[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第一章

第三の召喚:前編

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あの赤いブレスレットを見つけてから……私は仕事にも身に入らず散々な日々を過ごしていた。
あれは夢でしょう……、いやでもあの腕輪……もうわけがわからないわ……。
思い悩む中、仕事場ではいつもやらかさないようなミスを連発し、気落ちする。
気持ちを切り替えようと何度も試みる中、そんな私の傍に上司やって来ると、徐に口を開いた。

「今日の仕事はここまでにして、早く帰って休みなさい」

その言葉に私は暗い表情を浮かべ頷くと、すみませんと頭を下げ職場を後にした。

あぁ、やってしまった……私、本当にどうしちゃったんだろう……。
いつもより早い時間、まだ夕日の光の眩しさに目が眩む中、ようやく家に到着すると、私は静かにドアを開けた、
夕日が差し込む部屋は明るく、私は部屋の電気は付けずにタクミの写真へ手を合わせる。
タクミ……私、最近おかしな夢を見るの……助けて……。
ふと頬に水滴が流れ落ちるのを感じると、私はスーツを脱ぎ捨て、そのまま浴槽へと向かっていった。
暗い気持ちを洗い流す様に冷たい水を頭からかぶると、私は頬をパンッパンッと気合を入れるように叩く。
弱音を吐いても何の意味もない……しっかりしなきゃ……、もうあのブレスレットの事は忘れよう。

そう決意を固め、汗をかいた体をサッとシャワーで流し、洗面所へ戻ろうとした瞬間……また覚えのある眩暈に、私はよろめきながら、壁に手を付き体を支える。
次第に激しくなっていく揺れに、私は側にあったバスタオルをギュッと握りしめた。

「もう……絶対に……行かないわ……」

私は頭を押さえながらも、失ってしまいそうになる意識を必死に引き戻す。
ふと目の前に映る鏡に目を向けると、私の姿が波打つように揺れ動いていた。
なっ何なのよ……これ!!

異様な光景に体温が一気に下がり、ガタガタと体が震える。
顔面蒼白の中、鏡に大きな波紋が浮かび上がったかと思うと、鏡の中央から突然腕が飛び出してきた。
あまりの恐怖に悲鳴を上げようと口を開くが、音がでない。
恐怖に引き攣った私の顔が鏡に映し出される中、慌てて鏡から離れようとするが……その伸びた腕は私の手を掴むと、鏡の中へと引き寄せていく。

「……っっ……いや!!!離して!!!」

ようやく出た声に私はハッと顔をあげると、目に入ったヘヤースプレーを手に取り、その腕目掛けて投げつけた。
投げたスプレーは見事腕にクリーンヒットすると、捕らえていた腕が一瞬緩む。
その隙に私はその手を思いっ切り振り払った瞬間……脱衣所の足場が消え、私の体は暗闇の中へ落下していった。


ふと気が付くと、そこは叢の中だった。
ゆっくりと体を起こすと……自分の一糸まとわぬ姿に慌てて傍にあったバスタオルを拾い上げ、体に巻き付ける。
どこなの……ここ?
慎重に辺りを見渡すと、目の前には大きな白い壁が佇み、後方には木が生い茂る薄暗い森だった。
左右には、森と壁を平行するように、砂利道が果てしなく続いている。

混乱する中、壁の一部が開き、人の話し声が耳に届くと、私は慌て茂みに中へ身を潜めた。

「この後どっか飲みにいかねぇー?」

「おっ!いいね、あーぁ、ここに女がいれば最高なんだけどなぁー」

「おいっ、くだらない妄想はやめておけよ」

男3人の声に私は身をすくみあがらせると、じっとその場で息をひそめる。
早くどこかへ行って……。
その場で足を抱え体を丸くしていると、濡れた髪から雫がポタポタと地面に落ちていく。
落ちていく雫を目で追うと、見たこともない黒い虫が、私の足を這い上がろうとしていた。

「きゃぁ!!!」

私は慌てて立ち上がると、気持ち悪い虫を払い落とす。
あぁ……やってしまった……。
私は恐る恐る顔を上げると、先ほどの男3人が、目を大きく見開き、私を凝視していた。

「おい、女だ!」

「まじかよ!!!これは貴族様に見つかる前に捕まえようぜ」

「よし、こんなチャンス二度とねぇ……嬢ちゃん、大丈夫だ、俺たちは怖くねぇぞー」

男たちはいやらしい笑みを浮かべながら、私を囲うようにジリジリと迫り来る。
そんな彼らの様子に私は顔を蒼白させ、ガタガタを震えていた。
どうしよう、どうしよう……何か……。
慌てて辺りを見渡すと、見覚えのあるスプレーが目に飛び込んだ。
私はスプレーを素早く拾い上げると、男達の艶めかしい視線にジリジリと後退していく。
落ち着け、落ち着け……捕まれば…………終わる。
私は大きく息を吸い込むと、真っすぐに男たちへ視線を向ける。
先ほどのように投げても……3人相手には無理……。

恐怖に歯がガタガタと音を立て始める中、私は必死にこの現状の突破口を探していた。
何か、何か……落ち着け、自分。
私は震える脚に力をいれ、しっかり地面へと足をつけると、軽くスプレーを振ってみる。
まだワックスが残っている!!
希望の光が差し込み、私は震える手でスプレーの噴射口を迫りくる男たちに向けると、思いっ切り押した。

シュウウウウウウウウウウウウウウウウ

勢いよく出た泡は男の顔にかかると、一人の男がその場に蹲った。
その隙に、私は噴射口を左右に振り回すと、他の男たちにも浴びせていく。
彼らが得体の知れない泡に慄き怯んだ瞬間、私は空になったスプレーを男たち向かって投げつけると、脇目もふらず、森の中を駆け抜けていった。

森の中に入ると、最近雨が降ったのだろうか……泥濘に何度も足を取られそうになる。
そんな中、私は必死に走り続けた。
後ろを振り返ることなく、高く高く聳える草を掻き分けると、肌のあちらこちらに切り傷が浮かび上がる。
はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……。

どれぐらい逃げただろうか……私の体力はそろそろ限界に近付いてきた。
倒れそうになる脚に何度も活を入れ、そのまま脚を動かし続けている中、地面に盛り上がった大きな木の根に足が絡み、私の体は前のめりに倒れていく。
いたぁ……っっ!!!

体中泥にまみれながらも、慌てて立ち上がろうとするが、足首にひどい痛みが走った。
痛みに目を向けると、足首は赤く腫れている。
うそでしょ……。
絶体絶命の中、私は足を引きずるように大きな木の陰に身をひそめると、微かな足音が耳に届いた。
いや……、いやよ……来ないで……。
私は体を強張らせると、口もとに手を当て必死に息を殺していた。

次第に大きくなっていく足音に、また体がガタガタと震えだす。
すぐ近くまで足音が迫ると、私は頬から涙がこぼれた。
恐怖と足の痛みに私はその場へ蹲ると、誰かの靴が視界に映った。

「いや、いや!!!どうして、どうして……私がこんな目に……っっ」

涙で滲む視界に私は必死に腕を振り上げ、抵抗していると、ふと肩に何かがかかった。
私は驚き顔を上げると、涙で視界が滲み、薄っすらと大きな人影が映し出される。

「いや……、いやっ!!!!」

私の体に触れるその手に、ゾクゾクと鳥肌がたつと、私はそれをがむしゃらに振り払った。
するとその誰かの手が、徐に私の口を塞いだ。

「んんん……っっっ」

何っ、甘い香り……。
鼻を掠めたその香りに、私の意識はゆっくりと遠退いていった。


次に目を覚ますと、私は真っ白なシーツの上にいた。
どこからか鳥の鳴き声が響き、木々が揺れる音がする。
ふと音のする方へ視線を投げると、真っ白なカーテンが窓から入る風に大きく揺れていた。

私は徐に体を起こすと、足に鈍い痛みが走る。
痛っ……。
痛む足に目を向けると、足首には綺麗な包帯が巻かれていた。
これは……私……そうだ、逃げて……その後……。

ハッと私は自分の体へ目を向けると、真っ白なワンピースが着せられている。
あれ、バスタオルは……?
ゆっくりあたりを見渡すが、私が巻いていたバスタオルは見当たらない。
目に映る見覚えのない部屋を眺めてみると、木製の扉の向かいに、机一つと椅子が一つ、他の物は何も置かれていない、質素な部屋だった。
ここは……?
私は痛む足を引きずるようにベッドからおりると、窓際へと足を向ける。
そっと窓から顔を出すと、目の前には鳥かごのような鉄格子がかかっていた。
その隙間から見える景色は、壮大な草原が広がり、その先には真っ白なお城が建っている。
私のいる場所はかなり高い所のようで……真下に目をやるとあまりの高さに脚が震えた。

じっと窓の外を眺めていると、ギギギッと扉の開く音が耳に届いた。
私は徐に振り返ると、そこには見覚えのあるブラウンの髪に、見惚れるような美しい容姿をした騎士姿の男がそこにいた。
この人……あの魔導師の部屋にやってきた騎士?
呆然と彼の姿を眺める中、彼は私の視線に笑みを浮かべる。

「おはよう、体調はどうかな?あとで医者を呼ぶから安静にしておいて」

「えっ、あっ、はい、大丈夫です。あの……あなたが私をここへ?」

男は私の言葉にニッコリと頷くと、パンの入ったバスケットを提げて見せる。

「助けて頂いてありがとうございます。あの……その……私お金とか持っていなくて……」

「そんな事は気にしなくていいよ、それよりもその足、きっと骨に異常はないだろうが、今は治すことに専念したほうがいい」

「いえ……でも……」

「良いんだ、怪我人を助けるのも、騎士の務めだからね」

私はそんな彼の優しさに涙を浮かべると、ありがとうございますと何度も頭を下げる。
男はそんな私を優しい瞳で見つめると、テーブルへ黄色のスープとパンを並べ始めた。
並べられた料理から食欲をそそる良い匂いが鼻を擽ると、私のお腹の虫がグゥ~と鳴り響いた。

「ははっ、熱いから気を付けて」

私は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にすると、おずおずと言った様子で椅子へと腰かける。

「僕は王宮専属の騎士ブレイク、宜しくね」

優しい笑みに私は慌てて立ち上がると、痛む足を庇いながら騎士へと体を向けた。

「すみません、申し遅れました。私は…………っっ」

自分の名前を名乗ろうとした瞬間、喉の奥が焼けるように熱くなっていく。
なにこれっ……。
私はヒリヒリと痛み始める喉を押さえると、彼は何かに気が付いた様子で、慌てて私の傍へと駆け寄てくる。

「大丈夫、名前は言わなくていい……」

私は彼の言葉にゆっくりと言葉を飲み込むと、徐々に喉の痛みが和らいでいった。
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