352 / 358
第五章
最終話:召喚魔法
しおりを挟む
なんなのその笑み……嫌な予感……。
眉を顰めながら訝し気にカミールを見つめていると、ぐぃっと腕を引っ張られる。
「いいぜ、ただしお前が俺にキスしたらな」
どこかで聞いたことがあるセリフ。
頬を引きつらせながらカミールを睨みつけると、掴まれた腕を振り払った。
「こんなときに何を言い出すのよ、冗談を言い合っている場合じゃないの!」
「冗談じゃないぜ。ほらっ、できないなら俺からしてやろうか?」
カミールは私の肩を掴むと、挑発的に見下ろした。
明らかに私の反応を楽しんでいるその様に、苛立ちが込み上げる。
「けっ、結構よ!ちょっ、ちょっとッッ」
ぐいぐい近づいてくるカミールを慌てて押し返す。
吐息のかかる距離に頬の熱が高まった。
「ははっ、顔がゆでだこみたいになってるぜ。すっかり涙も引いたな」
カミールは軽く額へ指を弾くと、楽しそうに笑った。
「なっ、なっていないわ!もうっ」
「あらあら、なぁに~初々しいわねぇ、面白いじゃない~」
魔女が悪乗りするようにはやし立てる。
むむっと顔を向けると、ゾクッと悪寒が走った。
魔女の後方には、ブリザードを纏ったエヴァンの姿。
サッと熱が引き肩を震わせていると、エヴァンが静かにこちらへやってくる。
そのままカミールと私の間に入り込んだ。
「すぐにアーサー殿を呼びます。こんな男の悪ふざけに付き合う必要はありません」
「エッ、エヴァンッッ」
エヴァンはカミールへは一切視線を向けずに、私の腕をとると強引に引きはがす。
カミールは大人しく私から離れると、降参と言わんばかりに両手を上げながらもほくそ笑んだ。
「へぇー、あんたがエヴァンか。もっと俺に似ているのかと思ったが、全然違うのな。同じなのは瞳の色ぐらいか……」
観察するように見つめるカミール。
エヴァンはスッと目を細めると、私の肩を抱いたまま彼を睨みつける。
「……なんのお話ですか?」
「いや、何でもねぇ、揶揄って悪かったな。召喚でも何でもお好きにどうぞ」
カミールは軽く手を振ると、ゆっくりと後ろへ下がっていった。
もう何なのよ……。
あっ、そうだわ説明しておかないと。
私はエヴァンを見上げると、エメラルドの瞳に私の姿が映し出される。
「エヴァン、この間の事なんだけれど……。彼はカミール、王子とは知らなかったわ……ランギの街からここまで一緒に旅をしてきた仲間なの。だからそういった関係では全然なくて……その、ある事情で色々あったんだけど……えーとだからね、本当になんでもないの!」
この間無線機での会話を必死に弁解すると、なぜか早口になった。
「お姉さん、カミールさんだけじゃないよ、僕もだよ」
いつの間にそこにいたのか、シナンは隣へやってくると甘えた様子で私の袖を握った。
「……彼は獣人ですか?」
「えぇ、人間と獣人のハーフなの。名前はシナン、彼の家庭事情で私が引き取ることになって、ここまで一緒に旅をしてきたのよ。彼にとって私は母親代わりみたいなものでね。あーでも料理や家事全て彼がやってくれたんだけれど……」
母親代わりになるようなことは何もしていないけれど、シナンの執着は家族愛みたいなものだと思う。
「お姉さんは母さんじゃないよ。もっとべつ……わからないけど……」
シナンはギュッと私の腕にしがみつくと、耳と尻尾がシュンと下がる。
エヴァンはそんな彼を見下ろすと、深く息を吐きだした。
「はぁ……わかりました」
何か言いたいことがありそうだけれど……これ以上聞くのはよろしくなさそう……。
とりあえず納得してくれたようだし、これでよしとしておきましょう。
私はそそくさとその場を離れると、広い場所へと向かった。
カミールの許可をもらったし、早く召喚しないと二人が心配だわ。
私は気を取り直し魔力を込め始めると、ふと動きを止める。
そういえば……召喚に必要な条件はタクミの手紙に書いてあったけれど、実際に召喚する方法は書いていなかった。
ここからどうすればいいの?
込めた魔力をいったん戻すと、私はエヴァンへ顔を向けた。
「エヴァン、召喚魔法を展開するのはどうしたらいいの?条件は整っているわ」
私はポケットから鍵の欠片を取り出すと、彼へ見せる。
「……召喚方法がわからないのに、召喚しようとしていたのですか?」
エヴァンは呆れた声を出すと、私は気まずげに視線を逸らせる。
「えぇ、だって……その……勢いで……」
ため息が頭上から響くと、私は肩を丸めた。
「仕方がないですね、召喚の方法は……」
エヴァンは私の手を掴み魔力を集め始める。
続きの言葉を待っていると、エヴァンが動きを止めた。
どうしたのかと顔を上げると、彼は考え込むように視線を落としている。
「エヴァン?」
「……召喚魔法であれば師匠の方が詳しいです」
エヴァンはそっと体を離しタクミへ顔を向けると、彼を呼んだ。
「うん、俺?いやぁ、まぁ召喚魔法を見つけたのは俺だけど、実際に召喚に成功したのはエヴァンだろう?」
「師匠、お願いします」
有無を言わさないエヴァンの口調に、タクミは困った表情を浮かべながらも頷いた。
タクミはゆっくりとこちらへやってくると、エヴァンは無言のまま離れていく。
「エヴァン、どうしてッッ」
引き留めようと手を伸ばすと、その手は宙を切る。
タクミはすれ違うエヴァンに苦笑いを浮かべると頭を掻いた。
「うーん、何だかよくわからないね。えーと、とりあえず魔法陣を書いていこうか」
タクミは優しい笑みを浮かべるとそっと手を重ねた。
懐かしい彼の匂いと熱に胸が小さく高鳴る中、私はなぜか離れていくエヴァンの背から目を逸らせることが出来なかったのだった。
***************************************
次回第5章最終話、エヴァン視点となります。
眉を顰めながら訝し気にカミールを見つめていると、ぐぃっと腕を引っ張られる。
「いいぜ、ただしお前が俺にキスしたらな」
どこかで聞いたことがあるセリフ。
頬を引きつらせながらカミールを睨みつけると、掴まれた腕を振り払った。
「こんなときに何を言い出すのよ、冗談を言い合っている場合じゃないの!」
「冗談じゃないぜ。ほらっ、できないなら俺からしてやろうか?」
カミールは私の肩を掴むと、挑発的に見下ろした。
明らかに私の反応を楽しんでいるその様に、苛立ちが込み上げる。
「けっ、結構よ!ちょっ、ちょっとッッ」
ぐいぐい近づいてくるカミールを慌てて押し返す。
吐息のかかる距離に頬の熱が高まった。
「ははっ、顔がゆでだこみたいになってるぜ。すっかり涙も引いたな」
カミールは軽く額へ指を弾くと、楽しそうに笑った。
「なっ、なっていないわ!もうっ」
「あらあら、なぁに~初々しいわねぇ、面白いじゃない~」
魔女が悪乗りするようにはやし立てる。
むむっと顔を向けると、ゾクッと悪寒が走った。
魔女の後方には、ブリザードを纏ったエヴァンの姿。
サッと熱が引き肩を震わせていると、エヴァンが静かにこちらへやってくる。
そのままカミールと私の間に入り込んだ。
「すぐにアーサー殿を呼びます。こんな男の悪ふざけに付き合う必要はありません」
「エッ、エヴァンッッ」
エヴァンはカミールへは一切視線を向けずに、私の腕をとると強引に引きはがす。
カミールは大人しく私から離れると、降参と言わんばかりに両手を上げながらもほくそ笑んだ。
「へぇー、あんたがエヴァンか。もっと俺に似ているのかと思ったが、全然違うのな。同じなのは瞳の色ぐらいか……」
観察するように見つめるカミール。
エヴァンはスッと目を細めると、私の肩を抱いたまま彼を睨みつける。
「……なんのお話ですか?」
「いや、何でもねぇ、揶揄って悪かったな。召喚でも何でもお好きにどうぞ」
カミールは軽く手を振ると、ゆっくりと後ろへ下がっていった。
もう何なのよ……。
あっ、そうだわ説明しておかないと。
私はエヴァンを見上げると、エメラルドの瞳に私の姿が映し出される。
「エヴァン、この間の事なんだけれど……。彼はカミール、王子とは知らなかったわ……ランギの街からここまで一緒に旅をしてきた仲間なの。だからそういった関係では全然なくて……その、ある事情で色々あったんだけど……えーとだからね、本当になんでもないの!」
この間無線機での会話を必死に弁解すると、なぜか早口になった。
「お姉さん、カミールさんだけじゃないよ、僕もだよ」
いつの間にそこにいたのか、シナンは隣へやってくると甘えた様子で私の袖を握った。
「……彼は獣人ですか?」
「えぇ、人間と獣人のハーフなの。名前はシナン、彼の家庭事情で私が引き取ることになって、ここまで一緒に旅をしてきたのよ。彼にとって私は母親代わりみたいなものでね。あーでも料理や家事全て彼がやってくれたんだけれど……」
母親代わりになるようなことは何もしていないけれど、シナンの執着は家族愛みたいなものだと思う。
「お姉さんは母さんじゃないよ。もっとべつ……わからないけど……」
シナンはギュッと私の腕にしがみつくと、耳と尻尾がシュンと下がる。
エヴァンはそんな彼を見下ろすと、深く息を吐きだした。
「はぁ……わかりました」
何か言いたいことがありそうだけれど……これ以上聞くのはよろしくなさそう……。
とりあえず納得してくれたようだし、これでよしとしておきましょう。
私はそそくさとその場を離れると、広い場所へと向かった。
カミールの許可をもらったし、早く召喚しないと二人が心配だわ。
私は気を取り直し魔力を込め始めると、ふと動きを止める。
そういえば……召喚に必要な条件はタクミの手紙に書いてあったけれど、実際に召喚する方法は書いていなかった。
ここからどうすればいいの?
込めた魔力をいったん戻すと、私はエヴァンへ顔を向けた。
「エヴァン、召喚魔法を展開するのはどうしたらいいの?条件は整っているわ」
私はポケットから鍵の欠片を取り出すと、彼へ見せる。
「……召喚方法がわからないのに、召喚しようとしていたのですか?」
エヴァンは呆れた声を出すと、私は気まずげに視線を逸らせる。
「えぇ、だって……その……勢いで……」
ため息が頭上から響くと、私は肩を丸めた。
「仕方がないですね、召喚の方法は……」
エヴァンは私の手を掴み魔力を集め始める。
続きの言葉を待っていると、エヴァンが動きを止めた。
どうしたのかと顔を上げると、彼は考え込むように視線を落としている。
「エヴァン?」
「……召喚魔法であれば師匠の方が詳しいです」
エヴァンはそっと体を離しタクミへ顔を向けると、彼を呼んだ。
「うん、俺?いやぁ、まぁ召喚魔法を見つけたのは俺だけど、実際に召喚に成功したのはエヴァンだろう?」
「師匠、お願いします」
有無を言わさないエヴァンの口調に、タクミは困った表情を浮かべながらも頷いた。
タクミはゆっくりとこちらへやってくると、エヴァンは無言のまま離れていく。
「エヴァン、どうしてッッ」
引き留めようと手を伸ばすと、その手は宙を切る。
タクミはすれ違うエヴァンに苦笑いを浮かべると頭を掻いた。
「うーん、何だかよくわからないね。えーと、とりあえず魔法陣を書いていこうか」
タクミは優しい笑みを浮かべるとそっと手を重ねた。
懐かしい彼の匂いと熱に胸が小さく高鳴る中、私はなぜか離れていくエヴァンの背から目を逸らせることが出来なかったのだった。
***************************************
次回第5章最終話、エヴァン視点となります。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる