[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

最終話:召喚魔法

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なんなのその笑み……嫌な予感……。
眉を顰めながら訝し気にカミールを見つめていると、ぐぃっと腕を引っ張られる。

「いいぜ、ただしお前が俺にキスしたらな」

どこかで聞いたことがあるセリフ。
頬を引きつらせながらカミールを睨みつけると、掴まれた腕を振り払った。

「こんなときに何を言い出すのよ、冗談を言い合っている場合じゃないの!」

「冗談じゃないぜ。ほらっ、できないなら俺からしてやろうか?」

カミールは私の肩を掴むと、挑発的に見下ろした。
明らかに私の反応を楽しんでいるその様に、苛立ちが込み上げる。

「けっ、結構よ!ちょっ、ちょっとッッ」

ぐいぐい近づいてくるカミールを慌てて押し返す。
吐息のかかる距離に頬の熱が高まった。

「ははっ、顔がゆでだこみたいになってるぜ。すっかり涙も引いたな」

カミールは軽く額へ指を弾くと、楽しそうに笑った。

「なっ、なっていないわ!もうっ」

「あらあら、なぁに~初々しいわねぇ、面白いじゃない~」

魔女が悪乗りするようにはやし立てる。
むむっと顔を向けると、ゾクッと悪寒が走った。
魔女の後方には、ブリザードを纏ったエヴァンの姿。
サッと熱が引き肩を震わせていると、エヴァンが静かにこちらへやってくる。
そのままカミールと私の間に入り込んだ。

「すぐにアーサー殿を呼びます。こんな男の悪ふざけに付き合う必要はありません」

「エッ、エヴァンッッ」

エヴァンはカミールへは一切視線を向けずに、私の腕をとると強引に引きはがす。
カミールは大人しく私から離れると、降参と言わんばかりに両手を上げながらもほくそ笑んだ。

「へぇー、あんたがエヴァンか。もっと俺に似ているのかと思ったが、全然違うのな。同じなのは瞳の色ぐらいか……」

観察するように見つめるカミール。
エヴァンはスッと目を細めると、私の肩を抱いたまま彼を睨みつける。

「……なんのお話ですか?」

「いや、何でもねぇ、揶揄って悪かったな。召喚でも何でもお好きにどうぞ」

カミールは軽く手を振ると、ゆっくりと後ろへ下がっていった。

もう何なのよ……。
あっ、そうだわ説明しておかないと。
私はエヴァンを見上げると、エメラルドの瞳に私の姿が映し出される。

「エヴァン、この間の事なんだけれど……。彼はカミール、王子とは知らなかったわ……ランギの街からここまで一緒に旅をしてきた仲間なの。だからそういった関係では全然なくて……その、ある事情で色々あったんだけど……えーとだからね、本当になんでもないの!」

この間無線機での会話を必死に弁解すると、なぜか早口になった。

「お姉さん、カミールさんだけじゃないよ、僕もだよ」

いつの間にそこにいたのか、シナンは隣へやってくると甘えた様子で私の袖を握った。

「……彼は獣人ですか?」

「えぇ、人間と獣人のハーフなの。名前はシナン、彼の家庭事情で私が引き取ることになって、ここまで一緒に旅をしてきたのよ。彼にとって私は母親代わりみたいなものでね。あーでも料理や家事全て彼がやってくれたんだけれど……」

母親代わりになるようなことは何もしていないけれど、シナンの執着は家族愛みたいなものだと思う。

「お姉さんは母さんじゃないよ。もっとべつ……わからないけど……」

シナンはギュッと私の腕にしがみつくと、耳と尻尾がシュンと下がる。
エヴァンはそんな彼を見下ろすと、深く息を吐きだした。

「はぁ……わかりました」

何か言いたいことがありそうだけれど……これ以上聞くのはよろしくなさそう……。
とりあえず納得してくれたようだし、これでよしとしておきましょう。

私はそそくさとその場を離れると、広い場所へと向かった。
カミールの許可をもらったし、早く召喚しないと二人が心配だわ。
私は気を取り直し魔力を込め始めると、ふと動きを止める。
そういえば……召喚に必要な条件はタクミの手紙に書いてあったけれど、実際に召喚する方法は書いていなかった。
ここからどうすればいいの?
込めた魔力をいったん戻すと、私はエヴァンへ顔を向けた。

「エヴァン、召喚魔法を展開するのはどうしたらいいの?条件は整っているわ」

私はポケットから鍵の欠片を取り出すと、彼へ見せる。

「……召喚方法がわからないのに、召喚しようとしていたのですか?」

エヴァンは呆れた声を出すと、私は気まずげに視線を逸らせる。

「えぇ、だって……その……勢いで……」

ため息が頭上から響くと、私は肩を丸めた。

「仕方がないですね、召喚の方法は……」

エヴァンは私の手を掴み魔力を集め始める。
続きの言葉を待っていると、エヴァンが動きを止めた。
どうしたのかと顔を上げると、彼は考え込むように視線を落としている。

「エヴァン?」

「……召喚魔法であれば師匠の方が詳しいです」

エヴァンはそっと体を離しタクミへ顔を向けると、彼を呼んだ。

「うん、俺?いやぁ、まぁ召喚魔法を見つけたのは俺だけど、実際に召喚に成功したのはエヴァンだろう?」

「師匠、お願いします」

有無を言わさないエヴァンの口調に、タクミは困った表情を浮かべながらも頷いた。
タクミはゆっくりとこちらへやってくると、エヴァンは無言のまま離れていく。

「エヴァン、どうしてッッ」

引き留めようと手を伸ばすと、その手は宙を切る。
タクミはすれ違うエヴァンに苦笑いを浮かべると頭を掻いた。

「うーん、何だかよくわからないね。えーと、とりあえず魔法陣を書いていこうか」

タクミは優しい笑みを浮かべるとそっと手を重ねた。
懐かしい彼の匂いと熱に胸が小さく高鳴る中、私はなぜか離れていくエヴァンの背から目を逸らせることが出来なかったのだった。


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次回第5章最終話、エヴァン視点となります。
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