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第五章
最終話:壁の向こう側
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高々と聳え立つ壁。
以前見たときと何も変わっていない。
魔力を帯びた指先で触れると、魔力はチリチリとなって吸い込まれていく。
私はそっと壁から距離を取ると、感慨深い思いで瞳を閉じた。
やっとここまで来た。
西の果てへ飛ばされてから長かったわ。
そこで旅を共にしてきたカミールとシナンに出会った。
最初はどうなるのか不安だったけれど……本当に色々あったわね。
今まで出来事が走馬灯のようによみがえる。
私は深く息を吸い込み両手を前へ掲げると、おもむろに瞳を開けた。
壁の内側へ魔力を浮かび上がらせる。
リョウに教わったことを思い出しながら、私は壁をじっと見つめた。
魔力球を地面へ転がすと、土の中へ沈ませていく。
深く深く沈んでいくと、ふと壁の存在が消えた。
ここだわ。
魔力球を移動させ上へ上へ上昇させると、壁の内側から自分の魔力を感じた。
両手を壁へ向け中にあるだろう魔力の球を練り大きさを調整していく。
大きな穴は開けられない。
人一人が通れる大きさでいいのだけれど……爆発なんてさせたことはないし加減が難しいわ。
うーん、洋画でよく出てくるC4という爆弾がこれぐらいだったはず。
そこまで破壊力がなかったような気がするけれど……大丈夫よね……。
私は魔力球をその場にとどめると、掌を広げた。
よしやるわ、きっと大丈夫。
壁へ向けている手をゆっくりと握りしめると、魔力が一気にはじけた。
ドッカーンンッ!!!!
ガラガラガラッガラガラ、ドドドドッッ。
けたたましい音と共に壁が崩れ落ちていく。
驚き尻もちをつくと、体が強い力で後ろへ引き寄せられた。
上に二人の影が覆い被されると、ガガガガッと瓦礫が崩れ落ちる音が辺りに響く。
土埃が舞いようやく静かになったころ、覆い被さっていた体がゆっくりと離れた。
「お姉さん、危ないですよ!!やるならちゃんと教えてくれないと!もうお姉さんの傷つく姿を見たくないんです……ッッ」
シナンは涙目で私を見下ろすと、ギュッと体を抱きしめる。
「はぁ……お前本当にバカだろう?爆発させるなら先に言っとけ」
カミールの呆れた声に顔を上げると、彼は服についた土埃を払い落としていた。
「ごっ、ごめんなさい。こんな大きな爆発を起こすつもりはなくて……その、ありがとう」
私はおんおんと泣くシナンの背中を撫でると、おもむろに体を起こす。
空を見上げると、丸い月が昇っていた。
まさかこんな大きな爆発が起こるなんて。
もしかして満月で魔力が強くなってしまったのかしら……?
首を傾げながら土埃が収まった先へ目を向けると、壁にぽっかりと空いた穴。
無事ミッションは成功したようだ。
しかし穴の大きさは人一人分どころか、馬車一台は余裕で通れそうな穴になってしまった。
やり過ぎたわね……まぁでもこれぐらいなら兵器をたくさん運べないわよね……?
まじまじと壁を見つめていると、ふと壁の向こう側から魔力を感じた。
その魔力はどこかで感じたことがある。
すごい速さでこちらへ近づいてくると、男の声が耳に届いた。
「うわー、すごいな!珍しい魔力を感じて何かと思ってやってきてみたら、本当に壁に穴が……ぶつぶつ」
この声は。
はっきり聞こえた声に体が震えた。
もう二度と聞くことはないと思っていた声。
熱い感情が胸の奥から一気に込み上げる。
懐かしくそして悲しくもあり、幸せだった日々を思い出す。
私はシナンの肩を強く押し立ち上がると、無我夢中で壁へ走った。
聞き間違えるわけない。
絶対に彼の声。
瓦礫を飛び越え壁を潜り抜けた先に居たのは――――――。
「あれ?やぁ、こんばんは」
単発だったブロンドの髪は少し伸び、透き通ったターコイズの瞳は変わっていない。
私の記憶にある彼よりも幾分老けているが、紛れもない彼だった。
「……ッッ、タ……ク……ミ……」
これは夢……?
いえ、違う……本当に彼が目の前にいる。
はっきりと映る彼の姿は幻ではない。
***************************************
次話は8/23 21時投稿!
タイトル「果たせなかった約束」
以前見たときと何も変わっていない。
魔力を帯びた指先で触れると、魔力はチリチリとなって吸い込まれていく。
私はそっと壁から距離を取ると、感慨深い思いで瞳を閉じた。
やっとここまで来た。
西の果てへ飛ばされてから長かったわ。
そこで旅を共にしてきたカミールとシナンに出会った。
最初はどうなるのか不安だったけれど……本当に色々あったわね。
今まで出来事が走馬灯のようによみがえる。
私は深く息を吸い込み両手を前へ掲げると、おもむろに瞳を開けた。
壁の内側へ魔力を浮かび上がらせる。
リョウに教わったことを思い出しながら、私は壁をじっと見つめた。
魔力球を地面へ転がすと、土の中へ沈ませていく。
深く深く沈んでいくと、ふと壁の存在が消えた。
ここだわ。
魔力球を移動させ上へ上へ上昇させると、壁の内側から自分の魔力を感じた。
両手を壁へ向け中にあるだろう魔力の球を練り大きさを調整していく。
大きな穴は開けられない。
人一人が通れる大きさでいいのだけれど……爆発なんてさせたことはないし加減が難しいわ。
うーん、洋画でよく出てくるC4という爆弾がこれぐらいだったはず。
そこまで破壊力がなかったような気がするけれど……大丈夫よね……。
私は魔力球をその場にとどめると、掌を広げた。
よしやるわ、きっと大丈夫。
壁へ向けている手をゆっくりと握りしめると、魔力が一気にはじけた。
ドッカーンンッ!!!!
ガラガラガラッガラガラ、ドドドドッッ。
けたたましい音と共に壁が崩れ落ちていく。
驚き尻もちをつくと、体が強い力で後ろへ引き寄せられた。
上に二人の影が覆い被されると、ガガガガッと瓦礫が崩れ落ちる音が辺りに響く。
土埃が舞いようやく静かになったころ、覆い被さっていた体がゆっくりと離れた。
「お姉さん、危ないですよ!!やるならちゃんと教えてくれないと!もうお姉さんの傷つく姿を見たくないんです……ッッ」
シナンは涙目で私を見下ろすと、ギュッと体を抱きしめる。
「はぁ……お前本当にバカだろう?爆発させるなら先に言っとけ」
カミールの呆れた声に顔を上げると、彼は服についた土埃を払い落としていた。
「ごっ、ごめんなさい。こんな大きな爆発を起こすつもりはなくて……その、ありがとう」
私はおんおんと泣くシナンの背中を撫でると、おもむろに体を起こす。
空を見上げると、丸い月が昇っていた。
まさかこんな大きな爆発が起こるなんて。
もしかして満月で魔力が強くなってしまったのかしら……?
首を傾げながら土埃が収まった先へ目を向けると、壁にぽっかりと空いた穴。
無事ミッションは成功したようだ。
しかし穴の大きさは人一人分どころか、馬車一台は余裕で通れそうな穴になってしまった。
やり過ぎたわね……まぁでもこれぐらいなら兵器をたくさん運べないわよね……?
まじまじと壁を見つめていると、ふと壁の向こう側から魔力を感じた。
その魔力はどこかで感じたことがある。
すごい速さでこちらへ近づいてくると、男の声が耳に届いた。
「うわー、すごいな!珍しい魔力を感じて何かと思ってやってきてみたら、本当に壁に穴が……ぶつぶつ」
この声は。
はっきり聞こえた声に体が震えた。
もう二度と聞くことはないと思っていた声。
熱い感情が胸の奥から一気に込み上げる。
懐かしくそして悲しくもあり、幸せだった日々を思い出す。
私はシナンの肩を強く押し立ち上がると、無我夢中で壁へ走った。
聞き間違えるわけない。
絶対に彼の声。
瓦礫を飛び越え壁を潜り抜けた先に居たのは――――――。
「あれ?やぁ、こんばんは」
単発だったブロンドの髪は少し伸び、透き通ったターコイズの瞳は変わっていない。
私の記憶にある彼よりも幾分老けているが、紛れもない彼だった。
「……ッッ、タ……ク……ミ……」
これは夢……?
いえ、違う……本当に彼が目の前にいる。
はっきりと映る彼の姿は幻ではない。
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次話は8/23 21時投稿!
タイトル「果たせなかった約束」
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