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第五章
最終話:果たされなかった約束
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二度と会えないと思っていた。
誰よりも何よりも愛していた彼の姿。
突然いなくなったあの日からずっと、私は彼を探し続けてきた。
だけどもう会えないと知ってしまった。
なのにまた会えるなんて考えもしなかった。
様々な感情がこみ上げ涙腺が緩み涙が薄っすらと浮かんだ。
私は無意識に彼を求めるように手を伸ばす。
「黒髪に黒い瞳……もしかして俺の弟子がとても大事にしている異世界のお姫様が君かな?」
伸ばした手が止まりハッと我に返ると、私は慌てて流れそうになる涙を拭った。
そうだわ……私が正しい世界へ戻したから、彼は私と出会っていない。
あの世界には来ていない、だから私を知らない。
タクミは寿命を縮めることなく死なずにすんだ。
だから彼はこの世界で生きている。
知らない女が突然目の前で泣き出すなんてびっくりさせてしまうわ。
私はあふれ出る涙をグッと堪えると、震える頬を無理やりつり上げ顔を上げた。
「初めまして、俺はターキィーミ。まさか本当に壁を壊すなんてすごいね。俺の弟子が君をとても心配していたよ。無事に戻ってこられてよかった」
ニカっと笑う姿は、あの頃と同じ。
笑うときに少し首を傾けるその仕草も変わっていない。
私が知っている彼のまま。
もちろん指にシルバーのリングはない。
私との思い出も。
涙を我慢するのにいっぱいいっぱいで、上手く言葉が出てこない。
どうしようもなく溢れ出す感情を必死に耐えていると、別の魔力が近づいてきた。
「師匠、急にいなくなるのはやめてくださいといつも言っているでしょう。今回はどうしたんですか?」
彼の後ろから響いた声に顔を向けると、人影が月明りで浮かび上がる。
「ッッ、エヴァン!」
私は彼へ向かって走ると、我慢していた涙が一気に溢れ出す。
「異世界の姫……?」
エメラルドの瞳に私の姿が映り込む。
唖然とする彼に向って、私は勢いそのままに抱き着いた。
「エヴァン、タクミがタクミが生きているのよ!私……私……ッッうぅ、ふぅっ、」
「……えぇ、そうです、あなたが師匠を救い出した。ですが記憶は……」
エヴァンは泣きじゃくる私の背中を抱くと、ポンポンと優しく叩く。
「うぅ……知っているわ。ひぃっく、でもいいの、彼が生きていればそれで……うぅ……ふぅ……」
拭いでも拭いでも涙は止まらない。
服が涙で濡れていくと、彼は私をギュッと強く抱きしめ首元へ顔を寄せた。
「そう……ですか……」
耳元で囁かれた声は今にも消え入りそうだ。
気になり涙目のまま顔を上げると、エメラルドの瞳が悲し気に揺れる。
その瞳に胸がチクりと痛むと、私は言葉を探した。
「ひぃっく、ねぇ、ッッ、エヴァンは……どこまで覚えているの?」
「一応全て把握しております。この世界になる前の世界、そしてあなたが過去に行った事実、世界を変えるところまで全て。あなたが世界を変えたことで少し状況が変わってますよ。一番大きく違うのは、あなたを召喚したの私になっていることですね」
「エヴァンが私を……?」
「えぇ、師匠から教わった召喚魔法を勝手に使って召喚したということになってます。それよりも無事でよかった。おかえりなさい」
「なにそれ、面白いわね」
私は泣きながら笑みを浮かべると彼の瞳を真っすぐ見つめた。
「ただいま、エヴァン」
彼との再会を喜びように抱きしめ合うと、懐かしい彼の匂いが鼻孔を擽り心が落ち着く。
やっと戻って来られたのね、そういえば……。
私はハッと顔を上げると、流れる涙を拭う。
「ところでエヴァン、早速教えて、戻ったら何を伝えようとしていたの?ちゃんと会いに来たんだから」
涙目のままドヤ顔を見せると、エヴァンは一瞬動きを止める瞳を揺らしながら逸らせた。
「……なんでしたかね。すみません、忘れてしまいました」
エヴァンは弱弱しくほほ笑むと、私を避けるように首を垂れる。
暗くなるその様に私は慌てて明るい声を出した。
「そうなのね、あれから時間がたってしまったもの、仕方がないわ。もし思い出したら教えてね」
エヴァンは答えを返すことなく私の肩を強く押すと、突き放す様に体を離したのだった。
誰よりも何よりも愛していた彼の姿。
突然いなくなったあの日からずっと、私は彼を探し続けてきた。
だけどもう会えないと知ってしまった。
なのにまた会えるなんて考えもしなかった。
様々な感情がこみ上げ涙腺が緩み涙が薄っすらと浮かんだ。
私は無意識に彼を求めるように手を伸ばす。
「黒髪に黒い瞳……もしかして俺の弟子がとても大事にしている異世界のお姫様が君かな?」
伸ばした手が止まりハッと我に返ると、私は慌てて流れそうになる涙を拭った。
そうだわ……私が正しい世界へ戻したから、彼は私と出会っていない。
あの世界には来ていない、だから私を知らない。
タクミは寿命を縮めることなく死なずにすんだ。
だから彼はこの世界で生きている。
知らない女が突然目の前で泣き出すなんてびっくりさせてしまうわ。
私はあふれ出る涙をグッと堪えると、震える頬を無理やりつり上げ顔を上げた。
「初めまして、俺はターキィーミ。まさか本当に壁を壊すなんてすごいね。俺の弟子が君をとても心配していたよ。無事に戻ってこられてよかった」
ニカっと笑う姿は、あの頃と同じ。
笑うときに少し首を傾けるその仕草も変わっていない。
私が知っている彼のまま。
もちろん指にシルバーのリングはない。
私との思い出も。
涙を我慢するのにいっぱいいっぱいで、上手く言葉が出てこない。
どうしようもなく溢れ出す感情を必死に耐えていると、別の魔力が近づいてきた。
「師匠、急にいなくなるのはやめてくださいといつも言っているでしょう。今回はどうしたんですか?」
彼の後ろから響いた声に顔を向けると、人影が月明りで浮かび上がる。
「ッッ、エヴァン!」
私は彼へ向かって走ると、我慢していた涙が一気に溢れ出す。
「異世界の姫……?」
エメラルドの瞳に私の姿が映り込む。
唖然とする彼に向って、私は勢いそのままに抱き着いた。
「エヴァン、タクミがタクミが生きているのよ!私……私……ッッうぅ、ふぅっ、」
「……えぇ、そうです、あなたが師匠を救い出した。ですが記憶は……」
エヴァンは泣きじゃくる私の背中を抱くと、ポンポンと優しく叩く。
「うぅ……知っているわ。ひぃっく、でもいいの、彼が生きていればそれで……うぅ……ふぅ……」
拭いでも拭いでも涙は止まらない。
服が涙で濡れていくと、彼は私をギュッと強く抱きしめ首元へ顔を寄せた。
「そう……ですか……」
耳元で囁かれた声は今にも消え入りそうだ。
気になり涙目のまま顔を上げると、エメラルドの瞳が悲し気に揺れる。
その瞳に胸がチクりと痛むと、私は言葉を探した。
「ひぃっく、ねぇ、ッッ、エヴァンは……どこまで覚えているの?」
「一応全て把握しております。この世界になる前の世界、そしてあなたが過去に行った事実、世界を変えるところまで全て。あなたが世界を変えたことで少し状況が変わってますよ。一番大きく違うのは、あなたを召喚したの私になっていることですね」
「エヴァンが私を……?」
「えぇ、師匠から教わった召喚魔法を勝手に使って召喚したということになってます。それよりも無事でよかった。おかえりなさい」
「なにそれ、面白いわね」
私は泣きながら笑みを浮かべると彼の瞳を真っすぐ見つめた。
「ただいま、エヴァン」
彼との再会を喜びように抱きしめ合うと、懐かしい彼の匂いが鼻孔を擽り心が落ち着く。
やっと戻って来られたのね、そういえば……。
私はハッと顔を上げると、流れる涙を拭う。
「ところでエヴァン、早速教えて、戻ったら何を伝えようとしていたの?ちゃんと会いに来たんだから」
涙目のままドヤ顔を見せると、エヴァンは一瞬動きを止める瞳を揺らしながら逸らせた。
「……なんでしたかね。すみません、忘れてしまいました」
エヴァンは弱弱しくほほ笑むと、私を避けるように首を垂れる。
暗くなるその様に私は慌てて明るい声を出した。
「そうなのね、あれから時間がたってしまったもの、仕方がないわ。もし思い出したら教えてね」
エヴァンは答えを返すことなく私の肩を強く押すと、突き放す様に体を離したのだった。
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