は慌てて涙を拭うと、無理やりに笑って見せる。
彼は私を見つめたまま、目を見開き動きを止めた。
どうしたのかと彼の瞳を覗き込むと、そのまま胸の中へ引き込まれる。

「……エレナなのか……?」

紡がれたその言葉に、息をすることも忘れ固まった。
夢の中ではない、本当の彼の温もりを感じ涙がとめどなく溢れ出す。

「ひぃっ、くっ、なんでや……?」

「泣き顔を誤魔化して笑う仕草でわかったよ。君はいつもそうだった。それにその話し方変わってないんだね。エレナ、エレナ、会いたかった。こんな傍に居たなんて……ッッ」

「うぅっ、ちゃうねん、うちの時間は止まってた。けど彼女がまたここへ戻してくれたや。ノエルと会えるようにって……ッッ、ひぃっく、うぅッッ。ノエル、ノエルごめんな」

言いたいことはいっぱいあるが、あふれる思いが強すぎて言葉に出来ない。
私はノエルの背中へ手を回すと、求めるようにしがみついた。
彼の胸が涙で湿っていく中、私はわんわんと泣き続けたのだった。
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