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第二章
迷宮の屋敷:前編2
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ネイトを部屋に招き入れると、彼は静かに私の傍へと寄り添った。
獣姿でないネイトは女性が見惚れるほど美しく透き通る容姿に、私はついどぎまぎしてしまう。
「呼んでくれて嬉しい。最後に会ってから一度も姫の黒蝶が飛んでこないから……私はとても不安だったんだ。もう姫の記憶から私の存在が消えてしまったのではないかと……」
そう言葉をこぼす彼の様子に狼狽する中、私はそっと彼に視線を向ける。
「えーと、いつでも会いに来てくれていいのよ」
そう彼に笑みを浮かべると、彼は困った様子を見せた。
「姫は知らないのか……この国では男は女性に気軽に会いに行くことは出来ない。何か重要な要件、用事でもなければ難しい。ただ会いたい……そう思うだけでは、あなたに会う事は出来ない」
「えっ!?どっ、どうして?」
新たな事実に目を見張る中、思い返してみると……私の部屋に訪れるのは、いつもエヴァンだけだった。
エヴァンは私に魔法を教えなければいけないから、来ることが出来たのかしら……?
「そうしなければ、姫の様に清らかで美しい女性の元へ、男が殺到してしまうだろう。扉の前に人が集まり対応に困ることになる。別に決まりではないが……昔から男は基本呼び出しが無いと、女性に会いに行ってはいけないと皆がわかっている」
「あぁ、そう言う事なのね。とりあえず私の事は置いといて……モテる女性だと大変そうだわ」
そう話すと、ネイトは真剣な瞳を浮かべながら、私の頬へ手を添わせた。
「いや、姫はとても美しい。この国にいる女性の誰よりも……だからすぐに男を引き付けてしまう。今もそんな可愛い笑みを浮かべて、私を魅了している。だからこそ余計に、会いに行くことは出来なかった」
ネイトが真剣な瞳で私を見つめる姿に困惑する中、彼の熱い視線に居た堪れなくなると、私は慌てて彼から目を反らせた。
頬に添えられた手が徐々に唇へ近づくと、心臓が激しく波打ち始める。
きっと私の顔はゆでだこの様に赤いだろう……彼は天然ジゴロだわ……話を変えないと……っっ。
「なら、伝書蝶を飛ばしてくれればいいわ!すぐに返事をかえすから」
ネイトは私の言葉に戸惑う素振りを見せると、なぜか気まずげに視線を落とし、そっと頬にあった手を離した。
「姫……伝書蝶を飛ばすには、何が必要なのか知っているだろう?」
そうボソボソと呟くと、ネイトは徐に顔を上げる。
そんな彼を見つめていると、紅の瞳が静かに揺れていた。
「えーと、伝書蝶を飛ばすには、相手の性別に顔、後は……その人の名前……っっ」
私はそこで言葉を詰まらせると、自分の名前をこの世界の誰も知らない事実に気が付いた。
「そうだ。伝書蝶を飛ばすには、相手の名前を知る必要がある。だが……姫は名前を言えないだろう?」
「なら、何か愛称でもつければ……!」
「ダメだ。姫のかかっている呪いは強力な物……言うなれば未知なるものだ。私ですらあなたの喉にある呪符を見たことがない上、読み取ることも不可能……。そんな呪いが、もし愛称でも反応すれば、姫が苦しむことになる」
ネイトは真剣な眼差しで私を見つめる中、緊迫した雰囲気に、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「なら……私宛に誰も蝶を飛ばせないのね……?」
ネイトは静かに頷くと、慈しむように私の髪を掬い上げる。
「いつかその呪いが解けることがあれば……私に名を教えてくれ」
優しい彼の眼差しに……率直な言葉に、思わず胸が小さく音をたてると、私は照れるように頷いた。
どこか甘い雰囲気が漂う中、私はハッと我に返ると、慌ててネイトへ体を向ける。
「じゃなくて、今日呼び出したのはね。聞きたい事あって……知っていたら教えて欲しいんだけれど、聖獣の森の近くにある、迷宮の屋敷って知っているかしら?」
ネイトは私の言葉に眉間に皺を寄せると、難しい顔を浮かべる。
何やら考え込むようにじっと口を閉ざす中、ネイトは不安げな視線を私へ向けた。
「知っているが……なぜだ?」
「私その場所に行ってみたいのだけれど、もしよければ案内してくれないかな?」
そう問いかけると彼はまただんまりと腕を組み考え込む様子を見せる。
沈黙が私たち二人を包む中、私はそっと彼に視線を向けると、彼の紅の瞳に影が差す。
先ほどよりも長い沈黙に戸惑う中、私は慌てて口を開いた。
「無理なら大丈夫だから!!!」
「いや……案内は出来る。只あそこの住人が苦手……だが、姫が望むのであれば……私は行こう」
ネイトはボソボソと何かを話しながらスッと立ち上がると、すぐに獣の姿に変化する。
その様子に目を見張る中、住人の事についてもう少し聞きたいことがあったが……。
ネイトは困惑する私を余所に、背中に乗れと言わんばかりに鼻先をクイクイと動かすと、私はおずおずと彼の背中に捕まった。
まぁ行けばわかるわよね……、
私はしっかり彼の背中へ腕を回すと、彼から魔力があふれ出した。
獣姿でないネイトは女性が見惚れるほど美しく透き通る容姿に、私はついどぎまぎしてしまう。
「呼んでくれて嬉しい。最後に会ってから一度も姫の黒蝶が飛んでこないから……私はとても不安だったんだ。もう姫の記憶から私の存在が消えてしまったのではないかと……」
そう言葉をこぼす彼の様子に狼狽する中、私はそっと彼に視線を向ける。
「えーと、いつでも会いに来てくれていいのよ」
そう彼に笑みを浮かべると、彼は困った様子を見せた。
「姫は知らないのか……この国では男は女性に気軽に会いに行くことは出来ない。何か重要な要件、用事でもなければ難しい。ただ会いたい……そう思うだけでは、あなたに会う事は出来ない」
「えっ!?どっ、どうして?」
新たな事実に目を見張る中、思い返してみると……私の部屋に訪れるのは、いつもエヴァンだけだった。
エヴァンは私に魔法を教えなければいけないから、来ることが出来たのかしら……?
「そうしなければ、姫の様に清らかで美しい女性の元へ、男が殺到してしまうだろう。扉の前に人が集まり対応に困ることになる。別に決まりではないが……昔から男は基本呼び出しが無いと、女性に会いに行ってはいけないと皆がわかっている」
「あぁ、そう言う事なのね。とりあえず私の事は置いといて……モテる女性だと大変そうだわ」
そう話すと、ネイトは真剣な瞳を浮かべながら、私の頬へ手を添わせた。
「いや、姫はとても美しい。この国にいる女性の誰よりも……だからすぐに男を引き付けてしまう。今もそんな可愛い笑みを浮かべて、私を魅了している。だからこそ余計に、会いに行くことは出来なかった」
ネイトが真剣な瞳で私を見つめる姿に困惑する中、彼の熱い視線に居た堪れなくなると、私は慌てて彼から目を反らせた。
頬に添えられた手が徐々に唇へ近づくと、心臓が激しく波打ち始める。
きっと私の顔はゆでだこの様に赤いだろう……彼は天然ジゴロだわ……話を変えないと……っっ。
「なら、伝書蝶を飛ばしてくれればいいわ!すぐに返事をかえすから」
ネイトは私の言葉に戸惑う素振りを見せると、なぜか気まずげに視線を落とし、そっと頬にあった手を離した。
「姫……伝書蝶を飛ばすには、何が必要なのか知っているだろう?」
そうボソボソと呟くと、ネイトは徐に顔を上げる。
そんな彼を見つめていると、紅の瞳が静かに揺れていた。
「えーと、伝書蝶を飛ばすには、相手の性別に顔、後は……その人の名前……っっ」
私はそこで言葉を詰まらせると、自分の名前をこの世界の誰も知らない事実に気が付いた。
「そうだ。伝書蝶を飛ばすには、相手の名前を知る必要がある。だが……姫は名前を言えないだろう?」
「なら、何か愛称でもつければ……!」
「ダメだ。姫のかかっている呪いは強力な物……言うなれば未知なるものだ。私ですらあなたの喉にある呪符を見たことがない上、読み取ることも不可能……。そんな呪いが、もし愛称でも反応すれば、姫が苦しむことになる」
ネイトは真剣な眼差しで私を見つめる中、緊迫した雰囲気に、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「なら……私宛に誰も蝶を飛ばせないのね……?」
ネイトは静かに頷くと、慈しむように私の髪を掬い上げる。
「いつかその呪いが解けることがあれば……私に名を教えてくれ」
優しい彼の眼差しに……率直な言葉に、思わず胸が小さく音をたてると、私は照れるように頷いた。
どこか甘い雰囲気が漂う中、私はハッと我に返ると、慌ててネイトへ体を向ける。
「じゃなくて、今日呼び出したのはね。聞きたい事あって……知っていたら教えて欲しいんだけれど、聖獣の森の近くにある、迷宮の屋敷って知っているかしら?」
ネイトは私の言葉に眉間に皺を寄せると、難しい顔を浮かべる。
何やら考え込むようにじっと口を閉ざす中、ネイトは不安げな視線を私へ向けた。
「知っているが……なぜだ?」
「私その場所に行ってみたいのだけれど、もしよければ案内してくれないかな?」
そう問いかけると彼はまただんまりと腕を組み考え込む様子を見せる。
沈黙が私たち二人を包む中、私はそっと彼に視線を向けると、彼の紅の瞳に影が差す。
先ほどよりも長い沈黙に戸惑う中、私は慌てて口を開いた。
「無理なら大丈夫だから!!!」
「いや……案内は出来る。只あそこの住人が苦手……だが、姫が望むのであれば……私は行こう」
ネイトはボソボソと何かを話しながらスッと立ち上がると、すぐに獣の姿に変化する。
その様子に目を見張る中、住人の事についてもう少し聞きたいことがあったが……。
ネイトは困惑する私を余所に、背中に乗れと言わんばかりに鼻先をクイクイと動かすと、私はおずおずと彼の背中に捕まった。
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