358 / 358
最終章
1:北の国
しおりを挟む
久しぶりに戻ってきた北の国は、私が知る景色とは違っていた。
街には老若男女問わず人が溢れ活気に満ちている。
最初この街へ来た時、空は暗雲で街全体が暗い雰囲気だった、
こうして自分の眼で見ると、無事に過去を変えられたのだと改めて実感したのだった。
シナンは私と一緒に北の国へ。
カミールもついて来ようとしていたけれど、女王様の命令で西の国へ残ることになった。
自由奔放な彼でも女王には逆らえないようだ。
エヴァンが言った通り、過去を変えたことで、それぞれの歩んできた人生も変わっていた。
セーフィロがこの国を治め、アーサーは兄を助けるために外交官になっていた。
歪だった二人の関係は良好なものになっていて、私の知る二人とは大違い。
時空の狭間からスマホで見た景色と全く同じだった。
ブレイクは腹違い弟たちを騎士学園へ招き、稽古に明け暮れている。
以前見た暗い瞳ではなく、生き生きとした姿に嬉しくなった。
レックスは夢で出会った通り婚約者と別れ、医師として頑張っているようだ。
あの時の事を彼は覚えていない事実に、内心ほっとしていた。
ネイトは変わらず聖獣として森を守り続けている。
私がお城へ戻ったのを知ると、駆けてつけてくれた。
二人が再会して、また険悪な雰囲気になるかと思いきや、シナンはネイトに弟子にしてくれと突拍子もない申し出をした。
ビックリして口を半開きのままに固まっていると、シナンはニッコリ笑って私を守るために強くなりたいとそう言った。
もう危険はきっとない、そんな必要はない、自分のために生きてほしいと言ってみたが、シナンはこれが僕のやりたいことだとネイトと森へ残る子になった。
そして……唯一私と同じ記憶のあるエヴァンは、父のと二人で暮らし男娼には売られなかった。
それでも記憶があるからなのか、女性嫌いはそのままのようだった。
北の国へ戻った私は、今まで通りお城で暮らすことになった。
魔法を使えない私が城に居て迷惑ではないのかと問いかけると、気にしなくていいとアーサーが言ってくれた。
その言葉に甘えて私は以前暮らしてた部屋に居た。
魔法を使えない私に魔石を使うことは出来ない。
以前のようにエヴァンが私の傍についてくれるのかと思っていたけれど、今は私がこの世界へ来た頃にいなかった侍女が全て身の回りの世話をしてくれる。
エレナは無事に戻ってきたのか。
魔法がない私には確かめるすべはない。
そうだわ、落ち着いたら魔女へ会いに行こう。
壁を壊し再会したあの日から、エヴァンの様子がずっとおかしい。
私をあからさまに避けている。
今まで何度も彼を怒らせたり呆れさせたりしてきたけれど、こんなに避けられるのは初めてだった。
何とか話しかけようとするのだが、私と目が合うと逃げるように立ち去ってしまうのだった。
今日こそはとエヴァンを探していると、微かに彼の声が耳に届いた。
立ち止まり声のする方へ近づいていくと、回廊に佇む彼の姿。
隣には可憐なご令嬢の姿。
エヴァンの腕を取りまるで恋人のようだ。
「おっ、何見てんだ?」
肩を叩かれ驚き振り返ると、そこにはレックスの姿。
私は咄嗟に彼の手を引っ張ると隠れるように促す。
彼は首を傾げながらしゃがみ込むと、私の視線のを追いかけた。
「あれはエヴァンとステラ嬢じゃねぇか」
「ステラ嬢?」
「あぁ、エヴァンの婚約者候補だ。女嫌いのエヴァンがステラ嬢を夜中に部屋へ招いたともっぱらの噂だぜ」
なっ、部屋に招いた……夜に?
エヴァンに寄り添うステラの姿を見ると、花のように笑う可愛らしい令嬢で並ぶととても絵になる。
その姿に何とも言えぬ感情が込み上げ、思わず目を逸らせ立ち上がった。
「おいっ、どうしたんだ?」
レックスの言葉に答えず私はエヴァンたちとは逆の方向へ進んでいくが、もやもやは一向に消えない。
何よ、自分だって私が居ない間、女に現を抜かしていたんじゃない。
それに部屋へ招くなんて……結婚前にそんなことしていいの?
私の時はすごく怒っていたのに……。
「やぁ、どうしたの?眉間に皺を寄せて、ご機嫌斜めなのかな?」
声にハッと我に返ると、タクミが目の前に居た。
私は慌てて眉間に手をやると、縦に三つの線が入っている。
「いえ、これは、怒ってなんて……ッッ」
「そっか、それならいんだ。ところで少し時間をもらえないかな。魔法の研究を手伝ってほしんだ」
「魔法ですか?私はもう魔法は使えませんよ?」
「もちろん知っているさ。魔力を持たない者はこの世界で君だけ、だからいろいろと調べておきたいんだ。この先怪我をしたり病気になったりして魔法で治せないと大変だろう」
私はコクリと頷くと、タクミの隣へ並んだ。
何だか不思議な感じ。
突然居なくなった彼がここにいる。
ここへ戻ってきて数日立つけれど、まだ慣れない。
私の世界ではなく彼の世界で、こうして並んで歩ける日が来るなんて。
でも彼は私を知らないんだけどね。
それでも彼を思う気持ちは変わらない。
だけどなんだろう、胸に靄がかかったようなそんな感じ。
誰よりも大切な存在だったはずなのに……。
そっと胸に手を当てると、先ほどのエヴァンとステラの姿が現れる。
なんでこんなに気になるのかしら……。
街には老若男女問わず人が溢れ活気に満ちている。
最初この街へ来た時、空は暗雲で街全体が暗い雰囲気だった、
こうして自分の眼で見ると、無事に過去を変えられたのだと改めて実感したのだった。
シナンは私と一緒に北の国へ。
カミールもついて来ようとしていたけれど、女王様の命令で西の国へ残ることになった。
自由奔放な彼でも女王には逆らえないようだ。
エヴァンが言った通り、過去を変えたことで、それぞれの歩んできた人生も変わっていた。
セーフィロがこの国を治め、アーサーは兄を助けるために外交官になっていた。
歪だった二人の関係は良好なものになっていて、私の知る二人とは大違い。
時空の狭間からスマホで見た景色と全く同じだった。
ブレイクは腹違い弟たちを騎士学園へ招き、稽古に明け暮れている。
以前見た暗い瞳ではなく、生き生きとした姿に嬉しくなった。
レックスは夢で出会った通り婚約者と別れ、医師として頑張っているようだ。
あの時の事を彼は覚えていない事実に、内心ほっとしていた。
ネイトは変わらず聖獣として森を守り続けている。
私がお城へ戻ったのを知ると、駆けてつけてくれた。
二人が再会して、また険悪な雰囲気になるかと思いきや、シナンはネイトに弟子にしてくれと突拍子もない申し出をした。
ビックリして口を半開きのままに固まっていると、シナンはニッコリ笑って私を守るために強くなりたいとそう言った。
もう危険はきっとない、そんな必要はない、自分のために生きてほしいと言ってみたが、シナンはこれが僕のやりたいことだとネイトと森へ残る子になった。
そして……唯一私と同じ記憶のあるエヴァンは、父のと二人で暮らし男娼には売られなかった。
それでも記憶があるからなのか、女性嫌いはそのままのようだった。
北の国へ戻った私は、今まで通りお城で暮らすことになった。
魔法を使えない私が城に居て迷惑ではないのかと問いかけると、気にしなくていいとアーサーが言ってくれた。
その言葉に甘えて私は以前暮らしてた部屋に居た。
魔法を使えない私に魔石を使うことは出来ない。
以前のようにエヴァンが私の傍についてくれるのかと思っていたけれど、今は私がこの世界へ来た頃にいなかった侍女が全て身の回りの世話をしてくれる。
エレナは無事に戻ってきたのか。
魔法がない私には確かめるすべはない。
そうだわ、落ち着いたら魔女へ会いに行こう。
壁を壊し再会したあの日から、エヴァンの様子がずっとおかしい。
私をあからさまに避けている。
今まで何度も彼を怒らせたり呆れさせたりしてきたけれど、こんなに避けられるのは初めてだった。
何とか話しかけようとするのだが、私と目が合うと逃げるように立ち去ってしまうのだった。
今日こそはとエヴァンを探していると、微かに彼の声が耳に届いた。
立ち止まり声のする方へ近づいていくと、回廊に佇む彼の姿。
隣には可憐なご令嬢の姿。
エヴァンの腕を取りまるで恋人のようだ。
「おっ、何見てんだ?」
肩を叩かれ驚き振り返ると、そこにはレックスの姿。
私は咄嗟に彼の手を引っ張ると隠れるように促す。
彼は首を傾げながらしゃがみ込むと、私の視線のを追いかけた。
「あれはエヴァンとステラ嬢じゃねぇか」
「ステラ嬢?」
「あぁ、エヴァンの婚約者候補だ。女嫌いのエヴァンがステラ嬢を夜中に部屋へ招いたともっぱらの噂だぜ」
なっ、部屋に招いた……夜に?
エヴァンに寄り添うステラの姿を見ると、花のように笑う可愛らしい令嬢で並ぶととても絵になる。
その姿に何とも言えぬ感情が込み上げ、思わず目を逸らせ立ち上がった。
「おいっ、どうしたんだ?」
レックスの言葉に答えず私はエヴァンたちとは逆の方向へ進んでいくが、もやもやは一向に消えない。
何よ、自分だって私が居ない間、女に現を抜かしていたんじゃない。
それに部屋へ招くなんて……結婚前にそんなことしていいの?
私の時はすごく怒っていたのに……。
「やぁ、どうしたの?眉間に皺を寄せて、ご機嫌斜めなのかな?」
声にハッと我に返ると、タクミが目の前に居た。
私は慌てて眉間に手をやると、縦に三つの線が入っている。
「いえ、これは、怒ってなんて……ッッ」
「そっか、それならいんだ。ところで少し時間をもらえないかな。魔法の研究を手伝ってほしんだ」
「魔法ですか?私はもう魔法は使えませんよ?」
「もちろん知っているさ。魔力を持たない者はこの世界で君だけ、だからいろいろと調べておきたいんだ。この先怪我をしたり病気になったりして魔法で治せないと大変だろう」
私はコクリと頷くと、タクミの隣へ並んだ。
何だか不思議な感じ。
突然居なくなった彼がここにいる。
ここへ戻ってきて数日立つけれど、まだ慣れない。
私の世界ではなく彼の世界で、こうして並んで歩ける日が来るなんて。
でも彼は私を知らないんだけどね。
それでも彼を思う気持ちは変わらない。
だけどなんだろう、胸に靄がかかったようなそんな感じ。
誰よりも大切な存在だったはずなのに……。
そっと胸に手を当てると、先ほどのエヴァンとステラの姿が現れる。
なんでこんなに気になるのかしら……。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(33件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はじめまして。
大好きな作品で、何度か読み返してます。
もう更新はされないのでしょうか?
是非とも続きが読みたいです!
よろしくお願いします!
読み始めて一気に最終話まで読んでしまいました。続きが気になるので更新楽しみにしています!!
ぴたみん 様
コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってしまい、申し訳ございません(-_-;)
300話越えの長編をご愛読いただきとてもうれしいです(*^_^*)
なかなか忙しく続きを投稿できておりませんが、
ラストまでの構想はしっかり出来上がっておりますので、
なるはやで執筆できるよう頑張ります。
こうしてコメントを頂けてとても嬉しく思います。
最後までどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
はじめまして(*´∀`)
続きが気になってしょうがないのですが、もう更新はされないのでしょうか?
是非とも続きが読みたいです(。>д<)
くまうさ 様
初めまして!
この度はご愛読いただきありがとうございます。
返事がとても遅くなってしまいすみません(-_-;)
続きが気になると言って頂けてとても嬉しいです(*'ω'*)
色々な事が重なり、なかなか更新出来ませんでした(__)
構成は出来上がっているので、なるべく早く更新できるよう頑張ります(´;ω;`)
期間があいてしまいましたが、最後までお付き合い頂けるよう全力で頑張ります_(._.)_