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第二章
閑話:彼女と過ごす日々3:後編
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それから俺は、真面目に師匠の授業を受けるようになった。
そんな変わった俺の様子に、嬉しそうな笑みを浮かべた師匠の姿を今でも覚えている。
彼に褒められると、俺の心はほっと温かくなるんだ。
そうやって師匠と魔法について学ぶ中、俺はエヴァンに出会った。
あいつは師匠の一番弟子だと名乗り、淡々とした様子だった。
出会った頃のエヴァンは……どこか冷めていて、いつも無表情で、俺の挑発も軽々とかわす、気に食わない奴だった。
でも付き合っていくうちに……恥ずかしがりやで、話すことが苦手で、人に対してどうやって接するのかわからない……のだと気が付いた。
そんなあいつは、どこか世話焼きな一面もあった。
俺が魔法で悩んでいたりすると、ぶっきらぼうな態度を見せながらも、真剣に相談にのってくれる……優しい奴だった。
俺は治癒魔法をメインで学ぶ中、エヴァンは治癒魔法の事がからっきしダメだった。
そんなあいつに優越感を感じていた時期もあったが……初めてあいつの通常魔法を見たとき、俺の自信は打ちのめされた。
自分では到底作り出せないほどの、膨大な魔力を自在に操り、師匠の示す魔法を駆使するエヴァンの姿は美しく、それはもう俺の領域外の世界だった。
俺の自信は粉々に打ち砕かれ、今まで一緒に学んで来て……競い合ったりもしてきたが……彼には勝てないのだと実感した。
師匠はそんなエヴァンに嬉しそうに笑みを見せる。
そんな師匠の姿に、自分の存在がひどく惨めに思えた。
そうしてエヴァンに対してどこか劣等感を感じるようになると、いくら治癒魔法を極めても……どこかで自分の存在は、師匠に認めてもらえないのだろうと……諦めに似た感情が渦巻いていた。
そんな師匠は時折、懐かしむ表情を浮かべると、不思議な世界の話をしてくれた。
遠くに居る……誰か愛おしむような眼差しを浮かべ、エヴァンと俺に語り掛ける。
魔法がなく、天にも届きそうな建物が並ぶ、そんな世界。
森もなく、そこで生活する人々は、魔法とは違う(科学)を駆使し生活していると。
鉄の大きな塊が空を飛び、鉄の塊で出来た乗り物が街を走り回る。
師匠の話は……この世界とあまりに大きすぎる差異に、俺はずっと夢物語を語っているのだと思っていた。
でもそれは違った。
エヴァンが師匠から教えてもらったのだろう……召喚魔法で彼女を呼び出したからだ。
召喚魔法については、俺も師匠から話は聞いていた。
でもそれも、まるで机上の空論……俺は信じてはいなかった。
師匠は俺に召喚魔法の存在は伝えても、教えることはなかった。
どこかで俺が師匠の話を信用していないと、わかっていたのかもしれない。
だからその召喚魔法で、どうするのかという事も……何も知らされていなかった。
只師匠が愛した彼女をこの地に定住する為には、男に抱かれなければいけないとの事実だけは知っていた。
だからあそこで俺は、絶対に抱くつもりはなかった。
女が少ない世界だろうが……俺は女に不自由していない。
それに嫌がる女を組み敷く趣味もない。
……なによりもエヴァンが師匠に教わっていた……俺よりも信頼されていた事実にショックを感じ、あいつの思い通りになるのが悔しかった。
やっぱり俺はエヴァンには到底及ばないのだと、突きつけられるようで。
今回もそうだ……。
彼女はエヴァンに嫌われてしまったと、悲しそうな表情浮かべていた。
それは俺を苛立たせたが……俺には彼女の中へ、一歩踏み込む勇気はない。
かっこつけて、大人っぽく振る舞ってみたが……。
エヴァンに勝てるはずがないと……張り合うだけ無駄だと……俺は只彼女を元気づけるのが精一杯だった。
彼女があんな姿になっても魔法を使わなかった理由。
エヴァンに嫌われたくないから……、そう考えると、このまま彼女を無茶苦茶にしてしまいたくなる。
彼女の服を剥ぎ取り、項についた赤い花びらを全て俺の物に書き換えてやりたい……との熱情がこみ上げた。
その気持ちをグッと抑え込むと、俺はそっと眠る彼女から視線を反らせた。
最初は只……師匠の夢物語で聞いた……異世界の女というだけだった。
でも彼女を抱くと、今まで感じたことないほどの高揚感に包まれる。
彼女の甘い声に、甘い吐息に、感じる姿に、目を奪われた。
もう一度彼女を抱きたい、何度思ったことか……。
俺は彼女の居なくなった世界で、夢の中……彼女を何度も抱いた。
そんな欲望が自分にあるとは思わなかったがな……。
彼女が他の男に一喜一憂する姿はひどく心が痛む。
そんな俺の想いも知らず、自分本位なエヴァンに苛立ちを感じた。
俺はそっと体を起こすと、深く眠る彼女へ顔を寄せる。
そのまま赤く愁いを帯びた唇に、自分の唇を重ねると、妖魔を封印した瓶を片手に、俺は静かに部屋を後にした。
そんな変わった俺の様子に、嬉しそうな笑みを浮かべた師匠の姿を今でも覚えている。
彼に褒められると、俺の心はほっと温かくなるんだ。
そうやって師匠と魔法について学ぶ中、俺はエヴァンに出会った。
あいつは師匠の一番弟子だと名乗り、淡々とした様子だった。
出会った頃のエヴァンは……どこか冷めていて、いつも無表情で、俺の挑発も軽々とかわす、気に食わない奴だった。
でも付き合っていくうちに……恥ずかしがりやで、話すことが苦手で、人に対してどうやって接するのかわからない……のだと気が付いた。
そんなあいつは、どこか世話焼きな一面もあった。
俺が魔法で悩んでいたりすると、ぶっきらぼうな態度を見せながらも、真剣に相談にのってくれる……優しい奴だった。
俺は治癒魔法をメインで学ぶ中、エヴァンは治癒魔法の事がからっきしダメだった。
そんなあいつに優越感を感じていた時期もあったが……初めてあいつの通常魔法を見たとき、俺の自信は打ちのめされた。
自分では到底作り出せないほどの、膨大な魔力を自在に操り、師匠の示す魔法を駆使するエヴァンの姿は美しく、それはもう俺の領域外の世界だった。
俺の自信は粉々に打ち砕かれ、今まで一緒に学んで来て……競い合ったりもしてきたが……彼には勝てないのだと実感した。
師匠はそんなエヴァンに嬉しそうに笑みを見せる。
そんな師匠の姿に、自分の存在がひどく惨めに思えた。
そうしてエヴァンに対してどこか劣等感を感じるようになると、いくら治癒魔法を極めても……どこかで自分の存在は、師匠に認めてもらえないのだろうと……諦めに似た感情が渦巻いていた。
そんな師匠は時折、懐かしむ表情を浮かべると、不思議な世界の話をしてくれた。
遠くに居る……誰か愛おしむような眼差しを浮かべ、エヴァンと俺に語り掛ける。
魔法がなく、天にも届きそうな建物が並ぶ、そんな世界。
森もなく、そこで生活する人々は、魔法とは違う(科学)を駆使し生活していると。
鉄の大きな塊が空を飛び、鉄の塊で出来た乗り物が街を走り回る。
師匠の話は……この世界とあまりに大きすぎる差異に、俺はずっと夢物語を語っているのだと思っていた。
でもそれは違った。
エヴァンが師匠から教えてもらったのだろう……召喚魔法で彼女を呼び出したからだ。
召喚魔法については、俺も師匠から話は聞いていた。
でもそれも、まるで机上の空論……俺は信じてはいなかった。
師匠は俺に召喚魔法の存在は伝えても、教えることはなかった。
どこかで俺が師匠の話を信用していないと、わかっていたのかもしれない。
だからその召喚魔法で、どうするのかという事も……何も知らされていなかった。
只師匠が愛した彼女をこの地に定住する為には、男に抱かれなければいけないとの事実だけは知っていた。
だからあそこで俺は、絶対に抱くつもりはなかった。
女が少ない世界だろうが……俺は女に不自由していない。
それに嫌がる女を組み敷く趣味もない。
……なによりもエヴァンが師匠に教わっていた……俺よりも信頼されていた事実にショックを感じ、あいつの思い通りになるのが悔しかった。
やっぱり俺はエヴァンには到底及ばないのだと、突きつけられるようで。
今回もそうだ……。
彼女はエヴァンに嫌われてしまったと、悲しそうな表情浮かべていた。
それは俺を苛立たせたが……俺には彼女の中へ、一歩踏み込む勇気はない。
かっこつけて、大人っぽく振る舞ってみたが……。
エヴァンに勝てるはずがないと……張り合うだけ無駄だと……俺は只彼女を元気づけるのが精一杯だった。
彼女があんな姿になっても魔法を使わなかった理由。
エヴァンに嫌われたくないから……、そう考えると、このまま彼女を無茶苦茶にしてしまいたくなる。
彼女の服を剥ぎ取り、項についた赤い花びらを全て俺の物に書き換えてやりたい……との熱情がこみ上げた。
その気持ちをグッと抑え込むと、俺はそっと眠る彼女から視線を反らせた。
最初は只……師匠の夢物語で聞いた……異世界の女というだけだった。
でも彼女を抱くと、今まで感じたことないほどの高揚感に包まれる。
彼女の甘い声に、甘い吐息に、感じる姿に、目を奪われた。
もう一度彼女を抱きたい、何度思ったことか……。
俺は彼女の居なくなった世界で、夢の中……彼女を何度も抱いた。
そんな欲望が自分にあるとは思わなかったがな……。
彼女が他の男に一喜一憂する姿はひどく心が痛む。
そんな俺の想いも知らず、自分本位なエヴァンに苛立ちを感じた。
俺はそっと体を起こすと、深く眠る彼女へ顔を寄せる。
そのまま赤く愁いを帯びた唇に、自分の唇を重ねると、妖魔を封印した瓶を片手に、俺は静かに部屋を後にした。
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