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第五章
最終話:旅した仲間
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舞っていた落ち葉が静かに落ちていく。
シナンとカミールに会ってから壁を壊そうと思っていたけれど、ノエルの話を考えると得策ではなさそうね。
申し訳ないけれど……先に一人で壁を壊しに行きましょう。
ラボに兵器があるのなら、穴を開けるのは離れた場所の方がいい。
魔法で移動しましょう。
おかげさまで……魔力は十分にあるしね。
ラボに背を向けた刹那、ガサガサッと音が響く。
何かいる……?
恐る恐るに振り返ると、こちらに向かってくる影。
慌てて逃げようとするが、その前に影が私へ飛びついた。
「きゃっ!?」
衝撃にバランスを崩し後ろへ倒れそうになるが、その前に男の腕が体を支える。
何事かと顔を上げると、涙目をしたグレーの瞳が映し出された。
「お姉さん、やっと……うぅ、やっと戻ってきた、うわああああん」
「シナン!?どっ、どうして!?」
泣きじゃくるシナンを宥めるように頭を撫でる。
「うぅ……今度は本当のお姉さんだ。ひぃっく、あいつやっと消えたの?もうどこにもいかないで……ぐすっ、ぐすっ」
ギュッと抱きしめる腕が強まると、息苦しさに身をよじった。
「シッ、シナン落ち着いてッッ、ぅん、苦しいわ」
「ごっ、ごめんなさい」
シナンはパッと手を離すと、涙を拭きながら後ずさる。
「ゴホッ、ゴホ、ゴホッ、はぁ……大丈夫よ。シナン戻るのが遅くなってごめんなさい」
「ううん、戻ってきてくれたからいい。もう絶対にお姉さんを一人にしない」
シナンは私の手を取ると、硬く握りしめた。
「ごめんなさいね、どこにもいかないわ。それよりも本当の私というのは……?」
「地下で会ったとき、お姉さん別の人になっていた。僕すぐに気が付いたんだ」
エレナと会っていたのね。
そんな情報聞いていないわ……。
「そうなのね、……あのシナン、言いづらいんだけど……まだ戻れないの。先に壁を壊さないと」
「壁を壊す?それなら僕もついていく。絶対についていくから!」
何が何でもついてくるとわかる瞳に私は考え込む。
一人で行きたいところだったけれど……でもシナンなら大丈夫かしら……。
向こう側の人間ではないし……私の味方だわ。
「……わかったわ。でもみんなには秘密に……」
シナンはハッとした表情を見せると、慌てて後ろを振り返る。
視線の先を追うと、ラボからぞろぞろと出てくる人影。
嘘でしょ……。
「お姉さん、僕に捕まって」
私は反射的に彼の首へしがみつくと、軽々体が持ち上げられる。
シナンはそのまま森の中へ走りだすと、あっという間にラボは見えなくなった。
・
・
・
「ふぅ……ここまでくれば大丈夫かな?」
シナンはスピードを落とすと、私はぐったりともたれかかる。
以前ネイトの背中に乗ったときのような感覚。
うぅ……気持ち悪い……ッッ。
口元を押さえながら地面に足を下すと、そのまましゃがみこんだ。
「お姉さん大丈夫?ごっ、ごめんなさい……僕……」
「うぅ……だっ、大丈夫よ。運んでくれてありがとう。助かったわ」
何とか笑みを浮かべると、シナンが嬉しそうに笑った。
体を休めようやく落ち着いてくると、私は顔を上げ辺りを見渡した。
ここはどこかしら……。
ラボからどれくらい離れたのかしら……大分走った気はするけれど……。
辺りをぐるっと見渡すと、木ばかりでさっぱりわからない。
だけどとりあえずラボから遠いみたいだし、壁に向かいましょう。
遠くに見える壁を目印に歩いていると、日が傾き辺りが暗くなっていく。
木々の隙間から差し込んでいた赤い光が消えていくと、深い闇が訪れた。
「暗くなってしまったわね」
「お姉さん危ないよ、僕に捕まって」
「大丈夫よ」
そう答えた刹那、太い幹に足を取られる。
前のめりに倒れこむ前にシナンが私の体を支えた。
「全然大丈夫じゃない、やっぱり僕に捕まって。今度はゆっくり進むから」
うぅ、と自分のどんくささに羞恥していると、後方から叢をかき分ける音が耳にどとく。
ハッと顔を向けると、叢が激しぐ揺れていた。
もしかして獣かしら……。
私は魔力を指先へ集め警戒していると、そこに人影が浮かび上がる。
思わず木の後ろへ身を顰めると、目を凝らし人影を見つめた。
月が昇り木々から差し込む光が照らされると、徐々に人影が現れる。
「カッ、カミール!?」
どうしてここにいるの?
「なんだ、本当に戻ってきたのか?今度は本物か?」
カミールは私の後ろに居るシナンへ顔を向けると問いかけた。
「うん、本当のお姉さん」
シナンは私を抱き上げると、カミールの方へ歩き出す。
「シッ、シナンッッ」
「シナン、今回は思い過ごしじゃなかったんだな。だが見つけたのならどうしてラボに戻って来ない?」
「ごめんなさい、お姉さんまだやることがあるみたいで……皆にはまだ会えないんだって」
「ほう、毎度毎度面倒ごとばかりに巻き込まれているな」
「なっ、面倒ごとばかりって、その発端はだいたいあなたでしょ!」
カミールの聞き捨てならない言葉に、私は顔を向けエメラルドの瞳を睨みつける。
「久しぶりに会ったのに第一声がそれか、まぁいい、元気そうで安心した。っでやらなきゃいけないことてのはなんだ?」
カミールはこちらへ近づいてくると、抱き上げられている私を見下ろした。
彼はシナンほど信用できない……だけど悪い人でもないのよね。
性格は悪いけれど……見つかってしまったのなら仕方がないのかしら……。
「うぅ、それは……壁を壊すのよ」
「へぇー見つけたのか。面白そうだ、俺も行く。だが壁を壊すなら、合流したほうがよかったんじゃないのか?」
「それは……色々あるのよ」
私は言葉を濁すと、シナンの腕から飛び降り壁に向かって歩き始めたのだった。
足元を確認しながら一歩一歩進んでいく。
エレナのこと彼女の家族のこと、壁の事、戦争の事。
考えることが多すぎててんぱっていたけれど、先ほどのやり取りを思い出すと笑いが込み上げる。
いつもの日常、カミールとシナンそして私。
ここまで来るのに本当に色々あったけれど、二人が居たから乗り越えられた。
今度もきっと大丈夫よ。
そっと振り返ると、二人の姿を見つめる。
「シナン、カミール、ありがとう」
私は二人へむかって笑うと、もうすぐそこに見える高い壁へ向かって走って行った。
***********************************
思ったより再会した彼らとのわちゃわちゃが長くなってしまいました……。
次話は明日投稿!
タイトル【壁の向こう側】
シナンとカミールに会ってから壁を壊そうと思っていたけれど、ノエルの話を考えると得策ではなさそうね。
申し訳ないけれど……先に一人で壁を壊しに行きましょう。
ラボに兵器があるのなら、穴を開けるのは離れた場所の方がいい。
魔法で移動しましょう。
おかげさまで……魔力は十分にあるしね。
ラボに背を向けた刹那、ガサガサッと音が響く。
何かいる……?
恐る恐るに振り返ると、こちらに向かってくる影。
慌てて逃げようとするが、その前に影が私へ飛びついた。
「きゃっ!?」
衝撃にバランスを崩し後ろへ倒れそうになるが、その前に男の腕が体を支える。
何事かと顔を上げると、涙目をしたグレーの瞳が映し出された。
「お姉さん、やっと……うぅ、やっと戻ってきた、うわああああん」
「シナン!?どっ、どうして!?」
泣きじゃくるシナンを宥めるように頭を撫でる。
「うぅ……今度は本当のお姉さんだ。ひぃっく、あいつやっと消えたの?もうどこにもいかないで……ぐすっ、ぐすっ」
ギュッと抱きしめる腕が強まると、息苦しさに身をよじった。
「シッ、シナン落ち着いてッッ、ぅん、苦しいわ」
「ごっ、ごめんなさい」
シナンはパッと手を離すと、涙を拭きながら後ずさる。
「ゴホッ、ゴホ、ゴホッ、はぁ……大丈夫よ。シナン戻るのが遅くなってごめんなさい」
「ううん、戻ってきてくれたからいい。もう絶対にお姉さんを一人にしない」
シナンは私の手を取ると、硬く握りしめた。
「ごめんなさいね、どこにもいかないわ。それよりも本当の私というのは……?」
「地下で会ったとき、お姉さん別の人になっていた。僕すぐに気が付いたんだ」
エレナと会っていたのね。
そんな情報聞いていないわ……。
「そうなのね、……あのシナン、言いづらいんだけど……まだ戻れないの。先に壁を壊さないと」
「壁を壊す?それなら僕もついていく。絶対についていくから!」
何が何でもついてくるとわかる瞳に私は考え込む。
一人で行きたいところだったけれど……でもシナンなら大丈夫かしら……。
向こう側の人間ではないし……私の味方だわ。
「……わかったわ。でもみんなには秘密に……」
シナンはハッとした表情を見せると、慌てて後ろを振り返る。
視線の先を追うと、ラボからぞろぞろと出てくる人影。
嘘でしょ……。
「お姉さん、僕に捕まって」
私は反射的に彼の首へしがみつくと、軽々体が持ち上げられる。
シナンはそのまま森の中へ走りだすと、あっという間にラボは見えなくなった。
・
・
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「ふぅ……ここまでくれば大丈夫かな?」
シナンはスピードを落とすと、私はぐったりともたれかかる。
以前ネイトの背中に乗ったときのような感覚。
うぅ……気持ち悪い……ッッ。
口元を押さえながら地面に足を下すと、そのまましゃがみこんだ。
「お姉さん大丈夫?ごっ、ごめんなさい……僕……」
「うぅ……だっ、大丈夫よ。運んでくれてありがとう。助かったわ」
何とか笑みを浮かべると、シナンが嬉しそうに笑った。
体を休めようやく落ち着いてくると、私は顔を上げ辺りを見渡した。
ここはどこかしら……。
ラボからどれくらい離れたのかしら……大分走った気はするけれど……。
辺りをぐるっと見渡すと、木ばかりでさっぱりわからない。
だけどとりあえずラボから遠いみたいだし、壁に向かいましょう。
遠くに見える壁を目印に歩いていると、日が傾き辺りが暗くなっていく。
木々の隙間から差し込んでいた赤い光が消えていくと、深い闇が訪れた。
「暗くなってしまったわね」
「お姉さん危ないよ、僕に捕まって」
「大丈夫よ」
そう答えた刹那、太い幹に足を取られる。
前のめりに倒れこむ前にシナンが私の体を支えた。
「全然大丈夫じゃない、やっぱり僕に捕まって。今度はゆっくり進むから」
うぅ、と自分のどんくささに羞恥していると、後方から叢をかき分ける音が耳にどとく。
ハッと顔を向けると、叢が激しぐ揺れていた。
もしかして獣かしら……。
私は魔力を指先へ集め警戒していると、そこに人影が浮かび上がる。
思わず木の後ろへ身を顰めると、目を凝らし人影を見つめた。
月が昇り木々から差し込む光が照らされると、徐々に人影が現れる。
「カッ、カミール!?」
どうしてここにいるの?
「なんだ、本当に戻ってきたのか?今度は本物か?」
カミールは私の後ろに居るシナンへ顔を向けると問いかけた。
「うん、本当のお姉さん」
シナンは私を抱き上げると、カミールの方へ歩き出す。
「シッ、シナンッッ」
「シナン、今回は思い過ごしじゃなかったんだな。だが見つけたのならどうしてラボに戻って来ない?」
「ごめんなさい、お姉さんまだやることがあるみたいで……皆にはまだ会えないんだって」
「ほう、毎度毎度面倒ごとばかりに巻き込まれているな」
「なっ、面倒ごとばかりって、その発端はだいたいあなたでしょ!」
カミールの聞き捨てならない言葉に、私は顔を向けエメラルドの瞳を睨みつける。
「久しぶりに会ったのに第一声がそれか、まぁいい、元気そうで安心した。っでやらなきゃいけないことてのはなんだ?」
カミールはこちらへ近づいてくると、抱き上げられている私を見下ろした。
彼はシナンほど信用できない……だけど悪い人でもないのよね。
性格は悪いけれど……見つかってしまったのなら仕方がないのかしら……。
「うぅ、それは……壁を壊すのよ」
「へぇー見つけたのか。面白そうだ、俺も行く。だが壁を壊すなら、合流したほうがよかったんじゃないのか?」
「それは……色々あるのよ」
私は言葉を濁すと、シナンの腕から飛び降り壁に向かって歩き始めたのだった。
足元を確認しながら一歩一歩進んでいく。
エレナのこと彼女の家族のこと、壁の事、戦争の事。
考えることが多すぎててんぱっていたけれど、先ほどのやり取りを思い出すと笑いが込み上げる。
いつもの日常、カミールとシナンそして私。
ここまで来るのに本当に色々あったけれど、二人が居たから乗り越えられた。
今度もきっと大丈夫よ。
そっと振り返ると、二人の姿を見つめる。
「シナン、カミール、ありがとう」
私は二人へむかって笑うと、もうすぐそこに見える高い壁へ向かって走って行った。
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思ったより再会した彼らとのわちゃわちゃが長くなってしまいました……。
次話は明日投稿!
タイトル【壁の向こう側】
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